吉田 憲正
福島廃炉プロジェクトは,プロジェクト期間30年以上と世代を超え,想定費用約8兆円の超大規模の長期・国家プロジェクトである.しかし,我々に身近な企業プロジェクトと同様の問題を抱えている.プロジェクトマネジメント(PM)においてはそのマネジメントを大きく規定するのはスコープであるが,福島廃炉プロジェクトのスコープには疑問が多く,またPM体制にも問題がある.更に我々自身も関係しているステークホルダー問題も存在する.本論文では,福島第一原発の現状を概覧し,その廃炉プロジェクトのPMの問題点を考察する.
長谷川 慶武
近年、ソフトウェア/システム開発の現場では様々なPJ管理用のダッシュボードやタスク管理ツールが提供され利用されている。また、昨今の新型コロナウイルスのまん延も影響し、開発の管理に関する情報だけでなく、PJを遂行する上で必要なコミュニケーションもオンライン上で行われるようになってきている。PJ管理用のダッシュボード、タスク管理ツールコミュニケーションツールの連携が疎結合であることで、オフラインにおける従来のプロジェクト運営と比較すると情報の伝達の円滑さや正確さが劣ってしまうのが課題である。そこで、ツール間連携設定と推奨利用方法を合わせて導入することで、上記課題を解消する手法を紹介する。本事例では、アジャイル開発におけるデファクトなプロジェクト管理ツールと、弊社標準のコミュニケーションツールの連携方法の確立とその運用に対する自動化の設定を行った。これによってメンバーの応答性の向上と、オンライン上での議論の経緯と結論に対するキャッチアップ時間/誤認識の減少などの効果が得られた。また、得られた結果から、開発・管理デジタル化とチームとしてのウェルビーイング・品質保証の両立を実現するデジタルワークプレイスを構築していくにあたっての展望を述べる。
秋本 孝行
部門内のリスクマネジメントの取組として遂行中のPJに対するガバメントを強化することが中心になるが、平行して人材育成を行っていかなければいけない。当部門も過去に赤字PJが多く発生し組織的マネジメントの強化し赤字PJの抑制を行っていたが、原因の多くはリスクの見落としや初動の遅れといったリスクマネジメントスキル不足にあり、PM/PL人材のスキルアップを行わなければ、繰り返し発生してしまうことになる。リスクマネジメントは、PJが置かれている状況や環境により方法が変わるため、単に知識としての教育を実施しても、知識通りの行動をとり、正しい対応ができなくなる可能性もある。リスク観点についても経験で蓄積できる要素が強く、経験の浅いメンバについては自分事にならず、理解度も浅くなってしまう。経験を補うためには色々なPJ体験を行っていく必要があるが、育成のために色々な経験を行うのは期間的にも難しい。この経験を補うために、研修として疑似体験を行うこがよいが、社内に疑似体験を行うような研修がなかったために部門で研修と企画し実施することになった。疑似体験を行う研修の手法としてケースメソッドに着目しPJ事例でリスク/問題に対する対策を検討する構成とし、PM力アップできるようにした。当部門としてPM力アップの施策としてケースメソッドに着目し教育を提供することとし2018年度4Qより開始した。教育提供を行うにあたって注意したことや、昨今の新型コロナ感染拡大に伴い影響した実施形態の工夫について紹介させて頂き、今後PM力アップの取組を検討される方々の参考になれば幸いです。
貝増 匡俊
開発途上国では、インフラ整備を進めるために円借款に代表される2国間援助の政府貸付やアジア開発銀行に代表される国際開発金融機関による貸付による国際開発プロジェクトが実施されてきた。国際開発プロジェクトは通常と異なり、当初の予定から大幅に遅延するにも関わらず、コストは当初の予算内に収まるケースが多い。遅延する要因は途上国政府内で承認手続きの遅れなどで多く、遅延リスクは常に高い。そこで、アジア開発銀行では、マルチトランシェファイナンシングファシリティを導入し、プロジェクトが遅延せず、プロジェクトが適切に実行されているようにしている。マルチトランシェファイナンシングファシリティでは貸付実行するディスバースは従来のものより小さいことがある。一方で、従来のプロジェクトは、プロジェクトリスクが高い方にも関わらず、コストも高いプロジェクトが形成されている。本稿では、国際開発プロジェクトにおけるプロジェクトリスクとの関係性について検証していく。
一柳 英史
プロジェクトマネジメントにおけるリスク管理は,多くのPMに重要視されながらも実行ベースでは形骸化し計画通りに取り組めていないのが実態である.しかし昨今は,クラウドへの移行やアジャイルの活用による技術革新や事業変革スピードの向上もあり,「大規模プロジェクト」や「他社リプレース」「短納期スケジュール」など難易度の高いプロジェクトも通常となりつつあるが,仮にリスクへの対応が万全ではない場合にはリスクの影響を回避できず,事業や業績への影響はもとより,ステークホルダーより寄せられているプロジェクトの成功への期待を裏切る事態となってしまう.本稿では,前述の問題を解消もしくは緩和するために,プロジェクトにおけるリスク管理の阻害要因とその対策のための施策について考察し,具体的なプロジェクトを用いてその効果を述べる.
射場 千尋
昨今,技術動向や市場の変化が激しく,開発においても変化への素早い対応が求められており,それらのニーズに応える手法としてアジャイル開発への注目が高まっている.その一方で,開発実績が多くこれまでの知見やノウハウが豊富なウォーターフォール開発の品質管理手法をそのまま流用することは困難であると考えられる.当社内ではアジャイル開発においてWGを立ち上げ,品質確保するために実施すべきプロセスやツールなどについてこれまでガイドとして整理してきているものの,過去実績が十分になく明確な品質指標がない新規案件などに対してはどのように品質確認していくかについて課題があった.そのため,本案件ではsprintごとの不具合状況推移に着目することで,明確な品質指標がない中でも品質判断することができないか試行検討することとした.また,今回は研究開発案件でプロトタイプを対象として試行適用していることから,管理負荷を抑える試みとしてタスク管理を品質管理としても流用する工夫を行っている.本論文ではこれらの新しい手法を適用した成果と改善点について言及する.
寺西 秀和
コロナ禍により変化した病院情報システム構築プロジェクトのプロジェクトマネージメント在り方について、発生期および過渡期における施策を振り返り、Withコロナを考慮した今後の対応について考察した。
三好 きよみ,近藤 秀和
本稿は,仕事や職業生活に関してストレスを感じたときの感情として,不満に焦点を当て,技術者の特徴を明らかにすることが目的である.日本における職場の不満に関するデータを対象として,テキストマイニングによる分析を行い,会社員の職種によって比較した。その結果,技術者の特徴として,仕事や職場において不満を感じる対象は,特定の場所や機関,収入や利害といった,職場の環境や利害関係であることが示された.
今村 勝久
プロジェクトが失敗(利益が出ない赤字になる)するひとつの要因としては,顧客との交渉が失敗したことに起因するものがある.その交渉には事前準備が必要不可欠であり,相手の状況,自分の状況を把握すること,また交渉に臨むにあたり自分たちの強みをたくさん用意すること,また合意できなかった場合の代替案(BATNA)を用意しておくことも必要である.これらの準備を経て,顧客と交渉し逆提案をすることで受注することが出来た事例を紹介する.
辻川 直輝,大鶴 英佑
プロジェクトマネージャ(PM)には,変化の著しい市場への適応,リスクへの柔軟な対応,新規プロジェクトでも大きな失敗をしないことが求められる.失敗プロジェクトの反省をみると,課題・問題は意識していたが影響を見誤った,兆候はあったがリスクを認識することが出来ず原価が悪化した等が挙げられている.早く気づくことが出来れば適切な対応も期待できるため,気づくことに優れたPMを育成することが必要である.そこで,幹部・同世代との交流を図り,第一人称で考え,気づく機会を創出し,知識や対応の引き出しを増やすことを目指してPM交流会を推進している.FY2016からPM交流会は,幹部講話,意見交換会,ディスカッションの3つを軸として集合形式で行ってきた.COVID-19など昨今の状況を考慮してFY2021からはディスカッションを中心にオンラインミーティングも採用している.評価はアンケートによる5段階評価,並びに自由な意見から抽出した関連ワードの出現傾向から行っており,ディスカッションを高揚させる導入,手書き・付箋紙の活用,PMへの期待の見える化が大切である.本稿は,どのような取り組みが意図した研修を実施するために効果があるか評価・考察した報告である.
大久保 修
大規模なITプロジェクトにおいて,「2025年の崖」に指摘されるようにエンジニア不足が深刻化している中,顧客側のプロジェクト体制においてもリソース不足によるプロジェクト遅延,本番稼働延期となるケースが多発している.その背景として,長年利用されていた現行システムがブラックボックス化し,現行仕様を理解している人材が不足している企業が合併を繰り返したことで業務プロセスを整理することができない,過去に大規模なITプロジェクトの経験やノウハウが無いなどが挙げられる.今後ますますリソース不足が加速する中,ベンダーとしてどのような手を打つことが有効なのか考察する.
田村 慶信,山田 茂
オープンソースソフトウェアは,様々な分野において利活用されている.特に,オープンソースソフトウェアは,バグトラッキングシステムのような障害管理のためのデータベース上で,フォールトの管理が行われている.こうしたバグトラッキングシステムにはソフトウェアフォールトに関する非常に多くのデータが蓄積されている.こうしたデータを信頼性評価のために活用できれば,なんらかの新しい知見を得ることが可能である.深層学習に基づくアプローチは,フォールトビッグデータ活用のために最適である.本研究では,深層学習における再学習のためのアプローチである,転移学習,ファインチューニング,および蒸留の3種類に着目し,実際のOSSのバグトラッキングシステム上のデータを利用した適合性評価について議論する.
晦日 慶太,佐藤 裕介
一般にパッケージソフトを導入するにあたり、パラメータ変更 やアドオンの 開発といった導入企業ごとにカスタマイズが発生する。特に改修しながら長期間運用するとカスタマイズの範囲が広がり、 リグレッションテスト工数が増加する 。また、パッケージソフト固有のカスタマイズに熟知した熟練者のメンバと初心者のメンバを比較した場合、テスト品質と工数に大きな差がでる傾向がある。熟練度によらず容易にテストを実行できることができればテスト工数低減と品質向上が可能になると考えテスト工程の自動化に着手した。 本報告ではパッケージソフトウェアの導入におけるテスト工程の自動化の教訓について述べる。
高島 安志
昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)の流れを背景にAI,IoT,BI等のデジタル技術を用いた既存業務の効率化,あるいは新規住民サービス創出に伴うシステム化案件が自治体で増加している.しかしながら自身の経験上,DX案件においてはシステム要件の背景にある顧客側の業務目標が明確に定まっていない,もしくは顧客組織内で十分共有されていない場合がある.そうした中で開発を進めた場合,開発フェーズで本来の目標とは関連しない変更要望が発生し,最終的に完成したシステムが十分に業務目標に寄与しないことがある.プロジェクトマネジメントをどのように行えば,より価値のあるシステムを提供することができるか,本稿では実際のプロジェクトの事例をもとに効果的な手法を考察する.
山田 康貴
多様な技術を適用した大規模なシステムの開発プロジェクトの実施に際しては,領域単位や要件単位で複数の開発チームを組み,同時に開発を実施することが多い.また,開発手法も従来のウォーターフォール型手法に加えて、ウォーターフォールとアジャイルを組み合わせたハイブリッド型手法を用いることもある.このように,複数の開発チームが,多様な開発手法を用いて,同時並行で開発を実施する場合,チーム間での成果物や資源等の管理が煩雑になりやすく,プロジェクトトラブルを誘発するリスクが高くなる.本論文では,大規模システム開発における品質マネジメントの事例を提示し,プロジェクトマネジメントにおいて,品質を確保するための重要な要素について考察を行う
広川 敬祐,大場 みち子
近年、ERP(基幹業務システム)の導入は、「Fit to Standard(標準に業務を合わせる)」で行うべき、との考えが主流になっていますが、そうなっていないプロジェクト事例が散見され、相変わらず、追加開発(アドオン)を行おうとしている企業が散見される。 ERP導入において追加開発が起こる原因は、実現したい要件に対してERPが提供する機能が不足していることによって起こるとされているが、筆頭筆者は追加開発の原因はそれだけでないと考え、ERP導入でも開発してしまう兆候15か条を開発して提唱し、 ERPを開発しないで導入するセミナーを開催した。 本研究では、ERPを開発しないで導入するセミナー参加者からのアンケート回答を考察し、ERPを開発しないで導入するための方法を提案するものである。
根岸 永
プロジェクトの成功/失敗を左右する課題として「ステークホルダー間のコミュニケーションと合意形成」は重要であり,PMBOK5(注1)では「ステークホルダーマネジメント」が新領域として追加された.当該課題への施策として今回,自身がPMを務めるプロジェクトにおいて,部下を同プロジェクトの顧客側(システム部門)へ出向者として差出を行った.これにより,関連各所のコミュニケーションを円滑化し,エンゲージメントの向上および,監視の継続を行うことができた.本論文では,出向者の活用によるプロジェクトへの影響について,自身の過去の実績・経験を交えながら考察を行う.
角 正樹
NTTデータユニバーシティでは新入社員から中堅,中上級PM各層を対象とした品質管理研修各種を提供しているが,それらの多くは品質管理の「作法」を指導する内容となっている.新入社員や若年層を対象とした研修については,レビュー密度,エラー摘出密度,試験密度,バグ検出密度,バグ収束度等々の定量指標を用いた品質管理資料作成方法や品質評価方法等,作法中心の傾向が特に強い.作法中心の研修は,研修受講者が試験要員として実務に従事するための近道ではあるが,システム開発の対象や開発手法が多様化した昨今においては,研修で紹介している定量指標が馴染まないケースも少なくない.筆者は1996年から現在に至るまで,自らが手がけたプロジェクトの実例を題材とした研修を企画・制作し,講師を務めてきた.研修開始当初は作法中心の内容であり,定量指標を用いた実例を紹介していた.しかし,種々の開発形態,開発手法を用いる受講者が増えるにつれて,小職が手がけた実例が馴染まなくなってきた.そこで,実例の作法を説くのではなく,それらの作法を採用するに至った背景や思考の指導に比重を移し,現在に至っている.本稿では,若年層から中上級PM各層を対象とした「思考系品質保証研修」の教材制作の工夫について紹介する.
山田 千晶,木野 泰伸
グローバルプロジェクトチーム(GPT)では、チームメンバー間で共通の目標を中心に対話することにより、メンバー間で暗黙的または明示的な知識の共有が発生する。GPTのメンバーは基本的にリモートでやりとりするものの、チームワークにより認知の共有が進み、チーム内の認知が収束する(cognitive convergence)こともある。これはチームのパフォーマンスの向上と効果的なコミュニケーションに不可欠だが、GPTでそれが常に達成できるとは限らない。 GPT環境におけるチームワーク全般、また対面環境におけるチーム認知やメンタルモデルの先行事例も存在する。しかし、両者を組み合わせた事例はほとんど存在しない。本発表では、チームメンバー間の認知メカニズムの違いがGPTのパフォーマンスにどのように影響するかに関連する6つの概念に触れ、上記の研究を行うための文献をレビューし、パフォーマンスを向上させるための方策について論じる。
生山 陽
セキュリティ現行踏襲案件では,プロジェクト初期時点のスコープ合意形成が難しい/日々運用の中で流動的に設定が変化する非機能要件がある/ユーザー業務が見えにくく想定外の業務に影響を与えることがある.といった問題が発生する.こうした問題を解決する,あるいは軽減するためには,上流工程でのスコープ定義の明確化/日々変更が発生する非機能のフィードバック計画を行うとともに、ユーザー業務継続に着目した監視の追加が効果的である.
遠藤 貴芳
現在のITインフラは,従来のPC,サーバ,ネットワークといった機器を購入,所有する形に加えて,クラウドと言われるITインフラをサービスとして利用する形態も増えており,より多様化し複雑化している.そのため,多くの企業ではITインフラの運用管理を自社のみで行うことは難しく,外部委託していることが一般的である.システム運用の現場では,お客様システムの運用に関する情報の共有が円滑に行われず,運用開始後に様々なトラブルが発生し運用品質が上がらないことが散見される.本論文では,運用に関する情報の共有を円滑に行うためのシステム運用実績適用プロセスの追加と運用必要作業リストの整備により運用品質を向上させる施策について論じる.
加藤 正義,秋山 友子,久我 聡子,久保田 真木
デジタル時代における競争力強化を図るため,多くの企業でDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進が行われている.特に多くの日本企業は,組織の縦割りや心理的安全性の欠如がイノベーションを阻害していると言われており,カルチャー変革は大きな課題となっている.我々は,横断的なコミュニケーションやコラボレーションを活性化させることで,企業のカルチャー変革を促進できると考えた.そこで,オンラインツールと,ワークショップの手法を組み合わせて,企業内にオープンなコラボレーション文化をつくるための「学習と実践のオンラインコミュニティ」づくりに挑戦した.その結果,このようなコミュニティづくりには,多様な組織・多様な立場の社員を数多く集める「広げる活動」と,社員同士の関係をつくり,その関係を深める「深める活動」を同時に行うことが有効であることが分かった.
宮島 賢悟
ビジネス環境が激しく変化している昨今,プロジェクトマネジメント力の向上は各組織において,より重要な要素となっている.実際のプロジェクトでの経験を通して,ものの見方や考え方,行動を振り返り,そこから次の改善につなげていくことは,プロジェクトマネジメント力向上の有効な方法の一つである.当社は2018年に旧(株)日立公共システムと旧日立INSソフトウェア(株)の合併により発足した.合併後はプロジェクトマネジメント部門であるプロジェクト管理部が中心となってプロジェクトに関する規則,規格などを統一してきた.プロジェクトの振り返りについても,全社プロジェクト完了報告会(以下、全社PJ完了報告会)として,プロジェクトの悪化防止活動や,プロジェクトマネジメント力の向上施策の強化・改善を図ってきた.全社PJ完了報告会では,プロジェクトの振り返り結果を幹部,社員,スタッフ部門と共有し,プロジェクトマネージャーおよび担当事業部門とは異なる視点で議論することで課題を明確にして,他プロジェクトで再発をしないよう全社へ横展開を推進してきた.しかし,従来の全社PJ完了報告会の方法によるプロジェクトマネージャーやその上長とプロジェクト管理部のみによる問題点や悪化要因に関する議論では,再発防止策の強化につながるような建設的な議論が行えない場合がでてきた.そこで参画するメンバーの変更や全社PJ完了報告会の目的を変更し,報告会前の振り返り方法の強化・改善を図った.これにより課題の深掘りが可能となり,監視プロセスの改善や規格の変更などを行うことで,真の再発防止策を全社展開することができた.
