中田 孝一
AIの社会的インパクトの増大とともに,リスクの体系的理解と管理が求められている.MIT AI Risk Repositoryは約730(2024年12月時点)のリスクを提示し,網羅性に優れるが実運用には課題があると考える.CPMAIはプロジェクト現場に近いが,リスク対応フレームとしては限定的である.ISO/IEC42001は組織統治をカバーするが,リスク詳細には踏み込んでいない.本研究では,MITのリスク分類を[リスクソース],CPMAIを[対応手段],ISO/IEC42001を[統治構造]とみなし,三者を構造的に統合した運用フレームを提案する.
吉田 憲正
プログラムは,関連した複数のプロジェクト及び定常業務を内包した活動であるが,プログラムマネジメント(PgM)とプロジェクトマネジメント(PjM)は内包・従属関係ではなく,それぞれのマネジメントの適性やスキルに相違がある.例えれば,PjMに求められるスキルは,火災現場で消火に当る消防隊長のスキルであり,PgMに求められるスキルは,常に最善の消火・救急救命を提供する消防署長に求められるスキルとも言える.日本企業においても当然PgMは行なわれているが,海外企業と管理職採用.登用の仕組みが違うため,外部のPgM資格を必要としていないと思われる.しかし,PjMを理解・習得するためにも,PgMへの理解が必要で有り,PjM及びPgMに関する人材育成について提言を試みる.私達は,近年進化するAIエージェントを上手く使いこなしてゆく事も含め,PjマネージャーやPgマネージャーをどう育成して行くかを考えなければならない.
吉川 努,須原 秀敏,外間 正浩
ソフトウェア開発におけるテスト終了判断とリリースの判断は、品質・コスト・納期のバランスが求められる難易度の高い意思決定である。本稿では、これらの判断を合理的に行うための定量的アプローチを提案する。本手法の特徴は、リスク、プロダクトの価値、テストの労力という異なる要素を「金銭価値」という統一的な尺度で比較することにある。そして、ベイズ推定を用いた欠陥数予測によってリスクを可視化し、テスト終了判断基準「リスク < テスト労力」とリリース判断基準「リスク < プロダクト価値」の定量的評価を行う。この方法により、関係者間での合意形成を促進する。
阿部 笑子,岡山 一貴,大森 愛莉
近年,企業の組織再編や働き方改革の進展により,オフィス移転プロジェクトは戦略的な経営課題としての重要性を増している.特に,限られた期間と予算の中で業務への影響を最小限に抑えつつ,移転後の業務効率や従業員満足度といった「価値の実現」を図ることは,プロジェクトマネジメントにおける重要なテーマである.本研究では,オフィス移転未経験の若手メンバーとともに,親会社から出向したプロジェクトマネジャーが,子会社の本社移転を6ヶ月で完遂した事例を分析する.計画から完了までのプロセスを通じて,制約下での意思決定やマネジメント手法の適用,チームの学習を考察し,今後の同種プロジェクトへの実務的示唆を提示する.
掛川 悠
社会生活の高度化・複雑化に伴い,これを支える大規模ミッションクリティカルシステムの果たす役割は極めて重要なものになっており,多様なサービスを高い品質とアジリティをもって途切れることなく提供し続けることが求められている.そのためには,ソフトウェアやハードウェアといったプロダクトのみならず,本番環境のシステムリソースに対する操作(本番作業)についても高い品質を実現する必要がある.一方,様々な品質管理手法が提案・実践されているプロダクト品質とは異なり,本番作業については体系的な品質管理手法は存在せずその実践は属人的で主観的な手法になりがちである.そこで,長年大規模ミッションクリティカルシステムの維持・開発に携わってきた知見と統計手法を組み合わせることで,効率的かつ高精度に本番作業品質の可視化・改善が可能な品質管理プロセスを構築した.主な実施事項は,グループごとのトラブル率実績の平均および標準偏差に基づいた指標値設定,トラブル率移動平均に対するグループ別定量評価,月次の指標値評価による短期トレンド評価および連続指標値超過に基づく中長期トレンド評価,過去データによるシミュレーションを通じた最適なパラメータ設計である.これらの取組の結果,客観的な定量評価で品質が悪いグループのみをピンポイントで検出可能となり効率的かつ高精度に品質改善のPDCAサイクルを回せるようになった.
鳩 知子
企業においてプロジェクトの赤字や不採算は,財務的損失にとどまらず,顧客満足度の低下や従業員の士気低下など,経営全体に深刻な影響を及ぼすリスクである.システムの複雑性やリスクが増大する現代の事業環境に対応すべく,当社では2024年度に,全社横断組織としてPMO(Project Management Office)機能を担う「プロジェクト管理室」を新設した.全社プロジェクト報告の継続的確認,月次収支の分析,社員稼働状況のモニタリングを通じて,潜在的な課題やリスクの早期発見を図るとともに,課題が顕在化したプロジェクトに対しては,重点的な介入により是正措置を実施した.さらに,これらの活動を経営層と共有する体制を構築することで,意思決定の迅速化と経営との連携強化を実現している.本稿では,このような実践的アプローチの全体像とその成果に加え,PMO活動に内在する課題と今後の展望について考察する.
山根 伸
見積もり精度を確保するための技法として,パラメトリック見積もり,ボトムアップ見積もり,類推見積もりなどが存在している.これらを活用することで見積もり精度を向上させることが可能だが,プロジェクト管理に関する十分なリスク費の確保が難しいケースは多い.特に,プロジェクトの環境を取り巻く社会情勢・法令改正・顧客意識変革などの外的要因による計画変更を余儀なくされた場合のコストをリスク費に含めることは一般的に難しい.外的要因も考慮したリスク費の確保を目的に,外的要因による具体的な影響を物品調達と作業スケジュールの計画変更とし,これに伴うプロジェクト管理コストを見積もった結果,プロジェクト管理に関する予備費を充分に確保することができた.
大村 元,高見 英樹
幹部層の意思決定は会社の業績に重大な影響を及ぼす大規模プロジェクトの成否に関わる.その意思決定を支える判断材料の一つとして,Project Management Office(以下PMO)部門が作成しているプロジェクトにおける各会議体の議事録は重要な役割を果たしており,幹部層が限られた時間で的確にプロジェクト状況が把握できるよう要点を整理した内容となっている.近年のプロジェクト数の増加に伴い,議事録作成業務の効率化と品質維持の両立が喫緊の課題となっている.一方で,生成AIによる自動要約は重要な会議体の議事録にそのまま置き換えることが難しく,十分な検証が必要である.本稿では,生成AIを活用した議事録作成支援ツールの導入により,PMO部門が作成する議事録と同等の品質を担保しながら,作業時間の短縮を実現できた取り組みを紹介する.また,ツール導入に至るまでの検証内容とその結果,定量的な効果を示すとともに,運用において発生した課題への対応および今後の展望について報告する.
松尾 竜一
システム移行作業はトラブルが発生すると,データの損失や業務停止のリスクに直面する可能性がある.更にトラブルが発生しなくても移行設計の不備によって,新システムの運用に問題が生じるリスクもある.従って移行作業の正確性が非常に重要となる.システム移行には十分な準備をする必要があるが,対象範囲や役割分担,データ移行仕様などが曖昧であることが多い.特に海外製パッケージを採用したシステムでは,これらの課題が顕著になることがある.このようなリスクを回避する為には,早期に移行チームを立ち上げ顧客及び,パッケージベンダーと連携を取り移行方針及び,移行計画を策定することが重要である.本稿ではプロジェクト計画~移行計画で実施した,具体的な対策と効果について論じる.
鈴木 沙耶香
筆者の勤務する大手システム開発会社のサポートセンターでは,3名体制で32の自治体様向けに,特定システムの顧客問合せ対応を行っている.サポートセンターとは呼ぶものの,実質的には不足している運用保守担当SEの役割を多く担っているため,当システムの対応においては,技術面と業務面の両面における知識を求められるが,特に業務面においては複雑な制度に係る知識が必要である.そのため,問題解決を進めるには,サポートメンバー自身が顧客との一対一の会話を通じて詳細なヒアリングをするなど,高度なスキルが要求される.このように,メンバーは顧客との会話が多くの時間を占めることより,不満や焦りを抱えた顧客の感情にも向き合わなければならず,メンバーは常に高ストレスにさらされている.希少な人材の消耗を防ぐためには,メンバー自身が「感情的知性」を高める必要がある.メンバーが負っている負の感情を否定せずに向き合い,理解することで感情労働によるストレスを軽減ができると考える.本論文では,メンバー自身が高ストレス下において,多数の顧客をマネジメント可能とするための自身の感情の扱い方,および異なる習熟度を持つ顧客への向き合い方について考察する.
村上 裕樹,出来 修人,四宮 歴
近年,IT 人材の不足と人件費の高騰により,少人数のエンジニアによる効率的な開発体制の構築が求められている.その中で,品質を確保しつつ開発コストを削減することが重要な課題となっている.特に,大規模かつ長期のレガシープロジェクトでは,従来型の開発手法や属人化したノウハウに起因する非効率性が顕在化しており,新たなアプローチが求められている.本研究では,製造工程における作業の省力化と品質の平準化を目的に,生成 AI の活用可能性を検討した.特に,製造工程の一部である単体試験に着目し,試験項目表の作成に生成 AI を導入した際の効果を評価した.実プロジェクトにおいて,ソースコードと定型プロンプトを生成 AI に入力し,生成された試験項目表の品質と作成時間を従来の手作業によるものと比較することで,生成 AI の導入が業務効率化と品質向上に与える影響について考察を行った.その結果,生成AIによる単体試験支援は一定の効果を示し,実案件への適用が可能であることを確認した.本研究は,生成AIのプロジェクト適用に向けた有効性を示すものであり,今後の開発現場における活用拡大への一助となることが期待される.
蔵田 一馬
新規開発プロジェクトにおいては,チームの構成やメンバの配置が品質や開発生産性に影響する.チームの構成が確立されていない状態でのプロジェクト進行は,混乱を招き得る.そのため,如何にしてチームビルディングを行うかがプロジェクト成功の1要素となる.また,開発手法としてウォーターフォール型だけではなくアジャイル型が選択されたり,顧客から開発スコープや決定事項に対する変更要望が挙がってきたり,新規の開発ベンダーやメンバと協業した開発を行う形態もあるため,開発期間中の変動要素に対する調整や,チームごとの責任範囲の策定と動機付け,コミュニケーションの活性化などのチームマネジメントも重要となる.本論文の目的は,新規開発プロジェクトにおけるチームビルディングおよびチームマネジメントの実践的手法を明らかにし,プロジェクトの成功率向上に寄与する知見を提供することである.チームビルディングにおいては,前提事項の洗い出し,メンバ確保状況の確認と調整,チーム構成の確立と共有を行い,チームマネジメントにおいては,状況の洗い出し,チーム状況の確認と改善検討,チーム構成の変更と再共有を行うことで,意識醸成を図ることができた.本論文では,新規開発プロジェクトにおける立上げ時点のチームビルディングと,開発期間中の変動要素におけるチームマネジメントにおいて,プロジェクトを成功に導くために実践した内容を纏める.
福田 淳一
本論文はプロジェクト満足度評価メタモデルの開発を通じてPM(Project Manager)力とは何かを分析するものである.PM力とはプロジェクト満足度を高めるPMの特性のことと定義する.筆者が試作したメタモデルは,これまで発表した「統計数理モデルのメタモデル化の試み」,「プロジェクト満足度評価スコアモデルの試み」の延長線上にある.これを踏襲し,メタモデルの変数であるPM力を構成する特性にはビッグ・ファイブモデルで定義される人の特性分類を用いている.昨年のプロジェクト満足度評価スコアモデルでは,コスト,工期,品質がどのようにプロジェクト満足度に寄与するのかを分析した.本論文では,先ず生成AIを用いてコスト,工期,品質とこれらに関係する人の特性の関連付けを行なった.さらに,それらの特性がプロジェクト満足度にどのように影響するのかをスコアモデル(メタモデル)で定式化した.結果,「誠実性」「協調性」がPM力の核となる重要な特性であることが示された.また,「開放性」「外向性」については先行研究と異なる結果となった.これは多様な「品質」の構成要素や参照した先行研究,分析に用いたデータによる可能性がある.課題は残るものの概ね筆者の経験に照らしても納得できる結果となり,生成AIの活用を含めた当分析アプローチの有効性を検証できた.
大橋 史雅
システム開発プロジェクトにおけるリスク要因として,スコープに係わるリスク,その中でもスコープ・クリープが,大きな影響を与える要素の1つであると考えられている.要求事項の曖昧さによりプロジェクトのスコープが適切に定義されないことで,スコープ・クリープは発生する.その結果,後工程での仕様変更の発生度合いが増すことで,工程遅延や品質悪化のリスクが高まり,リリースの延期や顧客満足を提供できなくなる懸念も生まれる.この問題を回避するためには,要求事項の明確度をいかに早い段階で高められるかが重要である.そのために,一般的なプロジェクトマネジメント手法に加え,想定し得る要求事項の不足分を補っておくことが有効ではないかと考えた.本稿では,自身がマネジメントした新規のシステム開発プロジェクトを題材に,曖昧さが残る要求事項から最終的にどのような仕様に変化したかを整理した.その上で,要求事項からの仕様の変化について分析を行い,明らかになった傾向から,本稿ではあらかじめどのような要求事項が追加されるのかを想定し備えておけば,スコープ・クリープの発生を抑止できるのかを考察した.
宇田 直峰
2020年,新型コロナウィルス感染症の拡大により企業活動は大きな転換期を迎えた.多くの企業が急速にリモートワークへと移行する中,従来の対面中心の業務スタイルからオンラインへと働き方の変革が求められた.しかし,システムの稼働維持,運用保守といった業務においては,依然として現地対応が不可欠であり,場所や時間の制約,及び環境に依存する働き方を継続しなければならない.本プロジェクトにおいても,リモートワークの導入が避けられない状況となったが,準備不足や業務特性の不整合により,プロジェクト内で様々な課題が顕在化した.こうした課題に対して実施した対策について報告する.作業前のレビュー品質の低下が確認できたため,確認項目シートを導入し指摘漏れの防止と効率化を図る.また,日々の進捗管理の共有化のためにタスク管理ツールを使用する.コミュニケーション不足の対策として,メンバが気兼ねなく雑談が行えるチャネルを設置し,エンゲージメントの向上を目指す.これらの取り組みは単なる業務改善に留まらず,リモート環境下におけるプロジェクトマネジメントの新たな指針を示し,今後の働き方改革において有用な知見となる.
左近 優花,久田 大地,下村 哲司,伊藤 拓也
本稿では,ソフトウェア開発プロセスにおけるレビューの十分性確認と指摘事項の傾向分析に関する課題を解決することを目的に,生成AIを活用した新たなアプローチを提案する.従来弊社では後述の3つの課題があった.1つ目の課題は,レビューの十分性がレビュー工数を基に間接的に判断されていたこと.2つ目の課題は,指摘事項のバグ判定において,指針が設けられていても開発者の主観に依存した判断が行われる傾向があったこと.3つ目の課題は,指摘事項の傾向分析が手作業で行われており,工数がかかり開発者のスキルに依存していたことである.これに対し本稿では,開発計画書,レビュー記録票,およびプロンプトを大規模言語モデルに入力することで,レビューの十分性を直接判断し,傾向分析を支援して,前述の課題を解決する手法を示す.具体的には後述の3点を実現した.提案手法1つ目は,各指摘事項のソフトウェア品質改善に対する有効性有無を生成AIが判断すること.提案手法2つ目は,基準に基づいて生成AIがバグ判定を行うこと.提案手法3つ目は,開発者のスキルに依存せず生成AIが傾向分析を行うことである.また実プロジェクトデータを利用した精度評価により,分析結果が適切であり,本手法が有効であることを確認した.
石川 正人
ITプロジェクトは,1980年代から産業機器やPCの普及に伴いシステム化を進めてきた.運行管理システムも同様であり,2000年代からリプレースによる機器の老朽取替や新規路線システムの拡張,新規技術の導入など多種の案件が同システム内で並行開発されるようになった.弊部のシステムにおけるプロジェクトについても同様であり,現在,性格の異なるプロジェクトが同時に工程進行する状況となっている.そのため,各フェーズの順番や各アクティビティの関係性により,出荷の順序を守らないと作業のやり直し等の混乱につながる.こうしたリスクを事前に回避する,低減するためには並行して進めるプロジェクトの性格,リスク,工程の関係性を事前の段階から把握し遂行する必要がある.今回,並行して進行するプロジェクトにおいて,過去の並行プロジェクトにおける課題をプロジェクトの特性,リスク,工程管理から抽出し課題解決へ作業の見直しを実施した.また,見直しを実施した工程管理,組織体制,リスク管理,スコープ管理において対策を検討した.結果として,並行するプロジェクトの特性と関係性によって作業の見直しすることで作業の効率化や円滑なプロジェクト遂行を行うことができた.プロジェクトの開始や各フェーズでの並行プロジェクト遂行の見直し,最適化の実施は有効であり一定の成果となったので紹介する.
小林 孝規
近年では,プロジェクトで新技術を導入,適用するために,活用する技術の検証開発を上流工程で進めながら,ITプロジェクトを推進する事例が多くある.技術検証/開発の状況により,後工程の作業内容,生産性が変動する.そのため,上流工程でマイルストンを設けて,後工程への影響を見極めながら,プロジェクトを推進する必要がある.特に,プロジェクト予算の判断時期までの限られた期間で,活用する技術の適用可否を判断し、プロジェクトスケジュール,費用の見通しを立て,関係者との合意形成を図ることが重要となってくる.本稿では,マイグレーションプロジェクトの移行設計/ツール開発工程で,画像認識等による現行システムと新システムのテスト結果の比較ツールの技術検証/開発を行った事例を取り上げる.この上流工程での技術検証/開発において、アジャイル開発手法の適用効果が検証され、考察される.上流工程での技術検証に関して、3つのマネジメント上の問題点を指摘し、それらをアジャイル開発手法を活用して解決した.中でも、新技術適用検証といった答えの見えないチャレンジングな活動に対して、メンバーの前向きな意欲を創出ことができた点は非常に有効であった.その結果,短い技術検証期間で, プロジェクト全体のQCD見通しを正しく評価し,納得性をもって説明できる十分な検証結果を得ることできた.
河野 敏夫,今井 康文,長谷川 雅之,水野 翔哉
プロジェクトマネジメントにおける主要なリスク要因の一つとして,スコープクリープが挙げられる.スコープクリープが発生すると,プロジェクトの後工程において追加の開発作業や修正対応が必要となり,その結果として納期の遅延やコストの増加といった問題が生じるケースが多く報告されている.スコープクリープの要因は多岐にわたるが,代表的なものとしては,変更管理の不備,初期段階におけるスコープ定義の曖昧さ,関係者間のコミュニケーション不足などが挙げられる.これらの課題に対しては,これまでに様々な対策が検討されてきたものの,実際のプロジェクト現場においては,これらの対策が十分に機能していない事例も散見される.そこで本稿では,過去のプロジェクト事例を基にスコープクリープの発生要因を再整理し,現場で実行可能な現実的対策の検討を行うことを目的とする.特に,各工程におけるスコープの状況をタイムリーかつ明確に把握・管理することにより,スコープクリープの抑制を図った実践事例について報告する.
藤田 晴樹,岩切 優太,渡名喜 元史
近年,オープンソースソフトウェア(OSS)は,ソフトウェア開発において積極的に活用されている.OSSはソースコードが公開されており,商用・非商用を問わず利用,修正,再配布が可能であるが,各OSSのライセンス条項に従う必要がある.例えば,GNU General Public Licenseでは,ソースコードの開示が必要となる場合があり,商用利用の際には特に注意が求められる.ライセンスの準拠を確保するために,各プロジェクトでは,人手や商用のOSS管理ツールなど利用して,OSSのライセンス調査を実施している.しかし,OSSが大量に含まれる場合には調査対象が膨大となり,またツールの実行結果に未検出や誤検出が含まれることもあるため,人手による確認が必要になるといった問題点がある.プロジェクトでOSSのライセンス調査が適切に実施されない場合,リリース直前にライセンス違反が発覚するリスクが生じる.適切なOSSのライセンス調査を実施するために,我々は開発プロセスの見直しを行った.具体的には,OSSのライセンス調査を行う専任の体制を設け,開発プロセスの中に OSSのライセンス調査の作業を組み込むよう見直した.見直し後のプロセスを適用することで,プロジェクトによるOSSライセンス調査の負荷を軽減し,ソースコードを開示できないソフトウェアへのGPLライセンスのOSSの混入といったOSSのライセンス違反が残存するリスクを防止できた.
石川 隆,島田 淳一
本研究では,日系企業のインド現地法人のソフトウェア開発拠点において,主に日本から派遣される若手エンジニアを対象に約10年間開催されているプロジェクトマネジメント研修の,講師側への教育効果について調査・分析・考察した.本研究で取り上げる研修の特徴はケースメソッドに基づくケーススタディセッションにある.同セッションではインド人のプロジェクトマネジャーが,自身の経験したソフトウェア開発プロジェクト事例に基づいてケースを執筆し,研修ではケーススタディの講師の役割を担う.ケース執筆者・講師への質問票とインタビューによる調査・分析の上,知識創造活動の観点からの考察を行った結果,ケース執筆・講師経験が,日本人と異なる文化的背景を有するインド人のプロジェクトマネジャー個人だけではなく,所属組織を成長させることが明らかとなった.
