論文要旨(Abstract)一覧

PM学から見たマイナンバーカード普及政策の評価と問題点・対策案

吉田 憲正


2025年12月2日,医療分野では,マイナンバーカードの健康保険証利用が基本となった.マイナンバーカードは,マイナンバー法により,住民基本台帳又は戸籍の附票に記録されている者の申請に基づきその者に係る個人番号カードを作成し,交付を行う市町村長が,その者が本人であることを確認し交付するカードである.しかし,マイナンバー法により,強制・義務化ができず,2020年9月時点で全国交付率19.4%であった.本来マイナンバーカードとは,1970年の国民背番号制,1994年の住民基本台帳ネットワーク等からつながるマイナンバー法のためのカードであったが,2019年以降消費活性化策や健康保険証として全国民に行き渡ることを目指すことも日本政府(政府)の政策目標,つまり政策プログラムとなった.そのマイナンバーカードの普及促進を行なった「マイナポイント事業」は,特定目標を期限内に達成するための独自の活動であり,「プロジェクト」である.このプロジェクトを,プログラムマネジメントの視点も含め,プロジェクトマネジメント学の視点から評価し,問題点及び解決案を論じる.


PMBOK8版におけるAIの説明可能性を補完する三層モデル:相関・因果・ユーザ受容性の提案

中田 孝一


人工知能(AI)の説明可能性(Explainable AI: XAI)は、透明性・信頼性・倫理性を担保する上で不可欠な要素として注目されている。従来の研究は、SHAPやLIMEに代表される相関的説明と、因果推論や反事実的推論に基づく因果的説明を中心に発展してきた。前者は直感的理解を促す一方で因果的妥当性を欠き、後者は行動可能性を提供するもののデータ制約やモデル依存性の課題を抱えている。 本研究は、これらを総括したうえで、新たにユーザ受容性(user acceptance)を加えた三層モデルを提案する。第1層の相関的説明は「理解の入口」を、第2層の因果的説明は「行動可能な知見」を、そして第3層のユーザ受容性は「説明が理解され、利用され、信頼されるか」を評価する役割を果たす。この三層構造により、説明可能性は技術的な透明化にとどまらず、人間中心の枠組みとして再定義される。 本研究は今後の課題として、因果推論と機械学習の統合、説明の妥当性を評価する指標の確立、利用者層に応じた提示方法の最適化、規制や倫理枠組みとの整合性を指摘した。これらを克服することで、説明可能性は「相関の可視化」を超えて「因果的理解」へと進化し、最終的にはユーザにとって意味ある知見を提供する信頼できるAIの実現につながると結論づけた。