米澤 直之
近年,情報システムは,システムのオープン化やインターネットの普及,クラウドの利用拡大等の技術革新に伴い,連携するシステムの数は増加している.そのため,情報システムのプロジェクトマネージャーは,ステークホルダーとして自分のプロジェクトの顧客やプロジェクトメンバーを管理することは当然のことながら,国から展開される情報を把握し,適宜,システム連携先と仕様の確認や,課題の共有を行うことが重要である.本稿では,国からの標準仕様に沿って開発している連携先の類似システムに係るステークホルダーに着目し,適用した具体的なステークホルダーマネジメント施策とその効果について報告する.
今谷 恵理,宗守 浩昭,正木 裕一,磯部 聡,佐藤 直人
2010 年代から始まった第3次AIブームの発展として,現在はビジネスへ機械学習(AI)の活用も盛んになりつつある.機械学習の中でも教師あり学習と呼ばれる分野の機構が特に頻繁にビジネスに用いられ,その名に表れているとおりこのAIは教師データから振る舞いを習得(学習)するものであるため, 内部仕様はブラックボックス化しやすいという特徴がある.また一方で,AI全般にいえる特徴として,AIの振る舞いには間違いが混ざることが許容されるという特徴もある.AIではない通常のITシステムの品質はテストにより確保されるものだが,AIにおいては上記2つの特性から仕様に基づくテストケースを作りにくく,テストケースを作ってテストしたとしても見つかった結果不正がAIの再学習により解消する必要があるかどうかの判断がしにくい.このような理由から,AIを搭載したシステムの品質確保方法はまだ一般的に確立されていないが,日立製作所では顧客に適正な品質のAI搭載システムを提供するための3段階の品質確保スキームを設け,また汎用性のあるテスト方法であるリスクベーステストを適用している.リスクベーステストを導入することでテストケースを作れ,対策(AIの再学習)の要否も判断しやすくなる.これら,品質確保の概要とリスクベーステストについて本稿にて報告する.
五十嵐 達也
近年,加速の一途にあるビジネス環境の変化に対応し,企業の経営改革を進めていくには,最新のデジタル技術とデータを活用した経営のデジタル化,デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組まなければならない.また,経営層だけではなく,さまざまな業務部門において業務環境のオンライン化,業務プロセスのデジタル化など,デジタル活用が必須となっている.一方で,老朽化したITシステムが複雑化,ブラックボックス化し,レガシーシステムとなりDX推進の足かせとなっている.このレガシーシステムをいかにデジタル経営に対応すべくモダナイゼーションしていくかが,今後の経営デジタル化において重要な項目となっている。本稿では,筆者が担当したレガシーシステムのリビルドをモダナイゼーションプロジェクトのモデルケースとして,計画段階での考慮点と遂行上の課題について考察する.
吉枝 努
SIプロセス改革を実施した。その効果の観察報告である。ここで言うSIプロセスとは、受注SIにおける提案・受注から本番・運用までのSLCPを指す。対象となる組織は、設立の経緯および担当する事業領域の特性よりSLCPに多くの課題を抱えている。その組織の外部から第三者が、その課題解決を図るべくSIプロセス改革と銘打って施策を実施した。課題の原因が、やり方にあるものは大きな改善が見られた。原因が意識にあるものは、それぞれの意識変化レベルおよび人によって効果が異なるものとなった。原因がスキルにあるものは、わずかな改善に留まった。その後は、その組織が自立して自己組織の改善を推進しており、意識面およびスキル向上を通して継続的に改善されていくものと考えられる。
谷 寿人,青木 直子
大規模なエンタープライズシステム開発において,提案依頼書(RFP)に記載される要求の品質は,プロジェクトの見積に大きな影響を与える.要求のスコープ逸脱や抜け漏れを防ぐために,RFPに対する要求インスペクションを実施している.RFP受領後の見積回答までの時間の制約から,見積にインスペクション結果を反映するためには,インスペクションの所要期間の短縮が求められている.そのため,従前のRFPインスペクションとの併用を前提として開発した速報用RFPインスペクションをインスペクションプロセスに適用し,その有効性を評価した.
富岡 重光
情報システムの案件の移管には,通常,システム稼働後の業務集約のため運用の移管やオフショアの開発等あるが,システム構築案件自体の移管も頻度は少ないものの発生する.前述のような移管と異なり,案件の移管においては,それまで対応してきた部署と引き受け部署との連携や引継ぎ,引き受け側の準備が発生するため,これらをできるだけ短い期間で滞りなく実施する必要がある.この案件移管,情報システムのインフラ基盤更改の案件の移管を立て続けて対応することとなった.これらの移管対応の中で実践した内容を纏め報告する.実際に対応した短納期のインフラ構築案件について,通常案件と移管案件との違いを比較しながら,移管後の迅速なプロジェクトの立上げおよび遂行のために,プロジェクトマネジメントのPMのタスクであるチームビルディング,ステイクホルダーマネジメント,環境整備,移管引継ぎにおける課題と対応策を挙げ,実施した案件移管の評価と考察を行う.
三好 きよみ,細田 貴明
本研究は,仕事上のコンフリクトについて,コンフリクトの内容,対象,対処などについて実態を調査し,効果的なコンフリクトマネジメントについて知見を得ることが目的である.チームや組織で仕事をした経験がある会社員を対象としてアンケート調査を行い,仕事上のコンフリクト経験について分析を行った.本稿では,コンフリクトへの対処方略を「統合」,「妥協」,「回避」,「主張」,「服従」に分類し,対処,および対処への納得感について分析した.さらに,転職経験について4群に分けて,転職経験とコンフリクトへの対処との関連について検討した.
船越 岳人
今日の我々の社会は, コンピュータや情報ネットワークなどを構成要素とする情報システム基盤に大きく依存しており,システム障害発生への安全性要求が高くなる一方である.しかし,信頼性設計をしているにもかかわらず何かしらの異常で製品での異常検知や切替に失敗し, 業務継続が阻害されることや復旧までの時間が長期化するようなシステム障害が後を絶たず, その対策が急務である.こうした未然に防止することが難しい不具合を起因とする障害への施策として,レジリエンスエンジニアリングの安全方法論を導入し, 業務停止発生時に対する運用を含めた回復力を確認する点検手法(レジリエンス点検)を新たに策定した。このレジリエンス点検をプロジェクトにて適用した結果として,障害時における対処判断の迅速化と復旧手番の短縮に貢献できると評価する.本稿ではシステム基盤を中心とするレジリエンスの考え方と,レジリエンス点検活動を実施した結果について紹介する.
石川 研吾
アジャイル開発では短期間での繰り返し開発を行うため、各機能の品質の管理がしばしば課題となる。ウォータフォール開発では各工程の終了時点でその工程の品質の状況が明確になっているが、アジャイル開発では、短期間で設計/実装/評価を行うことに加え、仕様変更やソースコード改変が頻発するため、成果物の品質状況が分かりにくくなる。このため、いかに迅速に品質状況を把握できるかが品質確保の要となる。また、開発を外部に委託したプロジェクトにおいては、その成果物の品質の妥当性を適宜検証することも重要である。本論文では、開発を外部に委託したプロジェクトにて実践した品質管理の方法とその効果について述べる。
田島 千冬
日本国内でシステム運用を実施している作業の中でもシステムに直接入る必要のない作業は定常的に発生し,対応のための時間が裂かれている.このような作業の中で,定期的にある程度定型化された作業対応をインドや中国から実施することを目的としたShared Serviceの提供を実施した.同じ言語文化を持つ日本人が同じ場所に集まった環境の中でチーム形成するものとは異なり,距離の離れた環境で,文化の異なるメンバーが,日本人同等のサービスを提供するものである.当論文では,ニューロロジカルレベルを意識したメンバーへのアプローチと,メタプログラム等のコーチングで用いられる手法を活用し,言葉や文化,価値観など様々な相違点のあるグローバルメンバーが1つのチームへと成長し,利用者から信頼を得ることができるチームを形成するまでのアプローチについて述べる.
鈴木 健一
システム故障をはじめとする重大なトラブルは,作業者の行動に起因するケースが多い.応用行動分析学では,行動の問題を勘や経験に頼って解決するのではなく,行動の基礎研究に基づいた科学的な手法によって解決する.プロジェクトのメンバの意識を変えることは難しいが,行動を変えることは可能である.「その時,なぜそのようなことをしたのか」を追求するよりも,「その時,どのような行動をとればよかったのか」を考えることがトラブルの再発防止につながる.トラブルの未然防止のために,プロジェクトのマネージャやメンバはどのような行動をとることが求められるのか?本稿では行動科学の観点からトラブルの未然防止について実際のトラブル事例を交えながら考察する.
藤田 祥平
現在,企業は新規領域拡大の一つの要素であるDXの商談を獲得していくことが強く求められている.DXの推進を図ろうとする企業は多く存在するが,企業が抱えるレガシーシステムが足かせとなっている実情がある.そのため,他社構築のレガシーシステムの再構築商談を獲得していく必要があるが,レガシーシステムの再構築は「複雑化したシステム」を理由に商談を辞退するケースや商談を獲得しても不採算となるプロジェクトが少なくない.不採算を防ぐためには,超上流工程での戦略的なリスクヘッジ策の実施が重要となる.本論文では,リスクヘッジとして必要と考えられる3つの施策「低リスクな再構築方法の選択と合意」,「不利な立場に立たせられない契約の締結」,「リバースエンジニアリングによる要件の洗い出しと次期要件の明確化」を検討し,実際に他社リ再構築プロジェクトでその効果を検証した.結果として,富士通の提案した再構築方法の採用により開発工数の大幅な削減や,リバースエンジニアリングと機能単位での処理ロジック整理により後工程での現行要件の検出0件を達成するなど,不採算防止に有効であることが確認できた.
金井 武志
近年、オンライン処理はクラウドに代表されるように処理能力自体を提供することが一般化しており、それに付随しシステムも複雑化を増してきている。複雑化したシステムでは複数ベンダーにより開発やコンポーネントの提供が行われることが多く、そのようなプロジェクトでは顧客との契約で作業スコープを定義しても、その範囲外の課題により、契約作業に多大な影響を及ぼすことがある。この場合、従来は顧客(発注者)のマネジメントに委ねられることが一般的だったものの、顧客がタイムリーに問題解決できない場合は自社の作業が滞る事態が発生していた。マルチベンダープロジェクトにおいて、このような状況の回避が可能であるのか、また、発生時の影響を軽減することができるのか、プロジェクト全体の体制や契約面を含め、一般的な課題と問題発生時における対応について整理・検討を行った。
佐藤 尚友,杉村 英二,黒木 信吾,岩田 美結
現在のシステム開発における重要なキーワード「アジリティ」.厳しい市場変化への対応力,素早い応答性を意味する言葉である.このアジリティを向上させる手法として「マイクロサービス」や「アジャイル」が注目され数年が経過した.これらは高い拡張性や柔軟性を理由に,今ではDXで先行する企業のほとんどの組織が開発プロセスに採用している.しかし,アジリティの評価方法は多岐に及び曖昧であるため,システム開発の評価に取り入れづらい.そこで本稿ではシステム開発に対するアジリティの評価軸を考察すると共に,実際に試行錯誤した事例をサンプルとして,システム開発におけるアジリティ向上に寄与するポイントを整理した.これにより,今後のDX推進の一助となれば幸いと考える.
緒方 昭彦
昨今,優秀なメンバがモチベーションの維持が出来ず,活躍が出来ないケースがある.コロナ禍のリモートワーク環境で孤立している時間が多くなっていることに加え,個人の抱える問題も多岐にわたり,マネージャから把握しづらい状況となっている.活躍できないことのすべてがマネージャに責任がある訳ではないが,結果として現場が混乱し,プロジェクト全体ひいてはプログラムに影響を及ぼす.モチベーションのマネジメント手法を分析し,適切な手法を適用し,メンバがモチベーションを維持し活躍できるプロジェクト/プログラムとすることを目的とする.
飯田 和之
システム開発プロジェクトにおける短期開発のニーズは,市場の加速とともにますます高まっており,アジャイル開発などの方法論も普及し始め,小規模開発などにはその活用が見られ始めているが,金融系システムなどの大規模システム開発では,十分に活用ができていない.従来のウォーターフォール開発からアジャイル開発への切り替えの難易度が高いことがその要因ではあるが,そのような状況の中,従来のウォーターフォール開発を継続しつつ,開発期間短縮を実現する手段としてテスト効率化への期待は高い.本稿では,大規模プロジェクトや輻輳プロジェクトにおける開発期間短縮を実現する手段として,リグレッションテストの効率化に関する検討を行う.
大迫 礼佳
コスト削減やリソースの有効活用を目的として,多くのアプリケーション開発プロジェクトではオフショア開発が採用されている.また,アプリケーション開発プロジェクトにおいて,成果物の品質を高い水準で維持することはプロジェクトマネジメントの観点から非常に重要である.一方で,海外チームと協業する場合,言語や文化の違いからオフショア要員とオンサイト要員の間では仕様理解や品質への意識に相違が生じる場合がある.それらの相違が品質の低下を引き起こし,いくつかのプロジェクトではプロジェクトマネジメント上も問題となる状況が発生している.本稿では,自身の海外チームとの協業経験に基づき,この課題を解決する取り組みの紹介,また,他の手法との比較および考察を行う.
小野島 直子
近年,システム開発の現場でアジャイルのニーズが高まっている.将来の予測が困難となり,社会変化へのスピーディな対応が求められる現代に,プロダクトの早期リリースと変更への対応を重視するアジャイルの考え方はフィットしやすく,様々な業界および職種で活用が進んでいる.公共分野のシステム開発においても,自然災害やパンデミックへの対応,法改正,防衛上の理由などコントロールできない外的要因が多いため,変更の発生を前提としたアジャイル・アプローチは有用と考えられる.しかし推進にあたって課題もある.本稿では,アジャイルを適用した複数の公共システム開発案件の中から,特徴的な事例を報告する.またその実践を通じて抽出した,公共のシステム案件におけるアジャイル適用の有用性と課題に関する考察を述べる.
木村 良一,三好 きよみ,酒森 潔,木野 泰伸
2018年に“DXレポート”が経済産業省から公表されて以降,デジタルトランスフォーメーション(DX)は社会に広く浸透しつつある.そのDXを推進する1つの手段としてのアジャイル開発についても関心が高まっており,プロジェクトマネジメント学会においても,さまざまな局面においてアジャイル開発の適用が試みられ,多くの研究発表がなされている.本研究では,これらを対象にしたテキストマイニングによる分析結果を報告する.分析の対象は,1999年から2023年までの間にプロジェクトマネジメント学会の春季・秋季研究発表大会の予稿集に掲載された論文の要旨部分である.各論文要旨を発表年で3つの時期に分けて各時期の特徴を分析した.その結果,発表論文の傾向は,プロジェクトの課題に関することから,企業としての課題に関すること,さらには大規模プロジェクトへの適用に関することへと変遷していることが示された.
北川 圭介
顧客エンゲージメントを高めるためにはステークホルダーマネジメントは有効であり,年々重要性の認識は高まっている.また,システム導入形態は時間がかかり比較的費用が高くなるフルオーダーメイドのスクラッチ開発から,安価ですぐに利用可能で社会の動向に追随しやすいパッケージ・サービスへシフトするニーズが高まっている.当社においても従来のスクラッチ開発と合わせてパッケージ・サービスの開発を進め,その拡販活動を推進している.受注に至るまでの活動においては顧客のニーズに合わせて開発するスクラッチ開発案件の受注活動と,多数の顧客のニーズをうまくパッケージ・サービスに合わせる受注活動ではステークホルダーマネジメントが異なるためマネジメント 手法に工夫が必要である.また,多数の顧客にアプローチするため顧客の企業風土や事業環境によって活動が異なり,更に各顧客の発注に至るまでのプロセスを正確に把握し,どういう手法を使いアプローチすればよいかについても営業やSE,幹部などで共通的な意識をもって対応することが重要である.ついては,合理的かつ効果的な組織的対応の実現のため,顧客の選定から契約・受注までをフェーズ分けし,顧客ごとにどのようなアプローチをすべきか,注意点は何かなどについてカスタマージャーニーマップを作成し,整理した.これにより営業,SE,幹部間で課題の共有,対策をスムーズに推進することができた.今後はこのカスタマージャーニーマップを充実させ有効に活用することで受注を拡大していく.
細谷 徹
リモートワークが浸透してきた一方,リモートワークには特有の課題も存在する.さらに,システム開発は委託先や再委託先を含む体制で実施するため,プロジェクトマネージャは委託先や再委託先で発生するリモートワークに起因する課題にも対応しなければならない.本稿では筆者の経験に基づき,リモートワークの課題に起因して,進捗遅延とバグ多発という問題が発生した状況において,プロジェクトマネージャ自身が委託先や再委託先の課題把握や解決に主体的に関与することで改善させた事例を示す.
南 幸雄
プロジェクトマネージャ(PM)は,経営戦略に適合したプロジェクトを円滑に遂行し,計画された最終成果物を提供し,プロジェクトを成功させる責任を担っている.デジタルトランスフォーメーション(DX)やIT技術の発展により,プロジェクトを取り巻く環境は高度化,多様化している.これらの環境に対応したシステムは,より高度化,複雑化したものとなり,さまざまなステークホルダーの満足を達成しつつ,計画された品質,コスト,納期の実現が求められている.プロジェクトを円滑に遂行し,成功させることが従来よりも増して困難になってきており,ますますPMの存在が重要となってきている.このようなPMを育成するためには,高度なスキルとコンピテンシーが求められ,中長期的な視野に立った育成が必須であるとともに,ビジネス戦略や事業ポートフォリオとの関連性も考慮する必要がある.このような課題を解決するために,本稿では,統一的な基準による人材の見える化,教育,育成するための仕組み,および実際のプロジェクト経験を踏まえて総合的に取り組み,実効性のあるPM育成を実現するための施策について,人材育成事例を通じた検証を行い考察する.