三好 きよみ
本研究は,プロジェクト活動の成功に向けて,効果的なチームワークのための施策を検討することが目的である.これまで着目されてこなかった,モチベーション要因の把握状況に焦点をあて,チームで働く人の自分自身,及び一緒に働く人のモチベーション要因の把握状況と,キャリア自律,組織風土等の関連についてアンケート調査を行い分析した.分析の結果,次のことが示された.1点目として,自分自身のモチベーション要因を把握している人の割合は6割程度,一緒に働く人のモチベーション要因を把握している人の割合は4割程度であった.2点目として,モチベーション要因の把握には,合理的な組織環境,キャリア自律,転職志向,幸福感が影響を及ぼすことが示された.
石塚 亮介
近年,DX推進によりIT需要が高まり,システム開発プロジェクトの数と規模が増加している.プロジェクト成功には,ITベンダーのみならず発注者側の協力体制が不可欠であり,いずれかの体制が脆弱な場合,コミュニケーション不足や要望伝達の不備などにより,運営に支障をきたす可能性がある.本稿では,発注者・ベンダー双方の体制と役割に着目し,リソースマネジメントのあり方を考察する.IT有識者の不足や日本特有の雇用文化といった課題を踏まえ,筆者のプロジェクトマネージャ経験および有識者への調査結果をもとに,ITベンダーによる能動的な施策とPMOの設置による進捗管理・レビュー支援などの具体策を提示する.両者の役割分担を明文化し,共通認識と信頼関係を構築することで,プロジェクトの円滑な推進に寄与し,今後の実践的なリソースマネジメント活用への指針を示す.
齋藤 恒夫
システムの安定稼働にあたっては,定常作業の手順書化・教育はもちろんのこと,システム変更作業や想定外の事象に対応するための業務知識やスキルを有するメンバーをチーム内に準備することが不可欠となる.一方で,メインフレーム型システムからオープン型システムへの移行も各所で進められており,システムの複雑性,システム間連携インターフェースは増加傾向にあり,自システムの変更による関連システムへの影響把握について,難易度が増している.本論文では,システム再構築における業務知識,スキルの円滑な継承を目的とし,プロジェクトの特性を踏まえた課題の洗い出しと,それに基づくチームビルディングの改善事例について,適用分析を通じて得られた成果を考察し,有効性を示すものである.
中村 亮太
近年,日本の技術者不足を背景に,海外拠点を活用したシステム開発が重要視されている.またオフショア拠点の在り方が変わり,ローコストだけではなく,開発の範囲が上流工程にまで広がっている.日本では業務のシステム化がすすめられているが開発規模が近年縮小化に伴い,小規模で短期間のプロジェクトが増加している.この問題からBrSEの負荷の高さが問題となっている.実際にBrSEとして、PM業務,ベトナム人技術者との連携、新規プロジェクトの理解や上流工程の調整など幅広く対応している.これらの課題を解決するため,オフショア開発の方式を構築することを提案する.プロジェクト管理ドキュメントの活用,適切なPM体制の構築,新規案件の初期準備の徹底,BrSEによる上流工程対応により,品質とコミュニケーションの向上を図る.この施策により,プロジェクトの効率的推進が期待され,安定したオフショア開発を推進できると結論付けられる.
三浦 正彰
現代のビジネスは,単なる成果物の提供ではなく,一連のプロセスの連鎖によって成り立っている.製品開発,顧客対応,財務処理,さらには日常的な業務に至るまで,すべては「プロセス」として捉えることができる.これらのプロセスは,しばしば複雑でありながらも,細分化された小さなプロセスの集合体として構成されている.ISO(国際標準化機構)の品質管理で推奨されている「プロセスアプローチ」は,業務にはインプットとアウトプットがあるとの考え方である.この考えを基にルールや手順を考えることが標準化に繋がっていくと考えられている.また,業務(作業)のアウトプットは,次の業務(作業)のインプットになることが多い,これがプロセスのネットワークとなる.このプロセスのネットワークは,社内業務もあれば我々の業界であれば顧客向けのシステム開発業務もある.最近は,プロセスを意識しないで作業レベルで業務を行い,アウトプット(結果)だけを求めて,ミスやトラブルが多くなっていると思われる.これは,標準化されていない作業で再現性のない作業を繰り返しているからではないかと考える.今回設立したコミュニティーは,世の中で標準化されている業務プロセスを掘り起こし,理解・研究することで,若手社員が様々な場面で「プロセス思考」を活用できるようにすることを目的としている.これは私が長年考えてきた研究テーマである.
森 久
筆者は,プロジェクトマネジメント学会メンタルヘルス研究会に所属して,プロジェクトマネージャーやメンバーが「心身共に健康」を確保しながら,プロジェクトを推進し,社会に貢献出来る方法を研究している.その活動の中で,プロジェクトマネージャーがプロジェクトで発生する様々なストレスに対して,どのように軽減し対処する方法があるのかを研究している.株式会社アジャイルウェアの「プロジェクトマネージャーの仕事のストレス」に関する調査結果では,プロジェクトマネージャーの8割以上が,仕事にストレスを抱えているという結果が出ている.本稿では,「プロジェクトマネージャーのメンタルヘルスマネジメント」をテーマに,ストレスが発生する原因と実践対策①WISERモデル,②メンタルモデル,③マインドフルネスを紹介し,プロジェクトで発生するストレスを軽減し,対処するためのヒントを提示する.
中村 健治
ここ数年で, 日本の公官庁も含めて,一般的にアジャイルという言葉が利用されるようになってきている.特にシステムや情報システム関連分野を超え,アジャイルという言葉を耳にする機会は,以前より多くなっている.しかし.世間一般用語化するに従い,アジャイルという言葉は,人それぞれ捉え方も多様になり,アジャイルという言葉の定義が,人により違った認識となり,共通言語化されていない傾向が目立つようになってきた.本論文では,アジャイルとは何か?何故アジャイルなのか?プロジェクトとアジャイルの関係性を理解し,日本の会社組織の変遷及びシステム開発・マネジメントの変遷を踏まえて,更に,アジャイル型プロジェクトを推進するにあたり,人々が,多様な捉え方でも,1つのゴールに向かって推進できるように, ウェルビーイングなアジャイル組織開発をするポイントについて考察した結果を報告する.
杉江 厚志
開発ベンダーとしてシステムの構築を請け負っている場合,事業拡大を図ろうとしても,競合ベンダーとの差別化が難しく,単なる価格競争に巻き込まれる構図となり,事業の飛躍的な成長は望めない.その状況を脱却するためにはあらゆる分野の知見を集約し,システム構想から開発,さらには維持・運用まですべてを請け負う,いわゆるオールインクルーシブなプロジェクトの獲得をめざす必要がある.従来プロジェクトとオールインクルーシブプロジェクトでは,関与するフェーズやマネジメントすべきステークホルダーが大きく異なる.オールインクルーシブプロジェクトではステークホルダーが多く,また,関心度がフェーズ進行とともに変化する.そのため,ステークホルダー対応計画を策定する際には,時間経過やフェーズ進行を考慮することが重要であるが,何に着目するのが適切かはプロジェクトの特性に左右されるため,プロジェクト毎に最適なアプローチを検討する必要がある.
田靡 葵
組織改編時には,各旧組織の複雑なルールや業務プロセスが残る中で,プロジェクトマネジメントの効率的な標準化が求められる.そこで本研究では,異なる組織のプロセス統一に焦点を絞り,課題解決に取り組んだ.まず,各旧組織の標準プロセスを詳細に調査し,全社標準プロセスとの整合性分析を実施した.これにより,不要なプロセスは削減し,必須事項を「基本ルール」に集約することで,簡素で実用的なフレームワークを構築した.その上で,全社標準プロセスとの整合性と,再編組織の事業領域の特性に応じた「個別化」のバランスを保つため,各事業部PMOとの効果的な情報共有と協力体制の強化に注力した.加えて,新規結成された少人数チームで速やかに標準化を成し遂げる必要があったため,日次ミーティングでの進捗の共有,週次ミーティングで課題解決や活動改善のためのふりかえりを行い,短期間でのチーム力向上を実現した.これらの取り組みにより,優先度の高いプロセスの速やかな導入や業務の進捗可視化,事業部間連携の強化が図られた.本稿では,組織改編後の持続的改善を可能とするための効果的な標準化アプローチと成功要因について紹介する.
山井 雅博
ITプロジェクトの成功には,有識者の存在が不可欠である.しかし,昨今の人材不足の状況では,有識者を十全に組み込むことは難しい.本論文では,プロジェクトの遂行上問題となりやすい,有識者が量的に不足するケースに着目して想定課題に対する対策について仮説を立てた.仮説を適用し,有識者を効果的に配置するための考え方や有識者不足に対する対策の効果を評価・分析した.対策を検証した結果,有識者の関与が必要なタスクと期間を明確にした上で,タスクを重複させない計画とする方法が有効であることが確認された.一方で,有識者が複数のタスクを兼務することや有識者の部分的な関与では,品質悪化という問題が発生した.有識者はプロジェクトの最優先・最重要タスクに優先的に配置されるため,優先度の低いタスクでは有識者の関与不足が発生し,そこにリスクが内在する.プロジェクト計画時に有識者を適切に配置した上で,有識者の関与が不足するタスクに対するリスク計画を組み込んでおくことが重要であると判明した.有識者の関与が不足することで計画通りにプロジェクトを遂行できない状況に陥らないよう,今後の課題としてリスク対策に取り組んでいく.
岩田 直樹
ハードウェアの保守期限が切れると,通常はOSやアプリケーションのバージョンアップを行う老朽取替プロジェクトを実施する.しかし,近年では,数年後の次世代システムの大幅刷新やクラウド化に向けて,直近の設備投資を抑制し,次世代検討の人的リソースを集中させて準備期間を確保するなどの目的で,仮想化技術を使って低コストで短期間に確実にシステムを新しいハードウェアへ移行したいというニーズも存在する.このようなニーズに対応するプロジェクトでは,通常の老朽取替プロジェクトとは異なる様々なプロジェクトリスクが発生する.本稿では,仮想化技術を活用した社内基幹システムの延命を実施するインフラ構築プロジェクトにおいて,どのようなリスクを想定し,実際にどのようなリスク事象が発生したのか,そのリスクに対してどのような施策を実践したのかを整理する.その上で,このような特性のプロジェクトの成功に向けてプロジェクトマネジメントのポイントを考察し,プロジェクト推進の教訓としてまとめる.
松波 大輝
日本における大規模アジャイル開発の実践上の課題と,それに対する現実的な解決策を提案する.日本の多くの企業がSIベンダへの外注を前提とした準委任契約形態を採用している現状において,欧米の内製型アジャイル開発手法をそのまま適用することは困難である.特に,開発スコープの不確実性や成果保証の欠如により,発注側の意思決定に対する不安が大きな障壁となっている.本稿では,アジャイル開発とウォーターフォール開発のハイブリッド手法を前提としつつ,以下の4点を軸に,不確実性を低減し,プロジェクト成功率を高める実践的方法を提案する:(1)Objectives and Key Resultsの制定とQuestions and Answersの整備,(2) 要件定義ドキュメントの作成,(3) プロトタイピングによる早期フィードバックの獲得,(4) 開発スプリントのグルーピングによる進捗と品質の可視化.これらの施策により,ステークホルダーの不安を軽減し,外注型でもアジャイルの利点を活かすことが可能となる.日本企業が抱える組織文化・契約慣習上の制約を踏まえたアジャイル導入の現実解を示すとともに,文化的適応を伴うアジャイル手法のテーラリングが,日本の大規模開発において不可欠であることを明らかにする.
溝渕 隆,三宅 敏之,仁尾 圭祐
システム開発プロジェクトにおいて,計画フェーズにおける開発難易度の見積もりは非常に重要な要素の一つである.レガシーシステムをモダナイズするシステム開発プロジェクトにおいては,現行のレガシーシステムの複雑度によってその開発難易度は大きく左右される.現行のレガシーシステムは様々な理由により複雑化しているが,主たる要因の一つはソフトウェアの複雑さである.一般的にソフトウェアの複雑さは循環的複雑度を採用することが多いが,レガシーシステムは循環的複雑度で難易度を計測するのが難しい.本論では,ソフトウェアメトリクスとしてソースコードの規模,及び,循環的複雑度を使って現行ソフトウェアの複雑度を計測し見積もったにも関わらず,実際のシステム開発時にスケジュール遅延・品質問題を発生させたレガシーモダナイゼーションプロジェクト事例をもとに,レガシーシステムに対する適切なメトリクスを考案し適用することで見積精度を向上させた事例を紹介する.
高橋 博昭,福岡 賢治
プロジェクトマネジメントの知識や技能を習得する方法として,多くの人は,身近なプロジェクトマネジャーの行動を見よう見まねで学んでいるのが現状である.企業としては,資格取得のための学習支援や基礎的な研修を提供しているものの,社外の情報に触れる機会は非常に限られている.さらに,社内においても他部門の取り組みを知る機会は少なく,学びの幅が狭まりがちである.このような課題を解決するために,部門横断型のコミュニティを立ち上げ,継続的な活動を行ってきた.具体的には,月に1回の会合を開催し,プロジェクトマネジメント学会研究発表大会の予稿集を題材とした輪講や,部課長を招いたディスカッションを実施している.これらの活動を通じて,明確な成果を数値で示すことは難しいものの,参加メンバーの意識や姿勢に徐々に良い変化が見られており,学びの場として一定の効果があると感じている.
田村 慶信,Jiang Shan,山田 茂
オープンソースソフトウェアは,バグトラッキングシステムと呼ばれるデータベース上でフォールト情報が管理されており,そのほとんどがオープンデータとして公開されている.従来,ソフトウェア信頼性は,累積発見フォールト数データに基づいて,総合テスト工程において評価されてきた.本研究では,オープンソースソフトウェアの信頼性を評価するためにバグトラッキングシステム上のデータを活用するため,深層学習を適用する.特に,複数のOSSフォールトデータを扱うために深層マルチモーダル学習を採用する.また,複数の出力を用いた信頼性評価尺度を推定するためにマルチタスク学習を用いる.さらに,従来手法との適合性評価結果を示す.
北畑 紀和
父が急逝し相続手続きをすることになったが紙からデジタルへ完全に移行されていない中,様々なリスク項目が挙がってきた.例えばLINEを使用していたが繋がっている人物は本人とどのような関係性があったのかを知る手段がない,契約書がデジタル化されている保険などは何が有効なのか確証が持てない,役所の手続きも中途半端なオンライン化のため結局出向く必要がある,デイサービスなどの請求が来るが正当なものなのか判断がつかないなど,普段は便利だが変更リスクが増えている.また,今後を考えた場合にスマホがクレジットカード,xxPAY,キャッシュカード,ポイントカードなど多くの機能を取り込み便利になっているが,持ち主に何かあった場合に全てに対応が出来るのかというリスクについても検討する.
鎌田 清弘
システム開発プロジェクトでは,要件定義において発注側,受託側がスコープに対する認識を合わせる事が,プロジェクト全体の品質,コスト,期間を守る事に非常に重要である.また,業務パッケージ製品をベースとしたシステム開発の場合,要件定義において受託側は,発注側に対して,パッケージ製品の正しい理解(コンセプト,製品特徴,運用想定)を促し,パッケージ製品を前提とした提案に賛同してもらう事が,スコープの拡大を防ぐために重要である.本稿では具体的な実例を対象として,システムの特徴,要件定義における課題を整理し,有効な対応策として,要件定義段階での操作可能な実機デモによる発注側,受託側の仕様共有を提案し,それを実現するための方策について考察した.
木元 麻衣
プロジェクトに対するリスク確認を目的として,定量データを活用した新たな検知手法を構築し,その有効性を検証した.従来はプロジェクトからの報告内容に基づいてリスク確認を行っていたが,報告頻度のばらつきや記載内容の鮮度・正確性,記入および確認作業の負荷に課題があった.これらを補完するため,日次・週次で更新される定量データを一元的に収集・分析し,状況変化をタイムリーに把握することで,プロジェクトのリスク確認のきっかけを得る仕組みを構築した.データの収集方法や分析手法の改善点,アラートの精度向上に向けた取り組みを行い,実運用を通じて得られたプロジェクトのリスクの早期発見に有効なアラート項目の傾向,そこから見えた課題について考察する.
鈴木 拓也
自身が担当する大規模かつ重要な社会インフラシステムでは,経費削減等を目的に,主要な業務を担うサブシステム(4拠点に分散して3システムずつ配置)を1拠点・1システムに統合する.その際,12に分散していたデータベースを1つに統合することから,次期システムにおいては,現行システム比で12倍のデータ件数となったデータベースを対象に業務処理を行うことになり,データ件数やアクセス頻度の増加に伴う性能劣化が懸念された.そこで,「パーティション分割」を利用した性能劣化を防止する設計プロセスを検討した.検討にあたっては,母体データ件数を変動させた際に,パーティション分割の有無が検索性能に与える効果を実機検証で確認した.その結果,性能要件を遵守し,設計全般の標準化及び品質の安定化を図ることができるパーティション分割有無の判断基準を立案できた.また,約850のテーブルのうち,約37%については,パーティション分割が不要であるという結論が得られ,開発コストの増大も防ぐことができた.テスト工程においては,データ件数やアクセス頻度が増加するという特性を踏まえたテストを設計・実施した.具体的には,アクセス拠点ごとにパーティション分割を行ったうえ,アクセス拠点数を変化させた性能テストを実施した.このテストにより,並行して動作するアクセス拠点数が増えると,データベース全体のキャッシュフュージョン発生量は増加するが,キャッシュフュージョンの発生はパーティション内に限定されており,ブロック送受信による処理遅延が発生していないことが確認できた.結果として,パーティション分割が性能要件のある業務機能において効果的であることを確認した.
佐藤 貴幸
企業のプロジェクトマネジメントにおいて,Project Management Office(PMO)は全社型とプロジェクト型の二形態に大別される.プロジェクト型PMOは特定のプロジェクトに特化することで迅速な意思決定と柔軟な対応を可能にする一方,当社ではプロジェクト規模やリソース制約等からその設置が限定的であり,全社型PMOの役割拡大と強化が重要となる.全社型PMOは,社内の規格制定や標準化,会議の運営を主とするファシリテート業務とプロジェクトの評価や改善提案といったアセスメント業務を担う.アセスメント業務は高度な専門スキルが必要となるため,当初はファシリテート業務に留まっていた.本論では,当社における全社型PMOの現状と課題を踏まえ開始したアセスメント業務対応への取り組みを示す.具体的には,AIやBIツールを活用したより効率的かつ客観的なプロジェクト評価の実現,豊富なプロジェクト経験を持つシニア人財の活用やノウハウ継承,そしてPMOメンバのスキル向上を目的とした独自社内教育等について述べる.さらに,今後の展望として,アセスメント業務の更なる高度化によるPMOの役割拡大に向けた取り組みについても考察する.最終的な目標は,より堅牢で真に能力の高い全社型PMOを通じて,プロジェクト全体の成功と組織の成長に大きく貢献することである.
橋本 一巧,林 俊一,浅田 隼人
国内事業の体制増強に向けて海外リソースの活用が加速している.しかし海外とはプロジェクト推進方法の違いに起因するトラブルも多く発生しており,過去の海外リソースとのプロジェクトで発生した問題を分析したところ,問題が「システムに求める品質要求レベルの違い」「SAFe・アジャイルをベースとした計画策定と合意ができていない」 の2点に集中して発生していた.また,これらの問題の共通原因として「海外リソースのプロジェクトの進め方を十分に理解していないこと」と「日本側の期待を海外リソースに明示的に伝えていないこと」が導出された.この共通原因に対する対策として,海外リソースとの協業を数年継続してきた参考事例を元に,Iteration毎の早期検証プロセス(Pre-UAT),進捗見通しに基づくフィードバックサイクルの整備などの具体的な対策を導出した.これら対策の有効性を確認するため,別のプロジェクトに適用した結果,プロジェクトの安定的な運営が可能であることが確認されたことから,本論文の知見を活用することで,海外リソースを活用したプロジェクトにおける実践的なマネジメント改善への一助となることが期待される.
田口 満雄
ERPシステムを一斉稼働で導入するような大規模ITプロジェクトにおいて,業務システム,インフラ,運用管理でベンダーを分けて調達することが多く見られる.プロジェクトが進むにつれ,要求は詳細かつ具体的になり,このときそれぞれのベンダーに対するスコープのベースラインが不明確であると摩擦が生じる.複数ベンダーが関わるため,プロジェクトの方向性について各ベンダーに同じ認識を持たせることがプロジェクトマネジメントオフィスの重要な役割である.しかし一般的に発注者と各ベンダーの間で成果物や作業分担が明確に定義されておらず,要件,作業分担およびスケジュール等が合意に至らず,実行時に混乱するプロジェクトが多く見られる.このような問題を解決するため,発注者と各ベンダーのスコープを明確にしたうえで,プロジェクト計画書の記載内容を徹底すること,プロジェクトの運営方法を徹底して,計画どおりプロジェクトが遂行されているかのチェックを継続することで,プロジェクトを円滑に進めて成功裏に収めることができた事例を報告するとともに,効果について検証結果を報告することで,円滑に進められるプロジェクトを増やすことを目的とする.
大竹 航平
近年,働き方の多様化により,リモートワーク及び出社を取り入れたハイブリッドのプロジェクト運営を採用するケースが多く存在している.特に大規模プロジェクトにおいては,伝達先及び経路の多さや全員が対面で集まることの難しさからコミュニケーションに課題が発生する傾向にあり,当該課題の解消がプロジェクトの成否の重要な要素となると捉えている.筆者の参画した大規模プロジェクトにおいては,コラボレーションプラットフォームの活用により戦略的にコミュニケーション方法の使い分けを計画・実行している.特にコミュニケーションの目的に着眼し,対面の打合せ,オンライン会議,メール,チャット,チャネル上のスレッドの投稿,デジタルノートの共有などの方法を使い分ける計画とした.この計画を実行した結果,リモートワーク及び出社の違いに依らず目的に即したコミュニケーションが図れるようになり,一定の成果を得ることができた.特にメールや対面でのコミュニケーションを主体としてきたメンバにコミュニケーション方法の切替えを周知し,定着させることに苦労したが,プロジェクト一体となって取り組み,軌道に乗せることができたことにより,成果に大きく寄与したと評価している.
