中田 孝一
AIの社会的インパクトの増大とともに、リスクの体系的理解と管理が求められている。MIT AI Risk Repositoryは約730のリスクを提示し、網羅性に優れるが実運用には課題があると考える。CPMAIはプロジェクト現場に近いが、リスク対応フレームとしては限定的である。ISO/IEC 42001は組織統治をカバーするが、リスク詳細には踏み込んでいない。本研究では、MITのリスク分類を“リスクソース”、CPMAIを“対応手段”、ISO42001を“統治構造”とみなし、三者を構造的に統合した運用フレームを提案する。
吉田 憲正
プログラムは関連した複数のプロジェクト及び定常業務を内包した活動であるが,プログラムマネジメント(PgM)とプロジェクトマネジメント(PjM)は内包・従属関係ではなく,それぞれのマネジメントの適正やスキルに相違がある.日本企業においても当然PgMは行なわれているが,海外企業と管理職採用.登用の仕組みが違うため,外部のPgM資格を必要としていないと思われる.しかし,PjMを理解・習得するためにも,PgMへの理解が必要で有り,PjM及びPgMに関する人材育成について提言を試みる.
阿部 笑子,岡山 一貴,大森 愛莉
近年,企業の組織再編や働き方改革の進展により,オフィス移転プロジェクトは戦略的な経営課題としての重要性を増している.特に,限られた期間と予算の中で業務への影響を最小限に抑えつつ,移転後の業務効率や従業員満足度といった「価値の実現」を図ることは,プロジェクトマネジメントにおける重要なテーマである.本研究では,オフィス移転未経験の若手メンバーとともに,親会社から出向したプロジェクトマネジャーが,子会社の本社移転を6ヶ月で完遂した事例を分析する.計画から完了までのプロセスを通じて,制約下での意思決定やマネジメント手法の適用,チームの学習を考察し,今後の同種プロジェクトへの実務的示唆を提示する.
掛川 悠
社会生活の高度化・複雑化に伴い,これを支える大規模ミッションクリティカルシステムの果たす役割は極めて重要なものになっており,多様なサービスを高い品質とアジリティをもって途切れることなく提供し続けることが求められている.そのためには,ソフトウェアやハードウェアといったプロダクトのみならず,本番環境のシステムリソースに対する操作(本番作業)についても高い品質を実現する必要がある.一方,様々な品質管理手法が提案・実践されているプロダクト品質とは異なり,本番作業については体系的な品質管理手法は存在せずその実践は属人的で主観的な手法になりがちである.そこで,長年大規模ミッションクリティカルシステムの維持・開発に携わってきた知見と統計手法を組み合わせることで,効率的かつ高精度に本番作業品質の可視化・改善が可能な品質管理プロセスを構築した.主な実施事項は,グループごとのトラブル率実績の平均および標準偏差に基づいた指標値設定,トラブル率移動平均に対するグループ別定量評価,月次の指標値評価による短期トレンド評価および連続指標値超過に基づく中長期トレンド評価,過去データによるシミュレーションを通じた最適なパラメータ設計である.これらの取組の結果,客観的な定量評価で品質が悪いグループのみをピンポイントで検出可能となり効率的かつ高精度に品質改善のPDCAサイクルを回せるようになった.
鳩 知子
企業においてプロジェクトの赤字や不採算は,財務的損失にとどまらず,顧客満足度の低下や従業員の士気低下など,経営全体に深刻な影響を及ぼすリスクである.システムの複雑性やリスクが増大する現代の事業環境に対応すべく,当社では2024年度に,全社横断組織としてPMO(Project Management Office)機能を担う「プロジェクト管理室」を新設した.全社プロジェクト報告の継続的確認,月次収支の分析,社員稼働状況のモニタリングを通じて,潜在的な課題やリスクの早期発見を図るとともに,課題が顕在化したプロジェクトに対しては,重点的な介入により是正措置を実施した.さらに,これらの活動を経営層と共有する体制を構築することで,意思決定の迅速化と経営との連携強化を実現している.本稿では,このような実践的アプローチの全体像とその成果に加え,PMO活動に内在する課題と今後の展望について考察する.
山根 伸
見積もり精度を確保するための技法として,パラメトリック見積もり,ボトムアップ見積もり,類推見積もりなどが存在している.これらを活用することで見積もり精度を向上させることが可能だが,プロジェクト管理に関する十分な予備費の確保が難しいケースは多い.特に,プロジェクトの環境を取り巻く社会情勢・法令改正・顧客意識変革などの外的要因による計画変更を余儀なくされた場合のコストを予備費として織り込むことは一般に難しいと考えられるが,物品調達と作業スケジュールへの影響を軸にした見積もりの検討が,プロジェクト管理に関する予備費の確保に有効となる.
大村 元,高見 英樹
当社では大規模プロジェクトの会議議事録をPMO部門で作成している。経営層が意思決定の判断材料として議事録を有効に活用できるよう、PMO部門の知見を活かして要点を整理した上で作成している。一方で年々増加する社内のプロジェクト数に対し、議事録の作成効率化と品質担保の両立が喫緊の課題となっている。本稿では、生成AIを活用した議事録作成支援ツールの導入により、PMOで作成する議事録と同等の品質を担保しつつ作業時間短縮を両立させた取り組みを紹介する。また本施策の効果を定量的に示すとともに、運用ルールの整備などツール利用開始までに発生した課題への対応や今後の展望についても提言する。
鈴木 沙耶香
筆者の勤務する大手システム開発会社のサポートセンターでは,3名体制で32の自治体様向けに,特定システムの顧客問合せ対応を行っている.サポートセンターとは呼ぶものの,実質的には不足している運用保守担当SEの役割を多く担っているため,当システムの対応においては,技術面と業務面の両面における知識を求められるが,特に業務面においては複雑な制度に係る知識が必要である.そのため,問題解決を進めるには,サポートメンバー自身が顧客との一対一の会話を通じて詳細なヒアリングをするなど,高度なスキルが要求される.このように,メンバーは顧客との会話が多くの時間を占めることより,不満や焦りを抱えた顧客の感情にも向き合わなければならず,メンバーは常に高ストレスにさらされている.希少な人材の消耗を防ぐためには,メンバー自身が「感情的知性」を高める必要がある.メンバーが負っている負の感情を否定せずに向き合い,理解することで感情労働によるストレスを軽減ができると考える.本論文では,メンバー自身が高ストレス下において,多数の顧客をマネジメント可能とするための自身の感情の扱い方,および異なる習熟度を持つ顧客への向き合い方について考察する.
村上 裕樹
近年、IT人材の不足とそれに伴う人件費の高騰により、少人数のエンジニアによる効率的な開発体制の構築が求められている。その中で、品質を確保しつつ開発コストを削減することが重要な課題となっている。本論文では、これらの課題に対する解決策として、製造工程における作業の省力化および品質の平準化を目的に、生成AIの活用可能性を検討する。特に、製造工程の一部である単体試験に着目し、試験項目表の作成に生成AIを導入した際の効果を評価する。実際のプロジェクトにおいて、ソースコードと定型プロンプトを生成AIに入力し、生成された単体試験項目表の品質および作成時間を、従来の手作業によるものと比較する。その結果をもとに、生成AIの導入が業務効率化および品質向上に与える影響について考察を行う。