中原 あい,関 哲朗
中原らはKotlerらの顧客志向の概念を援用して,プロジェクト・メンバの内的動機付けモデルを提案した.この提案モデルは,プロジェクト・チームと顧客の間の相互ロイヤルティの下で,メンバのモチベーションを高め,プロジェクトの成功を確保しようとするものである.この提案の仕組みはメンバの利他的行動に起点を置くものである.中原らは,Kotlerらの顧客志向に理論的裏付けを得るために,利他的行動による幸福論など,人間の基本的な行動にもとづく考察を行っている.本研究では,アドラー心理学を背景とする利他行動の整理によって,中原らの提案するモチベーション形成モデルの理論的裏付けを行った.結果として,提案のモデルが理論面で有効であることが確認された.
片山 結沙,関 哲朗
プロジェクトの成功確保の基本の1つは,コロケーションの実現である.これは,偶発的コミュニケーションの成功確率が個人間の距離に依存することに由来する.2019年末から始まったコロナ禍は,リモートワークによるプロジェクトへの参画をプロジェクト・メンバに強制し,このような常識の変化を余儀なくさせた.しかしながら,現状のツールを用いた遠隔参加による作業や会議には深刻なコミュニケーション不全が存在し,結果として,プロジェクトの生産性の低下や失敗が指摘されるようになった.本研研究では,コミュニケーション不全の原因を,コンテクスト共有の欠落とノンバーバル・コミュニケーションの不足と仮定し,これらに該当する事例を示すとともに,その原因を示すことで,現状のリモートワーク環境の改善を示唆した.
西中 美和
プロジェクトの成否は,そのプロジェクトでのチームとしての能力に負うところが大きい.このチーム能力の構築には,知識統合の仕組みが求められる.先行研究では,知識統合の前提条件としてチーム内の信頼があると言われている.また,信頼の先行要因の1つは能力であることが述べられている.しかしながら,プロジェクトにおけるチーム能力と信頼,知識統合の関係は研究が不十分である.先行文献調査により,それらの関係を調査し,リサーチ・ギャップを提示した.「相手に能力があるから信頼し,その結果,知識統合が起きるのではないか」をリサーチクエスチョンと設定し調査の結果,「知識統合は,信頼を生みだし,ひいてはチーム能力が向上する」という関係も考えられることがわかった.信頼構築に関し,他要素との関係を示唆することにより,プロジェクトが成功するための要因研究に繋がることで理論貢献を行い,ひいてはプロジェクト運営に貢献する.
木村 翔,下村 道夫
ビジネスシーンでは問題解決が必要になるケースが多い.問題解決をするには筋道を立てて考えたり,選択肢の比較評価により最適解を導き出したりすることなどを含む論理的思考力が必要になる.その力を向上させる手段としては,書籍を読む,議論をするなどがあるが,いずれも楽しさや夢中にさせる要素が少ないため継続性に欠けると考えられる.そこで本稿では,論理的思考力を向上させるための一手段として競馬の勝馬予想に着目した.勝馬予想では様々な情報を分析して比較評価し最適な勝馬投票券を導出する思考プロセスが含まれており,論理的思考力と類似する部分が多い.これまでに,競馬の勝ち馬予想で論理的思考力が向上すると主張する文献は存在するが,その効果を定量的に評価したものはあまり見当たらないため,今回検証した結果を本稿で報告する.20歳から24歳の40人を被験者とする検証の結果,勝馬予想を3回実施した場合に13%の論理的思考力向上が見られた.
徳永 成朋,藤本 歩夏
昨今のビジネス環境の凄まじい変化により、企業間の競争は国境を越えて行われ、従来の市場の枠を越えた競争は日々激化している。企業はこの変革の波に押され、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していくことが急務となった。そして、その一環としてERPシステムを用いた業務改革を検討する企業が増えている。ERPシステムの中でも、SAP S/4HANAは世界で最も導入されているソリューションであり、新たなビジネスモデルへシフトするための基盤としての重要な役割を果たしている。しかし、SAP S/4HANA導入においては、SAPの「2027年問題」や慢性的なSAP人材不足などの諸問題が絡み、複数の課題に直面することとなる。本論文では、それらの課題の中で運用体制構築における課題解決へのアプローチとして実施した「SAP S/4HANA教育を含めたユーザ企業IT部門への運用引継ぎ」と「ニーズに合わせたカスタム運用サービスの提供とそのシェアード化」について紹介するとともに、その成果について述べる。
二村 公英
ITプロジェクトを開始する際にはスキルセットや経験が異なる要員を招集し,チームを編成するが,それだけではメンバーが協力してプロジェクトが円滑に開始されるとは限らない.円滑にプロジェクトを推進するためには,メンバーがメンバーシップを発揮し,自律的に行動できるようになる必要がある.本報告では,同一期に同一目的の2プロジェクトを立ち上げた実践を通じ,メンバーがメンバーシップを発揮し,チーム内で協力し,チームとしてどう活動に着手したかを比較する.
渡辺 祐希
弊社では全社的にグローバル要員との共業を進めることでビジネスの拡大を図っている.筆者が携わっているパッケージシステムでは製品保守においてグローバル要員との共業体制を構築していたが,更なるリソース拡大を目指して製品開発における業務範囲の拡大を目指した.しかし,従来の製品開発は弊社及び国内パートナーを主体とした開発体制をとっていたことから,グローバル要員への体制シフトを行ってしまうと品質が悪化する可能性があった.また,国内パートナーにとっては請負範囲が減ることによるビジネスインパクトや,継続した体制が維持できないといった問題もあり,これまで培ってきた関係性の悪化にもつながりかねないという課題を抱えていた.そこで,国内パートナーとの協力関係を維持しつつ,体制変更による品質の低下を防ぐため,弊社と国内パートナー及びグローバル要員の開発プロセス再構築の取り組みを行った.本論文では品質確保をしつつグローバル要員との共業体制によりリソース拡大を実現した手法と成果について述べる.
曽根 寛喜
近年,仕事をしながら大学院に通い博士号取得を目的とした,いわゆる社会人ドクターが増えている.その背景の一つとして,各大学院が仕事と大学院での活動を両立できる仕組みを導入していることが挙げられるが,社会人ドクターとして実際に両立できるかは別の話となる.本稿では筆者が現在実施している1年近い社会人ドクターとしての活動を整理する.そのうえで,仕事と大学院での活動の両立状況や発生している課題および解決策,大学院入学までに検討・実施すべきであったことについて考察する.
伊藤 智信
デジタル化の進展に対する意識調査では,約8割の企業がレガシーシステムを抱えていると回答しており,これらの企業がDigital Transformationを推進していく上では,システムの見直しが必要である.システムを見直す手法として,モダナイゼーションが挙げられる.モダナイゼーションを推進する上では,システム全体の機能を整理し,広範囲にわたって個々の機能を点検する必要がある.点検する上での課題は,「システム全体の熟知が困難」と「点検に充てる開発期間,開発予算の不足」が挙げられる.その対策として,「システムの要所を押さえた重点的な点検アプローチ」,「費用対効果を向上させる効率的な点検アプローチ」と,さらに「データ起点と運用起点にもとづいた点検観点の抽出」,「システムテストにより課題を抽出するイテレーション型の点検プロセス」などの新たな観点を加え,「システムの広範囲にわたる機能点検手法」を定めた.この手法を同様の課題を抱えるプロジェクトに対して適用した際,ユーザーに対するリスクを最小限に抑え,安定した品質を確保することができた.この手法は,モダナイゼーション問わずシステム点検において幅広く適用できると考える.プロジェクト適用事例での効果,教訓と今後の展望について論述する.
櫻井 希
筆者は,お客様業務部門が主体となるシステム開発にPMOとして10年従事した.情報システムを専門とする部署ではないことから,システム開発経験が無い方が多数いること,スキル・経験を得た人材が異動してしまい,組織としてスキルが定着しないことをお客様自身が課題として捉えていた.本稿では,業務部門のお客様の特性を元にした研修内容の策定方法,およびその考察を述べる.具体的なアプローチとして,過去に発生した事象を原因分析し,「基礎的なプロジェクト管理スキル」,「担当システムの開発方針の理解」,「発注者として役割認識」を重点とした研修を開催した.研修では,必要性の理解,興味がある内容の深堀り、具体的な注意点の説明に重点をおいて実施した.受講者からの評価フィードバックでは90%以上が,本研修が役に立ったとの評価を得たことから,業務部門向けの研修として高い効果を得ることができた.テーマの選定方法や研修内容は,他の業務部門向けにも今後活用が可能である.
佐藤 隆広,西中 美和,山本 靖
高品質な製品の製作プロジェクトの現場では,他者との関わり合いが製品を製作するうえで重要である.そこには,仮想的に他者の立場に立つという「視点活動」が求められる.視点活動は,他者の心情理解を行い,他者が見ている情景をイメージとして生成する情景理解を行うことであり,それらによって関係性は築かれている.先行研究では,視点活動が経験に基づいた行為であり,現場で活用されるイメージ生成を行っていると述べられている.しかし,視点活動が実際に活用されるに至る人の内的な過程は明らかになっていない.本稿では,事例研究と定性分析を行い,視点活動が経験に基づいた行為であるという点と,現場で活用されるイメージ生成を行っているという先行研究を検証した.さらに,視点活動は,それらの要素の仲介活動であるという新たな含意を提示した.理論が現場で活用される過程を明らかにしたことで,他者理解と関係性を促進し業務に貢献する.
菅原 康友,水野 亮,森口 隆弘,石野 克徳
近年のDXの流れにおいて,様々な業界でデータやAIを活用した取り組みがなされている.NTTデータでは,プロジェクト管理におけるDXの取り組みとして「品質管理におけるバグの定性分析の一部自動化」をテーマにAI開発を行っている.本取り組みでは,定性分析をバグ票を起票する「報告」ステップ,バグの種類や原因をグループ化する「分類」ステップ,分類結果から対策を検討する「分析」ステップの3ステップに分類し検討している.このうち,「報告」の質を高めることでその後の「分類」,「分析」の精度・効果を高めることが期待される.しかし,バグ報告の質を高めるためには,バグ報告に書くべき観点が正しく記載されているかについて,有識者がチェックする必要がある点が課題である.そこで本研究では,有識者によるバグ報告チェックをAIで代替可能かどうかを明らかにすることを目的として,バグ報告チェックAIを開発した.その結果,有識者によるバグ報告チェックの内,最も重要なチェック観点において,最大約80%が代替可能であることが明らかとなった.
樋熊 博之
多くの企業では組織の職掌が明確に規定され,自部門の目標を達成することが求められる.ITベンダー企業の多くはプリセールスとポストセールスとで役割が分担され,前者は営業・提案活動,後者は一般にプロジェクトという形式となる.プロジェクトでは設定された目的を達成するための計画策定とその遂行が優先される上に,新規ビジネスはプリセールの役割であるとの考えが浸透している.しかしながら,プロジェクトの現場こそが新規ビジネスの宝の山であり,それを発掘することが企業の成長の原動力となるのである.本稿では,筆者らが参画した,ある大型プロジェクトにおけるプロジェクト管理アドバイザーという僅か2名の『掘っ立て小屋』のような案件から始まり,新規ビジネスを獲得して『タワマン』のような巨大プロジェクトに成長させた事例とその中で活用したプロジェクトマネジメントの手法とナレッジである「コミュニケ―ションマネジメント」「ステークホルダマネジメント」「期待値コントロール」について具体的に紹介する.
佐藤 雅子
Covid-19の流行と共にリモートワークの推進が様々な企業で行われ一般化してきており,今後も働き方の選択肢としてリモートワークが定着していくことが考えられる.リモートワークは通勤時間の短縮などメリットもあるが,一方でプロジェクトチーム育成の観点からすると,チームメンバーのモチベーションの維持,スキルの育成,コンピテンシーの改善,チームの結束力の強化などをどのように行うのかということが新たな課題になっているプロジェクトも多いと捉えている.「チームの結束力の醸成」はリモートワークにおいて実現することが難しい課題の1つであると筆者は考えている.今回は特に人間の源泉である霊長類や人の「五感」に注目し,ここからプロジェクトチームの結束力の醸成やパフォーマンスに対して効果的な手法とは何かを考察する.
野尻 一紀
ウェルビーイングはSDGsの目標3に掲げられ,非常な注目を集めている.またPMBOK®ガイド第7版ではサーバントリーダーシップが強調されている.メンタルヘルス研究会では心の健康に着目したプロジェクトマネジメント研究を行ってきた.内容はプロジェクトのメンバーがメンタルヘルス不調に陥らないための対処法から,ポジティブ心理学の考え方の取り入れ,メンバーのモチベーションを挙げて上げてプロジェクトを進める方法へと変遷してきた.プロジェクトのメンバー全員が主観的ウェルビーイングとレジリエンスを高め,メンバーみなとの人間関係のつながりを強めていくことが,プロジェクトにおいて,創造性,業績と働き甲斐を同時追求していくために重要である.
大貫 隼輝,吉田 知加
デジタルトランスフォーメーション(総務省, 2018 )や,デジタルディスラプション(総務省, 2021)により国内外の企業がデジタル化の影響を受けるなかで,時代は,新しい製品,サービスをいち早く市場に出し,より良いフィードバックを得て,より多くの顧客を獲得する時代へと突入している.アジャイル型開発は,短期間の開発で必要機能をリリースでき,市場へ展開できるソフトウェアモデルとして,関心を持たれてきた.しかし,日本企業の中では,思うほど推進されていない.本論文ではこのアジャイル型開発とシステム開発契約に関する先行研究から,そのモデルの特徴と日本企業での実践における特有性と課題を確認する.さらに,日本企業で一般的とされる受託開発でアジャイル型開発を実践する企業実務家へのインタビューをもとに,アジャイル型開発における契約の現状をテキストマイニングにより確認する.そこに見られる課題から,ユーザー企業側,ベンダー企業の相互に有用な契約とは何かを考察する.
山本 椋平,石津 大輔,桑田 直樹,後藤 卓司,浅田 隼人,山村 喜恒
近年では,ビジネス環境の変化に追従するため,短いリリースサイクルで仮説検証を繰り返すアジャイル開発が多く採用されている.ビジネスアプリケーション開発においては,十分な品質を確保するためにウォーターフォールとアジャイルの開発を組み合わせたハイブリッド開発を採用し,テスト工程を設けて時間をかけてテストすることがある.しかし,アジャイル開発の本来の目的である短いリリースサイクルの達成は難しく,アジャイル開発に適したテスト方法に変えていく必要がある.そこで,世の中にある多くのテスト技法や考え方などから情報を集めて,テスト4象限をベースにアジャイル開発に必要なテストや実施方法を検討した.さらに,短いリリースサイクルの中で効率よくテストを進めていくための品質確保方法論にまとめた.本稿では,プロジェクト立上げ時のマネジメントポイントとして体制やテスト計画の勘所を論じる.
笹野 真子,高木 輝希,白井 伸司
1.背景顧客企業には老朽更新が必要な基幹システム、IT資産が多く存在している。彼らはそれらを活用しながら、業務を継続させねばならないという課題に直面している。そのような背景の中、私たちは製造業の生産管理システムに対するマイグレーション開発をおこなった。2.課題ウォータホール型のスクラッチ開発と異なり、マイグレーション開発には要件定義や設計工程は存在しない。対象システムに対する有識者がおらず、テストケースが作成できないという状況で、段階的に品質確保を行う開発プロセスが必要であった。また、顧客の要求事項である高品質・低コスト・短納期を達成するために、現行資産の改修範囲の極小化や最大限の属人性排除が必要であった。3.対策私たちは最初にマイグレーション開発における開発プロセスを定義した。そして、プロジェクト企画・開発・テストの各開発工程で段階的に品質を積み上げるため、次の施策を実施した。 1)企画工程では、開発プロセスの定義、現新非互換を埋める変換プログラムを設計 2)開発工程では、属人性を排除するための変換手順、変換ツール化、レビュー方法の確立 3)テスト工程では、UI部分の品質確保としてアドホックテスト、リグレッションテスト自動化
塚本 哲史
スクラムは一般的にはアジャイル開発に採用されることが多い.しかしスクラムはビジネス活動全般において広く採用されており,かつその特性から,ソフトウェア開発においても適用対象がアジャイル開発のみに限定されるものではない.スクラムの特徴は高速に経験を繰り返して学習することにあり,適用対象となる活動が有する不確実性を克服するためには有効な取組である.本稿では,体制や技術面に高い不確実性を有する大規模ウォーターフォール開発案件においてスクラムを適用した事例を通し,開発プロセスとしてのウォーターフォール開発とマネジメント手法としてのスクラムは決して背反するものではないことを説明する.またウォーターフォール開発において従来採用されてきたマネジメント手法との比較を通して,スクラムは,自発的に動く,人間らしい働き方を取り戻す,組織を変えるためのマインドチェンジとして有効であることを提案する.
峯岸 朋弥,大澤 博隆,宮本 道人,藤本 敦也,西中 美和
本研究では,SFプロトタイピングワークショップにおける発話の分析を行う.SFプロトタイピングは,SFを作る過程を利用して参加者の発話を引き出し,ビジョンを作成するワークショップ手法である.発話を効果的に引き出す手法とするには議論プロセスの分析が必要である.しかし,先行研究では,SFプロトタイピングの成果物を評価しているが,議論中に発話された未来の言葉がどのようなプロセスで発生したかを分析した例は少ない.この課題を解決するため,発話プロセスを時系列で記録するツールとしてWebアプリケーションを開発した.アプリケーションで取得した データと議論の録音データを照合し分析した結果,発話のタイミングを可視化することができた.時間管理をアプリケーションで行った結果,手順に従って議論したグループは最終成果物の制作とブラッシュアップに時間をかけることができ,ワークショップの成否を評価することができた.