中尾 友美
システム開発においても運用・保守フェーズは本番稼働後のシステムの安定稼働を続けるためになくてはならないフェーズであり,日々の運用・保守業務を通じて,システムに対するエンドユーザからの信用性を獲得し,エンドユーザの満足度向上を図ることが可能である.当然のことながら,当該フェーズにおけるプロジェクトマネジメントも非常に重要である.一方,新型コロナウイルス感染症が収束した今もリモートワークでのプロジェクトは多数存在し,オンサイトからリモートワークへ移行したことによる弊害が運用・保守フェーズにおいても生じていると考える.本稿では,リモートワークを主体としたシステム保守プロジェクトにおける筆者のマネジメント経験を元に,保守プロジェクトを進めていくうえで効果的だったマネジメントについて考察する.
新田 真也
顧客業務の効率化を実現するための新規システムの導入にあたり,顧客要件とのミスマッチが原因でシステムの利用が予定通りには実施されない事態が発生した.今回,従来の開発手法を見直し,顧客の要望を柔軟に反映できるようなプロジェクトマネジメント手法を検討し,導入後の顧客のシステム利用の定着を促進するためのフォロー体制を強化する取組みを実施した.実施方法としては,ユーザーインターフェース開発にはアジャイル型の開発を,それ以降の開発にはウォーターフォール型の開発をといったハイブリッドの開発手法で行った.また,試行導入に合わせて顧客からの相談窓口を設置し,迅速に質疑に回答できる体制を構築した.これらの取組みを導入することで,顧客からの要望を満たす柔軟性を確保しながらシステムを開発することに成功した.また,相談窓口設置による導入サポートにより,システム利用の定着も図ることができた.今回の取組みの中で,特に工夫したことが画面のプロトタイプを作成して顧客と要件整合を実施したことであり,これがアジャイル型を使用したユーザーインタフェース開発をスムーズに進めることができた大きな要因であったと考える.
野尻 一紀
ウェルビーイングはSDGsの目標3に掲げられている.本稿ではプロジェクトの風土改善としてのウェルビーイング取り組み事例を示す.次世代プロジェクトでは,職務環境の変化に前向きに対応できる風土の醸成とアジャイルの考え方の適用が急務である.特にシステム運用プロジェクトでは,DevOpsの浸透やAIの発達により,オペレーションや監視の自動化が進んでいる、メンバーには自由な発想と,AIの高度な制御やデータに基づくタイムリーな価値を生む提案が求められる.次世代プロジェクトにおいてメンバーが求めるものは経済的な対価だけではない.関係性やコミュニティ,個人のアイデンティティにも影響を与える価値交換が必要である.リーダーとメンバー全員が主観的ウェルビーイングとレジリエンスを高め,人間関係のつながりを強めることが重要である.
鈴木 武志
近年,予算制約などにより,ユーザが一部機能を内製するケースが増加している.システムマイグレーション対応においてもユーザ内製部分が発生し,その品質保証が課題となった.本研究では,共同でProof of Concept(PoC)を実施し,ベンダとユーザ開発チームが連携して品質管理プロセスを構築した.具体的には,方式設計を先行実施し,オンラインツールやコード管理システムを活用したリアルタイムレビューと品質保証体制を構築した.その結果,PoC期間内に内製部分もテスト完了に至り,品質問題は確認されなかった.さらに,ツール運用手順やレビュー体制の課題も明確化し,今後のプロジェクト改善に活用可能と判明した.ユーザ内製開発でも,通常のプロジェクト同様,連携による品質管理が重要であり,相互レビューやツール活用が成功の鍵であることを示した.
上野 衣舞,川上 蒼太,龍 真子
近年,大規模言語モデル(Large Language Models : LLM)をはじめとする生成AI技術の急速な進歩により,多様な業界において業務プロセスの効率化が推進されている.アプリケーション開発分野においても,この技術革新による効率化への期待が高まっている.アプリケーション開発において,テスト項目作成はアプリケーションの品質を保証する重要な工程であるが,テスト観点を網羅したテスト項目の作成には多大な工数を要し,プロジェクト進行の制約要因となっている.そのため,テスト観点を網羅しつつテスト項目作成の作業効率を向上させることは,プロジェクト成功の重要な要素である.本研究では,この課題に対してワークフロー型エージェントを活用したテスト項目作成手法を提案し,テスト観点を網羅した上での生産性向上効果を検証した.検証の結果,品質の面では,手作業で作成した正解のテスト項目のうち約53%が生成AIによって正しく出力された.特定のデータセットに対しては高い品質を実現できたが,データセットによって品質にばらつきがある結果となり,プロンプトの汎化性能には改善の余地があることが示された.生産性の面では,人間による修正時間を含めても,手作業によるテスト項目作成と比較して約36%の生産性向上効果が確認された.この要因として,テスト項目のたたき台出力時間が人間と比較して90%以上短縮されたことが挙げられる.これらの検証結果により,ワークフロー型エージェントによるたたき台作成と人間による修正を組み合わせることで,高品質なテスト項目を効率的に作成できることが明らかになった.
西山 美恵子
アジャイル開発において,チームの自己組織化はアジャイルマニフェストやスクラムガイドにおいて重要な要素として位置づけられている.しかし,現場ではその自己組織化の状態を定量的に把握・可視化する手法は見当たらず,実践的な評価が困難であるという課題がある.本研究では,自己組織化の成熟度がアジャイル開発の成功に寄与するという仮説のもと,自己組織化レベルを評価するチェックリストを作成し,4チームに対してアンケート調査を実施した.「透明性」「検査」「適応」の3つの観点から自己組織化の状態を測定した結果,特に「透明性」に関する項目の達成が難しく,役割によって認識に差があることが明らかとなった.全チームがチェックリストを通じて自己組織化の現状把握と改善点の特定に有効であると評価しており,本研究ではアジャイルチームの自己組織化を可視化する手法として,チェックリストによる評価を提案する.
保田 政輝
大規模アプリケーション開発では,システムを複数のサブシステムに分割し,それぞれを異なる開発会社が担当する体制が一般的である.SIerの下に複数の会社が参画する場合,サブシステムの特性や会社の得意分野,対応可能な規模などを考慮して割り当てが行われる.このような体制では,①開発会社間の責任分界によるコンフリクト,②特定会社による進捗遅延や品質問題が主なリスクとなる.これらの問題は,各社のケーパビリティに依存するため,迅速なリカバリが困難で,プロジェクト全体に影響を及ぼすこともある.対策としては,全社が成功という目的を共有し,協力意識を持つことが重要であり,加えてリスクの早期検知や迅速な対応を可能にするチームビルディングが求められる.紹介事例では,有識者を集めた横断チームを構成し,円滑なコミュニケーションと問題解決を実現.このチームはリカバリ能力も備え,重大な問題への対応や品質向上に貢献し,組織の壁を越えた成功事例となった.
林 岳
完全リモート体制下でのプロジェクトマネジメント実践について報告する。対面でのミーティングや会話による情報共有が困難な中、1日3回・各10分の短時間チェックポイント(スクラムミーティング)を取り入れ、進捗の可視化と課題の早期把握を実現した。また、Microsoft Teamsのグループチャットを活用し、1対1のやりとりを排除することで情報の透明性を高めた一方、情報の集中による見落としや確認負荷の課題が顕在化した。さらに、会議チャットの乱立防止として、同一会議リンクの再利用による情報整理の工夫も行った。こうした取り組みの成果と反省を通じて、フルリモート環境における実践的なプロジェクトマネジメント手法と今後の改善提言を提示する。
石原 寛紀
本研究は,10年以上稼働を続ける公益企業の大規模業務システムにおいて,複数のプロジェクトを通じた全体最適化の実践事例を紹介する.制度改正,新サービス追加,保守対応など異なる目的に応じて,ウォーターフォール型,アジャイル型,ハイブリッド型の手法を柔軟に選定・適用し,安定稼働と継続的な価値提供を実現した.手法選定の判断基準,チーム体制,成果指標,知識共有の仕組みが,プロジェクト成功と組織全体の最適化に寄与することが明らかとなった.特に,属人性を排除しつつ柔軟性を確保するマネジメントの実現は,実務における重要な示唆である.一方で,判断が経験に依存する点や,効果測定の定量化が不十分であるといった課題も残されている.今後は,AIやデータ分析の活用,評価指標の整備,教育・啓発による文化定着が求められる.本研究の成果は,変化の激しい現代において,柔軟かつ戦略的なプロジェクトマネジメントの実践知として広く活用されることが期待される.
柳沢 満,吉村 直人
ソフトウェアの開発生産性と品質の向上には,ソフトウェアドキュメントに含まれる曖昧表現,誤表記を機械的,網羅的に検出するドキュメント検証施策が必要であり,社内でドキュメント検証サービスを利用推進している.現状のドキュメント検証サービスは字面による柔軟性のない判定であるため検証精度向上が困難であり,大量の検出件数による確認工数が掛かってしまう.一方でソフトウェア開発の少ない人的リソースを提供価値向上に割り当てるため,更なる効率化が求められている.近年,ソフトウェア開発への生成AIの適用が盛んになってきており、我々は大規模言語モデル(以下,LLM)の大量の情報処理・整理の能力を利用する事によって,ドキュメント検証サービスと同等あるいはそれを超えた機能が実現可能であるという仮説を立てた.本稿ではこの仮説を検証するため,現状のドキュメント検証の機能の枠を超えたドキュメントレビュー方式を試行し,双方の優位点・課題点を整理した結果を報告する.さらに,今回の試行で得られた知見を基に,LLMを活用したドキュメント検証サービスの高度化と今後の展開の方針について報告する.
高野 敏一
社内ヘルプデスクへの問合せ件数の増加に伴い従業員への回答の対応遅延が生じていた.またFAQやマニュアルを公開しているが件数が多く頻繁に更新されるため従業員自身で該当箇所を探し出すのに時間を要していた.そのため従業員の解決時間短縮とヘルプデスク工数削減を目的として社内向けAIチャットボットを開発した.従業員からの問合せを,FAQやマニュアルを登録したナレッジから情報を検索しそれを大規模言語モデル(LLM)が回答を生成するRAG手法を採用した.当初問合せの回答正答率が約10%程度だったが継続的改善により約90%に向上した.AIチャットボットによる回答によりヘルプデスク対応件数を18%削減するとともに回答時間は数秒までに短縮され工数削減しつつサービス品質を向上できることが実証された.今後もナレッジやLLMの継続的な更新とAI回答のモニタリングによる継続的な改善が必要と考えられる.
加藤 正人
新型コロナウイルスの影響により,コミュニケーションの主流は対面から非対面へと急速に移行した.この変化はプロジェクト運営にも大きな影響を与え,特に非対面環境下ではプロジェクトメンバー間の関係性が硬直化し,円滑な意思疎通が困難となる課題が顕在化した.本論文では,筆者が担当するプロジェクトにおいて,こうした課題を解消するために実施したチームビルディングの取り組みについて報告する.具体的には,非対面コミュニケーションの特性を踏まえ,「人間関係の構築」「共通認識の形成」「プロジェクトの方向性の明確化」を軸としたマネジメントを行い,柔軟かつ円滑なコミュニケーションの実現を目指した.その結果,コミュニケーションのスタイルはトップダウン型からボトムアップ型へと変化し,担当者が主体的に意思決定を行う体制が確立された.これにより,チーム全体の品質と生産性の向上が達成された.本稿では,これらのチームビルディング施策の具体的内容と,それによって得られた成果について詳述する.
木暮 雅樹
東南アジアの小規模組織で直面した問題とそれに対する解決策をもとに,日本の小規模組織におけるプロセス改善活動が行われた.活動開始時にプロセス改善活動推進者が割り当てられたが,改善活動の経験がないプロセス改善推進者が活動してもうまくいかないことが東南アジアでの経験よりわかっていたため,活動開始時から外部支援者が指導することで,活動を成功させた.アクションプラン策定において組織内の複数人を割り当てること,状況を細かく監視できるように3か月以内の期限を設定すること,プロジェクトの定例会議の中でアクションプランの状況を監視すること,プロジェクトと改善活動の節目で全員参加の振り返り会を開催すること等を指導した.これらの指導により,プロセス改善推進者が改善活動の目的と進め方を理解して自律的に活動を継続することができるようになった.
大迫 礼佳
大規模病院における病院情報システムは,電子カルテシステムを中核に構成されており,多くの場合,50~70の部門システムが接続されている.病院情報システムの構築プロジェクトでは,電子カルテシステムの刷新に加え,接続する部門システムのベンダー変更や再構築,機能拡張も同時に進められる.そのため,全体スケジュールに応じて各部門ベンダーが連携して作業を進める必要があり,プロジェクト全体のマネジメントは電子カルテシステムベンダーが担うことが一般的である.中には病院業務全体に大きな影響を及ぼす部門システムも存在し,その進捗状況はプロジェクト全体に重大な影響を与える可能性がある.このような背景から,部門システムを扱うベンダーの管理は,病院情報システム構築プロジェクトにおいて極めて重要な要素である.本稿では,自身が従事した病院情報システム構築プロジェクトにおけるベンダー管理の事例を紹介し,考察を行う.
谷元 久実子,淺野 純平,石崎 浩太郎,鶴田 将己
プロジェクトマネージャの業務は多岐にわたり,本来重視すべきステークホルダーとのコミュニケーションやリスク対策に十分な時間を割けていない現状がある.本稿では,こうした課題への対応策としてAIをプロジェクトマネジメントプロセスに導入し,業務負荷を軽減しつつ,品質管理およびリスク管理業務へのAI活用の有効性を検証した.品質管理においては,品質状況の傾向分析,異常値の検出,原因分析,改善策の立案といった各プロセスにAIを活用した.またリスク管理では,プロジェクト状況報告からクリティカルなリスクへの迅速な対応判断をAIが支援した.その結果,AIによる網羅的かつ多角的な分析が新たな課題発見や意識向上に貢献し,一定の有効性が認められた.一方で,分析対象データの不備や知見の形式知化の不足といった課題も明らかとなった.今後は,対象領域の精度向上とともに,プロジェクトマネジメントプロセス全体にAI活用の範囲を拡大していく予定である.
山内 崇徳,岩崎 光,鳥山 剛司
公共系の業務システムでは,長期に渡り運用を継続している状況から独自のアーキテクチャで開発され,システムを運用・維持する開発環境や業務設計を行うノウハウにおいても,独自の手法が確立されている.そのようなシステムでは年度ごとの法律改正に伴う継続的な開発が発生するものの,プロジェクトの開発量はその時々で増減し,体制は増員と減員を繰り返すため,有識者と開発経験の浅い担当者で体制を構築するケースが多く,限られた体制で高い品質を確保する必要がある.本稿では,このような限られた体制であっても高品質な開発を実現するために,業務ノウハウを補完する汎用的な標準施策と,開発スキルを補完するプロジェクトの特徴を踏まえてリソースを配置する独自施策により,開発経験に関わらず高い品質を仕組的に確保する手法について述べる.この施策適用によって,限られた体制であっても実際のプロジェクトにて有効な結果が得られており,継続的に開発を行っていくための品質確保の実践知として有用である.
渡邊 優太
近年,デジタルトランスフォーメーションやAIといった様々な技術の進化に伴って多くの企業では,新規技術の導入,基幹システムの刷新,業務プロセスの標準化や改革など様々な施策が取り組まれている.しかしながら,「複数の施策案がある中で声が大きい社員の推奨する施策が優先的に行われる」,「事前の施策効果予測が仮説だけの積み上げで算出されるため信憑性に欠ける」,「事後の施策効果実績が見えず施策効果予測の精度が上がらない」,などの理由から取り組んだ施策が結果的に想定していた効果を満たせないケースは少なくないと考える.この問題を解決するために筆者らは,プロセスマイニングとタスクマイニングを用いて施策による業務への変化を数値化することで効果予測の信憑性を向上し,効果的な施策の優先度決定を可能にした.また,数値化した業務実績を定期的にモニタリングすることで効果実績が予測と比べて不十分だった場合の原因分析や新たな課題発見も可能である.本論では,データドリブンな経営を目指すためにプロセスマイニングとタスクマイニングをどう活用するべきかの考察と筆者らが実践した事例を述べる.
藤田 幸代
為替相場の変動や輸出入規制,紛争など世界情勢の変化により,原材料価格が高騰している.さらに,人手不足に伴う賃金の上昇が見込まれる.製造原価率の上昇は利益を圧迫するため,製造業において,製造原価の増大に伴う経営リスクが深刻化している.本稿では,こうした課題の解決策として,企業資源計画(ERP)導入プロジェクトのマネジメントに焦点を当て,企業全体で原価低減を推進する仕組みの整備を論じる.ものづくり大国ドイツの先進事例をとりあげ,日本より高い水準のERP導入率および総資産利益率(ROA)から,デジタル化によって原価低減および収益性向上を図ることの有効性を論じる.従来,単一パッケージによる一元管理型のERPが主流であったが,近年では,ERPで財務情報に紐づく中核業務を標準化し,周辺システムと役割を分ける動きが強まっている.このような中,周辺システムを視野にいれて,全体を俯瞰する統合マネジメントが重要になる.本稿では,次世代型ERPの特徴を踏まえて,プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK)の知識エリアで考慮すべきポイントを明らかにし,実際のプロジェクトで検証した結果を報告する.最後に,製造業の持続的成長に向けて,イノベーション投資のあり方を展望する.
桑原 俊宣
品質管理を行う上でバグの早期摘出を実現するためにはバグの情報を継続的に収集し,正しく分析ができる状態を維持する必要があるが,それらはプロジェクトマネージャー (PM)や設計リーダーの管理工数を増大させる要因となっていた.本稿ではPMや設計リーダーが顧客との合意形成や仕様整合といった本来業務に注力しながら,バグの原因分析や対策を継続的に実施するにはどのようにすればよいかについて考察する.PMや設計リーダーが高負荷な状況について分析した結果,品質管理のタスクがPMや設計リーダーに偏重していることや,品質管理の定型的な準備作業に時間を費やしており,本来業務に十分な時間を割けていないという状況が明らかになった.施策として品質管理の役割分担の見直しや,一部の作業はツールを使って自動化を行った.この取り組みの結果,PMや設計リーダーがこれまで行っていた品質管理の定型作業にかける工数は40%削減され,PMや設計リーダーが本来業務に注力することにより1カ月間前倒しでバグを収束できた.今後の活用事例として報告する.
岩崎 慎司,山内 信明,鳥越 健太郎,菅 徹太郎,山田 弥生
システム開発では,長年,定量的な品質保証にテスト密度やバグ密度に代表される規模密度が活用されてきた.近年,システム開発の高度化と多様化が進み,規模密度に依存した品質保証は困難になりつつある.そのため,規模密度に依存しない品質管理手法が検討されており,その有効性を継続的にモニタリングする方法の一つとして,すり抜けバグの情報を用いた欠陥検出率の推移をモニタリングする方法が提案されている.ただ,多くの企業ではこのモニタリング方法の活用は限定的である.原因について検討した結果,モニタリング中の課題対策タイミングの曖昧性,運用プロセスの未整備,特定条件での状況への対応といった複数の課題が展開の妨げになっていると判断した.本研究では,これらの課題に対し,欠陥検出率の算出アルゴリズムの拡張およびガイドライン整備による解決を提案する.提案アルゴリズムは,実プロジェクトデータを用いた机上検証により,従来と比較して品質の推移をモニタリングしやすいことが確認できた.また,ガイドラインについては,今後の推進の中で有効性を確認する予定である.
曽根 寛喜
ソフトウェアの保守活動における工数の定量的な把握は,プロジェクトマネジメントにおいて重要な課題である.先行研究としてBugzillaなどのバグ管理システムを用いた工数の時系列的な分析が行われてきたが,GitHubのような課題管理システムにおいては,マイルストーン単位での時系列的工数定量化は十分に検討されていない.本研究では,GitHub上に存在するKubernetesプロジェクトに焦点を当てる.特定のマイルストーンにおけるIssueデータを対象とし,修正および報告に要した工数を時系列に整理する手法を試みる.具体的には,各Issueの属性情報を収集し,Issue報告およびIssue対応別の工数推移を可視化する.得られた時系列データは,将来的に数理モデルによる保守工数予測の基礎情報として活用可能であると期待される.
山口 真哉
アジャイル開発は柔軟性と迅速なリリースを重視する一方で,開発スピードと品質の両立に課題が生じることがある.特に高品質を重視する組織では,アジャイルの価値観と既存のプロジェクトマネジメントプロセスとの間に認識の乖離が生じやすく,進捗管理や成果物の定義において調整が求められる.当社では「高品質なシステムの開発」を目的に,各工程の完了を段階的に確認する評価プロセスを運用しており,アジャイル型の進行とは整合が難しい場面もある.こうした状況に対し,本稿では開発スピードと品質の両立に向けた実践的な工夫を整理することを目的とし,社内で実施された2件のアジャイルプロジェクト(成功例と失敗例)の比較と,評価プロセスとの調整事例を通じて,現場で得られた知見と運営上の留意点を明らかにする.