平田 修司
近年,お客様を取り巻く環境の変化や様々なニーズに対応するために,ソフトウェア開発の分野においてもアジャイル開発を取り入れているプロジェクトが増加してきている.それはニアショア拠点のプロジェクトにおいても同様で,お客様に素早く価値を提供するためにアジャイル開発を実践する事例は増えており,プロダクトオーナーと開発チームの拠点が離れているという構成も多くみられる.しかし,アジャイル開発の本質としては,同じ作業スペースで一丸となって開発を進め,コミュニケーションを形成するということが推奨されており,いざ実践してみるとコミュニケーションや意思疎通の面において,難しさを感じることや課題も多い.本稿では,ニアショア拠点におけるアジャイル開発の取り組みや実践例を紹介するとともに,その効果およびそこから見えてきた課題・問題点の考察とその対策について提示を行う.
磯本 憲一
システム導入プロジェクトにおいては,上流工程におけるプロジェクトのコントロールがプロジェクトの成功を左右すると言って過言ではない.上流工程において,顧客の要求事項を正しく分析し,その結果にもとづいた後続工程の計画立案が重要である.一方,上流工程においては,要求事項を積み上げた結果,スコープクリープを引き起こし,納期オーバー・予算オーバーへとつながりプロジェクトを再考せざる得ないケースも少なくない.このことから,上流工程を推進する過程において,要求事項の変動に対するスケジュールおよびコストへの影響を定期的に評価し顧客と共有することが非常に効果的であると考える.本稿では,実際のプロジェクトで実施した上流工程における規模変動管理の有用性について検証する.
金山 尚史
プロジェクトマネジメントにおいてリスクを適切に管理することは,スケジュール遅延やコスト超過を発生させず,成果物の品質を維持するためにも非常に重要である.また,適切にリスク管理を行うためには,管理するリスク項目の数がプロジェクトチームの制御可能な規模を維持する必要がある.しかし,いくつかのシステム開発プロジェクトでは,作業の平準化ができていないことで,プロジェクト作業のピーク時にリスクへの対応が疎かになり,その結果としてプロジェクトチームで管理可能なリスク項目数を超えてしまうことで,プロジェクト全体に大きな影響を与える場合がある.本稿では,適切にプロジェクトチームの制御可能な状態でリスク管理を行うために,段階的なシステム開発・導入を行うプロジェクトに従事した経験から得られたメリットと考慮すべきリスクを整理し,そのリスク対応策についての考察を行う.
海堀 修,袖 宏冶
当社では組織的なプロジェクトマネジメントの取り組みを進めてきた。不採算プロジェクト(当社で設定した基準を超える赤字となったプロジェクト)の発生件数および金額は減少傾向にあるがその要因については明確に把握できていなかった.そこで近年不採算プロジェクトの発生を抑止できた組織(事業部門)に対しヒアリングを行い,組織とプロジェクト,PMOがどのような取り組みを行っているのか調査した.不採算プロジェクトの発生を抑止できるようになった組織には共通の特徴があることが分かった.調査の結果について報告する.
金子 英一
DXを推進する国内の企業や組織の人材育成の指針として,DX推進スキル標準がIPA/経済産業省から発表され,既存のDXリテラシー標準と合わせて,デジタルスキル標準が整備された.企業・組織がデータやデジタル技術を活用して競争力の向上を目的として, 国内では"学び直し"と表現されるリスキリングを進めるうえで,デジタルスキル標準の今後の活用が期待される.一方で,DXソリューションを顧客に提供するITソリューション・プロバイダーにおいても,顧客のDXへの取組に先行して自社のDX人材育成を進めているくことが更に重要となっている.国内でリスキリングを推進する一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブによるリスキリングの定義は「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し,そして新しい業務や職業に就くこと」を指す.ITソリューション・プロバイダーが自社の要員を従来のIT領域からDX領域へとシフトするために,新たなスキルを習得させる/することも,DXのリスキリングと捉えることができる.顧客のDXの取組を支える役割を担う,プロジェクトマネージャーのDXリスキリングは,DX領域へのシフトの中でも特に注力が必要な課題である.本稿では,プロジェクトマネージャーを取り巻く環境の急速な変化に対し,ITスキル標準及び新たな領域の"学び直し"の指針であるITSS+と合わせてDX推進スキル標準を,プロジェクトマネージャーのDXリスキリングの指針として活用することの有効性を考察する.
櫻澤 智志
筆者は,自社にてマネジャー業務を行う傍らで,非常勤講師として,北海道内の大学におけるプロジェクトマネジメント講義を長年担当している.振り返ると,一連の授業を通して得られた経験や知見の多くは,実は,教わる立場の学生たちによってもたらされたものである.さらに,これらの学びが,組織の活性化や若手~中堅社員育成といった場面で大いに活用されていることを再認識した.この経験事例研究が,各企業でマネジャーが直面する「壁」を打破するヒントとなるべく,一企業の社員が大学生から何を学び,どう生かしていくのかを考察する.
中村 知久,鍋谷 祥子
本稿では、筆者が第三者品質保証として参画した大規模SIプロジェクトにて、適切な品質評価を行うため品質状況の見える化について工夫した事例を紹介する。NECでは、バグ密度とテスト項目密度を2軸とした「品質判定表」を用いて品質を評価しており、本プロジェクトでも「品質判定表」に工夫を加えて活用した。工夫点は3点あり、1点目は「優先的に品質評価すべきサブシステムの見える化」、2点目は「品質評価のタイミングの見える化」、3点目は「サブシステムの分布からの品質状況の見える化」である。実施した工夫が品質状況の見える化にどのような影響を与えたのか、その効果について述べる。最後に、品質状況がより見やすくなる改善案など、更に工夫をするための考察についても述べる。
五領 舞衣
「プロジェクトマネジメント」とはプロジェクトマネージャーだけが持つスキルではない.チームメンバー側でもできるプロジェクトマネジメントのスキルや領域は存在するが,今回は比較的新しい概念を紹介する.「ボスマネジメント」である.「ボスマネジメント」,より正確に言うとそれを応用した「プロジェクトマネージャー(PM)マネジメント」は,プロジェクトマネージャーとの関係を良好にし,チームや自分のパフォーマンスを最大化するために,メンバー側から働きかけることができる有効なコミュニケーション管理の一つだと筆者は考えている.コロナ禍でコミュニケーションを取る場所がバーチャルに移行し,マネージャー側から見えない部分が増えることにより,メンバー側からのコミュニケーションがこれまで以上に重要になっているからである.本稿では,これまでの筆者の経験を元にボトムアップからのコミュニケーション管理とその重要性について考察する.
黒柳 友菜人
近年,ビジネス環境の変化に適応し,継続的にサービスを改善するという目的で,アジャイル開発を適用するプロジェクトが増えている.一方,アジャイル開発が,コストカットや納期短縮の手段として適用するなど,アジャイルソフトウェア開発宣言の趣旨とは異なる使われ方をするケースが懸念されている.当部署でも,自社SaaSサービスの開発に対し,サービスの継続的な改善を実施するという観点で,アジャイル開発の1手法であるスクラム開発を適用した.しかしながら,厳しい納期で機能開発が優先となり,リリース前後で顧客より多数の指摘を受けるという問題が発生した.本稿では,スクラムの実適用で発生した問題,原因,今後の改善策について述べる.
明石 明日香
管理部門におけるDXとは、日々の模倣型、定型型業務をデジタル技術を活用し、ビジネスをより良い状態へ変革することです。一方で、企業の管理部門は、従来から形式的に行われている業務に加えて、DXを加速させるために創造できる思考力や駆動力が求められているところに課題を抱えている現状です。本件では、IBMから分社化したキンドリルの管理部門が1年を通じてプロジェクトマネジメント手法を活用し、プロジェクトを推進、改善してきたのかを論述します。
二ノ宮 朝子,安田 真規,塚元 裕加里,松田 健佑,椿 晃茂
DXへの取り組みが加速する中、製造業ではそれらを取り巻く環境の変化に伴い、エンジニアリングチェーンの機能強化が求められている。また、経営者としても、ビジネスモデルの変革が今後の重点課題として注目されているため、DX人材の育成は必須となっている。PLM(Product Lifecycle Management)はそれらの課題を解決できるシステムであり、価値の高いバリューチェーンを創出するための重要な構成要素である。本稿では、そのPLMの顧客への導入に対し、SEと営業が従来の役割の垣根に拘ることなく協力し、個のスキルアップを図り、若手中心の次世代型のチームとして自律的に活動しているその成果と教訓について述べる。またその活動の中で、クラウド・サービス化やSIプロセスの標準化に挑戦し、職種や会社の枠を越えたリソースの共有を目指していることについても触れる。さらに、プロジェクトマネジメントについても従来の役割に留まらず、暗黙知を形式知化させ、ナレッジ・エンジニアに組織全体を成長させるような役割を持たせる取り組みについても述べる。
關口 拓未,谷本 茂明
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い,企業はデジタル技術を活用し,ビジネスの利便性向上やイノベーション創出に関する取り組みを加速させている.その反面,誤操作による個人情報漏洩等のインシデントも数多く発生しており大きな問題となっている.本論文では,我々の先行研究である誤操作等に起因する情報漏洩インシデント低減に資するセキュアなユーザエクスペリエンス(UX)環境を対象にリスクアセスメントを実施し,その有効性を明らかにする.最初に,誤操作のリスク要因をRBS手法により53個抽出し,これらリスク要因に対し,リスクマトリクス手法を用いて,UXの特徴である非サイバー面も考慮した具体的なリスク対策を提案した.これらの対策案の開発に要する費用をファンクションポイント試算法により計算した結果,軽微な開発(約3人月)で可能であった。以上より,実運用性の観点より提案手法の有効性を評価した.
宮口 裕基,小田部 奈美,板谷 里美,有川 順二,古賀 茂毅,椛島 章正,藤 英樹,中村 隆宏,大田原 朗雄
我々は,2007年に初版を開発した通信事業者向けネットワーク管理システムを,約15年間,継続的に定期開発かつ短期間開発を繰り返し実施している.当初の開発技術は古くなり,お客様や開発体制も替わり,有識者や技術保有者が入れ替わって行く中で,あきらめずソフトウェア開発の効率化と品質確保のための改善活動を取り組んできた.その取り組みについて紹介する.
前田 紗矢香,清水 裕斗
近年,企業経営におけるデータ利活用の重要性は高まり,データ分析基盤の構築が求められている.特にプロジェクト運営の原動力となる人への投資,事業拡大や新事業開発に向けた投資など,経済的資源を有効に活用するためには,事業年度の早い時期に正確な利益予測を行うことが不可欠である.そこで本研究では,売上や経費の推移情報から事業年度末の利益を予測するモデルの構築を行う.具体的には,四分位数をカスタマイズしたアルゴリズムを用いて,売上や経費の推移情報から上振れや下振れ情報を排除し,標準的推移情報を構築する.この標準的推移情報を回帰分析することで,事業年度末の利益予測を行うモデルを構築した.
松岡 勲
第二次世界大戦で,旧日本軍は米ソ両方から,兵は優秀,下級幹部は良好,中級将校は凡庸,高級指揮官は愚劣と評された.なぜリーダーは凡庸ないし愚劣と評されるのか.組織論の立場から戦史を研究した良著「失敗の本質」を参考に,旧日本軍の個々の戦闘をプロジェクトに見立て,当時の将官の判断の背景を探ることで,プロジェクトマネージャの誤判断が自チームの実力過大評価によってもたらされやすいことを考証し,米国の事例と対比させることで日本のプロジェクト特有の問題点を提起した.
千葉 淳
【背景】近年リモートワークが普及した一方で、出社して対面で業務を行うことの価値も再認識されてきている。出社とリモートの両方の選択肢があるハイブリッドワーク下で、それらをどう使い分けていくべきかは、業務特性や個人の考えにも依存するため一定の答えはない。本論文では、メタバース空間のアジャイル開発において、出社とリモートを使い分けたマネジメントの実践例を紹介する。出社とリモートの使い分け方に一般的な答えはないが、メタバースのアジャイル開発という領域においては、有効な1つの回答を得ることが出来た。【実践内容】メタバース空間の開発は、成果物の細かいUI確認と相談を頻繁に行いたいため、ハイブリッドワーク下でのコミュニケーションに工夫が必要であった。まず、チームキックオフやスプリントレビューに対面を取り入れ、心理的安全性の向上を図りコミュニケーションの活性化を行った。その上でデイリースクラムにて利用するWeb会議のIDを常時開放しておき、気軽にコミュニケーションを取れるようにした。また、タスク管理はオンラインホワイトボードのMiroを活用し、直感的操作によるかんばん形式にて各タスクの状況を可視化した。これらにより課題の発見、共有から相談に繋げるという流れができ、短期間でメタバース空間を作成するという成果を得ることが出来た。
石原 寛紀
プロジェクトにおいて,プロジェクトマネジメントの専門組織であるプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)を設置することが多くなってきている.そして,PMOが,プロジェクトマネジャーを支援し,強力にプロジェクト管理,推進を行っていくことがプロジェクト成功モデルの一つとなっている.一方で,様々な背景や問題も見えてきており,PMOがうまく機能せず,プロジェクトを成功に導けない例もでてきている.本稿では,プロジェクトを成功へ導けないPMOの困難な点や問題点をあげ,その原因と解決方法を整理する.筆者が実際に適用しているプロジェクトのPMO業務を紹介し,その評価,考察を行う.
北岡 幸子
システムは構築後も,ニーズや最新技術を反映すべく,一般的に5~7年周期で大規模更改を行う.このサイクルを見据え,上流工程で必要となる有識者維持のため,大規模更改の間も含めたリソースプランニングが重要である.その際,同一システムに対し,ステークホルダー,要件,期間の異なる大小様々な複数プロジェクトを平行して開発することとなる.加えて,近年のビジネス環境,技術変化の速さや感染症,情報セキュリティ脅威といった不測かつ危急な変動要因が,複数プロジェクト遂行のコントロールをさらに難しくしている.これら複数プロジェクトの変動要因を許容しつつQCDを維持するために,ステークホルダーとお互いの課題を共有し,共に解決策を考えることで,柔軟かつ効率的なマネジメントを実施し,プロジェクトの同時遂行を可能とし成功裏に終えることができている.こういった,相互に影響しあう複数プロジェクトのプロジェクトマネジメントに関する対策事例を説明する.
河本 慎一郎
近年,プロジェクトの短納期化が進み,プロジェクトを成功に導くためにも,進捗状況を的確に把握していくことが重要となっている.筆者の所属組織におけるプロジェクト管理では,WBS形式の進捗管理が標準的に行われている.しかし,多量の機器を構築する大規模インフラプロジェクトにおいては,WBSは膨大な数のタスクに分解される.さらに,PJが短期間である場合,多数のタスクが同時並行で遂行されるため,常時網羅的に全体を把握しながらプロジェクトを管理していくことは難易度が高い.本稿では,筆者が経験した官公庁での大規模インフラ更改プロジェクトでの経験をもとに,サーバ・装置単位など多量の管理対象を,作業工程とのマトリクス形式で表現した進捗管理表による進捗管理手法について論じる.
西山 美恵子,森本 千佳子
働き方が多様になった現代において,社員同士のコミュニケーションが希薄であることが度々課題としてあげられる.本稿では,SIerにおける社員同士のコミュニケーション活性化への取り組みの第一歩として,社員同士がお互いを知る事を狙ったワークショップを実施し,ワークショップによる効果とそこから見えてきた組織への課題について示した.本稿での事例は,取り組みを開始したばかりではあるが,客様常駐が大半を占め,異なる勤務先やプロジェクト環境下にいる社員同士の帰属意識の醸成に対する課題を整理し,今後の取り組みの方向性を示すことができた.
平松 豪
コロナ禍において,多数の社員が密集するのを防ぐため,新入社員研修やプロジェクトワークを全てオンラインで実施するIT企業が珍しくなくなっている.こういった状況では,就職後にほとんど出社せず、オンラインでの新入社員研修やOJTを受けてきた新入社員をプロジェクトメンバーとして受入れ,チームビルディングを行う機会も増える.そのような場面でも問題なくプロジェクトを遂行できるようにするには,新入社員研修やOJTの場にて,技術の理解度や今後の業務に関わる人脈構築をより意識し,新しいアプローチで育成を行うことが重要になる.本稿では,筆者がコロナ禍の最中に入社し,オンラインでの新入社員研修・部門研修を経てリモートとオンサイト両方のプロジェクト業務に携わってきた経験をもとに,まずは,オンラインでの新入社員研修の利点と課題とその課題への施策について考察する.そして後続のOJT期間のプロジェクト作業に於いて,リモートでのプロジェクト業務とオンサイトでのプロジェクト業務で得られる学びについて,新人の立場から利点と課題を考察する.
坂 直樹
近年、変化の激しいビジネスニーズに迅速に対応するために「アジャイル開発」手法を導入するプロジェクトが増えてきている。各SIベンダーにおいても、大規模システム開発プロジェクトに対応できるアジャイル開発手法やフレームワーク導入を進めている。しかし、実際のプロジェクトでは、これらの開発手法やフレームワークを導入するだけではなく、これらを活用する数多くのチームに浸透させ、適切に運用できることが重要である。本稿では、実際に300人以上の大規模システム開発プロジェクトにおいて実践したプロジェクト運営方法や啓蒙活動に焦点を当て、発生した課題や工夫した取り組みを報告する。
平井 直樹
ソフトウェア開発は、多くの場合チーム作業として進めていくことになるが、近年アジャイルに代表されるように、ミーティングなどのチーミングが強く進められており、そうした場では建設的な意見、批判的な意見などチームメンバーが以下に発言できるかが重要であると考えられる。本研究では、そうしたソフトウェア開発において、様々な意見を気兼ねなく発言できる、近年注目が集まっている心理的安全性との関係性を明らかにしようとするものである。これまでの研究では、心理的安全性がなければ意見を言いづらい環境を生み出し、その結果パフォーマンスはもちろん、できあがるプロダクトやサービスにも悪影響を及ぼす傾向が確認されてきている。ソフトウェアにも同様なことが考えられるが、日本のソフトウェア開発に対して、そうした研究はほとんどなされていない。そこで定量的な調査を行い、日本のソフトウェア開発の心理的安全性と組織文化の関係性を明らかにする。
横尾 公一郎
マルチベンダ体制によるシステム開発プロジェクトでは,管理の範囲が広くなることで難しさが増し,プロジェクトを円滑に推進する為の工夫が必要になる.しかし,複数のステークホルダ間の認識に齟齬が生じてしまうのは必然であり,そういった問題を抑制しプロジェクトを推進することが,マルチベンダ体制のプロジェクトを成功させる要因となる.プロジェクト推進上の管理項目は多岐にわたるが,その中でもどのような観点に着目し,管理強化することで,マルチベンダプロジェクトで発生するリスクを効果的に低減し,プロジェクトを円滑に推進できるかについて,実際のプロジェクト事例を用い管理強化ポイントの評価を行った.