岩本 賢芳
組織全体で統一された事実ベースのプロジェクト管理の確立は,リアルタイムなリスク検出や品質保証のため不可欠とされる.一方,チームごとに異なる管理ツール,独自の報告基準,開発プロセスの存在などにより,状況分析・報告の標準化と定量化,そして情報の迅速な取得が困難となる課題があった.特に,定性報告中心の現場では報告内容や観点の個人差やバイアスが顕著で,受け手の客観的状況把握が難しかった.そこで本研究では,ウォーターフォール開発プロジェクトを対象として,管理ツールの統一導入によってデータを集約し,組織全体を俯瞰できるダッシュボードや、各プロジェクトの進捗・課題を詳細に分析するビューを整備した.これらの取り組みにより,プロジェクトの品質や進捗状況を定量指標と根拠データに基づき即時に可視化できるようになり,遅延や異常値も容易に判別できるようになった.その結果,問題プロジェクトの早期発見やリカバリ要否判断の迅速化が可能となり,組織内プロジェクト横断管理の効率化を実現した.本稿は,これらの取り組みの成果について報告する.
菊地 誠
2012年より自社オンプレミス環境でソフトウェア開発者向け開発環境を運用してきたが,運用負荷やコスト,拡張性に課題が顕在化したことから,2020年よりクラウド移行の検討を開始した.その後,社内クラウドサービス,Microsoft Azure,VMware Cloud on AWS(VMC)など,移行先の方針転換を複数回経験した.さらに,VMware社の買収によるライセンス継続問題など外部要因の影響も受け,最終的にはAzureに統一することで決定に至った.移行にあたっては,先行事例の活用による技術検証の効率化や,段階的な移行によるリスク分散等のリスク管理が成功要因となった.本稿では,移行先決定までの経緯と,外部要因への対応について述べる.
中島 光治
これまで,公共分野のシステム開発では,制度や行政手続の存在を前提としそのデジタル化自体が目的化され,本来目指している「利用者の利便性向上」や「行政の効率化」が二の次とされてしまうことが多く,度々問題視されてきた.これらを実現するためには,如何にしてシステム開発においてユーザーニーズをタイムリーに取り込み,サービスに反映させ,「使いやすい」「役に立つ」サービスを実現するかが重要となる.本稿では,UX,アジャイル開発,DevOpsを組み合わせて適用することにより,ユーザーニーズの取込を可能とするプロセスについて立案し,SaaS開発及び運用・保守プロジェクトにおいて適用を試み,その効果についての検証を行った.適用した結果,該当SaaSを利用する行政機関が増加,利用拡大につながり,該当プロセスの有効性が示唆される結果となった.
中村 裕子
本論文は,プロジェクトマネジメントの高度化におけるリスク検知に不可欠なデータの登録不備改善に取り組んだ実証研究である.2023年度より原価率管理を強化する中,組織内に生じた原価率計算に必要なデータが未登録なことから計測不能となったプロジェクト(評価不可PJ)が問題となった.評価不可PJは2024年7月時点で組織全体の約20%,特定部門では40%を超えており,原価管理の精度低下と財務リスク早期把握の阻害要因となっていた.そのため「評価不可PJ 0件」の達成を目標とし,「見て伝わる,行動できるダッシュボード」を設計・導入した.設計には,データビジュアライゼーションによるコミュニケーションの考え方を用いた.合わせて,カーネギーの「人を説得する12原則」を適用した.関係者を「自分ごと」として巻き込み,反発を生まないアプローチを取った結果,約1カ月で目標を達成することができた.本研究にて,人間の心理的側面を考慮したコミュニケーションデザインは,組織全体の行動変容とデータ管理改善に有効であることが示された.
森田 雅和
社会の激しい環境変化により,ビジネスを取り巻く環境は不確実さが増し,より複雑になってきている.グローバル化,技術革新,そして顧客の期待の変化などの要因がこの変化を加速させており,企業が予測可能性やコントロールを維持することがますます困難になっている.この変化に柔軟に対応するため,ITシステム開発において顧客が求める開発期間は短くなり,マネジメントの難易度も上がってきている.開発チームは限られたリソースと不明確な要件の中で,より短期間で高品質なソリューションを提供するという大きなプレッシャーにさらさる傾向にある.要件が定められない,変化するなどスコープギャップ,クリープが発生し,プロジェクト混乱を引き起こし損益悪化に陥る状況が少なくない.混乱プロジェクトにおいてはコスト超過により,プロジェクトマネージャー単独では意思決定できない状況が多い.対策指示による対応工数,コスト増を忌避することからエスカレーションが適切に行われない傾向がある.このようなためらいは,責任の所在に対する懸念や,エスカレーションが計画の不備や失敗を示すものと見なされるという認識から生じることが多い.しかし,適切なエスカレーションによるリスク対策によってプロジェクト混乱を防止し,損益確保に貢献できると考える.本稿ではリスクマネジメントおよび,エスカレーションを実践した内容と重要性に関して考察を行う.
滝澤 志貴
近年のIT業界では,デジタルトランスフォーメーションの進展に伴い,企業間の相互連携がますます重要視されている.本稿では,筆者が経験した複数企業,ベンダーが共同で開発を行うコンソーシアム協業のプロジェクトをテーマに,顕在化した課題と対応施策による成果について考察する.コンソーシアム協業によるシステム開発は,リソースの共有や技術の向上といったメリットがある一方で,意思決定の遅延や文化の違いによる摩擦といったデメリットも伴う.具体的な課題としては,開発標準の相違やコミュニケーションの不備が挙げられる.課題に対処するために,定期的なミーティングを設け,各企業の進捗を共有して課題の早期解決に努めた.この取り組みによって,プロジェクトは遅延することなく運用を開始し,顕著な成功を収めることができた.この経験を通じて,異なる企業間での協力体制やコミュニケーションの重要性を痛感し,今後のプロジェクト運営においてこれを考慮する必要性を再認識した.このようなコンソーシアム協業型のプロジェクトに対するプロジェクトマネジメントが,今後のIT業界において不可欠な要素となると考え,これらの対策を継続的に見直し改善していくことで,多様な企業が協力し合いながら,革新的なシステムやサービスを実現していくことが期待される.
及川 智弘
Quality, Cost, and Delivery(QCD)の一つにも挙げられている通り,品質管理はプロジェクト管理の重要要素の一つである.また,ソフトウェア開発における品質管理知識についても,Software Quality Body of Knowledge(SQuBOK)として体系的にまとめられている.しかしSQuBOKでは実際に品質管理を行う要員にどのようなスキルが必要なのかは明示的に定義されておらず,品質管理担当者に品質分析スキル以外にどのような能力が求められるのかが分かりにくい.この課題を解決するため,大規模システム開発プロジェクトの品質管理業務を元に,品質管理担当者の具体的なスキルセットを定義する取り組みを行った.スキルセットは,業務ごとに必要スキルを洗い出し,洗い出したスキルを汎化するという手段にて定義した.この検討を通じて,品質管理担当者の持つべきスキルとして,品質分析スキルと同等以上に重要なスキルがあるとの結論に達した.本稿では、品質管理担当者の必要スキルの内容とその優先度の検討成果について報告する.
河野 未優,木村 尚貴,金 祉潤
近年,日本の多くの企業では,エンゲージメント向上の施策として柔軟な働き方の導入や上司との定期面談,社内コミュニケーション活性化などが進められている(経済産業省,2020).当社では,従業員エンゲージメント向上に対する新たなアプローチとして,これまで外部の研修機関に委託していた新入社員研修を当社社員が直接企画・実施する形式を導入した.本稿では,2025年度新入社員126名を対象に実施した「品質管理入門」研修の企画過程とその成果を報告する.「品質管理入門」研修では,伝達力・質問力・文章力といったヒューマンスキルの育成に重点を置き,座学講義・グループワーク・振り返りセッションで構成した.グループワークと振り返りに多くの時間を割く構成とした結果,新入社員は講義内容を実践的に修得し,高い満足度を示した.さらに研修企画から実施までを振り返り,講師側の学びを踏まえて研修の内製化が従業員のエンゲージメントに与えた影響を分析・考察する.最後に,研修内製化を継続・発展させる上での課題と今後の改善策について述べるとともに,本研究の知見がエンゲージメント向上に課題を抱える企業への新たな手法の提案となることを目標とする.
山王 達也,石原 聡一,水島 泰雄,森岡 宏之,小平 勉,池田 逸郎
急速な技術革新と顧客要求の高度化に伴い,現代のプロジェクトでは従来のスケジュール遵守や予算管理だけでは不十分であり,QCD(品質・コスト・納期)の最適化が求められている.このような背景から,弊社はデジタル技術を活用した「品質コックピット」システムの開発を推進した.本システムは,開発プロセスにおける潜在リスクの早期発見と未然防止を目的としたデータ駆動型のツールである.主要機能として,プロジェクトのリアルタイム監視,データ統合分析,部門横断的な情報共有を提供し,PMの意思決定を支援する.特に,属人的な管理手法の限界を克服し,客観的な品質管理プロセスを確立することが重要と考えられる.現段階では,多様な開発スタイルに対応する汎用的なフレームワークの構築を目指しており,PM(プロジェクトマネージャー)の品質マインド向上は本システム利用において副次的な効果としつつも,組織の持続可能な品質文化形成に寄与すると期待される.
松尾 剛士
プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)が複数プロジェクトを並行監視する際に重要なのは,リスク顕在化の早期検知である.リスク顕在化の早期検知プロセスとして,PMOにて事前に重点的に監視するプロジェクトを選定しリスト化,対象のプロジェクトの財務状況を整理し当初の計画からの原価悪化等については,注意を促す仕組みを導入した.また,それに加えプロジェクトからの週次報告を前週比較し変化点を分析する.このプロセスを組織全体として標準化し運用することにより,リスク顕在化の早期検知が可能となり,プロジェクトの成功に寄与した.一方で,報告内容のばらつきやPMOの人的リソース不足が課題として残った.改善策としては,報告様式の標準化によるデータの均一化と,AIを用いた事前確認や自動課題抽出を導入し,業務効率化を図る.これらの取り組みは,プロジェクト管理の精度向上とリソース最適化を実現すると期待される.
吾郷 正浩
長年のメインフレームシステム運用保守責任者としての経験から、多くの企業が現在取り組んでいるモダナイゼーションプロジェクトにおいて、現行システムの運用保守チームが担うべき役割に注目する。モダナイゼーションの移行方式によっては、現行システム環境に変更を加える要素が生じることもある。また、プロジェクトのテスト支援や移行作業においても、現行システム側の作業が発生することが想定される。これらのプロジェクトでは、現行システムの維持管理を担うチームが、移行計画の初期段階から主体的に関与することが、円滑なプロジェクト推進にとって重要であると考える。本稿では、こうした現場の視点を踏まえ、モダナイゼーションプロジェクトを円滑に進めるにあたり、現行システム側の運用保守チームが検討すべき項目や実施する作業の具体例を提示することを試みる。
櫻澤 智志
定期的に開催される社内会議や部門会議は,社員にとってはプロジェクト開発等の主たる業務より優先度が下がる傾向がある.加えて,Covid-19に端を発した多様な働き方が主流となり,部門会議にも様々な変化がもたらされた.筆者も自組織の活性化に向け会議運営に試行錯誤が続いていたが,社員が発した「そもそも部門会議は必要なのか?」という提案を機に,抜本的な部門会議改革に着手した.メンバーと部門会議のあり方を考え,導いた方向性は,メンバー全員が分担して運営を担うことと,話を聴くだけではないアクティビティを重視することの2点である.本稿では,1年半にわたる部門会議活性化の経緯を紹介するとともに,筆者がメンバーに対して試みた施策と課題を考察する.
河村 智行,丹下 英明,大塚 有希子,当麻 哲哉
我が国の多くの企業が,デジタルトランスフォーメーション(DX)による成果を十分に得られていないと言われており,企業は効率的にDXを推進できる能力の獲得が必要である.DXの効率的な推進には活動を担当するプロジェクトマネージャ(PM)の能力が重要であるが,能力の要求事項であるコンピテンシーは明らかになっていない.本研究は,文献調査を通してDXの推進に求められるPMのコンピテンシーを整理することを目的とする.学術論文検索サイトを利用した文献調査の結果,PMおよびDXの代表的なコンピテンシーフレームワークをそれぞれ特定した.そして,特定したPMのコンピテンシーフレームワークの11カテゴリーに対し,DXのコンピテンシーフレームワークの6カテゴリーの内容を組み合わせることで,DXの推進に必要なPMのコンピテンシーを整理した.
西川 啓
近年Covid-19の影響下で複数のプロジェクトが品質やコストの課題に見舞われ,財務状況の悪化に悩まされていた.トラブルの原因分析を行った結果,顧客との対面時間の減少とそれに伴う非言語コミュニケーションの減少が認識の齟齬を呼んでいる傾向がつかめた.対策は短期策と中長期策に分類した.対策実行に当たり,意思決定できるビジネスリーダー層を集めた定例会議を開催.対象となるプロジェクトを選定してアクションを定義し実行をモニタリングする形を取った.短期的な対策はプロジェクトの弱点の洗い出しを元に技術者や管理者の投入により,個々のプロジェクトへの支援を行った.中長期的な施策は二点あり,一点目は提案段階に遡って見積もりや要員計画を点検すること,二点目は「失敗からの学び」を研修コースに仕立てて受講を促進し,個々人の意識や行動変容を行った.中長期策は筆者が企画・立案して以来4年以上にわたり継続され,トラブルプロジェクトの数や財務状況の健全化という形で成果が出ている.組織運営を行う立場として考察すると,他のプロジェクトでの失敗を教訓として蓄積することと,失敗を隠蔽せずに相互に共有できる文化の醸成が極めて有益だったと考えている.
田中 一彦
本稿では,大規模システム開発プロジェクトにおける移行タスクのマネジメント手法について,実体験に基づく考察を行う.移行はプロジェクトの成否を左右する重要かつ困難な工程であり,失敗した場合には顧客・ベンダー双方に甚大な影響を及ぼす.にもかかわらず,実際のプロジェクトでは移行よりも業務開発や基盤構築が優先され,移行関連のタスクが後回しにされる傾向がある.移行を効果的に管理するためには,上流工程における「不確かさに対するリスクマネジメント」と,下流工程における「精度の高い品質マネジメント」の2つのアプローチが重要となる.このような観点から,プロジェクト外部要因による見えないリスクの早期認識と継続的監視,ならびに心理的安全性を確保した不具合管理体制の構築が,移行の成功に寄与することを実証的に示す.本稿は,移行タスクにおけるリスクと品質の両面からのマネジメント手法を体系的に整理し,今後の大規模プロジェクトにおける実践的な知見を提供するものである.
坂本 武弘
2025年度末までに全国の自治体で一斉に標準準拠システムへの移行を迎える.自治体業務の標準準拠システムへの移行対応は,これまで定期的に発生してきた改修規模が大きな法改正対応と比較しても大規模なシステム更新である.また,過去には分散していた調達時期が特性上同時期に重なるため,対応するリソースが全国的に不足することが懸念される.この課題に対応するため,最適なプロジェクト体制の全国横断的な構築に取り組んでいる.本稿では,全国のリソースをスキルセットごとに分析して,プロジェクトを特性ごとに分類した上で,横並びで全国のリソースの再配置を調整することで,限られたリソースの中で多団体同時システム稼働の実現に向けたプロジェクト体制を構築するリソースマネジメントの実践事例を示す.
豊島 直樹
私はIT企業に所属しているが、所謂ユーザー系IT企業である。金融系であり、親会社が存在し、その親会社のシステムの保守や開発を担う会社となる。世間一般での「プロジェクト」という名称は千差萬別であり、IT系の「プロジェクト」だけでもその限りではない。私が所属する会社でも日々システムの改善や運用保守があり、規模に関わらず、案件を確実に遂行し、成功基準を達成をするために「プロジェクト化」されることが多い。プロジェクトの体制はPM、PL、PMOが一般的に組成されることが多いが、当社はSierベンダではないため、ユーザ系企業ならではの体制と必要なスキルセットが存在すると感じている。その中でもPMOという組織はプロジェクトによって大きく役割が変化するものであり、ユーザー系企業ならではの役割をご紹介し、必要なスキルセットの考察を述べることとする。
森山 聡
プロジェクトで発生したトラブルの要因は,早期にリスクの予兆はあったにもかかわらず対応しなかった,あるいは無視してしまったケースが多く散見されている.今後,プロジェクトのトラブル防止には,リスクの予兆をきちんとキャッチアップをして対策を取る必要がある.本稿は,プロジェクトのリスクの予兆をなぜ見落としてしまうのかの原因を分析し,その原因の解決方法を見出すことにある.なぜリスクの予兆を見落としてしまうのか,仮説ベースで特性要因図もしくはなぜなぜ分析を用いて洗い出しを実施する必要がある.その中から,よく見落としてしまうケースや過去の事例ベースで要因をピックアップし,その対策案を紹介する.特性要因図もしくはなぜなぜ分析を用いて「コミュニケーション」「プロジェクト要件」「スケジュール」「体制・デリバリ」「ノウハウ・スキル」「ツール,プロダクト」の観点でリスクを見落としてしまう要因を洗い出す.洗い出した要因のうち,ケーススタディで対策案を提示し,課題解決案を紹介する.分析結果からリスクに気づけなかったことよりも,気づける機会があったにも関わらず,見逃した・放置してしまったことが多いことが予想される.その原因として,リスクの上澄みのみを見てしまう,または類似のリスクの対処をしたことがあると慢心が働き,プロジェクト固有の本質のリスクが見えていないことがあるのではないかと考える.リスクの予兆は,いつ・どのタイミングで挙がってくるかはわからない.また,要因もさまざまであるため,“これだけやっておけば大丈夫”という特効薬もない.それでも共通して言えるのが,“大丈夫だろう”“過去にもやっているからなんとかなるだろう”という勝手な思い込みや慢心がリスクを見落としてしまい大きな要因になっているのではないかと考える.
住谷 多香絵,中島 雄作
大規模システム開発プロジェクトにおいては,長期間にわたって大人数のIT人材を確保し続けなければならない.我々の会社及び協力会社は,親会社の大規模システム開発プロジェクトのクラウドやデータベースの構築などシステムプラットフォーム領域を専担し,高度なIT基盤技術者を多く抱える.プロジェクトにおける管理工数は,プロジェクト全体の10~20%の比率であるという文献が存在し,我々の経験もそのとおりである.我々のプロジェクトでも,問題・課題管理,進捗管理,リスク管理,品質管理,生産性向上,コスト管理,内部統制など,プロジェクトにおける管理工数を熟練の管理職が一手に担っていたが,捌ききれないことにより,配下のチームリーダも前述のタスクを負担していた.負担が増えたことにより,チームリーダにPM管理業務が集中し過ぎて,オーバーフローしていた.しかし,高度なIT基盤技術志向が強い筆者らのメンバは,PM管理業務には全く興味が湧かず,むしろ避ける傾向にあった.そこで我々は,プログラマ,SEからPMへ昇格するための意義や目標を掲げるアプローチではなく,「こうはなりたくない」,「失敗したくない」,「負けたくない」という技術志向の人の欲求からいざなうアプローチのほうが良いと考え,高度なIT基盤技術者にも自主的にPM管理業務を遂行してもらう活動をした.結果として,当該プロジェクトは成功した.そして,当該プロジェクト完了後に,IT基盤技術者が好むICBのコンピテンス要素とは何かという視点で考察した.さらに,それらICBのKCIをIT基盤技術者に普及させるためには,彼らが読みやすい文章に変える必要があると考え,一事例を考えてみた.本稿では,大規模プロジェクトにおけるプロジェクト管理業務をIT基盤技術者に遂行させる心理的アプローチの一事例について述べる.
筑紫 晃平
本論文は,地方公共団体におけるマルチクラウド運用保守品質向上のためのマネジメントモデルを提案する.国のデジタル政策によるクラウド化が進む中,運用コスト増大やシステム環境の複雑化,および従来の体制では対応困難な課題が顕在化している.特にマルチクラウド環境は多様な要因が絡み合い,運用保守作業の高度化と複雑化が課題となっている.本研究では,これらの現状と課題を分析し,トラブル未然防止と運用品質の向上を目指す対策として,実際の地方公共団体プロジェクトで「システムリソース・コスト最適化管理」および「自動音声アラート通知による早期検知」の施策を適用した.その結果,複雑化が進む環境下においても,高品質な運用保守作業の維持を実現している.今後の地方公共団体におけるICT環境の変容を見据え,IT事業者・クラウド提供者側がその実情を深く理解し,適切な支援を行うことで,地域社会の発展に貢献が求められる.
宮副 竜生
ITプロジェクトが混乱する要因の一つとして,顧客の真の要求が整理,言語化されていないことがある.特に大規模案件プロジェクトにおいては,経営層,業務部門,情報システム部門,連携システム関係者など多様なステークホルダーを特定し,その要求事項や関心事を引き出すことがプロジェクト成否に大きな影響を及ぼす.一方で,プロジェクト途中に要求事項や関心事を取り込むことは,スケジュール遅延やコスト増加を招いてしまい,プロジェクト状況を悪化させる.本論文の目的は,超上流工程におけるステークホルダーマネジメントの実践により,この問題を解決することである.そのために,発出されたRequest for Proposal(RFP)素案に対し,ベンダーコミュニケーションを通して,要求事項に対する議論のみならず,RFP素案の要求項目に属性(要求したステークホルダー,要求理由,優先度など)を付加し,他の要求事項との関連性,相反する要求の有無などの確認をおこなった.その結果,顧客内でもRFP素案の客観的な整理が進み,経営層の目的,方針が明確になり,また,それがどのように業務部門の要求事項に落とし込まれているかを,全体を俯瞰して整理することができたので,情報システム部門に対して,受託候補ベンダー企業としてより踏み込んだ提案を行うことができた.
伊藤 拡子,松原 康雄,田崎 慎吾,平田 明
プロジェクトのより高い成功率を目指した高度なプロジェクト・マネジメントの実践として,生成AIや機械学習を活用したプロジェクトマネジメント支援ツール(以下「AI支援ツール」)を大規模プロジェクトに適用した事例を報告する.本稿では,現場での実践から得られたAI支援ツールの持つ意思決定支援機能の有効性と課題について示す.AI支援ツールは,プロジェクトにおける進捗・課題・リスク・欠陥など多様な管理情報を横断的に分析し,定量評価や異常兆候を抽出することができる.その有用性を実際に現場で適用し,従来は暗黙知に頼り属人的になっていた判断や意思決定について,形式知化と透明化を目指した経験を記述する.実践経験を踏まえ,これからAI支援ツールの活用に挑むプロジェクトへ向けて,各プロジェクトでの日々の正確なデータ更新の実施や用語の統制といったデータマネジメント面の重要性について改めて提言する.また,AI支援ツールの利用者側であるPMOやプロジェクトマネージャーには,AIはあくまで意思決定材料をインプットとして提供するものとして,正しく理解できるようにAIリテラシー教育が肝要である点を示す.
栁 宥輝
進捗管理はプロジェクト成功の鍵を握る重要な業務の一つであり, IPMAの定義するICBにおいても「関係とエンゲージメント(人材)」「計画とコントロール(実践)」など, 複数のコンピテンシーに跨って横断的に記載されていることから, その重要性は明らかである.一方で,ツールやメソッドは存在するものの, 進捗管理業務から属人化を完全に排除することは難しい.そのため, プロジェクトマネージャーの経験の浅さがリスクやコストの増大に直結してしまう.そこで本研究では新任プロジェクトマネージャーを想定し, 生成AIの得意とする情報抽出, 要約, 予測分析を活用した進捗管理業務の可能性について, AI技術の実効性を実務事例と既存研究に基づきながら検証し, プロジェクト成功率上昇への可能性を探る.
林 敬済,福島 剛,朝稲 啓太
近年,IT人材の不足に関連した様々な管理手法の方法論やリーダーシップ論がある.一方でプロジェクトマネージャー(PM)や有識者層の不足により一部の人材へ負荷が集中するため,実現場は疲弊感に苛まれており,新たな手法や考えを実行する時間的余裕はなく,さらなる負担を担うという感覚から新たな取り組みに対しては拒否感が強い.そこで本研究では,2Tier CCPM(Critical Chain Project Management)を実現するために,必要な時に必要なリソースを複数プロジェクト間で効率的に活用するための組織構造の変革を段階的に実行してきた.本取り組みにより,2Tier CCPMを適用するための障壁となる知識の差を埋め,組織間の壁を切り崩してリソース効率(≒生産性)の向上を図ることができた.自部門での段階的な試行事例を通じ,リソースプール体制をどういった段階を経て構築し,2Tier CCPMを効果的に実現していくかについてその方法論を考察する.
樋熊 博之
近年,企業のITインフラ再構築の一環として,老朽化したデータセンターからの撤退と再集約・再配置プロジェクトが注目を集めており,データセンター移転プロジェクトはその中核をなす取り組みである.こうした大規模プロジェクトは多くのステークホルダーが関与し,技術的・業務的な観点のみならず地理学や気象条件までもが複雑に絡み合うことから,プロジェクト品質の維持・向上が極めて重要となる.また,サービスの可用性を保ちながら移転を行う必要があるため,的確な意思決定と実行を求められる.こうした背景のもと,プロジェクト成功の一つのカギとなるのが第三者視点のレビューである.本稿ではある大規模データセンター移転プロジェクトを対象に,社内第三者レビューの導入がプロジェクト品質向上に寄与した事例を紹介する.レビューの実施プロセス,得られた知見を分析し,他のプロジェクトへの展開可能性についても考察することで,組織的なプロジェクトマネジメント高度化の一助となることを目的とする.
角 正樹
プロジェクト管理においてリスクは極めて重要な管理対象であり,筆者がこれまでに執筆したプロジェクト管理系教材においても最頻出のキーワードである.プロジェクト開始時には,プロジェクト開始から終了に至るまでのリスクを漏れなく認識すべきであるが,実際には極めて難しい.その結果,プロジェクト遂行中に新たな重大リスクが発見されることも少なくない.プロジェクト遂行中に発見されたリスクには,(1)プロジェクト開始時の前提条件からは発見が困難なもの,(2)プロジェクト開始時の前提条件から発見可能ではあったが見過ごされたもの,が含まれる.これらのリスクが発見された時期によっては十分なリスク対応ができない場合も想定される.そこで,プロジェクトの成否に重大な影響を及ぼさないよう,できる限り(2)に該当するリスクの早期発見が必要とされる.本稿では網羅的にリスクを把握する方法として,時系列×ステークホルダ(あるいは成果物)のマトリクスを用いた手法を紹介する.この手法を若年層向けの研修として提供する際の工夫とその効果,及びプロジェクト実務への適用方法を紹介する.
尼子 敦規
育児休業(以下,育休)の取得が広く認知され,男女ともに社会的に推奨される様になった昨今,育休を取得する人が増えていくことが予想される.育休期間中は,自身のスキルを伸ばせない・成長できないと思われることが多いが,育児の経験は,プロジェクトマネジメントにも活用できるものが多々あると考える.本稿では,実際に育休を取得して,育児を行う中で自身の中でより明確に整理された・伸びたと考えるスキル・能力とその理由について,考察を行う.ただし,育休中に学び直しや研修を受講するなどのリスキリングではなく,0歳~2歳への育児を通して伸ばせた・活用できたスキル・能力を対象とする.
山田 誠
コロナ禍以降,デジタルツールの発展もあり対面でのコミュニケーションからリモートでのコミュニケーションが主流となってきている.時間や場所の制約を超えた利便性を得る一方で,これまで対面を中心に行われてきたプロジェクト管理の方法ではうまくいかない場面が発生している.リモートワーク中心での業務を行う場合にプロジェクトの各フェーズで想定される課題を抽出し,その課題に対してリモートと対面とのコミュニケーションを組み合わせて行うことにより得られた実践結果について考察する.対面中心の管理では無意識に形成されていた共通認識がリモートワークの場面では形成されにくく,ルールをわかりやすく明文化し,定着させる必要があった.「雑談」などのインフォーマルなコミュニケーションも共通認識の形成には必要であったと推察する.今後,リモートワークが前提の働き方となる中で,リモートワークの特性,対面の特性を把握し,適切に使い分けることが重要である.
柴原 優,毛塚 遼,黒濱 優至,新谷 幸弘
大学生の就職活動は一種のプロジェクトとして捉えることが可能であり、そのマネジメント手法は、①事前に定めた計画に基づき段階的に進める計画駆動型(ウォーターフォール型手法など)と、②短期間のサイクルで試行錯誤を繰り返し変化に迅速かつ柔軟に対応する変化適応型(アジャイル/スクラム型手法など)の2種類に分類される。就職活動のプロセスは一般に計画駆動型による管理が適合すると考えられやすいが、クランボルツの計画的偶発性理論に代表されるキャリア形成理論が示唆するように、不確実な状況に対して柔軟かつ即応的に適応する能力も重要である。本研究では、大学生の就職活動に対してこれら2種類のプロジェクトマネジメント手法を適用した場合の理論的妥当性を検討し、それぞれの手法が就職活動の成果に与える影響を検証する
田島 千冬
本論文では,研修におけるAIの活用が人間の思考や内発的動機づけに与える影響について検証した.人がアイディアを出す際,個人の経験や理解度に応じた範囲内での思考となるが,AIを加えることで思考の幅が拡大し,新たなアイディアが生まれる可能性がある.本論文では,デザイン思考のワークショップの中で研修を対象に,AI未使用の場合とAIを補助ツールとして活用した場合を比較し,意見のボリュームの変化,チーム内交流への影響,参加者の感じ方の変化について検証を行った.この結果を基に,研修におけるAIの効果的な活用方法について考察を行い,今後のアイディア出しのワークショップの中でのAIの活用方法について提示した.
齋藤 卓摩,初田 篤史,石村 健一,藤野 博明,巽 航平,八木沼 修,伊藤 美羽
近年,UI/UX開発においてユーザー視点を重視する動きが広がる中,当プロジェクトは顧客から短納期,コスト削減,高いUI操作性が求められていた.一方,プロジェクト体制としては若手中心のため,開発スキルや経験の不足により,これら顧客要望の実現が課題であった.この課題解決のため,短納期化には顧客との認識齟齬の早期解消、コスト削減には開発量抑制、高い操作性にはデザインの一貫性維持が有効であると仮定した.そこで当プロジェクトは,当社が標準化として整備するWebアプリケーション用デザインシステムを用いた開発手法をPoCとして導入した.本手法はCreate/Read/Update/Delete(CRUD)操作の普遍性に着目した,共通コンポーネントを整備している.これにより,経験の浅いメンバーでも短期間でのUI実装を可能とし,動作するモノを迅速に顧客へ提示・要望を吸収する「高速プロトタイピング」を実践できた.結果,開発工数削減と品質確保の両立を実現し,コスト削減の効果を認められた.本稿では,限られた期間やコストの中でも,ユーザー視点で画面開発を実現できる有効な方法として,本開発手法の成果を報告する.
田中 陸
金融システムに求められるビジネス要件は一層スピーディかつ重要性を日々増している.臨時で発生する顧客要望対応や障害対応が必要になる中,短期間かつ高品質が求められる大規模制度対応も増加している.このような環境下では,複数案件を並行して開発することが常態化しており,ソースコードのマージ漏れや機能のデグレードといったリスクが高まっている.特に,開発拠点が複数に分かれ,規模も大きい場合は構成管理の巧拙がプロジェクト全体の品質と納期に直結する.そうした複雑な開発環境における構成管理手法として,20年以上にわたり稼働し続ける外国為替の決済システムを対象に新たな取り組みを行ってきた.本システムは現金を用いずに外国間で資金を決済する為替取引を担っており,システムの安定稼働は国際的な金融・物流の円滑な遂行に直結している.本論文では,こうした並行開発を前提としつつクリティカルな大規模なシステムの開発において,構成管理フローの自動化による品質・生産性の向上,および属人化の排除を図った取り組みについて考察する.
渡邉 剛
近年,ソフトウェアのサプライチェーンはOSS の利用拡大により複雑化し,脆弱性攻撃のリスクが高まっている.本論文では,閉域環境でのソフトウェア開発におけるSBOM(ソフトウェア部品表)の導入・活用によるサプライチェーン強靭化の実現に向けた取り組みを紹介する.官公庁向けのアプリケーション開発など,機密性が高い案件については,閉域環境での作業が主体であり,外部ネットワークへの接続が困難な状況下におけるSBOM導入が課題であった.そこで,閉域環境でSBOMを活用するためのマネジメントサービスを作成し,組織的なSBOM活用への取り組みを実施した.結果として,組織へのSBOM導入の浸透と,SBOM活用効果として脆弱性リスク/ライセンスリスクが低減され,シフトレフトによる品質確保が可能となった.今後は,脆弱性マネジメントに関する領域をハードウェアと合わせて拡張し,経済安全保障に則した統合的なサプライチェーン・リスク対策を推進していく.
大鋸 康隆
製品製造から現場でのシステム構築作業を含むプロジェクトにおいては,設置場所により機器構成が異なるなど,システム構成が複雑となる場合がある.その場合,製造指示や現地でのシステム構築作業が煩雑化し,手配ミスや現地での作業ミスが発生するリスクを抑制することが課題であった.そこで製造部門や現地作業部門と連携し,手配方法や機器の納入方法を見直すことで,製品製造指示の明確化や現地作業の効率化を図った.これにより,プロジェクト全体の品質を向上させることができ,さらにロスコストの削減にも寄与できた.今回の対策を実施する中で,製造部門と構成品の整合をどのように取るかという課題が特に重要であった.これに対し,最初にすべての手配品リストを作成して製造部門と整合し、設置場所ごとに手配品リストから製造部門へ製造指示を行ったことが,この成果に大きく貢献できたと評価している.
中村 菜摘
近年,地域金融機関においても顧客ニーズの多様化やデジタル化の進展により,システム開発に対する柔軟性と迅速性が一層求められている.一方,金融機関特有の厳格な承認フローや文書主義,部門間の縦割り構造といった旧来の慣行は,迅速な意思決定や継続的改善を重視するアジャイル開発とは本質的に相容れず,その導入と定着には課題がある.こうした状況を受け本プロジェクトでは,基本設計まではウォーターフォール,詳細設計以降はアジャイルで進めることで両手法の相乗効果を図るバイモーダル戦略を掲げ,工程切替部分の体制やルールを策定し,また自社内のアジャイルのアセットを活用し開発の立ち上げに備える等の施策を実施した.実行時の課題として,お客様とベンダーが混在する体制のもとスキルやマインドの差を乗り越え協働を支える要素の”定期的なコミュニケーション””ドキュメントの整備”があった.また,要件や優先順を初期に確定したことで,アジャイルの俊敏性を損ねるハイブリッド型特有の課題も顕在化した.本稿では,当該プロジェクトの実施結果をもとに地域金融機関におけるアジャイルの有効性と定着に向けた課題と対策,および今後の可能性について考察する.
栁邉 利明,高橋 英章
本稿では,バランス型マトリックス組織におけるレガシーシステムモダナイズの計画段階において,保守業務に従事するメンバーが新規プロジェクトに参画する際の課題と,PM/PMOが果たすべき役割について検討したものである.マトリックス組織における指示系統の二重性や優先順位の曖昧さが,メンバーの参画意欲や品質確保に与える影響に着目し,実践的アプローチを提示する.特に,実務対話型レビューの導入を通じて,業務とシステムの視点を接続しながら,メンバーの主体的関与とチーム内の協働を促進する仕組みの構築を目論む.さらに,コラボレーションツールの活用による情報共有基盤の整備や,過去の知見の再活用による継続的学習の場の設計により,品質とエンゲージメントの両立につなげるべく,PM/PMOの役割を担うことの重要性と,組織横断的な知識共有に向けた実務的示唆を明らかにする.
山本 大貴,草野 宗久,中村 優子
近年システム開発現場では,人材不足と人件費の高騰に伴い,ニアショアやオフショア開発の活用が急速に進んでいる.こうしたプロジェクトでは日本語能力が十分でない要員の参加が増え,開発現場の担当者が翻訳に時間を割けず,コミュニケーション不全が納期遅延や品質低下の一因となる事例が確認されている.さらに専門的かつ複雑な技術の正確な翻訳には高度なスキルが求められ,要件不確定や設計段階でのトラブルなど,多くの不透明要素が作業を難航させる.そこで,開発担当側と海外業者間の認識のすり合わせが一層重要となる.本稿では,高度な技術知識が求められるシステム開発現場での海外人材活用に対し,生成AIの有効性を検証した.生成AIをコミュニケーションの間に挟み,メッセージ変換エンジンとして利用することで,言語や技術レベルが不十分な場合でも,理解度の向上が見られ,コミュニケーションにおける回答内容の品質向上や応答速度の改善が確認された成果について報告する.本稿では生成AIは高い文脈理解力と推論能力を備え,海外要員との円滑なコミュニケーションを支援すると考察する.
松山 博明
近年,富士通は「オファリングビジネス」へと,ビジネスモデルを大きく転換させている.従来の品質評価では,機能的な品質を中心とした評価が主流であったが,オファリング商品では,お客さまの暗黙的ニーズへの合致度に加え,ステークホルダーや社会への貢献度を多角的,客観的に評価する必要がある.解決策として,本論文では,ISO 25010の「利用時の品質モデル」を活用した評価プロセスを提案する.提案するプロセスは,汎用的かつ抽象的な表現となっている規格の内容を,オファリング商品の効果やステークホルダーへの影響を踏まえた表現に変換し,評価観点・方法・指標まで整理し体系化することで,誰でも同じ評価を行うことを可能にする.さらに,変換したモデルに基づき,商品の提供価値やステークホルダーが求める価値と品質特性を,「ラベル」を用いて紐づけることで,評価すべき品質特性を効率的に選定可能にする.これらの施策によって,評価観点などが平準化されることに加え,評価すべき品質特性を効率的に選定できることを,実際のオファリング商品の評価で効果を確認した.本プロセスは,今後,オファリングビジネスの拡大に伴い,社会課題解決型商品の評価において有効な手段となり,評価プロセスの品質向上に貢献すると考える.
多賀 正樹
システム構築プロジェクトにおいて,ハードウェア機器の故障は工程遅延や追加コストを引き起こす重大なリスク要因であることが課題であった.そこで,発注者への引き渡しフェーズまでに発生するハードウェア障害がプロジェクト全体に与える影響を分析した.特に受注側が責任を負う場合の直接的な修理や交換のコストに加え,工程遅延や構築手順の見直しに伴う追加コストを明らかにする対策を講じた.このようなリスク要因に対してハードウェア故障を完全に防止することは困難であるため,設計フェーズ段階から故障を前提としたリスク管理が不可欠である.そのため,ハードウェア故障の事前評価手法とリスクヘッジ戦略を検討し,設計フェーズ段階での使用機器や部品の共通化による予備機器の効率的な準備や,引き渡し後に余剰となる機器の有効活用を実現した.これらの対策により,受注側にとっては工程遅延の抑制やコスト管理の効率化に寄与し,発注者側にとってはプロジェクトの確実性向上という双方にとっての利益をもたらす成果が得られた.
齊藤 哲
本稿では、大学1,2年生の初学者がプロジェクトマネジメントの基礎を学ぶPBLの内容を紹介し、プロジェクトマネジメント教育のあるべき姿を考察する。演習のテーマは「鳥取を元気にするイベントをプロデュースする」であり、大学の地元を活性化するイベントを考える内容となっている。この授業は2単位計15回で、プロジェクトマネジメントの初歩的な内容を確実に理解させることに重点を置いている。具体的には、プロジェクト計画書・WBS・ガントチャート・リスク登録簿の作成、収支計算、集客のためのパンフレット作成などを行う。授業の終わりに簡単なアンケートを実施し、次の授業で質問に対する回答や演習内容の振り返りを行っている。また、簡単な課題を出して、解答に対するフィードバックを行うことによって、確実な理解の定着を目指している。このPBLは5年間行っているが、毎期行っている授業アンケートでは、学生の満足度が高いことがわかる。
山田 悠太
絶えず変化するビジネス要件に追随するために,短期リリース可能な開発プロセスであるアジャイル開発や,SaaS型ソリューション適用のプロジェクトが増えている.しかしながら,アジャイル開発については委託開発が主流の日本では適用しづらい手法であるのが現状であり,アジャイル開発を全面的に取り入れている割合は10%程度に留まっている.著者は地方銀行向けSaaS適用を,ウォーターフォールにアジャイルプロセスを組み込んだハイブリッドアジャイルの開発手法を用いて推進した.SaaSのバックエンドである基盤や制御部分についてはウォーターフォールで構築と開発を進め,フロント機能である業務画面やフローについてはアジャイル要素を組み込み開発を進めた.これにより開発速度と品質,柔軟な変更を実現した.本稿に,どういった前提の元,どのようなプロジェクト計画を立て,どのような成果が得られたのかを整理,考察している.開発メンバー全員がアジャイル未経験で初めての試みという事もあり,途中発生した問題はあったものの,それ以上にプロジェクトの目標を達成し,プロジェクトを成功に導けたという結果から,SaaS適用におけるハイブリッドアジャイル手法は有効であったと考える.
山本 和磨
スーパーコンピュータシステム(スパコン)は,現在においてもオンプレミスでの運用が多く存在するシステムである.スパコンでは多数のサーバが協調して1つの計算を行うため,1つのハードウェア不良,異なるソフトウェアバージョンや設定ミスが,全体性能へ影響する.そこで,多数のオンプレミスのサーバで構成されるスパコンを短期間で均一に構築し,その中から不良ハードウェアを排除して全体性能を保証するために,2つの手法を組み合わせたプロセスを構築した.具体的には,ディスククローニングの前後に対し,マスター化と個別化を組み入れる手法により均一なOS環境を短期間で実現した.この環境に対してベンチマークプログラムを活用したスクリーニングを並列実行する手法で,ハードウェア不具合を検出することを実現した.これらにより,約14日で目標性能を達成する360台からなるスパコンを構築した.今回の対策を実施する中で,特にスクリーニングをボトムアップで実施したことが成果に大きく貢献できたと評価している.また,ベンチマークツールの実施と結果への理解には習熟期間を要するなど,新たに見えてきた課題について引き続き改善を検討する.
小谷 征之
自治体は,2025年度末までに基幹システムを国が定めた標準仕様に基づいて統一・共通化したシステム(標準準拠システム)に移行する必要がある.ベンダーは標準準拠システムの導入と合わせてAI等の付加価値システムを自治体に提供することで,競争力の差別化を図っている.しかし,両システムは導入プロセスが異なるため,マネジメントの難易度も高い状況にある.また,AIシステムは使用するデータの整備と品質が重要であるため,プロセスを踏まえた計画策定も重要である.本稿では,筆者が対応した基幹システムと予測分析AIシステムの同時導入プロジェクトについて,ウォーターフォール型開発・アジャイル開発のプロセス差異や,予測分析AIシステムのイテレーションの開始タイミング等,計画策定から遂行時のポイントについて記述する.