新谷 幸弘
アジャイル開発はソフトウェア業界向けに考案されたが、VUCA対応への利点から、最近では非ソフトウェア開発分野へも適用されている。しかし、アジリティの概念を非ソフトウェア開発に用いる場合、ある種の困難さや複雑さが生じる。本研究では、アジャイルを非ソフトウェア開発へ適用する際の課題を考察する。
杉本 裕介
変化が激しい近年の開発プロジェクトにおいては,従来よりも短期間かつ低コストでの開発が求められており,クラウド開発のメリットを最大限に生かしたクラウドネイティブ開発に対応できる体制や仕組み作りが重要性を増している.現状,業務アプリケーション,ミドルウェア,クラウドサービスを個別に扱うスキルを有する人材は多数いるが,クラウドネイティブ開発においてはクラウドサービスに合わせたアプリケーション設計が最重要かつ高難度であり,対応できる人材が不足している.本稿では,各レイヤの個別スキルを有する人材に対して,クラウドネイティブ開発に対応するためのアプリケーション設計を可能とする体制や仕組みづくりについて,実際の開発プロジェクトの経験をもとに施策と効果について考察する.
吉津 充晃
プロジェクトの成功のためには, ステークホルダーの要望を漏れなく洗い出し,スコープ・ベースラインに含めるに十分な要求事項を引き出す必要がある.効果的な要求事項の収集を行うには,ステークホルダーへ積極的に関与し,適切なアプローチを実施することが重要と考える.2017年秋季大会において,要求事項収集の技法として,インタビュー形式とファシリテーション型ワークショップ形式に着目し,実検証した要求事項収集の技法とその成果を整理し,報告した.本研究においては,新たにフォーカス・グループ 形式による要求事項収集を行い,実検証の結果をとおして,効果的な要求事項収集を行うための適切なアプローチについて,考察をまとめる.
弓削 裕要,佐藤 裕介
近年,DX(デジタルトランスフォーメーション)により,ビジネス環境の変化が起こっている.アプリケーション開発では高速化のニーズが高まっており,ローコード開発やテスト自動化への注目が高まっている.ローコード開発のプラットフォーム上で自動テスト機能が提供される場合は,業務処理とテスト用処理の両方をローコードで実装できる.一方で,ローコード開発のプラットフォームでは定期的にアップデートが行われるため,プラットフォーム上に構築したアプリケーションの動作にも影響が生じる可能性がある.筆者らは,ローコード開発においてテスト自動化を実装し,プラットフォームのアップデートに起因するアプリケーションへの影響の早期検知を試みた.本論文では,ローコード開発のプラットフォーム上で実施したテスト自動化事例と課題について報告する.
児玉 直人
2021年に当社お客様にてストレージ装置のハードディスクドライブ(以降,HDDと記載)多重故障により,上位サーバ装置からストレージ装置のデータにアクセスできなくなる重大トラブルが発生し,お客様業務に多大な影響を与えた.原因は,長期稼働によりHDDのピボットオイル(磁気ヘッドを駆動する機構の軸受け部のオイル)が磁気ヘッドに付着したことと判明.HDDは長期稼働にともない,故障率が年間に1.5倍~2倍と急激に上昇する傾向にある.さらに,短期間に複数HDDが故障することにより冗長性が失われ重大トラブルに至るリスクがある.一般フィールド全体の稼働状況では約半数のお客様が当リスクを抱えている状況である.そのため,お客様に長期稼働にともなうリスクを迅速に正しく伝えることとトラブルを未然に防止しなければならないという課題がある.本論文では,リプレースまでの稼働品質を担保,維持するために,お客様への情報公開と稼働状態の点検方法ならびに予防処置の方法についてまとめたものである.
塚田 喬志
需要の変化から、通常月/数人月規模の体制から急拡大を求められる場合がある。また、システムリリースの日程や予算の制約などのユーザー起因の課題。システム目線では俗人化に伴うドキュメント不足などの様々な課題があり、困難を強いられる。上記に対して、自身の経験からプロジェクトマネジメントを考察するもの。
宮田 剛,山吹 大地,高橋 涼
環境変化が激しく複雑化した現在の状況下では,より積極的に先回りしたプロジェクトマネジメントが必要となる.そして,意思決定は漠然としたプロジェクトマネージャーの主観的な感覚ではなく,進捗や予算に対する課題の残存量などプロジェクト遂行上のリスクに関連したエビデンス(ファクト)に基づいて的確に実施されるべきだと考える.本稿では,こうしたエビデンス(ファクト)に基づき、PMOやコンサルタントとしての取り組みを踏まえたプロジェクトマネジメントの意思決定のあり方について考察する.
奥村 真也,増田 浩之,上條 英樹,鞆 大輔
近年、ITの進歩とともにソフトウェア技術者のニーズの高まりが更に増している。その背景には、企業のビジネスアジリティーを加速させる取り組みとしてのDX対応が企業の成長を左右する状況になっている。実際、Fortune Global 500社のトップ10企業に25年前から名を連ねている企業は1社もない状況である。この傾向はさらに加速しておりデジタルディスラプションといわれるデジタルによる既存の者を破壊するような革新的なイノベーションにITエンジニアが重要な役割を果たす時代となっている。そのため製造業も積極的にソフトウェアエンジニアの採用や育成に力をいれている。このようにソフトウェアエンジニアの重要性は、更に増しているが日本においては人口減少が今後進むこともありITエンジニア不足がさらに加速されると予測される。そこで、ITエンジニア育成につながるプログラミング学習について学生から社会人へ広く裾野を広げ、その対象毎にそれぞれの特性を活かしたリメディアル教育手法を用いた産学共同研究を近畿大学と実施した。社会人は、IT未経験者を対象として学生は、経営学部の学生を対象としたロボット教材とビジュアルプログラミング言語によりコースウェアを設計し検証を実施した。本論分では、この産学共同研究におけるリメディアル教育手法を用いたIT人材教育の有効性について論ずる。
山口 敦史
レガシーシステムのモダナイゼーションにあたっては、従来の開発プロセスとは異なるアプローチを取る場合があり、想定されるリスクや対策も異なってくる場合がある。筆者も大規模なモダナイゼーション案件のプロジェクト管理を担当しており、プロジェクト開始前の提案にあたっては、複数のプロジェクト方針をユーザとの間で合意した。具体的には「直感的で使いやすいUI/UX」「マイクロサービス化」「クラウドインフラの採用」「アジャイル開発の導入」などである。本稿では、大規模モダナイゼーション案件を開始するにあたり、所与の要件やプロジェクトの特徴を踏まえ、プロジェクト計画作成時に検討した開発プロセスとリスク対策、および先行開発を通じた実践の結果についての事例を報告する。
井上 明彦
DX推進が行われていく中,金融機関においてもレガシーシステムからの脱却を図っている.営業店システムのインフラ構築においては要員の少人数化や短納期化の傾向にあり,いかに効率よく作業できるかがポイントとなっている.インフラチームでは自動構築の活用に取り組んでいるものの,取り組んだ知見を各プロジェクトに共有するまでには至っていない.その根本として「構築の自動化を行うメリットが少ないと考えられている」「パラメタ確認やテストで自動化が行われていない」「標準ツールが存在しない」という課題がある.取り組むべき施策は「構成管理ツールを用いた構築自動化」「パラメタ確認やテストの自動化」「標準ツールの制定」である.
小境 彩子,中島 雄作
毎年,IPAは「情報セキュリティ10大脅威」という資料を公開している.2022年における個人と組織向け脅威のトップ10について,ITシステムの運用PMは対策を常に考えなければならない.例えば,組織向けの6位に「脆弱性対策情報の公開に伴う悪用増加」がある.ソフトウェアに脆弱性が発見され,パッチや回避策が公開されたものの,そのパッチを適用するか回避策を講じるまでにはいくらかの時間が掛かり,この未対応の時間に存在する脆弱性を攻撃されることが増えている.脆弱性とOSS利用についての現状,近年のOSSの脆弱性に関するインシデント,運用における効果的な脆弱性対策,OSS活用における脆弱性対策事例について解説する.本稿では,サービス運用における脆弱性対策に関する一考察について述べる.
小形 絵里子,吉積 一斉,吉田 敏之,南部 俊弘,飯田 貴史,鈴木 勝,大倉 聖一,中島 雄作
筆者らは,システムプラットフォームを主な事業領域とするSIerであるが,一部,建設工事部門も存在する.当部門は,データセンターの設計・建設工事・保守運用・コンサルティングを事業領域としている.近年,ヒヤリハットの事例が複数見られ,未然に,作業ミスが発生しないよう作業品質改善活動を展開することとした.従来は,工事前に工事関係者と有識者を招集し,リスクチェックシートを元にして作業手順書に漏れや誤り等が無いかレビューをするのみであった.そこで,建設工事部門に加えて全社PMO担当と情報セキュリティ推進担当が共同で,筆者が独自に開発した時系列化思考フレームワークとSAFETYフレームワークと,世の中にあるヒューマンエラーの要因解析をするための理論を組み合わせて,建設工事部門における新たな作業品質改善フレームワークを考案した.直近のサーバー撤去工事の計画段階で前記フレームワークを用いることにより,実際の工事において,作業ミスはおろかヒヤリハット事象も皆無であり,非常に高度な作業品質を達成することができた.本稿では,建設工事部門における作業品質改善活動の一事例について述べる.
中島 雄作,住谷 多香絵,神崎 洋,小豆澤 亨,木村 和宏,中村 仁之輔,大槻 義則
ヒューマンエラーの予防については,数十年前から多くの文献が公開されている.しかし,工事現場,工場,交通,病院,調理等に関するものが多く,IT企業のSE,営業,スタッフ等のホワイトカラーに関するものはほとんど公開されていない.我々,基盤プラットフォーム分野を主に展開する企業,つまり,基盤エンジニアと営業部門とスタッフ部門が多く在籍する企業での,ヒューマンエラー対策を推進する際の,苦労している事例を紹介する.
松村 陽子,安田 有志
次世代リーダーの育成の方法は,様々なプロジェクトへの配置による経験やOJT,座学を中心としたOff-JTなどと多くあるが,その中でも座学を中心とした研修を手段として,若手の能力を向上させた取り組みについて紹介する.対象者は,通常システム開発のプロジェクトリーダーを担っており,受注プロジェクトにおけるQCD遵守を得意とするミドルマネージャー手前の若手層である.この研修においては,プロジェクトの範囲でのみ物事を考えがちな思考を抜け出すため,顧客を取り巻く外部環境の変化へ「視野」を広げる,自プロジェクトや担当から会社や業界,社会へ「視座」を上げる,複数年に跨る中長期的な長い「視線」を持つという3つの点に焦点をあてて実施している.この実施効果の検証のため,外部の人材アセスメント結果を活用しているが,その結果において不足する能力を特定し,新たな打ち手を実施,その後のアセスメントへと繋げるという取り組みを行った.本稿では,このようなPDCAを回すことによる次世代リーダー育成の有効性今後の課題について述べる.
古川 夏帆
大規模プロジェクトの運用設計はプロジェクト全体の計画はもちろん,各チームの計画や進捗に大きく左右される.新システム構築前に運用保守を担当している別会社を含めたステークホルダーマネジメントやスケジュールマネジメント観点での運用設計の実例紹介やより良い進め方の提案を行う.筆者が参画したプロジェクトは運用設計のチームを2つに分け、役割分担をした.その背景と実績を紹介する.また、サービスイン日が2回延期されたことによる運用設計への影響と対応について実践した内容を検証し、考察する.サービスイン後、運用の引き継ぎのために組んだ特別保守体制についても紹介する.
橋爪 裕介
プロジェクトマネージャは計画から品質確保まで幅広い作業を行う責任者となり,プロジェクトマネージャの行動はプロジェクトの成功可否に大きく影響する.プロジェクトの形態により,プロジェクトマネージャに求められるスキルや役割は多様であるが,プロジェクトおよびその事業を成功させるためにはプロジェクトメンバーがプロジェクトおよびプロジェクトを牽引するリーダ(プロジェクトマネージャ)に協力的であることが不可欠である.本論文では心理学の分野で研究された人間が要求を承諾する際の動作パターン「返報性」「一貫性」「社会的証明」「好意」「権威」「希少性」をもとに,プロジェクトメンバーを協力的とするために必要なリーダの行動やプロジェクトマネジメントにおける工夫について考察した.
永嶋 啓章
昨今はシステムが複雑化しており基幹システム刷新のような大規模プロジェクトでの一括システム導入はリスクが高いことから段階的に導入する案件が増えている.フェージングされた段階的なシステム導入の場合,次段階のシステム導入時に前段階で導入済みのシステム機能に影響がないことの品質担保が求められる.一括導入と比較して,段階的導入の場合はリグレッションテストの工数が累積的に増加するため,後続段階のシステム導入規模抑制と品質維持に関してテスト効率化が鍵となる.本稿では,基幹システムを業務領域でフェージングし段階的に導入したプロジェクトでのテスト効率化の経験を事例として,テスト自動化の効用とその反面で自動化することにより発生した課題を論じ,プロジェクト計画作成時の考慮点を提案した.
渡辺 由美子,磯 英樹,北條 武,三角 英治,佐藤 慎一,中島 雄作
NTTデータでは約20年前からメンタリング手法に着目し,PM育成の研究及び実践を行ってきた.その流れを受けて,約10年前からNTTデータユニバーシティとNTTデータ品質保証部が事務局として,このPMメンタリングの運営を行ってきた.FY2019から筆者らは事務局として参画してきた.「ブランド力強化」と「共に成長」を運営方針に掲げた.進捗や実施状況を可視化し,課題をキャッチアップし,イベントや情報を提供する等,参加者のニーズにあった運営を行ってきた.また,2020年のコロナ禍によるオンライン化への移行という予期せぬ事態にも対処した.本稿では,PMメンタリングの育成効果を高める運営に関する一事例について述べる.
小玉 寛
アジャイルの実践については,スクラムの運営など,プロジェクトのコミュニケーション計画や運営を大きく変える必要のあるものも多いが,プロジェクト憲章のアジャイル版とも言われているインセプションデッキは,アジャイルのツールの中でもプロジェクトでの利用・導入が比較的しやすいツールになっている.筆者は2022年に別サイトで実施している運用業務を仙台のセンターに移管するというプロジェクトを担当したが,そのプロジェクトの中でインセプションデッキを作成し,各ステークホルダーと,目標の共有,リスクの特定,優先順位付けの方針策定,メンバーへの期待値の認識合わせなどを行った.本稿ではインセプションデッキをプロジェクトで利用した経緯とその効果について述べる.
山田 知明,岩城 侑,赤塚 宏之,吉井 稔晴,荻野 貴之,宮崎 正博
近年,デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて,基幹システム刷新やデータ活用の需要が高まっており,複雑化・ブラックボックス化した既存システムの刷新のような高難易度のプロジェクト(PJ)を遂行できる高度 IT 人材(プロジェクトマネージャ)が枯渇している.弊社では,プロジェクトマネージャ(PM)の人材像を定義し,それに向けた育成や認定を実施するPM育成制度を策定している.しかし,従来のPM人材像定義は計画に沿ってPJ遂行するマネジメントスキルに着目しており,高難易度PJに求められるPJ目的や方針策定のような方向性を指し示すリーダシップスキルの観点の強化が必要であることが課題であった.この課題に対して,PJの新規性や構成要素の観点で昨今のPJを分類し,従来のPM人材像で定義したマネジメント面に加えてリーダシップ面を具体化することでPM人材像を再定義した.これをもとに育成施策を検討し,リーダシップ面も考慮したPM育成制度に改定した.本稿では,PM育成制度の改定内容やその実践結果,今後の展望について述べる.
竹嶋 宏亮
開発業務だけでなく、自動化検討から運用業務をアジャイル開発手法のスクラムで業務する事例
河村 智行,野口 晴康,鷲谷 佳宣,当麻 哲哉
日本の多くの企業が,デジタルトランスフォーメーション(DX)による成果を十分に得られていないと言われており,DXを効率的に推進できる能力の獲得が求められている.能力の獲得には,まず企業が実践出来ていない活動を理解することが重要であり,そのために診断ツールの活用が一般的である.しかし,診断ツールの多くが比較的規模の大きな企業を想定しているケースが多く,活動範囲が限定される中小企業などの組織には過剰な診断内容となっていると考えられる.本研究は,中小企業にも適したDX診断手法を調査・試行し,その有効性を確認することを目的とする.DX診断手法を調査した結果,診断範囲を柔軟に調整できるDX-CMMが中小規模の組織に適していると判断した.DX-CMMを日本の中小企業に適用した結果,必要な診断範囲に絞り込むことで「診断作業の無駄が減らせる」,「課題を深堀り出来る」などの利点が確認された.DX診断の1事例として同様の課題を抱える組織の参考になること期待する.
豊島 直樹
2022年度当社において数多くのシステムがハードウェアやソフトウェアの老朽化を迎え,様々なシステム移行プロジェクトが発足された.1つは中枢の基幹系システムをパブリッククラウドに移行する大規模プロジェクト.1つは一部の部門システムを素早く,少数精鋭で最小限のコストで移行を行った小規模プロジェクト.筆者においては,それぞれのプロジェクトにおいて全体移行の取りまとめを行い,移行当日の運営,移行後のシステム稼働状況の経営報告などを行った.大規模プロジェクト参画の実績を評価いただき,後続の小規模プロジェクトでも同じ移行取りまとめを行ったわけであるが,大規模プロジェクトの参画直後であったため,直前のノウハウを駆使すれば簡単に業務を遂行できると自負していた.ただし,蓋を開けてみれば,自身の必要な工数,労力を始め,移行品質,直前で見つかった課題など,小規模プロジェクトの方が数が大きい結果であった.様々な視点にて両プロジェクトの結果を振り返り,事例を踏まえて考察したことを本稿にて述べる.
畠 俊一
クラウド環境へ既存システムを移行するプロジェクトが年々増加している.このシステム移行プロジェクトでは,オンプレミスからオンプレミスへ移行する時とは違った視点が必要になる.この視点がないことでプロジェクトがトラブルに見舞われることがある.また「現行通り」という要求仕様を実現するため,安直にクラウドリフトした結果,運用フェーズで想定外の事象(コスト高,レスポンス性能低下)が発生し,結果オンプレミスの環境へ戻すということも起こりうる.こういったケースに陥らないための工夫として,クラウドをベースにしたアーキテクチャの考え方,お客様の理解促進,「現行通り」にはならない変更点などクラウド環境へシステム移行する際の考慮点について整理・考察する.そして,これら考慮点をリスクとして捉えて適切にマネジメントすることでプロジェクト品質の向上を目指す.
片峯 恵一,梅田 政信
ソフトウェア技術者は,自らの能力を定量的に計測し,継続的に自己改善できることが重要であり,そのためにはソフトウェアプロセスの技術が有効である.九州工業大学では,2007年度から米国カーネギーメロン大学ソフトウェアエンジニアリング研究所で開発されたパーソナルソフトウェアプロセスを大学院生向けに教育してきた.その結果,多くの学生はソフトウェアプロセスの重要性を理解し,その成果をデータとして示してきた.しかし,学習負荷が高いことなど幾つかの問題が明らかとなっていたことに加え,コロナ禍による遠隔授業の導入や改組による講義時間の短縮などの環境の変化により,従来の方法での実施は難しくなってきた.そこで,プログラム内容と実施方法を修正し,大学院生のコースに適用することによって,効果や改善点について考察する.
小野 久子
日本では人口減少が加速し,労働人口の減少や人材不足が叫ばれ続けている.現在もIT人材が枯渇した市場環境が継続しており,2030年には80万人のIT人材不足が見込まれると言われている.そのような労働人口状況から,女性労働力への期待が高まり,女性活躍推進活動が政府主導で行われてきた.諸外国から遅れをとっている日本のDX推進において重要な人材であるプロジェクトマネージャーの育成は極めて重要な事項の一つと言える.そこで本稿では,筆者が過去所属した団体で,女性プロジェクトマネージャーの活躍を阻害する要因について研究した際の内容と,厚生労働省発行の「働く女性の実情」などをもとに考察と提言を行い,プロジェクトマネージャーを増やす取り組みについての事例報告と助言を行う.
七田 和典
近年, IT技術の急速な発展により次々に新たな製品やサービス,ビジネスモデルが生まれており,デジタルトランスフォーメーション(以下DX)の時代だと言われている.DXの時代で企業が生き残っていくためには不確実性が高い創造や変革を実現する必要があり,新規性・難易度の高い要件の実現や新技術・新製品への対応が求められるDXプロジェクトが多く発生している.特に大規模DXプロジェクトをウォーターフォール開発にて進めるケースにおいてはプロジェクトの下流工程において新規性や不確実性に起因する問題が顕在化し,プロジェクトの進捗に影響を与えるリスクが高い状況となっている.本稿では大手金融機関のプロジェクトの事例を交え, DXプロジェクトのリスクに対応するためにアジャイルプラクティスを導入したプロジェクトマネジメント手法の適用効果を考察する.
吉岡 直紀
現在,システムインフラ構築プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメント手法において,アジャイル形式を採用しているプロジェクトは少ない状況である.キンドリルジャパンのお客様にご協力いただき,システム構想からテストまでのフェーズにおいて,アジャイル(スクラム)を効果的に活用する方針でプロジェクトマネジメントを実施したが,プロジェクトプランニングの作成,プロジェクト予算の作成,進捗管理,完了基準の設定等に非常に苦労した.その解決方法としてハイブリッドなプロジェクトマネジメント手法が一番望ましいという考えに至った.本論文では,その背景と課題について共有し今後のプロジェクトマネジメントの参考となる教訓を共有する.
富田 幸延
あるPMがPMO責任者として,開発や運用保守の品質モニタリングを行い,啓蒙,啓発,開発プロジェクトの問題化や重大システム故障発生時の消火活動にも貢献している.彼は,システムエンジニアやPMの経験も比較的豊富である.しかし,他のPMと彼の違いに,IT技術者以外の経験の有無がある.社内においては企業法務,社外では金融機関,居住するマンションの管理組合理事に従事したり,震災復興ボランティア活動に参加した経験もある.彼が,一見SEとは関係ない経験から,PMO施策のアイディアを出して実践し,成果を挙げている.そこで本稿は,彼の多様な経験とPMO技量への貢献について紹介する.
佐藤 慎一,山田 博之,井上 真男,西尾 幸佑
あるシステムで障害が発生した際に,同様の障害を予防するために他システム横並びでの点検がよく実施されるが,概してこのような点検は,システム安定運用に向けたすでに取り組んでいるシステムにとっては負担感が強く,単に故障原因に対応する点検項目に沿って点検するだけでは,効果的な点検が行えない懸念がある.当社では,前年度発生した障害の再発予防に向けた全社的な横並び点検を毎年実施しているが,点検項目に,単に再発防止の観点だけでなく,現状からの改善を意識した観点を含めることや,点検観点の意図や確認すべきポイント,点検の起因となった障害事象の詳細情報などをあわせて示すことで,単なる再発防止だけでなく,システムにおける障害予防に対する意識向上や改善の気づきを促すことを意識している.これまで数年間本取組を実施しており,障害発生予防だけでなく,障害予防に向けた改善の気づきを得られたとの結果が得られている.
楠森 賢佑,三角 英治,佐藤 慎一
当社では,QMSの適合性及び有効性評価のため,内部監査を実施しており,プロジェクトマネージャ(以下,PM)やITサービスマネージャ(以下,SM)に対する育成の機会として,PMやSMを監査員に任命している.監査員はシステム開発・サービス提供のプロセスを理解しているため,他組織のシステム・サービスに対する監査を適切に実施できている.しかし,監査員と監査される組織(以下,被監査者)の双方にとって監査をより有意義な活動にすることが課題であった.そこで,課題解決の要素として,監査を通じた監査員と被監査者間での実態に踏み込んだ情報・意見交換があると考え,情報・意見交換に関する特定のテーマを設定し,それを促進するツールとしてオープンクエスチョンシートの活用を考案した.情報・意見交換に関する5段階評価の満足度平均は,監査員が4.4,被監査者が4.2であり,双方にとって有意義な活動となった.
南 圭介,森本 千佳子
演劇とは,俳優が舞台上で身振りや台詞などにより,物語や人物などを形象化して演じ,観客に見せる芸術のことであり,一般的に総合芸術と言われる.そのジャンルは幅広く,いわゆる商業演劇や小劇団演劇,市民演劇や学生演劇など様々な形態がある.総合「芸術」と言われるがゆえに,その創造環境はアーティスティックな側面が強調されがちである.また制作母体も劇団のような固定集団の場合と,作品ごとに人が集まるカンパニー形式など様々な形態があり,ノウハウの蓄積が難しい分野ともいえる.一方で,演劇の制作は公演日・予算などに制約があり,非常に多くの人が関わる「プロジェクト」であり,プロジェクトマネジメントの手法が十分に適用可能な世界である.しかしその制作プロセスは,勘と経験と度胸(KKD)手法を中心とした手作りであることが多く,業界としての健全性のためにも社会的成熟が期待されている.本稿では,演劇制作のプロセスを整理する第一歩として俳優視点での事例を紹介する.
田中 良治
デジタルトランスフォーメーションを迫られる企業が,これまでのビジネスモデルを変革した新たなビジネスモデルとして同業企業との人的協業から,異業種企業とのデジタル技術による共創に挑戦した弊社の取り組みを題材としました.具体的には,金融サービス他を組み込んだフィンテックアプリサービス開発プロジェクトです.筆者には長年にわたり金融機関(特に銀行)の提供する対顧サービスアプリ開発経験がありました.が,その経験値で蓄積し,活用してきた生産性指標を大きく超越して,サービスローンチを実現できました.その実現実績をもとに振り返りを行い,実施施策の効果分析を行いました.多くの企業でデジタルトランスフォーメーションが迫られる中,その実現においては,厳しいスケジュール要件はついてまわります.また従事できる人材も潤沢ではない,まさにAs a Startupとして新規事業を起業し,新サービスを実現できたその要因を探りました.限られた人材と時限の中で高生産性を実現した要因を考察し論じています.
鏑木 智也,鈴木 賢一郎,安部 裕之
AIの性能向上により,適用範囲が社会的に高い信頼性が求められる領域に広がってきたことで,適用にあたって求められる視点が社会的,倫理的なものに広がっている.しかしながら,AI活用によるトラブル事例では,特にAIの適用そのものが倫理的に不適切,社会から受容されない事例が増加している.倫理・社会受容性に対する配慮不足は,その企業に対する急速なレピュテーション低下を招き,その影響は1つのプロジェクトに留まらず事業レベルの損失のリスクがある.こうした問題に対して各国ではAIの適用に対して法規制の動きもあるが,日本ではまだその動きは見られず,企業には自主的なリスクマネジメントが求められる.本稿ではAIリスクの最新動向とそのリスクマネジメントにおける3つの要点を示す.
桜井 貴幸,打越 恭平,桑野 凌介,三原 拓也,岡村 龍也,加藤 潤,鈴森 康弘
一般的にエンタープライズ向けのシステム開発においては,市場の求めるタイミングや競合優位性獲得のため早期のローンチポイントを設定し,それまでに「作りきる」ことが必達条件である.その為には高い非機能要件を満たしつつ,プロジェクトをドライブしていくことが非常に重要である.一方で現在のビジネス状況は,デジタル技術の進歩を背景としてスピード感を持って対応していくことが求められており,そのための開発手法として「アジャイル開発(注1)」が広く採用されてきている.このような不確実性が高いビジネス環境でサービスを継続的に成功させる為に,SRE (Site Reliability Engineering)というOps実現のプラクティスが採用されてきている.本稿では,エンタープライズ向けアジャイル基盤における統合マネジメント,コミュニケーションマネジメント,スケジュールマネジメントに関する知見と,そこから見えてきた改善点及び対応策に関して言及する.
依田 玲央奈
Apache BigtopはHadoop 関連ソフトウェアのパッケージングやインテグレーション・テストをおこなっているオープンソース・ソフトウェア(OSS)であり,近年重要性が高まるなか,NTTデータも積極的に修正・改善活動へ携わっている.本論ではApache Bigtopのプロジェクト概要や,どのように修正・改善活動がなされているかについて紹介した上で,プロジェクト運営に関する改善について,2022年度の取り組みをもとに紹介・考察を行う.
ラナヴィーラ ラヴインドラ サンダルワン,小林 佑輔,井村 太一
気候変動問題を解決するための国際枠組みであるパリ協定の実現に向け様々な活動が活発的に行われている.日本政府は2050年のカーボンニュートラルの達成を掲げており,その実現に向けては企業が果たす役割が大きい.より環境負荷が少ない,排出量が少ない製品が今後ユーザに好まれる傾向にあり,透明性のある一貫した製品別排出量算定が必要になる.製品別排出量算定には,サプライチェーン全体から排出量データを収集すること必要である.本論文では,サプライチェーン全体から排出量データを収集する際の課題について説明し,考えられる解決策について考察する.
藤澤 朝香,田中 俊介
近年,ICT領域において利用可能な技術は急速に増加しており,どれだけ早くそれらの技術を習得,検証,実ビジネスに応用できるかが企業の経営戦略においても重要課題になっている.そのような背景のもと,NTT DATAでは,グローバルに点在する先進顧客に対して先進技術をより早く展開することを目的として,国内本社と海外協力会社が連携するグローバル組織を立ち上げた.当該グローバル組織では,世界各地の個々のチームが行う,先進技術の発掘・調査・実証実験を「グローバルイノベーションプロセス」として整理した.グローバルイノベーションプロセスを管理する上では,各フェーズにおける評価基準と指標値を検討した.本発表では,グローバルイノベーションプロセスのための指標値モニタリング基盤の設計・開発・運用というシステム開発プロジェクトの事例について報告する.
安河内 静,山谷 彬人,梅森 直人,三浦 広志
NTTグループが全社一体となって推進するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向け,当社NTTデータではあらゆる外部パートナーとの技術実証から事業導入推進までを支える技術検証環境としてテストベッドを整備している.昨年,NTTグループのある組織の研究成果からビジネスを創出することを目的として,世界各国のNTTグループが参加するハッカソンが,当社が提供したテストベッド環境を用いて行われた.筆者らは,運用者の立場からハッカソンで発案されたアイデアの実装環境としてテストベッドを提供すると共に,利用者の立場からハッカソンに参加し,テストベッド上でアプリケーションを実装した.本稿では,ハッカソンのためにテストベッドを整備する際に直面した運用者目線での課題および知見を報告する.具体的にはセキュリティを担保した上で利用者に活用の自由度を持たせるために検討した技術的な工夫点を述べる.また,ハッカソンに参加することで得られた利用者目線での課題および知見を報告する.具体的にはテクノロジードリブンで社会課題を解決する際の効果的なアプローチ方法,世界各国のNTTグループの社会課題に対する取り組み姿勢,知の創出の場としてテストベッドを活用することの将来展望を述べる.
遠藤 貴紀
近年,DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として,基幹系システムの刷新に取り組むプロジェクトも多くなっているが,一から自社で作りこむスクラッチ開発で構築した基幹系システムであっても,刷新にあたってはグローバル展開されているパッケージ製品を利用し,早く,安くシステムを導入することがトレンドとなっている.パッケージ製品を利用したシステム導入には,パッケージの製品仕様に合わせた業務の標準化が必要となるが,スクラッチ開発で構築された現行システムの仕様が複雑であればあるほど,業務標準化の検討も複雑になり,現行仕様を踏襲したい要件も増加する.そのような要件はアドオン開発で対応せざるを得ないがアドオン規模が増大すると,安くシステム導入ができるパッケージ適用のメリットが失われてしまう.そのような事態に陥らないためのスコープマネジメントについて検討する.
北村 正和
発注側と受託側の目的・ゴールは同じだが,受注段階で双方が抱いているスコープや仕事の進め方には食い違いがある.そのギャップを確認・共有し,軌道修正する最初のチャンスが立ち上げフェーズであると認識しているにも拘わらず,疎かにしているケースがほとんどである.その理由は,成功事例を基にしたガイドラインやベストプラクティスがなく,そこに時間を掛けることの意義やメリットが浸透していないためだと推測する.本稿では,その重要性を再認識して頂くことを目的に,立ち上げフェーズにおいて顧客との合意形成や関係構築に力を入れたプロジェクトとそうでないプロジェクトで,その後の進め方にどのような影響が出たかを紹介し,その重要性を考察する.
栗城 信明
昨今,アジャイル型での開発は分野を問わず,さまざまな業種で適用の検討が行われている.IT業界においても初期開発からアジャイル型で行う開発やウォーターフォール型で開発を行っていたものをアジャイル型の開発に変更することを検討する取り組みが進められている .アジャイル型の開発を行うためにはアジャイル型とはどういう手法であるかを理解することやアジャイル型の開発を実行する上での環境準備が必要不可欠であり,そのためには人財育成を計画立てながら 推進していくことやアジャイル型の開発に必要なツールなどの理解が重要である.A社のプロジェクトにおいてもアジャイル型の開発を行う組織作りを推進しており,アジャイル型での開発経験やPMOの経験が無い状態ではあったがアジャイル開発組織内においてPMOの一員として当社は参画した .A社のプロジェクトでは,ウォーターフォール型で開発を行っている各々の開発チームをアジャイル型での開発 に変更していく取り組みを行っていく過程で課題が山積みになっていた.本稿では,アジャイル型での開発が未経験の状態でPMOの一員として参画し,課題解決に向けて取り組みを行った際の気付きについて述べる.
斉藤 俊介
現在,企業が運用しているレガシーシステムは改修が多岐に渡り,複雑なプログラム構造になっているものも少なくない.また,システム自体もハードは汎用機からオープンプラットフォームへの移行が必要となってきており,ソフトも古いOSやアプリケーションを使用しているため,サポート期限が迫っているものもある.このような中でマイグレーションニーズは高まってきており,市場規模も2021年で433億円,前年比125%と伸長している.当社ではすでに2002年3月よりマイグレーションサービス事業を開始し,これまで200件以上(140MStep)の実績を積んできた.マイグレーション後のテストの大半は現行システムと新システムのアプリケーション実行結果を比較検証(以下,現新比較検証)するものであるが,テスト範囲が広範囲であり,ブラックボックスによるテストであるため,工数が膨大になる傾向がある.そのため,当社ではこの現新比較検証作業をサポート対象外とし,原則顧客で対応してもらうようにしてきた.しかしながら,昨今顧客からの現新比較検証作業のニーズが高まってきていること,レガシーマイグレーションの市場規模は伸長してきていることから,現新比較検証作業をマイグレーションのオプション機能としてサービス化することにした.サービス化の実現にあたってはA社のマイグレーション案件の現新比較検証を弊社で受注した際に,作業ごとにサービス化を検討し,ツールによる効率化を図ることで検証を行うことにした.これにより,現新比較検証サービスを実現し,A社の作業もツールを活用することで効率化できただけでなく,人的ミスも減少し,品質を確保した上で納期通り本番リリースを行うことができた.また,当社のマイグレーションサービスのオプションサービスとして現新比較検証サービスを追加し,競合力のあるサービスとして提供できるようになった.