岡田 賢人
システム基盤の構築プロジェクトにおいて,構築完了後に運用・保守プロジェクトへシステム管理を移管するケースは一般的である.しかし,システム運用の開始後に,構築時の問題に起因するさまざまな障害やトラブルが発生することがある.これらの障害の原因は,設計時の考慮不足,設定ミス,テストの不十分さ,移管時の引き継ぎ漏れなど多岐にわたる.障害の内容によっては,運用・保守担当者による障害解析や原因特定,復旧に多くの時間を要し,顧客に影響を及ぼす重大な障害へと発展する可能性がある.障害の少ないシステムを構築し,万一障害が発生した場合でもその影響を最小限に抑えるためには,構築の初期段階から運用・保守担当者が構築プロジェクトに関与し,情報連携を密に行うことが重要である.本稿では,システム構築時における構築チームと運用・保守チームの協業のあり方に着目し,安定的かつ高品質なシステムの構築・運用を実現するために考慮すべき要点について考察する.
渡邊 丈士,中村 偉
近年は,基幹系システム刷新などの大規模プロジェクトに代わり,DX推進などの小規模プロジェクトの比重が高まっており,その不調防止が課題となっている.小規模プロジェクトの不調防止には,まずプロジェクトマネージャ自身が悪化の予兆に気づく必要がある.そして,悪化予兆が適切にエスカレーションされ,組織の上位マネージャや企業のProject Management Office (PMO) が数多いプロジェクトの中から深刻度を識別し,対策の優先順を判断できる指標を持つことが重要となる.本稿は,この2つを効果的に実現するために,Earned Value Management (EVM) を活用する取り組みを論じる.EVMは大規模プロジェクトに適した手法と考えられるが,標準ツール化,指標の絞り込み,分析の単純化の3つを考慮することで,小規模プロジェクトにも負担なく導入でき,プロジェクトの不調防止の決め手になるものと考える.
石原 達生
システムインテグレーション(SI)において,要件定義や基本設計といった上流フェーズのドキュメントのレビュー/トレーサビリティチェックでは,有識者をアサインし多大なる工数をかけるケースが多々存在する.また,近年生成AI,大規模言語モデル(LLM)をSI業務で活用する事例もどんどん増加してきており,SI現場での実用性・有効性の検証が重要となっている.本稿では,LLMを用いて要件定義書・基本設計書の網羅度のチェックを行い,そのLLMでのチェック結果を人手で評価することにより有効性・SI適用可能性を検証・評価することを目的とする.結論としてはSIへの適用可能性が得られたため,その内容について記載する.
阪本 浩基
各省庁において情報システムのクラウド化が進展する中,本稿では大規模システムの更改プロジェクトにおける品質保証策の実践と効果について報告する.対象システムの特性を踏まえ,「非互換対応」,「並走案件資産の取込」,「外部連携システムとの調整」という3つの主要課題に対し,それぞれ机上調査と実機検証,統合的な資産取込計画,調整に係る段取りの整理といった対応策を講じた.その結果,非互換の明確化,資産取込漏れの防止,外部調整の効率化が実現できた.本稿は,同様の大規模システムの更改プロジェクトへの示唆を与えるものである.
金 祉潤
ITプロジェクトにおけるシステム障害は,業務停止や顧客ビジネスへの影響など,甚大な被害をもたらす可能性が高い.そのため,障害の根本原因を正確に分析し,有効な再発防止策を講じることが極めて重要である.近年のITシステムの複雑化により,障害の原因は技術的・人的・組織的・外部的といった多角的な要因が絡んでいる.本研究では,「開発プロセスに着目した原因分析手法」を基盤としつつ,障害原因の分類体系を整備し,より統合的な分析手法を提案する.統合的アプローチにより,システム障害の複合的な原因を明らかにし,実効性の高い再発防止策の立案が可能である.本研究の適用により,障害原因の網羅的な分析と再発防止策の精度向上が確認された.本研究では,ITプロジェクトにおける障害分析の精度向上とともに,組織的な品質管理・リスクマネジメントの高度化に貢献することを目的とする.
福田 真子
本研究では,若手メンバーの主体性を引き出すプロジェクトマネジメントの構成要因について考察する.近年,若手人材がプロジェクトの中核を担う場面が増加している.筆者は,PM・PL以外を若手メンバーで構成したプロジェクトにおいてリーダーを務めた経験や,現在参画している30名を超える若手主体の大規模プロジェクトの実務を通じて,いくつかの有効な要因を抽出した.具体的には,役割の明確化,レビュー体制の整備,相談しやすい関係性の構築といったマネジメント上の工夫が,若手の主体性を促進する上で有効に機能している.また,特に若手同士が互いに補完し合いながら協働するプロセスが,チーム全体の機能性と個々の自律性を高めるうえで,重要な構成要因となることが示唆された.
鈴木 賢一,飯田 哲夫
プロジェクトポートフォリオの管理は、考慮すべき要素と範囲が拡大することから個別のプロジェクトの管理よりシステマチックな方法が要求される。本研究では、プロジェクトポートフォリオマネジメント(PPM)においては、リソース配分、スケジューリング、及びリスク管理という3つ側面が相互に影響を及ぼし合っていることを指摘したうえで、これら3つの側面の連関性を明示的にとりこんだプロジェクトポートフォリオ分析モデルを提案する。本モデルによってPPMのリスク管理上の重要な課題であるプロジェクト間のリスクの伝播を、リソースとスケジュールの2つの要素がかかわるダイナミクスを通じて表現することができる。これより、プロジェクトの追加の効果および最適なタイミング、リスクの抑制に必要なリソース量を評価可能を定量的に評価することが可能になる。
足立 順,郷 裕一,大西 隆興
近年, デジタル化の加速とともに, 企業組織には迅速な意思決定と柔軟な対応力が求められている.しかしながら, 大規模なプロジェクト環境においては, ガバナンスを強化しようとするほど, 現場の自律性やアジリティが損なわれるというジレンマが存在する.本稿では, 20以上のサブチームを抱える複雑な大規模プロジェクトにおいて, 期間限定・目的特化型の「ガバナンス支援チーム」を導入し, トラブルの再発防止と品質の平準化を支援する取り組みを実施した事例を紹介する.大規模トラブル発生後, 課題の構造化, 数十の短期/中長期対策の立案を行い, 対策結果のモニタリングを中心とした改善サイクルを通じて, 商用作業におけるトラブル発生率の60%減少など, 定量的な成果が得られた.加えて, 属人性の排除や教育プロセスの継続, プロジェクトメンバーの遵法意識向上といった組織文化面でもポジティブな変化が確認された.本稿では, この実践事例を通じて, 中央集権的な統制に頼らずに品質と自律性を両立させるためのガバナンス手法を提案する.
上條 英樹
2001年にアジャイルマニフェストが宣言されてから,アジャイルは,徐々に浸透しており,適用範囲もソフトウェアの開発から様々な分野に適用が進んでいる.その適用例として,組織マネジメントへのアジャイルの適用が挙げられる.本論文では,ビジネスアジリティの向上を目的とした組織マネジメントへアジャイルを適用した事例について論ずる.一般に,適用されているアジャイルやスケールドアジャイルフレームワークでは,ソフトウェア開発向けのイベントやプロセスが定義されている.そのイベントやプロセスをそのまま適用しただけでは,組織マネジメントへの適用効果が限定的で十分な効果が得られない.その組織マネジメントへのアジャイル適用時の課題と,解決策として実践した,アジャイ組織マネジメントにマッチした組織体制,組織文化の作り方等について組織マネジメントへのアジャイル適用指針として整備した.
利根川 一郎
コスト削減や業務効率向上を目的としたサーバ、ネットワーク、ストレージ等の分散系システム共通で利用する基盤の統合化が進むにつれ、統合基盤の更改プロジェクトも大規模化かつ複雑化している。当論文では、統合基盤を構成する大規模ストレージ移行のプロジェクト計画について論述する。多数の業務システムが共通で利用するストレージには、移行計画の立案にあたって、本番・災対環境のサーバ数の方がテスト環境のサーバ数より多いこと、各業務システムの停止可能日時が土日祝日の限定的な時間帯に集中していること、業務システムの中にはサーバ数が数百を超えるような大規模システムや大容量データ(数テラバイト超)を保有するシステムなど特別な注意を払うべきシステムが存在する、といった考慮事項が存在する。こういった考慮事項について、タイムチャート・シミュレーションにより算出した本番移行所要日数をベースとするボトムアップ工数見積もり、業務的な優先順位および要員計画の平準化を考慮しながらマスタースケジュールを作成する計画立案を提案する。筆者が担当する大規模ストレージ移行プロジェクトでは、上記のように立案したプロジェクト計画に基づき、業務システム単位でストレージ移行を一つ一つ進めている。
徳田 優輝
近年,デジタル化の進展と利用者ニーズの多様化により,システム改修の頻度と短納期化が加速している.改修プロジェクトの割合が新規開発を上回る現状では,同一システムに対し複数の改修サブプロジェクトを並行して運営するケースが散見される.これらのサブプロジェクトは密接に連携し,共通資産への依存度が高いため,統合的なマネジメントが不可欠である.通常開発と同様のプロセスを適用すると,要件不整合やクリティカルパスの誤認によるスケジュール遅延,リソース不足等の問題が発生し,品質(Quality),コスト(Cost),納期(Delivery)(以下,QCD)への影響が大きくなる.本稿では,「サブプロジェクト合同体制での要件定義推進」,「サブプロジェクトを跨いだスケジュール立案」,「他サブプロジェクトを考慮した設計~開発~テストの実施」の3つの施策を提案する.実際に適用した結果,適切な要員リソース配置や効率化を実現し,プロジェクトのQCD改善に貢献できた.今後,改修プロジェクトが増加する中で,統合プロジェクトマネジメント手法最適化が重要である.
邦永 秀一
近年,多くの企業は成長の鈍化と競争激化に直面し,持続的成長のためには生産性向上と新たなビジネス領域への挑戦が不可欠となっている.本稿が対象とする組織も例外ではなく,長年の事業展開により売上が伸び悩み,事業再編を推進している.この現状を打破するため,「ビジネス領域拡大」「人材育成」「コミュニケーション強化」「組織風土変革」を重点施策と位置づけ,特に自律的・主体的な人材育成とコミュニケーション強化,そしてトップダウン型からサーバントリーダーシップ型組織への変革を目指している.また,目覚ましい発展を遂げるAI技術の活用は業務効率化と新ビジネス創出に大きく貢献する可能性を秘めるが,その効果を最大化するには技術導入だけでなく,組織全体の意識改革と柔軟な組織風土の醸成が不可欠である.本稿は,このような背景のもと,最新技術との連携による生産性向上と意識改革,生成AI活用による新技術への挑戦を目的として結成されたタスクフォースの実例に焦点を当てる.タスクフォース活動における潜在的なリスクや顕在化する課題を詳細に分析し,それらを克服するためのプログラムマネジメント導入と具体的な施策について論じる.
大野 晃太郎,劉 功義,石井 信明,横山真 一郎
プロジェクトの成功において,コミュニケーションが重要であるという認識は共有されている.しかし,プロジェクトの進捗状況に応じたコミュニケーション評価は難しく,プロジェクトの進捗における評価項目の中に含まれないことが多い.本研究では,「トーン」や「雰囲気」などをコミュニケーションの健全性を示す品質指標として捉え,プロジェクトの進捗度とコミュニケーションの品質指標を組み合わせることで,潜在的な問題やリスクを早期に特定する評価フレームワークを提案する.また,コミュニケーションの品質指標からリスクを早期に特定することによって,コミュニケーション計画やリスク計画の改善や見直しが可能になることが期待できる.
西上 大貴
ソフトウェア開発の成否は、技術だけでなく「人」の要因に大きく左右される。しかし、開発者の行動や心理といった人間的側面への理解は、多くの現場で課題となっているのが現状である。このような問題意識に対し、2015年にLenbergらによって提唱された新興分野「行動ソフトウェア工学(BSE)」は、人々の行動や心理を手がかりに実践の改善を目指すアプローチとして注目されている。本研究では、このBSE分野における近年の学術研究をレビューし、その議論を再整理することで、理論的に未成熟な領域と実務における未解決の課題の可視化を行なった。この分析を通じて、計画立案やチームビルディングといったプロジェクトマネージャに必須の「人間理解」を補完するBSEの知見を体系化し、研究と実務の橋渡しに向けた一助としたい。
増田 清貴
近年,多くの企業でデジタルトランスフォーメーション(DX)が推進されており,その実現に重要な役割を果たすことからクラウドの導入が進められている.クラウドでは多くサービスを提供しており,クラウドサービスの組み合わせ次第では開発対象システムにおける機能実現が容易である.一方でクラウドサービスの仕様書は難解なものが多く,机上検証では実現できると考えていた機能が,開発を進めると実現ができないと後戻りリスクがある.アジャイル開発を適用することで,顧客・ユーザ要望のフィードバックを反映やすいという面だけでなく,このようなクラウドサービス仕様起因での後戻りリスクを軽減できる効果が得られた.本稿では,実例をもとにクラウド活用案件において,アジャイル開発のそれぞれを適用した際の課題と対策,またその結果から得た教訓についての考察を述べる.
大塚 将太,関田 航,杉本 和輝
近年,クラウドサービスの普及とDX推進に伴い,企業は迅速かつ効率的なシステム導入が求められる.ERP導入においては「Fit to Standard」が重要視され,複数システムの組み合わせによる導入形態が増加している.これにより導入時のステークホルダーが増え,プロジェクト管理の複雑性が一層高まっていく.特に中堅・中小企業においては,顧客側の管理・推進体制が十分に整備されていないケースも多く,ベンダー主導によるシステム導入を求められる傾向がある.本稿では,「ステークホルダーマネジメント」「システムの整合性」「顧客体制不安におけるベンダー支援」の3つの観点で取り組みを行い,納期遅延なく安定稼働を実現した実践事例を報告する.これは中堅・中小企業におけるERP導入において,ベンダー主導型の情報管理と顧客連携がプロジェクト成功の鍵であることを示し,プロジェクトマネジメント手法としての有効性を提案する.
田崎 慎吾,松原 康雄,伊藤 拡子,菅野 宏和
ミッションクリティカルな基幹業務システムの更改にあたり将来的なシステム運用コスト及びハードウェア資源の有効活用,ハードウェア保守期限切れリスクの排除を目的として,クラウド型データベース製品の導入を実施した.本稿では,導入初期の段階でProof of Concept(PoC)を設け,過去導入したクラウド・プロジェクトからの知見を取り込んだ品質管理プロセス方針を策定し,それを実践した事例を報告する.先行事例が少ない状況下での綿密なPoC実施,海外開発チームとの効果的なコミュニケーション,クラウド環境特有の課題への対応など,リスク低減に向けてどのような効果があったのかを明らかにすることで,プロジェクトライフサイクル全体を通じた品質マネジメントの工夫とその成果について示す.
春原 秋津
ビジネス環境の変化が加速度を上げていく中,多くの企業は変革を迫られている.組織構造の改革からビジネスモデルのシフトに至るまで,様々な取り組みが実行されている.特に労働市場が縮小していく日本では,グローバル人材との共業とビジネスの発展は密接にかかわっている.真のグローバル企業として社会貢献し続けるためには,変化を敏感に察知し行動できる組織の機動力と付加価値の創出が求められている.そのような組織では,従業員一人ひとりが会社のミッションと個人の業務の価値の結びつきを理解し,変化に応じて自律的に目標達成に向かって能力を発揮することが必要だ.本論文では,グローバルデリバリーチームにおいて,個人がビジネス環境の変化を捉え自律的に能力を発揮するうえで必要な前提条件に着目し,阻害要因を排除することでメンバーの自律的行動が向上するか検証を行った.検証の結果,サーバントリーダーシップのアプローチを用いることで,メンバーの自律的行動の増加が見られた.これらの結果は多様なグローバル人材の自律性向上に有効であることを示唆する.
久永 健斗
COVID-19の影響により,対面でのシステム開発が制限され,オンラインを前提としたクロスロケーション開発環境が急速に広がった.この環境は,地理的制約を受けずに作業できる点や,柔軟な働き方が可能になるといった利便性から,コロナ禍が収束した現在でも多くの現場で活用されている.一方で,会話するタイミングが限定的になりがちで,意思疎通の遅れがタスクの停滞を招く場面も多い.加えて,非言語的な情報が伝わりにくく,認識のズレや誤解が生じやすいことも課題となっている.また,雑談や偶発的な対話の機会が減ったことで,チームビルディングの難易度も上がっている.本稿では,こうした分散開発におけるコミュニケーション課題に対する具体的な対策とその効果を明らかにする.
戸倉 智明
モダナイゼーション開発ではテスト工程に進んでから新たに品質問題が顕在化することが多々ある.具体的には,移行前に実装していた仕様が移行後に実装できていなかった・システム間結合テストにて他システムの仕様を誤認していた・移行後のOS/ミドルウェア/パッケージソフトウェアの仕様を理解できていなかった,といった要因が挙げられる.このような品質問題を未然に防止するため,上流工程における品質作り込みが重要である.上流工程では,移行前における実装の可視化・複数の開発グループ間におけるコミュニケーションの強化・移行前/移行後におけるOS/ミドルウェア/パッケージソフトウェア有識者の割当てに取り組むことにより,後工程における品質問題の顕在化を軽減できる.
野々山 二郎
近年, 生成AIを用いて業務効率化を図ろうとする動きは各企業で活発になってきており, 個人及び法人のワークレベルでも生成AIを使うことは当たり前の時代になりつつある.一方で, システム開発プロジェクトにてコード生成のためにAIを活用することは Proof of Concept(PoC)のレベルで複数事例が世に出てきたものの, 画一的な正攻法が定義されている状態ではなく未だ発展途上の段階にある.この論文では, 大規模システム開発プロジェクトの設計・開発に生成AI適用を検討, 及び検証した事例を元にメリット・デメリットやその効果を分析することで, 今後のシステム開発におけるAI for Code適用検討の一助になる情報を共有する.
井出 彩香,深沢 祐也
短納期でのシステム導入プロジェクトでは高回転な拠点展開が求められるが,ユーザーの習熟度が不可欠となる.このようなプロジェクトでは利用者数が多いほどベンダーによる教育が困難になり,教育不足による後戻りが懸念される.この課題に対して習熟度チェックによる可視化を提案し,教育に対する動機付け向上を目指した詳細な取り組みを本論で述べる.具体的にはシステムの基本操作に関するテストを実施し,回答結果をツールで集計して本部スタッフに共有した.結果としてスタッフ自身が習熟度を客観的に把握し,主体的に課題解決に取り組むためのスキームが構築された.また,システム稼働時まで現地スタッフの習熟度は高く維持され,教育不足に起因する手戻りの防止に貢献した.結論として習熟度チェックによる可視化は高回転な拠点展開プロジェクトにおけるユーザーエンパワーメントを促進し,システム導入の成功に寄与することを示している.
岡野 智弥
コロナ禍以降,ワークスタイルの多様化が進んでいる昨今においては,個人の在宅勤務や,遠隔地の人員を活用等,様々な形態でのプロジェクト・チーム組成が求められている.そのようなプロジェクトの多様化が進む中で,プロジェクトマネージャーやプロジェクトメンバーに求められる役割も変化してきている.特にプロジェクトを進めていく上で必要なコミュニケーションにおいては,リモート開発の展開と合わせて様々な課題に直面することが多く,またその課題も複雑である.そこで本書では,リモート開発における課題を分析し,その原因の一つに,メンバーが抱く感情があると考察し,感情マネジメントを踏まえたプロジェクトマネジメントの重要性について,実際のリモート開発を採用したプロジェクトの事例(具体的な対応策等)を通して展開する.
古畑 愛実
近年,業務をシステムに合わせる形でのパッケージ導入が増加する中,準委任作業において顧客作業が計画通りに進まず,稼働が延伸するケースが散見される.プロジェクト成功の鍵は,顧客作業の的確なコントロールにあるが,現実にはICTリテラシーの不足や作業精度の低さ,進捗の不透明さ,現業の多忙などが障壁となることが多くある.プロジェクトを円滑に進めるためには,顧客が必要な情報を正確に把握・判断し,自ら意思決定するよう働きかけることが重要である.ステークホルダーをどのように巻き込み,マネジメントしていく必要があるか,自身の経験を踏まえて考察する.
園田 徹
日本では,多様な開発手法が存在する中で,ウォーターフォール型開発が依然として広く採用されている.この手法は,工程を順序立てて一方向に進め,繰り返しを行わない計画重視の予測型アプローチである.工程を繰り返さない開発スタイルにおいて,適切なマネジメントプロセスを適切なタイミングで実施することは,プロジェクト成功の鍵となる.しかし,短期間で完了するプロジェクトでは,リソースやスケジュールの制約から,マネジメントプロセスが簡略化または省略され,品質,コスト,納期に悪影響を及ぼす場合がある.本稿では,短期間プロジェクトでウォーターフォール型開発を行う場合に注目して,マネジメントプロセスを効果的かつ効率的に運用する方法を提案する.
鳥谷 友美,加藤 孝史,近藤 康彦
本研究は,プロジェクト進行におけるリスクの予兆を検知し,リスクの顕在化を防止することを目的とする.従来の手法ではAI精度が不十分で,有識者に依存している状況であった.そこで,社内に保有するデータ前処理技術を用いてデータの自動前処理を行い,AIモデルの精度向上に取り組む.学習データ準備と特徴量選択を適切に行い,モデルの学習と評価を通じて業務効率化を実現した.評価結果では,AIモデルの精度向上とプロジェクト絞り込みプロセスの効率化が確認され,有識者の経験と知識に依存している状況が改善された.今後はさらに社内のデータを活用してAIモデルの拡張を行い,プロジェクト管理の自律化を目指す.
清水 正一
プロジェクト管理においては,QCD(品質・コスト・納期)のバランスを評価し,最適化することが重要である.クロスチェックは品質向上を目的として広く採用されているが,その導入に伴うコストや工数が十分に検討されないままのケースも存在する.本稿では,この課題を解決するために,クロスチェック工程のコスト構造を数理モデルとして定式化することとした.このモデルは,成功確率評価にベイズ理論を統合することで,複雑な依存関係を含むケースにも適用可能なものとなっている.また,品質向上効果とコストのトレードオフを評価する統合的な指標を併せて提案し,プロジェクトにおける意思決定の精度向上を図っている.この指標は,例えばクロスチェック前後の余分な工程の圧縮や手順の自動化,外生パラメータが費用対効果にどの程度影響するかを可視化する際に有用であり,本稿でも実際にシミュレーションによる数値検証でその効果を確認した.本稿のモデルや指標は,クロスチェック導入の費用対効果を定量的に評価し,QCDを考慮した最適化の基盤を提供するものである.
上原 真悟
近年、IT技術の急速な進展に伴い、企業には先進技術を迅速かつ持続的に市場へ投入し、競争力を高めることが求められている。しかし、研究開発・製品化・事業化の各段階は時間を要し、従来の直列的な進行では市場機会を逃すリスクがある。本論文では、企業間データ連携サービス「X-Curia」の開発を題材に、研究開発部門と営業部門が同時並行で連携する「並行プロセス」の有効性を実証的に示し、加速的な市場投入を実現するためのマネジメントのあり方とその課題への対応策を提案する。
川口 克彦
情報システムの運用保守プロジェクトにおける,第一のミッションは継続的な安定稼働である.また並行して顧客企業のビジネス変化に対応した,きめ細やかな改善提案も求められている.その中で,システムの仕様や背景となるユーザー業務等のスキルやノウハウ,ユーザー部門とのリレーションが特定の個人に集中する,いわゆる属人化が起きているプロジェクトも少なくない.一般的に,スキルやノウハウの属人化はネガティブにとらえられがちである.本稿では,一度俯瞰し,運用保守プロジェクトにおける属人化のメリット/デメリットを整理する.さらに,属人化の事象そのものだけでなく,システム思考の手法を用いて,要因となる構造に着目し考察する.
小形 絵里子,中島 雄作
我々の会社は,システムプラットフォームを主な事業領域とするSIerであるが,一部,建設工事部門も存在する.当部門は,データセンタのファシリティの設計・建設工事・保守運用・コンサルティングを事業領域としている.当部門創設時から,工事実施前の実施要領を整備し,所定の内部レビューと会議体で承認が得られないと工事着手してはならないルールを厳格に運用していた.数年前,ヒヤリハットの事例が複数見られた際には,前記に加え,時系列化思考フレームワーク,ヒューマンエラー分析フレームワーク,SAFETYフレームワークを適用し,作業ミスが発生しないよう作業品質改善活動を展開した.そして,ヒューマンエラーによるヒヤリハットの削減を目指し,ヒューマンエラー12分類を元にリスクを洗い出し,フールプルーフという考え方を取り入れて,ヒューマンエラーの対策に有効な11のフレームワークに基づいた対策立案を実施した.2023年度からは,これまでの建設工事におけるヒューマンエラー防止活動で用いてきた表形式から戦略的エラー防止マンダラートを用いた手法に改良した.さらに,ヒューマンエラー発生のメカニズムに着目し,ヒューマンファクタ改善マンダラートを用いた改善活動に取り組み,一定の成果をあげた.ヒューマンファクタとは「人間の行動特性」や「人的要因とシステムにおける人間側の要因」のことをいう.ヒューマンエラーは,「人間の本来持っている特性」と「環境要因」に不一致があった際に誘発されるものであると考えられることがわかった.エラー防止のためには,「誰もが当事者になりうる」という当事者意識をしっかり持つことと,人間が本来持っている特性を理解した改善策・対策を検討することが大切であることがわかった.本稿では,建設工事におけるヒューマンエラー防止活動の一事例について述べる.
小境 彩子
筆者は長くセキュリティ業界におり,NIST(米国国立技術研究所)のサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)を活用し,実業務においてセキュリティ成熟度の評価を行ってきた.成熟度評価モデルを活用することにより,組織のセキュリティレベルを可視化・分析し,組織の改善機会を抽出することができた.一方で,組織として成熟することは当然ながら,個人が成熟していないと十分にセキュアな環境を提供することは困難であることに気付いた.というのも,CSFをはじめとした既存の組織成熟度評価モデルでは「組織として個人をどう管理・教育するか」の観点が多く用いられるが,プロジェクトマネジメント領域では個人に依存する部分の比率が多く,「組織としてのプロジェクトマネジメント能力の成熟度」を考える上では組織成熟度と個人としてのマネジメント能力の両側面から考える必要がある,という点に着目したためである.組織の成熟度については先のCSFをはじめ,様々な観点で実行される場面が多いと考え,まずは個人の能力向上にターゲットを絞り,個人の成熟≒十分なマネジメント能力を有していることと整理し,この成熟度を評価し,改善(能力向上)をはかることを目指した.以上より,本書では個人のプロジェクトマネジメント能力の成熟度を評価するための手法として,個人のコンピテンシーに焦点を当てたIPMA ICBが最適であるという仮説のもと,CMMIなどの一般的な運用成熟度モデルを比較して検討し,個人の能力開発を体系的に評価・向上させるアプローチを考察した.
瀬川 亮
近年,企業の競争力強化に向けて,基幹システムの刷新とデータ活用を推進するBusiness Intelligence(BI)システム開発が喫緊の経営課題となっている.基幹システムと密接に連携するBIシステムにおいては,上流に位置する基幹システムの設計や進捗の影響を強く受けることから,両者を同時に進める並行開発においては,より高度かつ柔軟なマネジメントが求められる.本研究では,BIシステム開発のプロジェクトマネージャーとして,基幹システム設計の不確実性,スケジュール変更,チーム間連携不足という3つの主要課題に対して,プロジェクトマネジメント手法を適用し,課題解決に取り組んだ.具体的には,設計工程を初期設計フェーズと確定仕様反映フェーズの二段階に分割し,仮仕様に基づく早期着手と,確定仕様に基づく変更対応を計画的に実行した.また,基幹システムのスケジュール変更に柔軟に対応するため,進捗状況の定期モニタリングと影響分析,BIシステム側の先行作業実施,リソース再配置を実施し,安定したプロジェクト運営を実現した.結果として,基幹システムの不確実性を前提とした早期設計と並行開発を実現し,BIシステム側のスケジュールへの影響を抑えつつ,高稼働を維持し効率的なリソース活用を図ることができた.本研究は,基幹システム刷新とBIシステム側を同時に推進するプロジェクトにおいて,実践的なプロジェクトマネジメント手法を提示するものである.
筬 恒介,野澤 啓介,伊藤 祐介
システムのコスト削減策として,パッケージを用いた導入が考えられる.病院情報システムの分野においても同様の観点から,パッケージでのシステム導入が求められている.その中心となる電子カルテシステムは,パッケージをベースにしながらも多くのカスタマイズが行われ,施設毎の個別性が出ていることが課題となっている.昨今はデータ利活用の観点からも標準化の検討が進んでおり,個別性を排除するためにノンカスタマイズを前提とした標準パッケージでのシステム導入が求められている.今回,病院情報システム更新での電子カルテシステムの標準パッケージ導入を進める中で,特にプロジェクト遂行において,これまでのカスタマイズ前提からノンカスタマイズ前提への方針転換が課題であった.この課題に対して,プロジェクトの提案,立ち上げからシステム構築期間を通じて標準パッケージのメリットを発信し,ノンカスタマイズという方針の一貫性を保って導入作業を進めることを実現した.今回の対策を実施する中で,特にコミュニケーションマネジメントに注力したことが成果に大きく貢献できたと評価している.
古澤 秋人
近年,社会全体の人手不足や働き方改革によるSEの労働時間減少により, ITリソースが不足している.本稿はITリソース不足解決に向け,NW領域にてSEの生産性向上と高収益化の両立のため SIプロセスそのものを変革するアプローチを行う.本稿では,「モデル化SI」の取組みを行った.「モデル化SI」とは,組織に集積されたSIの好事例を小単位でアセット化し,それらを再構成したSIを案件で提供する取組みである.SEの稼働率向上と,メンバの経験に依存しない高品質SI提供の同時実現を狙いとしている.「モデル化SI」の第一歩として,FY2024に実施した特定業種の対象案件において,SI工程毎にドキュメントやプロセスを形式知化し,アセットとして整備した.本取組みで作成したアセットを同業種の案件に適用予定である.該当案件はアセットの活用により工数削減ができ,類似の従来案件に比べ高利益で受託予定である.また,SI経験の浅いメンバを主担当にアサインし,アセットの活用でSI品質が担保されることを確認する.収益については,提案時の品質リスクの減少見込による工数低減が改善に貢献したと考えられる.また,アセットの活用によりSI経験に依存しないメンバをアサインできるようになり,SE単価の改善や人材のスキル不足によるITリソース不足の解消において効果が期待される.
加賀 宏史
IT業界では,システム障害の多発とIT技術者不足が深刻化している.これにより,担当者の経験や知識に依存する従来の品質管理手法は限界に達しており,客観的かつ網羅的な品質保証の実現が喫緊の課題となっている.本研究は,この課題解決のため,対話型生成AIを活用した新たな品質管理アプローチを提案する.具体的には,AIによる「障害予測」「品質計画レビュー」「品質分析レビュー」という3つの施策を定義する.さらに,これらの施策をPDCAサイクル上で連動させ,継続的な品質改善を実現する運用モデルを提示した.実証実験により,提案手法が品質分析において一定の有効性を持つことを確認した一方で,AIの判断には限界があり,人間の専門家による最終判断が不可欠であることも明らかになった.本研究はAIと人間が協調して品質管理を行うことの重要性を強調するものである.
矢嶋 遼
近年,社会インフラを支えるOperational Technologyシステムは高度化・複雑化の一途を辿っており,その維持・改修には専門的な知識と経験が不可欠である.しかしながら,公共系の領域では顧客担当者が数年単位で交代するため,システムに関する知識やノウハウが顧客側に蓄積されにくいという課題が存在する.このような課題に対し,メーカー側が主体的に取り組んでいるプロジェクトマネジメント施策を適用した.具体的には,ドキュメントの標準化,継続的な教育プログラムの提供,長期的な関係性構築のための顧客コミュニケーション戦略,の3点を施策として実施した.この施策を実施したことで,プロジェクトの品質向上と顧客満足度の向上の有効性が検証できた.今回の対策を実施する中で,特に苦労したのがメーカー内に蓄積されたナレッジの共有という課題の対応であった.これに対し、顧客との連携を重視し継続的な教育プログラムを実行したことが,この成果に大きく貢献できたと評価している.
飯村 洋
多くのITプロジェクトは一時的な組織として体制を構築するが,実際に所属する組織にて構築するケースが多い.一方ではプロジェクトは大規模化・複雑化しており,取り巻く環境の変化は早く,またプロジェクト期間は短くなる傾向があり,プロジェクトを成功に導くためにはより難易度が高くなりつつある.そのような中でプロジェクトを成功に導くためには,プロジェクトマネージャーの役割・責務は大きく,プロジェクトマネージャーの持つマネジメントの知識と実績が,プロジェクトが成功するかどうかに影響をもたらすことと考えられる.将来に向けて次世代プロジェクトマネージャーを育成するには,所属組織おいてプロジェクトを成功に導くことができるプロジェクトマネージャーのノウハウを,いかに次の世代へ引き継ぐかが課題である.それに加えて実績を積ませる学びの機会を実際のプロジェクトとし,次世代プロジェクトマネージャーを育成していくことが重要になる.本稿では,6か月間実際のプロジェクト推進の中で実施した次世代プロジェクトマネージャーの育成を通して得られた知見と課題より,今後の次世代プロジェクトマネージャーの育成活動方針について示す.
江上 侑希,高橋 正弘,西ノ宮 弘一
近年,ソフトウェア開発においてアジャイル開発は当たり前に活用される開発手法の一つであり,当社においてもアジャイル開発を採用するケースがでてきている.アジャイル開発においても品質を保証する必要があるが,従来の品質保証の仕組みはウォータフォール開発を前提としており,進め方や考え方が異なるアジャイル開発にそのまま適用しても上手くいかなかった.そのため,アジャイル開発に即したプロセスへの改善とアジャイル開発を理解した上で実践できる人材育成が必要であった.当社では,アジャイル開発への対応力を強化するために,SE部門が主体となりワーキング活動に取り組んでいたこともあり,このワーキング活動と連携しながらプロセス改善と人材育成を推進した.ワーキング活動と連携したことにより,アジャイル開発の知識と経験を有するメンバーの意見を取り入れることができ,より現場目線での実践的な内容にすることができた.本論文では,その取り組み内容について紹介する.
河合 則夫
SaaS製品の導入・運用において,技術的な課題やエラーの発生は避けられず,それらの解決には多くの時間と労力が費やされることがある.本研究では,技術情報や公式リファレンス,ユーザーコミュニティなどの情報源を活用しながら,効率的かつ的確に疑問点を解消するためのベストプラクティスを探求した.特に,情報の陳腐化や検索精度の低さが原因で,意図する解決策に辿り着けないケースが多いことに着目し,短時間で最適な情報にアクセスするための手法を整理・検証した.その結果,情報の信頼性評価,検索クエリの最適化,複数ソースの横断的活用などが有効であることが示された.本稿では,これらの知見をもとに,SaaS製品利用者が直面する課題を迅速に解決するための実践的なアプローチを提案する.
宮前 光揮
プロジェクトの進捗管理において,予定と実績とのスケジュール差異が管理限界値に達した際,ベースラインを再設定されることがある.この手法は実行可能性の高いスケジュール管理を実現する一方で,プロジェクトの本質的な課題を潜在化させ,最終的な納期遅延やコスト増加などのリスクを内包させてしまう.本研究では,ベースラインの再設定後もこれらの内包するリスクの顕在化を軽減する進捗管理を実現する手法を提案した.具体的には,「バッファの戦略的配分」,「旧ベースラインと実績を用いた比較分析」,「作業進捗率と成果物完了件数を併用した定量的な進捗管理」を考案し,実際のプロジェクトに適用することでその有効性を検証した.その結果,進捗報告の正確性が向上し,早期の課題発見と対応が可能となるなど,提案手法の有効性が示された.今後はこれらの手法を活用することで,ベースラインを再設定した場合でも,リスクを管理しつつ,透明性,信頼性,そして実効性を備えた進捗管理の実現が期待できる.
三橋 雄一郎,山田 知明,本多 久美子
慢性的なITエンジニア不足が続く中でもITシステムの重要性はより増しており,作業効率をより高めることが必須となっていた.解決のために,SIの設計・開発において工数が膨らみがちな作業に生成AIを適用して開発を自動化し,プロセス全体を高効率化することを目的としたプロジェクトを遂行している.生成AIによるコーディングや単体テスト実行で工数削減を図ったが,指示文(プロンプト)が長大化し,この作成工数が増大するという問題が発生してしまう.技術的課題の解決のためにはプロンプトエンジニアリング手法の確立が不可欠と結論付け,これに適した作業管理手法を採用した.最終的に,生成AIに適したフォーマットを定め,自動開発のフローを完成させることで,従来比50%の工数削減を達成した.本稿では生成AIを活用した実践的なフレームワークの成果を報告する.
大澤 靖彦
ERPパッケージの導入,運用・保守に長年携わってきており,ここ20年近くは運用・保守フェーズに注力している.運用・保守プロジェクトは準委任契約で実施するケースが多いと思われるが,請負契約の運用・保守プロジェクトに15年近く参画しており,直近10年はプロジェクト・マネージャー(PM)として従事している.見積時に明確に作業項目,作業量を決め,お客様と合意したうえで運用・保守を実施しているが,障害が発生した際に,保守範囲の対象か否かで時折お客様と議論するところではある.本稿では運用・保守を請負契約で実施している中での気づきについて,プロジェクトマネジメント事例とともに紹介する.
司 南
我が国における次世代のデジタル社会実現に向け,人とロボットやシステムが共生する社会を目指し,社会全体の公共資源(ハード,ソフト,ルールのインフラ)を統一整備,管理・メンテナンスすることで効率的な社会管理を実現する構想の検討および実装が進んでいる.しかし,各事業者が取り扱うシステムやデータは各事業者の独自仕様や規格に従うことが一般的であるため,他の事業者とのシステムやデータ連携が難しいという課題がある.本論文では,4次元時空間データを処理する「高速時空間データ管理技術」を例に挙げ,標準化規格に対応し,異なる事業者システムを連携する協調型自動運転実験の実施とその結果を報告する.本実証実験では,標準化規格に対応した「高速時空間データ管理技術」の有効性を確認し,異なる事業者のシステムを連携し,異なるプロジェクトを統一かつ効率的に管理する可能性を示した.
山崎 快
日本企業におけるDX推進は、重要な経営戦略として位置付けられていますが、人材不足と技術対応の困難さが課題となっています。本研究は、企業が直面するDX推進におけるアーキテクチャ設計の長期化と設計品質の低下という課題に対し、アーキテクチャCenter of Excellence(アーキCoE)活動を通じて解決策を提示します。Microsoft Azureのハブアンドスコープ環境を基盤とするDX基盤において、標準化不足と技術者不足を特定し、富士通の社外CoEとお客さまの社内CoEからなる支援体制を構築しました。これにより、DX基本設計書の策定や技術連携を通じて、社内CoEの意識改革と活動の定着を促進し、設計品質の向上とレビュープロセスの効率化を図りました。得られた知見は、DX人材育成とDX推進の円滑化に貢献し、今後のDX変革への応用可能性を示唆します。
小山田 幸平
近年, より複雑化していく社会課題の解決に向けて, 高度な先進技術を活用したイノベーションの重要性が高まっている.一方で, グローバルなR&D領域のプロジェクトマネジメントにおいては, 言語の壁やタイムゾーンの違いといったコミュニケーション上の課題が多い.これに対しブリッジマネージャーによるチームビルディングといった対処法があるが, 少数メンバによるR&D開発においてはプロジェクトマネージャー自らがプロジェクトマネジメントと並行してチームビルディングに取り組む必要がある.そこで本研究では, 実際のグローバル R&D プロジェクトの事例をもとに, 発生した課題とその対処法について述べ, プロジェクトマネージャーの観点でのグローバル R&D プロジェクトにおける対処法について考察を行う.特にコミュニケーション上の課題においては, 仕様の認識違いによる手戻り発生が課題であったが, タスクの詳細化およびカンバンボードによるタスク管理や, モックアップベースによる仕様設計を導入することで, 仕様の認識違いによる手戻りを2週間程度の手戻りから数日程度の手戻りまで削減することに成功した.
中野 智之
行政機関における情報システム刷新においては,標準化対応とDX推進により,短期間かつ高品質な業務パッケージ導入が求められている.本論文では,従来型導入プロセス(ウォーターフォール型)に内在する構造的課題を明らかにし,著者が参画した実プロジェクトを通じて得られた知見をもとに,アジャイル的要素を部分的に取り入れたハイブリッド型導入プロセスを提案・試行した.具体的には,設計段階での段階的な合意形成,検証作業の併走化,ドキュメントテンプレートの整備,およびテスト仕様書作成の自動化による効率化を図った.その結果,導入期間の短縮,仕様変更の削減,関係者間の認識齟齬の抑制といった効果が確認され,今後の行政DX推進に資する有効なアプローチであることが示された.
武山 祐
生成 AI の急速な普及と AI ガバナンス規格 ISO/IE 42001 の発行を受け,AI を包含した IT 運用ガバナンスの再構築が急務となっている.本研究では ITIL 4 が定義する 34 プラクティスを, AI による運用(by AI), AI そのものの運用(of AI), AI を支える基盤運用(for AI) の三層にマッピングし,適用度を可視化した.その結果,全層に対してガバナンスの不足,AI による運用(by AI)層に対してナレッジ及び自律化の不足,AIのための運用(for AI)層に対してコスト及び資産透明性の不足がみられた.これらのギャップに対し,MLOps as Code,Policy as Code,生成 AI ナレッジ自動化の三施策を示し,最小投資でガバナンス強化と AIOps 価値最大化を同時に達成するアプローチを提言する.
伊藤 公大
OA端末および基幹システム端末のクラウドリフトにおいて,先行してOA端末の移行が実施されており,基幹システム端末は,別プロジェクトである基幹システム更改のスケジュールに合わせて後発で移行を実施した.本論文は,後発のプロジェクトの視点から,プロジェクト間で整合性を維持し,円滑な移行を成功させた要因を分析する.基幹システムを利用する端末であるため,業務継続性およびシステム仕様とクラウド仕様の差異における技術的制約がプロジェクトの複雑性を増している点や基幹システムとの緊密な連携も考慮が必要となる.変更管理プロセスの確立,情報共有の仕組み構築,プロジェクト間の緊密な連携といった,プロジェクト成功の鍵となる要素を明らかにし,同様のプロジェクト推進における教訓を提示する.
尾保手 啓太,瑞慶山 浩希
富士通では,社会的に高信頼性が求められるシステム開発プロジェクトにおいて,生成AI(大規模言語モデル)を要件定義および設計レビュー工程に適用した.本稿では,その適用によって得られた工数削減や品質向上などの直接的効果と,責任所在・知識継承・人材育成への影響といったマネジメント課題を分析する.基幹システムの開発案件で生成AIを活用した結果,レビュー工数削減を示した一方,AI生成に対する準備負荷増大が発生した.また,責任所在を明確化するためにガイドラインを整備し運用したが,プロジェクトにおいてメンバーの知識空洞化懸念やハルシネーション固有のトラブルが顕在化した.これらの結果を踏まえ,生成AI時代のプロジェクトマネージャに求められる①AI出力の品質保証プロセス,②AI活用と人材育成を両立させるタスク設計,③責任分担とリスク管理の枠組みを提案する.