住谷 多香絵,岡本 直樹,尾高 知宏,山野 大佑,中島 雄作
近年,サーバ,データベース等はオンプレミスでなく,パブリッククラウド上に環境構築することが主流である.筆者は新卒2年目ではあるが,ある案件のクラウド構築の環境設定作業と単体試験工程に限定したミッションリーダを任された.1回目の構築ではヒューマンエラーによる設定ミスが多発した.そこで,ヒューマンエラーの12分類を参考にして改善活動を行い,2回目の構築ではヒューマンエラーによる設定ミスを92.3%削減することができた.本稿では,クラウド構築におけるヒューマンエラー削減活動の一事例について述べる.
石川 武人
各開発プロジェクトにおいて,スコープの不明確さに起因するトラブルが後を絶たない.特にプロジェクト初期段階(要件定義工程~基本設計工程にいたる上流工程)において,顧客及び各ステークホルダーとのコミュニケーションがコスト,スコープを明確に確定するために特に重要であるにも関わらず,顧客の実現したい機能の本質を導き出せず,後々のトラブル起因となっている.この様なトラブルを回避しプロジェクトを成功に導くためには,顧客体制上のキーマンと立場を理解した上で適切なコミュニケーションが重要であると考える.私は、2つのユーザが経営統合を行う際のシステム統合のプロジェクトマネージャーを担当した.本論文は,そのプロジェクトの中で特に重要であった要件定義及び基本設計について、両ユーザとのコミュニケーションを通じて実践したことを分析し課題,成果として纏めたものである.
福田 徹
プロジェクトマネジメントで採用するプロセスには幾多の普遍的な方法論があり,多くのITベンダではこのプロセスを育成・発展させながら改良を続けていく必要がある.しかしながら,有期で繰り返される各々のプロジェクトには事実上多くの特異性があり,王道とされるものは存在しない.これは,システム規模が同等であったとして,顧客特性や業務形態,公共利用範囲に伴うミッションクリティカルとなる重要性の差異によってマネジメントの質と範囲が大きく異なる.こうした個別特性や属人的になる傾向のある重要なマネジメント思考と観点を,可視化されたプロセスに反映し組織展開することは容易な活動ではない.事業面積拡大に伴い,領域を広げたマネジメントを行うためには,これらのノウハウを余すところなく後進に伝授し,育成に注力することが肝要であり,自身の上位マネージャとして取り組んだ組織活動を事例と共に紹介し,一考察を述べる.
柳沢 満,吉村 直人
当社では,ソフトウェアドキュメントの作成工数削減,ソフトウェアプロジェクトの全体の品質と開発生産性向上を目的に,ソフトウェアドキュメントの曖昧表現と誤表記を機械的,網羅的に検出するドキュメント検証ツールとそれを利用したドキュメント検証サービスの社内展開を推進している.本稿ではドキュメント検証サービスの導入支援活動と適用領域拡大の事例として,著者の所属する自治体向けパッケージソフトウェア開発部門と共著者の所属する部門で体制を組み実施した,ドキュメント検証の評価結果について報告する.ドキュメント検証ツールを使って大量に出力された検出結果について,有識者が振り分けた正しい用語を辞書に登録することで検出を抑え,誤りの用語を抽出しやすくすることで,開発者による工数削減を見込むことができる.
中浦 秀晃
システム開発プロジェクトにおける課題のひとつとして,上流の要件定義が曖昧のまま双方が合意,下流工程での後戻りや仕様の追加変更などにより,納期遅延やプロジェクトの中断等のトラブルの増加がある.昨今は顧客が承認した要求仕様通りに設計,開発を行っていても,要件や機能不足が原因で納期に間に合わず,システムを稼働できなかった場合,受託側ベンダのプロジェクトマネージメント義務違反を問われるケースがあり,損害賠償請求など裁判にまで発展することもあり,プロジェクトの最大のリスクとなっている.これは比較的小規模なプロジェクトでも複雑性の高い業務などは,顧客の全面的な協力体制は必要であり,業務の専門性の高い有識者がアサインされずに体制が不十分なままプロジェクトが進んでしまうことがプロジェクト失敗の主な要因でもある.本発表では,小規模なプロジェクトの事例をもとにプロジェクトが中断となってしまった原因,問題点などを考察し,その時,プロジェクトマネージャーとして何をすべきであったのか等,契約事項だけでは解決できないベンダ側の管理責任と顧客の協力義務について述べる.
池田 真也,齊藤 拓也,矢野 雄輝,松島 明美
当社では,ウォータフォール開発の品質をAI予測する手段として「出荷後バグ基準達成確率の予測」と,「FDレビュー十分性診断」を策定し,運用している.しかし,バグ数を直接AI予測して品質分析に活用する施策はまだ運用していない.そこで,我々が出荷後品質を担保するうえで特に重要と考える機能設計工程(FD)のウォータフォールV字モデルに対応する機能テスト工程(FT)に着目した.そして,当社の情報通信業領域データを学習データとし,プロジェクト計画値および実績値を基にFTバグ数を予測するAIモデルを機械学習(回帰)で構築した.また,そのAIモデルに説明可能なAIを適用し, AI予測値の主要因を特定する手段も構築した.本施策をプロジェクトで検証した結果,予測値を押し上げる要因は品質が悪い要因に,予測値を押し下げる要因は品質が良い要因になり得ることがわかった.そして,予測値を押し上げる要因を回避するアクションをとれば,予測した状況を改善できる可能性があることがわかった.
齊藤 邦浩
国内向けのアプリケーション開発において中国の低コスト人材を活用するオフショア開発プロジェクトが2010年代に増加したが,世界一位の人口を誇るインドでの開発事例は未だ発展途上と考える.筆者は国内向けアプリケーション開発プロジェクトにおいて,日本語が通じないインドメンバーとの協業を経験した.協業したインドメンバーは,英語コミュニケーション力に優れ,特定エリアのアプリケーション開発経験が豊富で,かつプロジェクトマネジメントの分野でも優れたスキルを保有しており,そのメリットを享受することができた.またインドと協業を行うことで,日本側メンバーの英語コミュニケーション力を高めることができ,メンバーのモチベーションアップにも繋がった.本稿はインド人材との協業メリットおよび協業の際の課題と対応策の事例をまとめたものである.
駿河 義行
ITプロジェクトにおける損益悪化原因は上流工程にて作りこまれる傾向がある.特に要件定義書においてスコープを明確化することが重要である.スコープの明確化のための解決策として,サービス仕様書を策定して,成果物スコープ,プロジェクトスコープを定義するという試みがなされてきた.これによりスコープの明確化および損益悪化の抑止に一定の成果を上げてきた.しかし,サービス仕様書の基となる要件定義書そのものの品質が悪い場合や,要件定義書を開発ベンダが正しく理解できていない場合は,サービス仕様書でスコープを明確化したつもりであっても,スコープギャップが生じる.スコープギャップの抑止のためには,基本設計工程前に要件確認工程の期間を設けることが効果的である.
宮本 翔一郎,周 蕾,田村 慶信,山田 茂
オープンソースソフトウェア(Open Source Software, 以下OSS)においてリリース後に発見されたフォールトは,アップデートで修正される.この過程は従来より,ソフトウェア信頼度成長曲線(Software Reliability Growth Model, 以下SRGM)を用いて示されてきた.一方,近年ではセキュリティ上の問題の修正および機能の改善等を目的としたアップデートを実施するOSSが存在する.このようなアップデートには,開発当初の要件定義に含まれない要件が含まれることも多く,新規のフォールトが作り込まれることがある.したがって,アップデートによるフォールトの増加を想定したSRGMが必要とされている.本研究では,フォールト数の増加を想定したSRGMを構築することを目的として,アップデートがSRGMに与える影響を分析し,アップデート前後のSRGMの推移について考察する.
出井 優駿,小林 義和,針間 正幸,吉原 秀幸,竹田 佳史,伊東 恒,秋庭 圭子
プロジェクトを成功に導くためには,過去の経験から教訓を得て,プロジェクト推進に生かすことが重要である.これまで我々は,プロジェクトのプロフィールから失敗の原因となり得るリスクを定量化し,スコア化することで,プロジェクト関係者へ注意喚起を促す活動を行ってきた.しかし,スコアを示すだけではプロジェクト関係者に危機意識を持たせ,過去の経験を活かすよう促すことが難しかった.そこで,過去プロジェクトのプロフィールを用いてクラスタ分析を行い,プロフィールの組み合わせと成功率の関係性を可視化した.これにより,進行中のプロジェクトと類似する過去プロジェクトの成功率を提示し,失敗する可能性が高いプロジェクトの関係者へ根拠のある注意喚起を行えるようになった.本稿では,行った分析の概要とその結果について報告する.
中島 雄作,大槻 義則,神崎 洋,小豆澤 亨,中村 仁之輔,木村 和宏
ヒューマンエラーの予防については,数十年前から多くの文献が公開されている.しかし,工事現場,工場,交通,病院,調理等に関するものが多く,IT企業のSE,営業,スタッフ等のホワイトカラーに関するものはほとんど公開されていない.我々,基盤プラットフォーム分野を主に展開する企業,つまり,基盤エンジニアと営業部門とスタッフ部門が多く在籍する企業での,ヒューマンエラー対策を推進する際に苦労している事例を紹介する.
四ッ橋 章匡,山本 元樹,前川 拓也,鈴木 健之,大倉 弘貴,中山 晃治,才所 秀明,飛石 健一朗
AIの躍進により,プロジェクト管理情報を元にしたプロジェクトトラブル予測が進んでいる.しかしながら受託開発においてはプロジェクト開始時点の情報が不足していることもあり,予測精度が確保できないという課題があった.本稿では,プロジェクト経験情報を元にしたプロジェクト開始時点でのトラブル予測を検証する.
山下 俊幸
PMBOK®第7版のプロジェクト・マネジメントの原理・原則の一つとして,協働的なプロジェクト・チーム環境を構築することがある.複数の組織が共同で進めるプロジェクトでは,組織間の文化の違いを踏まえて,プロジェクト・チーム環境の構築に取り組む必要がある.ネットワークに関連する人員がプロジェクト・メンバーであるプロジェクトに対するマネジメント経験はあった筆者が,システム・オペレーション拠点の複数拠点化に向けた先行プロジェクトをマネジメントした際に,オペレーション部門の人員にプロジェクト・メンバーとして参画してもらい,部門間を跨ったプロジェクト・チーム環境を構築した.プロジェクト現場の視点から,協働的なプロジェクト・チーム環境を構築するに当たっての気づきと考察を紹介する.
柴田 健一
システム開発の成功に向けては,各社員やチームメンバーが高いモチベーションを持って仕事に取り組むことは非常に重要な要素となり,モチベーションの低下はシステム開発品質の低下を招く要因になる.そのため,社員が高い意欲を持って業務に取り組めるように動機付けをし,組織的にサポートするモチベーションマネジメントの活用が必要不可欠である.モチベーションマネジメントの観点としては,いかに内発的動機付け(強制されたものではなく,自己実現によりもたらされる動機付け)をして,高いモチベーションを維持させるかが重要で,モチベーション維持のためにはモチベーションを下げる要因を特定し,それを排除することが重要と考える.本論文では,システム障害や開発プロジェクトのトラブルが継続的に発生している組織において,根本的な課題解決をしていくために取り組んだ各個人のモチベーション向上に向けた対応と成果を纏める.
久保 和寿
スマートフォンが事業や生活に台頭する現在,通信インフラの性能も向上し「第5世代(5G)移動通信システム」の普及が始まった.4Gが実現した高速・大容量を更に拡大し,低遅延・多数接続を特徴とする5Gには期待も高い.新規サービスの創成に取り組む多くの企業で5G導入プロジェクトが進んだが,製品は開発段階で性能が理論値に届かないなど,プロジェクトの成功は安易ではなかった.顧客の期待を裏切らないPMとして,アジャイル,OODA,アメーバなど手法の検討を行い,延いてはマネタイズ考慮の必要性を考察したスコープマネジメントの取り組みについて報告する.
角 正樹
プロジェクトマネージャ(以下PM)は経営戦略に適合したプロジェクトを円滑に遂行し,計画された最終成果物(納入物,サービス)を成功裡に提供する責任を担っている.プロジェクト遂行に際しては,さまざまなステークホルダの満足を達成しつつ,計画された品質,コスト,納期の実現を求められている.一人前のPMになるためには,単なる知識や一般的な方法論を身につけるだけでは不十分であり,実際のプロジェクトでの経験を積み重ね,判断力や決断力を身につける必要がある.判断力や決断力等の醸成には演習(討議,ロールプレイ等の疑似体験)が欠かせないが,限られた時間内で演習効果を高めるためには演習題材の選定が重要となる.筆者が企画・制作と講師を務める研修では,(1)研修受講者全員にとって同じ知識や経験を前提とした題材,(2)研修受講者個々の異なる知識,経験を前提とした題材を選定し,それらを組み合わせて演習を実施している.本稿では,演習題材の選定と演習の実施における工夫と配慮について紹介する.
小境 彩子,中島 雄作
筆者は,女性社員向けのコミュニティを立ち上げた.情報セキュリティ技術に興味がある女性を対象に,気軽に技術的な質問や何気ない悩みを話しあうことが出来る,会社内の組織の枠を超えたコミュニティである.本稿では女性限定コミュニティの運営について工夫している点を紹介する.結果として,IT技術領域における女性限定の技術コミュニティの普及につながることを期待する.本稿では,女性限定のセキュリティ技術コミュニティを運営するプロジェクトマネジメントの一事例について述べる.
内島 拓次
開発規模が10Mstepを超える大規模開発プロジェクトでは,開発期間が複数年に渡る場合が多い.発注者側の事業計画(予算,スケジュール)と,開発ベンダ側で考える実行可能なスケジュールには乖離があるケースが多く,そのギャップを埋めるための工夫と検討におけるポイントを考察する.COCOMOやファンクションポイント法などの一般的な指標で説得力のある交渉を行うとともに,発注者側の企画段階でどこまで関与できるかが大きいが,それ以降で開発規模の削減や開発期間の短縮が必要となった場合には,開発限界規模や目標となる指標を提示する必要が生じる.その実践にあたっての結果と考察を報告する.
渡辺 耕介,片寄 智之,椚 勇太,小山 誠,杉田 渉,三橋 彰浩,中島 雄作
NTT データグループでは,IT-SM 育成塾という,保守運用リーダ向けのメンタリング制度を運営しており,筆者らは,そのとある一グループである.筆者らが,保守運用の現場における改善テーマを討論したところ,リーダからメンバへの育成が多くの問題を抱えている共通課題であった.育成がうまくいかない原因は,教える側のリーダと教わる側のメンバとの,現場の改革に関する意識の高さ/低さの相違であることを突き止めた.そこで,最も困難な状態である「リーダは改革意識が高いのにメンバは改革意識が低い」場合について,ナッジ理論を活用した対策をとることにした.本稿では,ナッジ理論を活用した保守運用メンバの育成に関する一提案について述べる.
大方 信一
ウォーターフォール型の開発においては,類似開発の平均生産性を根拠としてスケジュールを作成することが多いが,この生産性は開発内容や個人のスキル等に依存して変動することが分かっている.この変動要素を計画当初に想定せずに,スケジュールを作成すると,個人ごと,チームごとに必ず遅延や待ち時間が発生してしまう.この遅延・待ち時間の問題が発生した後の対策検討では,対策が不十分になる可能性もあり,一時的に個別のチームメンバーの負担が平準化されていない状況になってしまう.本論文では,この問題を解決する方法を検討するために,あるプロジェクトをサンプルとして,変動要素についてどの程度の変動が想定されるのかを分析する.その後,この変動に対して,プロジェクト計画当初から取り得る対策を論じる.
八木 礼佳,藤田 晴樹,佐藤 裕介,清水 理恵子
近年,アプリケーションのレガシー化,ブラックボックス化が進み,複雑化したアーキテクチャの刷新が求められている.アーキテクチャの刷新は,新旧アプリケーションの知識や経験が必要となるため,開発効率の低下に起因したコストの増加やスケジュールの遅延が課題となる.我々が参画した大規模開発プロジェクトは,開発言語とアプリケーションの処理方式を変更する必要があり,現行アプリケーションの開発より開発効率の低下が想定されたため,開発効率の向上が求められていた.大規模開発の効率化については,先行研究で「必要な標準化が実施されたプロジェクトは開発効率が向上する」ことが分かっている.そのため,本プロジェクトでも必要な標準化成果物を準備し開発を進めた.また,現行アプリケーションからの開発言語とアプリケーション処理方式の変更に伴い,詳細設計工程で多くの課題が発生することが見込まれた.そこで我々は,詳細設計工程で利用する標準化成果物に記載する内容を検討した.本論文では,本プロジェクトで作成した詳細設計工程の標準化成果物の効果について考察する.
市岡 亜由美,清水 翔平,富田 満紀子,林 智定
社会生活の高度化/複雑化に伴い、これを支える情報システムも大規模化/多様化の一途をたどっており、その実現に際しては、高度かつ広範囲なノウハウを集約した大規模な体制の構築が必要となる。しかしながら、多様なノウハウを持った人材の確保等、様々な課題があり単独企業、単独組織では容易ではない。この様な問題に対する解決策のひとつとして、『コンソーシアム型』のプロジェクト体制の採用がある。これは多様なノウハウを有する複数の組織(企業や政府などの団体)が共同体を構成し、お互いを補完し合うことでプロジェクト全体を成功に導く事を目的としたものであり、各組織が自身の特色(得意技やノウハウなど)を発揮し易い点が最大のメリットである。一方、文化の異なる企業や団体の特性を活かしながら、プロジェクトを円滑に進める事は容易ではなく、単独組織によるプロジェクトと比較して、遥かに広範囲で、きめの細かいマネージメントが求められる事が大きなリスクである。本稿では、コンソーシアム型のプロジェクトにおいて、著者らが実際に直面したマネージメント上の問題と対策および、その効果について報告するとともに、今後のマネージメントに向けた提言を紹介する。
高橋 秀行,掛川 悠
近年,通信や金融分野の大規模ミッションクリティカルシステムにおけるトラブルが多発しており,その影響の大きさが問題視されるようになっている.時に社会活動を阻害するほどの影響となることもあり,迅速な対処や,根本原因に対する再発防止策の確実な実施が求められている.筆者が参画した大規模ミッションクリティカルシステムの炎上プロジェクトでは,商用トラブルが週3件以上発生している状況であった.短期目標は新規トラブルの発生低減,長期目標は再発防止策の定着だが,既に63件発生したトラブルを短期間で全て分析することは困難な状況であった.そこで,分析対象をサンプリングし,主になぜなぜ分析で個別トラブルの根本原因を導いた後,共通性を検討した.その後,(1)開発時のマネジメントや体制などから間接原因を検討し,(2)根本原因と間接原因の因果関係の検証をして,トラブル多発の妥当な間接原因を特定するまで(1)(2)を繰り返した.また,サンプリング対象外の個別トラブルは前述の分析に基づき類型化し,追加分析・対策の要否を判断した.本稿では一連の取り組みと効果測定,今後の課題について論じる.