西條 幸治,柴田 浩太郎
不確実性の増す時代背景や働き方改革,SDGsの流れを受け,自律的な取り組みが推奨されている.プロジェクトマネジメント学会のPMメンタルヘルス研究会では,2009年11月以降毎年ワークショップを実施しており,2024年2月にも広島で研究報告セミナーを開催した.本セミナーでは,ウェルビーイング分野の専門家を講師に招き,講演とカードを用いたグループワークを実施した.講演で触れられた幸福度測定や,アンケートで得られたKPTの活用については,研究会の定例会でも議論されている.個人の取り組みと,プロジェクトの母体組織としての取り組みは共に重要である.特に「はたらく幸せ」の測定も可能な幸福度測定を定期的に実施し,双方の側面からウェルビーイングを検討していく.本稿では,筆者のこれまでの考察も踏まえつつ,多岐にわたるウェルビーイングへの具体的なアプローチについて論じる.本研究会では,プロジェクトマネジメントにおけるメンタルヘルスについて広く討議しているが,特定のテーマからワークショップへ繋げる提言も出されており,その方向性も検討中である.PMメンタルヘルスに関する統計的考察により,報告の量・質の補強となるデータ提供を目指し,現在検討中あるいは研究ノートの段階であるが,研究または実践として取り組みたい内容を記す.
鈴木 美帆,明石 一希,水谷 文香,荻野 貴之,櫻井 崇士,宮崎 正博
近年のデジタル社会におけるプロジェクトマネージャー(PM)人材の需要は高く,一方で労働市場の流動化を受け,企業はPM人材の確保が困難になっている.そのため,中途採用者やパートナー企業出身者など,多様なバックグラウンドを持つ人材をPMとして活用する必要性が高まっている.従来,自社で長期間育成された人材がPMの中核を担い,自然と組織の求めるスキル,マインド,基本行動が形成されてきた.しかし,近年の多様化により,組織が期待する行動規範との間に乖離が生じている.本研究では,全てのPMが組織の期待する行動規範を理解し,実践できる体系の構築を目的とする.行動規範の策定にあたり,組織の全社的な方針に基づくトップダウンに加えて,現場PMを対象としたヒアリングによるボトムアップの両面から検討を行った.本アプローチにより,これまで形式知化されてこなかった組織の価値観や行動規範を明文化し,現在では自社のPM育成に適用している.特にボトムアップを交えて行動規範を体系化したことが現場PMの納得性のある行動規範を定義できた要因であると考える.本アプローチ,および今後の展望について紹介する.
妙圓薗 諒
本論文は,日本の多くの企業が抱えるレガシーシステムの課題に対して,その脱却に向けたマイグレーションによる上流工程の進め方を検討するものである.マイグレーションは現行業務の継続を可能にする一方,システムの複雑化により業務仕様の可視化が困難となる問題がある.筆者のプロジェクトでは,現行システムの仕様理解とUI設計での業務仕様可視化が困難であるという課題に直面した.そこで課題解決のため,プログラムソース解析を用いた仮説検証型の仕様可視化,およびUI設計書への業務仕様記載方法の具体化を実施した.これにより,業務仕様の可視化を実現し,さらにシステムのスリム化や障害時の仕様変更・障害の切り分けが容易となった.本稿では,マイグレーションにおける現行システム解析のノウハウと,上流工程の進め方について述べる.
中原 あい,関 哲朗
金融機関向けのミッションクリティカルシステム開発に伴う付随的な開発の場面では,スクラムのような顧客と一体化した柔軟な開発体制が求められる.一方で,ウォータフォール・モデルのように目的・目標が明確化され,QCDSを中心とした予実管理やリスク対応が可能な対応が期待されることも少なくない.これは,単に開発対象の規模や性質によるばかりではなく,顧客の開発に対するマインド,すなわち,顧客の持つ「あるべき論」に支配される期待に依存するものでもある.ウォータフォール・モデルの開発フェーズの一部をスクラムに置き換えたハイブリッド・モデルが採用されることもあるが,必ずしも問題解決に至らないこともある.本研究では,提案の根拠となる課題を明確化するために著者の経験をケースとして整理することで,従来研究の中ではあまり例を見ないスクラムとスパイラル・モデルの融合による新しい開発モデルの提案の前提を得た.
蒲田 昌樹
近年,テクノロジーの進歩により,システム開発現場では生成AIやテスト自動化などによる生産性向上が進められている.一方,そのような改革と同時に,品質の確保,開発コストの削減,開発スピードの向上を同時に両立させることが重要な課題となっている.本論文では,これらの課題の中でも特に「開発スピードの向上」に対する解決策として,海外拠点の利活用による「24/7開発」の可能性を検証する.「24/7開発」とは,世界各国の時差を活用し,拠点間で開発物を引き継ぐ開発手法であり,1拠点あたり8時間の成果物を最大3拠点(計24時間)にリレーすることで,開発スピードを最大3倍にすることを目指す概念である.実際のプロジェクトにおいて,詳細設計書やソースコード,テスト仕様書,テスト実施などを拠点間で引き継いだ際の開発スピード,生産性,コスト,品質などを日本単一拠点で実施した場合と比較し,効果を検証した.その結果,本手法が有効であることを確認し,一定の成果を得られた一方,コスト削減においては課題が残る点も明らかになった.
佐藤 雅子
長期にわたる保守型プロジェクトにおいては,安定した運用体制の維持と継続的な改善活動の両立が求められる.本研究では,大手生命保険会社の情報システム保守プロジェクトにおいて,リリース管理チームを対象に,デザイン思考ワークショップと改善提案活動を組み合わせた実践的介入を行った.業務の構造化と可視化により,メンバーの役割理解や内発的動機づけが促され,自律性と協働性の向上につながった.さらに,本アプローチは別の金融系プロジェクトにも展開され,異なる業務特性の環境でも一定の効果が確認された.本取り組みは,共創や意味づけを通じた心理的要因に根ざしたチームビルディング施策として,今後のマネジメント実践に対して有効な示唆を提起するものである.
大和田 穣,足立 順,吉田 千秋
事業の多角化をスピード感をもって進める大企業においては,社内データ分析基盤の整備が進む一方で,短期・小規模かつ多発的に発生するデータ開発案件に対応する必要性が高まっている.特に,上流システムの仕様変更やスケジュール変更が頻繁に発生する中で,計画の再調整と要員の再配置が必要になる点が課題となっていた.本プロジェクトでは,以下のようなマネジメント施策を組み合わせて課題解決を図った:要件の優先度をシステム主管経由で整理する仕組みを整備技術的な実装順序との整合性を加味した開発計画の立案プロダクトバックログを活用し,空き稼働時に補完的な開発に即時着手可能な体制を構築さらに,システム主管の予算を活用して補完開発を可能とすることで,稼働の無駄を抑制しつつ,データ分析基盤の継続的な価値向上も実現した.これらの取り組みにより,変動環境下でも案件の完遂率が向上し,稼働の空転を防ぎつつ,柔軟かつ整合性あるプロジェクト遂行が可能となった.
市江 剛之
OneDeliveryでの運用において、体制をアカウントとデリバリーに分離したことにより、各ロールの役割が明確化されたが、同時にスキルの二極分化の懸念がある。 二極分化とは、それぞれがPMスキル、または開発スキルに特化することを指し、その体制でプロジェクトの推進を行った場合、その垣根で行われる情報の連携に様々な課題が発生する。「使用される用語」/「報告の観点」/「対策の根拠」など、アカウント・デリバリーそれぞれのスキルセット/ミッションにより内容に傾向がみられ、それが原因となり、プロジェクト推進におけるQCD確保にリスクが生じる。例えばPMの観点で開発リーダーから報告を受けた際、用語が不明で理解できない、報告の観点が欲するものでない場合、必要な情報の収集、および認識の統一に多大な時間を要する場合がある。その状況が慢性化・長期化すると、確認すること自体を避けるようになる懸念もあり、最悪はデリバリー部隊に任せきりの状態でアカウントが舵取りを行うような、極めて大きなリスクを内包した運用となる。 運用するパッケージの知見に乏しいPMが、どのようにプロジェクトの全体を必要なだけ把握し、推進を行っていくか、その具体的な対策の1つを本論では論じる。能動的にコミュニケーションを図ることが重要であり、自分の知識に無いものは、それを保有しているメンバーに、把握したい観点で確認することが必要である。しかし、それを愚直に実行すると大きな工数と労力を要するため、効率的に実施することが必要となる。 本論で提案する実現手段は次の通り。課題・障害が発生し、PMに情報が伝達された時点で、仮定でストーリーを作成し、その中に確認したい内容、不明点を明記して必要なメンバーに連携する。その内容は修正や補完を前提としており、同時に一貫性を持つことをルールとする。 メンバーの間でルールを理解した運用が実現できれば、例えば正確に伝える用語がわからない、論理展開が3段階あって2段階目がわからない、というような場合でも、前後の内容からそれを推測することが可能である。PMが知りたい粒度/観点も明記することによって、受動的に報告を受けた場合発生する再確認の手番も削減できる。また、結果として作成したストーリーが過程でブラッシュアップされるため、社内外の報告にも流用可能である。
石内 貴晃
現在のビジネス環境は常に変化しており,業務の仕方が常に変化する背景あり.システム開発において,要求事項の変更を前提とする必要がある.このビジネス環境の変動に対しての解決策として,アジャイル開発手法が挙げられる.ただし,実現するべきことが明確に決まっている箇所もあり,当該箇所については従来のウォーターフォール開発手法が効果的である.アジャイル開発とウォーターフォール開発の複数の開発手法を並行推進するプロセスとして提言する.ウォーターフォール開発された自動車業界のシステムに適用した実績をもとに,QCDの観点から分析し,報告する.
佐瀬 巧平,藤田 元信
本研究は, SEO(Search Engine Optimization)対策のプロセスに生成AIを適用し, ウェブサイト管理者の作業負荷を軽減しつつ, 検索表示順位の改善を図る手法を構築することを目的とする.特に, キーワードの抽出, 分類と優先度設定, 本文コンテンツのリライトといった工程に注目し, それぞれにおける生成AIの活用方法を設計・実装した.対象として, 環境分野の専門メディアであるCarbonCredits.jp上に掲載された記事群を用い, 生成AIでリライトした記事案について, サイト運営者による内容確認とフィードバックを受けた.評価は主に定性的に行われ, 主題や論旨の保持, 専門用語の使い方, 自然な文体表現などに関して, 生成AI出力の妥当性を検討した.その結果, 一定の作業効率化効果が確認された一方で, ファクトチェックや社内合意形成に時間を要し, 生成AI活用にあたってはメディアとしての信頼性維持や運用方針の整備が不可欠であることが明らかとなった.
富田 啓
経験が豊富で技術的な知識がいるメンバーのいるチームで年次や経験が浅い中で初めてのプロジェクトマネージャーを担当し感じた、プロジェクトマネージャーに求められるスキルやプロジェクトを円滑に進めていくために必要となるスキルについて、またコロナ禍に入社しオンラインでのコミュニケーションが標準である環境でのみしか社会人を経験したことがない中プロジェクトマネージャーという立場でメンバーとの信頼関係構築や他のプロジェクトで抱えているタスク、プロジェクトで担当になっている作業の状況等の把握のためオフラインでのコミュニケーションも含めた様々な方法でのコミュニケーションの重要性について若手プロジェクトマネージャーの視点から考察する。
七田 和典
ミッションクリティカルな対顧システムの開発においては,サービスイン後の安定稼働が優先されることからウォーターフォール型開発手法が採用されるケースが多く,また過去から蓄積されてきた開発プロセスや品質担保のための規約・ガイド類を遵守する必要があり,プロジェクト期間の拡大やコストの増大に繋がっており,顧客のニーズや社会のトレンドの変化に応えていくためのシステム・サービスをタイムリーに提供することを妨げる要因となっている.本稿では大手金融機関におけるミッションクリティカルな対顧システムの開発において過去から改編を繰り返されてきた開発プロセスや過去トラブルの教訓等により蓄積されてきた品質担保のための規約・ガイド類を遵守するためにプロジェクト期間の拡大やコストの増大を招いている状況を打開するべく,アジャイルの適用や生成AI等の先進技術の活用による抜本的改革を目指すプロジェクトマネジメント事例を考察する.
益田 英哲
近年のソフトウェア開発では,短納期化と継続的な機能追加・改修が常態化しており,品質管理の重要性が一層高まっている.しかし,現状の品質管理は現場任せで属人化しているため,品質のばらつきや是正の遅れがテスト工程での品質問題として顕在化している.本研究は,この課題に対し,品質管理プロセスの組織的標準化と開発現場への定着化を目指したものである.具体的には,事業部長を主査とする「品質ワーキンググループ(QMWG)」を設置し,標準化方針の策定,現場への適用・定着化,および現場課題の解決に取り組んだ.本稿では,組織全体で標準化された品質管理プロセスを,事業部を横断して開発プロジェクトへ効果的に適用し,現場に定着させるための具体的な仕組み,工夫した点,およびそこから抽出された課題への解決アプローチについて考察する.さらに,今後の生成AI活用についても展望する.
関 哲朗
働き方改革やコロナ禍の影響を経て,情報システム開発チームの作業環境は特定のオフィスからテレワークなどに置き換えられる傾向が強くなっている.日本のような労働人口の減少が顕著な環境下では,作業従事者の自由度が高くなるこのような変化は歓迎すべきものである.一方で,従来のコロケーションにもとづく作業環境は,メンバ間の非公式な出会いを支援し,問題解決やイノベーションの機会創出の程度に強く影響していることが知られている.本研究では,文献調査の結果等にもとづき従来からの関連研究を整理するとともに,自律分散作業環境下に置かれたプロジェクト・メンバの非公式な出会いの発生のメカニズムを数理的なモデルに従って示し,一連の関連研究の端緒を与えた.
村田 祥文
昨今,プロジェクトの超上流工程の重要性は増してきている.しかし,重要視するあまり超上流工程のスケジュールが遅延し,後続のプロジェクトのスケジュールに影響を与えている事例も見て取れる.この,遅延理由を明確にし,回避する手法を考察した.超上流工程が遅延する理由として,機能型組織でプロジェクトを推進している事が考えられる.機能型組織の問題点として,組織間の軋轢を解消できない事にあると捉えた.そのため,機能型組織で構成された各部門から別の部門に要員を派遣し,相手側の部門の要員として機能させる手法が有効ではないかと考察した.本手法を超上流工程の遅延が発生した実プロジェクトにて検証した.そのプロジェクトの超上流工程の目的は,50の施策の優先順位付けを定義し,どの施策を決められた期間内に実施し,どの施策を諦めるかを確定するものであった.しかし,組織間の軋轢が原因となり,優先順位付けが遅延している状態となった.このプロジェクトに新手法を適用した結果,組織間の軋轢の解消が行われ,最終的には,超上流工程のスケジュール遅延回避に有効性が認められた.
松本 昌敏
現代のプロジェクトマネジメントは,PMBOKに代表されるプロジェクトマネジメントに関するハンドブックや進捗管理・品質管理・課題管理といったシーンに対するさまざまな管理ツールが提供されており,プロジェクトを実行・運営するために十分な下支えが施されている.しかしながら,多くの民間企業やベンダー企業の中で今もなおトラブルとなるプロジェクトが少なからず生まれているのが実情である.その背景には,世の中の技術革新・環境変化など外部要因を含むあらゆる不確実性が増す現代において,プロジェクトが開始から終了まで一貫した計画の中で進められることができないという状況がある.本書ではその状況下におけるプロジェクト・マネジメント手法として,PDCAサイクルという計画の枠組みの中で用いる手法とあらゆる外部要因・環境変化に対し柔軟に対応していくために用いるOODAループという手法に触れる.一見相反する考え方であるが,これら2つを使い両輪でプロジェクトをドライブすることが不確実さが増していく現代のプロジェクトでは極めて重要なプロジェクト・マネジメント手法である.
原 聖岳
日本企業はDXシフトに向けた基幹システムのモダナイゼーションが急務となっている.老朽化,ブラックボックス化,保守の属人化が共通課題であり,保守性の低下により,ビジネス環境変化に自社のみで迅速に対応できない状況が深刻化している.これらの課題を解決するため,将来のあるべき姿を整理し,アーキテクチャの最適化(マイグレーションと部分的なシステム変更),基幹システムのブラックボックス化の解消,そして保守要員の育成を組み合わせた包括的なアプローチが不可欠となる.再構築を単なるゴールとするのではなく,再構築後にシステムが持続的に成長し,維持できる環境を構築することが重要である.これらの課題解決に向けて,日本企業がDXシフトを成功させるための実践的なモダナイゼーション手法を提案する.
原口 直哉
プロジェクトの成功や定常業務の安定運営には,品質,コスト,デリバリーだけでなく,社員を含めた関係者全員の満足が重要と考えている.この論文は,自組織の従業員エンゲージメント向上の取り組みを通じ,組織の目指すゴール(姿)や,社員の成熟度に応じて,リーダーシップスタイルを変化させることの重要性を論じたものである.Situational Leadership理論(SL理論)で定義されている,指示型のリーダーシップを選択した場合,短期的に業務成果や顧客満足度を上げることができたが,従業員エンゲージメントの向上までは得られなかった.また,ビジネス部門の要求変化,日々進化する技術革新など,我々を取り巻く環境に不確定要素が多く存在することを受容し,組織が自律的に機能するためには,指示型のリーダーシップだけでは不十分である.社員の成長や自律性を促すために,サポートやコーチングに重点を置く援助型のリーダーシップに転換し,さらには「権限による支配」から「信頼による支援」へのシフトが必要と考えている.
福山 秀,大熊 唯愛,五十嵐 智
生成AI技術の実践的適用においては,その正確性への懸念から導入を躊躇するケースが少なくない.筆者は,金融機関向けミッションクリティカルシステムの上流工程に生成AIをトライアル適用し,従来のウォーターフォール型開発で培われた品質マネジメント手法を応用することで,上記課題への取り組みを試みた.具体的には,プロトタイプによる生成AIと従来の人手作業を組み合わせたハイブリットモデルの構築,生成AIチューニングによる品質向上,V字モデルにおける総合的な品質確保等を検証した.今後,加速が予測されるウォーターフォール型開発への生成AI適用における品質マネジメントの新たな枠組み,および今後の方向性を模索するものである.本論文では,これらの取り組みと品質マネジメントに関する考察を,事例を交えて報告する.
斉藤 大志
日本の情報システム開発プロジェクトは、品質、コスト、納期に課題を抱え、特にインフラ領域では、製品多様化と専門マネジメント人材不足が顕著である。インフラの初期段階での見誤りは、稼働後の安定性や運用コストに甚大な影響を及ぼす。本稿では、インフラプロジェクトの失敗要因をスケジュール、コスト、品質の観点から分析。物理的制約、ライフサイクルコストの見積もり難、非機能要件の複雑性、設計・検証不足、複合的な性能問題などを主要因と特定する。これらに対し、筆者の経験とSDEMフレームワークに基づき、インフラ特有の課題を考慮した実践的なマネジメント戦略を提案。スケジュール、コスト、品質の各側面で、計画の柔軟性、ライフサイクル全体の見積もり、非機能要件の徹底、実機検証、シンプルな構成、そしてインフラとアプリケーションの連携による性能最適化の重要性を提示する。本論文は、過去5年間のインフラプロジェクト事例分析を通じ、アジャイルの理念を取り入れたアプローチで、インフラプロジェクトの成功率向上と信頼性高いシステム構築への貢献を目指す。
筒塩 真渚人,日下部 茂
ソフトウェアの品質のマネジメントにはソフトウェア開発プロセスが重要な役割を果たす。そのようなプロセスの一つであるパーソナルソフトウェアプロセス(PSP)は,ソフトウェア技術者の個人レベルのプロセスの確立と改善に有用とされている。一方、近年着目を浴びている生成AIをはじめとして、ソフトウェアの品質や生産性の向上を目的として様々な手法やツールが提案されており、それらに合わせてプロセス自身やその改善方法のテーラリングを行う必要もある。このような背景のもと、生成AIを活用するソフトウェア開発の個人レベルのプロセスの確立と改善に向けた取り組みを、PSPのフレームワークをベースに行う。特に本発表では、QCDの管理と改善を念頭に、生成AIを活用するソフトウェア開発の、個人レベルのプロセスでのデータの収集と分析についての検討をPSPのフレームワークをベースに行う。
坂本 裕明
サーバOSの延長サポート終了やハードウェアの保証期間終了を理由に,現行の機能を維持したままIT基盤を刷新するプロジェクトが増加している.そのため,現行踏襲を基本コンセプトとし,プロジェクトを進めていったが,現行の設計書と実機の設定値が違うことが判明し,設計の中盤においてリスクが顕在化し,それに伴い現在の工程の品質問題や後続工程の品質リスクが高まっていた.そのため,プロジェクト工程を一時中断し設計書が実機通りの設定になっているかの全チェックを実施した,その結果,基本設計の見直しや,詳細設計書の修正が発生し,スケジュールやコストに影響が出たが最小限に抑えた.さらに,後続の工程においても現行からの相違点を整理し,品質の定点チェックと適切なタイミングでの改善を行うことで,予定通りプロジェクトを完遂した.本稿では,既存システムの踏襲を前提とした大規模IT基盤の刷新プロジェクトにおいて,プロジェクトマネジメント上の課題とその対応策を整理し,成功に導いた要因を考察する.