加藤 尚輝
本稿では,テレワークが広まる現代において,プロジェクトマネージャーやチームリーダーが直面するテレワーク環境下でのプロジェクトの課題に焦点を当て,それらの課題を解決するための実践事例示す.テレワークによって生じるコミュニケーションの困難さ,タスクの追跡と管理の複雑さ,チームメンバーのモチベーション低下などの課題について,自身がプロジェクトを通して実践した改善事例を記載する.
影山 陽平
ITプロジェクトが混乱する要因としては,ステークホルダ間に跨る事項に対する認識の相違に起因するものが多い.アプリケーションソフトウェアの開発を伴うプロジェクトでは,見積もり時,契約交渉時,設計時など,各工程の断面で仕様やスケジュールなどステークホルダとの段階的に詳細な合意を図るが,人と人との関係においては個々人の解釈の違いにより,すべての事項について認識を完全に一致させることは困難であり,認識相違の顕在化が頻発するとプロジェクト混乱につながる.こうした問題を解決する,あるいは軽減するには,タスク・課題管理担当の設置し,各ステークホルダ間に跨る潜在的に抱える事項を表面化し,計画されたコントロール可能な状態でプロジェクト運営を行うことが効果的である.
佐藤 柚希,湯浅 晃
近年,様々な研究機関や企業によってAI開発に関するガイドラインや方法論が策定されており,AIが組み込まれたシステム開発における汎用的かつ網羅的なプロセスが定義されているが,実際の開発現場においては,網羅的なプロセス定義の中からプロジェクト特性に応じて必要なタスクを選定する方法がわからない等の原因により,標準類の定着に向けた課題がある.そこで筆者らは様々なAIを含むシステム開発のうち,主にBERT等のモデルをベースに学習を行い,REST APIの形で推論機能を提供する部分のシステムコンポーネントに焦点を当て,開発の上流工程に最低限必要な成果物とプロセスを定め,実際の開発プロジェクトに適用しその効果を検証した.本論文では,検討した成果物およびプロセスの内容とともに,プロジェクトリーダへのヒヤリングをもとにした効果について報告する.
新間 陽一郎
メンタルヘルス研究会では,「リモートワーク下のプロジェクト現場におけるメンタル不調を予防するには?」というテーマで毎月議論を重ねてきた.議論のテーマはコロナ禍におけるリモートワークなどの環境変化やメンバー間に存在する物理的な距離とは異なった仮想的な距離がチームマネジメントに及ぼす影響などであった.仮想的な距離が長くなると対象のメンバーは孤立感や疎外感を持ちながら仕事をこなしている状況である.この仮想的な距離を短くする取り組みとして,朝会や朝礼にて一言雑談というツールを活用する方策を2021年に紹介した.一言雑談はリモートワーク下でメンバー間のコミュニケーションの向上と健全なメンタルヘスルの維持を可能とすることが確認されている.本論文では,一言雑談に企業標語という明確なテーマを与え,メンバー全員が自発的に発言するコミュニケーションモデルを検討した.企業標語は日々変化するが月毎にループするキャッチコピーの集合体であり,変化するキャッチコピーに対してチームメンバーが個人の意見を毎日発表する環境を構築した.このモデルの活用は意見交換が闊達になるチームビルディングを可能とし,チームメンバーの健全なメンタルヘルスの維持と企業DNAの継承を同時に実現する取り組みであったことを紹介する.
加藤 光雄
プロジェクトを成功に導くには,事業部門(現場)とスタッフ部門(全社PMO)の両部門がプロジェクト計画を把握した上で,双方が情報共有しながら問題点を監視・フォローし,計画との乖離を抑止することが重要である.しかし,双方がタイムリーに情報共有することは簡単ではない.本研究では,事業部門によるプロジェクト計画立案の遅れやスタッフ部門による多数ある中小規模プロジェクトの状況把握の遅れに対して,BIツールを活用してプロジェクト状況を視える化することで,プロジェクト推進を円滑に行えるようにしたことについて報告する.
大山 健太朗
【背景・目的】当社ではローコード開発基盤Mendixを活用することで、社内システムの高速開発自体は可能となってきている。しかし、画面設計段階でのコミュニケーションロスや、UIコンポーネントの部品化などができておらず、開発現場で工数の無駄が見受けられた。デザインシステムを導入することでどのような効果があるかを本稿では明らかにする。【方法】実際にデザインシステムを活用して社内システムの開発をしたエンジニアにインタビューを行った。【結果】デザインシステムの導入によって、工数削減効果があるとインタビューから結果を得ることができた。【結論】デザインシステムを活用することで、画面設計・実装段階で工数削減効果が得られる。またUI・UXの品質向上などの数字に表れない部分での効果もある。
林 直希
近年,ビジネスの市場投入のスピードは加速している.このビジネスのスピードに知財創出のスピードもキャッチアップする必要があるができていない.特に特許創出活動において,この問題は顕著になっている.我々は特許創出活動に時間が掛かるという問題に着眼し,問題の本質とその解決策を見出したので,本論文で論じる.問題の本質は,発明に関する思考停止と呼ばれる状態に陥ることであり,その原因は発明者の心理的不安感である.この問題を解決する施策は,我々がサポータ制と呼ぶ施策である.このサポータ制は,心理的安全性(心理的安心感)を根幹とする施策である.またこのサポータ制の特徴は,発明者や我々担当者以外の冷静かつ客観的な第三者を特許創出会議に投入することである.その結果,特許創出活動において導入前の2倍のスピードアップを実現した.本論文では,このサポータ制のノウハウとその有効性について,脳科学の知見等を用いて多角的に分析した結果を紹介する.
高橋 新一
新システム構築やシステム更改を契機に,クラウド型システムを選択する機会が増えており,特に,オンプレミス型システムから,クラウド型システムへの移行が進んでいる.一方でプログラムマネジメントとして長期のシステム運用を考慮し,オンプレミス型システムとクラウド型システムでの違いや注意点を検討し,円滑な移行について準備を行うことが肝要と考える.そこで,本論文では,プログラムマネジメント観点でオンプレミス型システムからクラウド型システム移行の注意点を検討し,課題や考慮事項とその解決策について考察を行う.
谷元 久実子
アジャイルなど短納期,段階的な開発など,開発方法は様々な選択が可能となる一方,ソフトウェア等のライフサイクルにあわせ,一定間隔でシステム更改が必要となる事象は継続している.更改プロジェクトの多くは,一定間隔の更改後,法令順守,サービス拡大など改修を行った後,次の更改タイミングをむかえるというサイクルを繰り返し,保守体制の延長から,大規模更改プロジェクトに突入し,管理体制の不足や,有識者不足による品質低下,スケジュール遅延が発生する事例は多く発生する.本稿は,大規模更改プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメントの実践を事例研究としてとりまとめる.
條野 孝雄
近年,病院情報システムがサイバー攻撃によってランサムウェアに感染する事例が増加しつつある.病院情報システムにおいては,外部との接続に閉域網を使用するケースが多く,USBメモリやメールからのウイルス感染を防止するために,境界防御型のセキュリティ対策が一般的であるが,昨今のサイバー攻撃の事例を鑑みると,今後は外部からの侵入を前提としたゼロトラスト対策が必須課題となっている.サイバー攻撃からの復旧プロジェクトでのマネジメント経験を踏まえ,病院情報システムにおける情報セキュリティマネージメントの在り方について述べる.
溝渕 隆,三宅 敏之,仁尾 圭祐
システム開発プロジェクトにおいて,設計書に記載された機能仕様通りではあるもののユーザ受入テスト時に多数のエラー指摘を受けてしまうことに悩むプロジェクトマネージャーは多い.これはシステム開発ベンダによるテストが開発者視点テストに偏っており,ユーザ視点テストを実施できていないためであると推察される.ユーザ視点テストでは実際の業務オペレーションに従うことが求められるが,システム開発ベンダは業務オペレーション経験がない.そこで本論では,プロセスマイニング技術を活用することでベンダによるユーザ視点テストを可能とする手法,及び,ユーザ視点テストにおいてテスト密度・バグ検出密度に頼らない品質保証手法を提案するものである.
武田 嘉徳
2019年12月に初めて確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2020年2月から急速に世界で拡大し始め,2023年現在もまだ完全に封じ込められたとは言えない.新型コロナウイルスの感染拡大抑制を期待して,テレワークが推進されているが,全ての産業・業種で十分な活用は期待できるわけではない.筆者のプロジェクトは情報システムのITインフラ構築であったが,以前から対面式の会議が多く,急なテレワーク導入による混乱から,今まで友好な関係を築けていたステークホルダーとの関係が損なわれる場面があった.しかし,テレワークにおけるコミュニケーションと,会議におけるファシリテーションを見直すことで,関係を改善し,新たな契約を取り付けることにも成功した.本稿では関係の改善に至ったテレワーク下におけるコミュニケーションとファシリテーションについて,その影響と効果を評価する.
宮下 力丸
POSは,小売り店舗で必須のシステムであり,エンドユーザーが利用するシステムである.プロダクトの品質とリリーススケジュールが必達条件となり, ウォーターフォール型の開発でスコープコントロールしながらプロジェクト遂行する事例が多い.筆者が担当したA社は,クラウド上にアジャイル開発で構築中のAPIを活用した新たなシステム構成の実現を目指しており,定期的なサイクルでプロダクトを実際に見ながら製品を育てていきたい要望あり.対向システムがアジャイル開発を進める中,アジャイル開発未経験メンバーがプロダクトの最終品質と納期を確保する為に施行錯誤したウォーターフォール+スプリント開発の併用事例を紹介する.
山本 智基,華本 絢陽
近年の開発現場ではGit,CI/CDなど開発や管理を支援するツールが浸透し,開発業務に伴う開発行動データが自動的に生成,蓄積されるようになった.従来のプロジェクトマネジメントでは特定の管理目的で収集・投入される管理データが利用されているが,管理データは粒度が粗いうえに新たな収集にかかるコストも高く,状況の詳細把握や問題の深掘分析には不向きである.ここで,開発行動データの活用が課題解決に寄与する可能性がある.近年注目されるプロセスマイニングは,実業務のイベントログから業務プロセスを可視化する技術であり,ファクトに基づき無駄なプロセスの発見やボトルネック分析が実現できる.本検証ではシステム開発プロジェクトマネジメントにおけるプロセスマイニングのユースケースと分析観点を立案し,実際のプロジェクトでユースケースの検証と評価を行った.結果,立案したユースケースは一定程度有効であることが確認された.
越智 克史
IPMA(International Project Management Association)が発行しているICB(Individual Competence Baseline Ver.4)は, プロジェクト/プログラム/ポートフォリオマネジメントを行う際に, PM個人が保有すべきコンピテンスが一覧化されている.この点が, PMBOKに代表される他のプロジェクトマネジメントガイドとの大きな違いである.つまり, ICBにはプロジェクトを管理する手順やプロセスは記載されていない.この意味するところをふまえ, 今回は特にICBの人材コンピテンスに着目し, その内容を再解釈してみたい.また同時に, 若手PMへのメンタリングやコーチングでの適用の可能性についても考察を試みる.
五丹 悠多,宮本 翔一朗,周 蕾,田村 慶信,山田 茂
オープンソースソフトウェアは,様々な分野において利活用されている.また近年注目を集めているエッジ環境においても,オープンソースソフトウェアは活用されている.こういったソフトウェアの信頼性を定量的に評価する手法は提案されておらず,試行錯誤的に行われているのが現状である.本研究では,開発工数を予測する確率微分方程式モデルと,突発的なノイズに対応できるようにジャンプ項を組み合わせたジャンプ拡散過程モデルを提案する.また,数値例として,重み関数であるのこぎり波の概形を変化させることによる感度分析を行うことで,提案モデルの妥当性について考察する.
田島 千冬
改善と聞くと「悪い状況を良い状態に変えること」そんな活動に感じるのではないでしょうか?悪い状態を良い状態に変えることは、課題であり、やらなければならない改善活動のように捉えられることもあるかもしれません。また、普段から忙しいのに改善活動にまで時間が取られると感じることもあるかもしれません。一方、改善とは、「改善」「カイゼン」「KAIZEN」と表し方も様々で、悪い状況を良い状態に変えるだけではなく、自らの問題に気付き、良い状態に進化させ、継続して対応することとしても用いられています。今回は、向かいたい方向に進むために、現在の状況とのギャップを埋めていく、やらされている改善からメンバーが主体的に活動するカイゼンに変わる。そのようなカイゼンの目標設定をコーチングで用いているGROWモデルとプログラミング開発でも用いられるモブを参考に実施しましたので事例として紹介いたします。
斎藤 大輔
顧客の新商品開発の定期スケジュールに沿って「既存システムの改修を行うプロジェクト」を繰り返し実施するような,いわゆる「継続プロジェクト」は,システムインテグレータの事業継続性を支える収益源となる一方で,プロジェクト体制の固定化・高年齢化,知識・スキルの属人化などの要因により,プロジェクト推進が阻害され,人材・チームの成長が停滞する傾向がみられる.本稿では,このような継続プロジェクトが抱える課題について,人的資源マネジメントに着目した課題解決に取り組み,プロジェクト活性化を実現した事例について報告する.
西山 美恵子,金 祉潤,大関 一輝,森本 千佳子
IT業界では客先常駐型で働く社員が一定数いる.そのような組織において,社員同士のコミュニケーションが希薄であることが度々課題としてあげられる.本稿では,システムインテグレーターにおける部員同士のコミュニケーションの活性化を狙ってワークショップを実施した.このワークショップを通して抽出した課題として,所属組織や所属部員を「知る」ことの重要性があげられた.そこでワークショップ以降,どのように「知る」活動に取り組んだのか,信頼構築プロセスモデルをベースに具体的な取り組み事例を紹介する.
下河邊 喜誉
昨今ビジネス環境の変化の速さから,ITプロジェクトにおいて準備期間が短くなり,同時に複数プロジェクトを立ち上げねばならない状況が頻繁に発生する.本論文においては,某ユーザ企業の販売部門で3件の性質の異なるプロジェクトをほぼ同時に立ち上げ,推進し,完了した案件を基に,マルチプロジェクトのマネージメント上の施策を評価・整理する.
豊島 直樹
当社では毎年度,様々なIT開発を行うプロジェクトが立ち上がる.システムの老朽化対応,戦略的な新規システム開発の対応,DXやAIへの挑戦など,その内容も「攻め」,「守り」目的が多種多様である.その中で一定規模以上になると,「プロジェクト化」され,社内の全体ガバナンス運営に組み込まれ,管理される.プロジェクトの体制についても社内の審議にかけられ,リスクに応じた重厚た体制でないと承認がされず,それに基づき,社員も日頃からスキルアップや実績を積む必要がある.ここ数年,筆者においてもいくつかの重要プロジェクトのPM(またはPM補佐役)にアサインされ,実績を積んできたが,ダブルPMの体制で進めることが多かった.このダブル体制というのが,一見,権限保持者や意思決定者が2人以上いることで,プロジェクト運営上非効率のようにも見える.当初は自身の保有スキルや社内の役職上,致し方ないことであると考え,非効率であるという考えを持ちながら半信半疑,プロジェクトを進める立場にあった.ただし,案件を進めるにつれ,このダブルPM体制というのが,逆に言えば,非常に効率的な手法であり,シナジー効果が高かったと感じた.プロジェクトの特性により,ベストプラクティスの1つの手法として取り扱っても問題ないと言っても過言ではない.本稿では自身の経験したダブル体制での効果について事例を踏まえながら,考察を述べることとする.
唯松 大輔
近年の企業環境の変化による人材不足の影響を受け,日本ではマネージャーのプレイングマネージャー化が進んだ.現代のマネージャーは,組織の人を通じて成果を生み出すマネジメント業務と,自らがプレイヤーとして成果を生むプレイング業務を両立する必要がある.このような背景下でマネージャーとプレイヤーとしての業務の両方をこなしつつ,なおかつプレイングマネージャーであることの利点を活用してより高い成果を出していくための方法を確立することが重要であると考える.本稿では今年新任マネージャーとして着任した著者の経験と直面した課題を元に,プレイングマネージャーとして効果的にチーム・マネジメント,プロジェクト・マネジメント業務を推進させていくための対策について考察を行う.
石原 寛紀
システム開発におけるプロジェクトは,複雑なステークホルダーとの関係,ビジネスの変化への対応,短納期および高品質への要求などから高度化,複雑化している.その様な状況で,プロジェクトマネジメントは,プロジェクトの特徴に応じて,適切な手法を適切なタイミングで適用または,組み合わせ,優れた結果を出すことが大きな成功要因となっている.このように,マネジメントの手法がハイブリッド化して適用する中で,そのプロジェクトマネジメント能力を客観的に点検,評価し,さらに能力向上を目指して成長させていくことは,プロジェクトの成功や組織の成長において重要な活動と考える.本稿では,複数のプロジェクトマネジメント手法をハイブリッドに適用するプロジェクトにおいて,マネジメント能力の評価軸を提案し,適用させた.結果的に得られた効果とその有効性について検証する.
戸谷 和宏,奥谷 出,帆刈 勇貴
顧客の行動変化や多様な生活様式を踏まえた昨今において,DXの導入による新しい顧客体験の実現を目指す企業が増えている.このような企業のプロジェクトは,複雑なステークホルダー,多岐にわたる要求事項,新技術の適用,安心・安全な本番切替など,多くの潜在的なリスクが伴う.本稿では,リスクマネジメントにおける回避・転嫁・軽減・受容の戦略をもとに,事実の実態把握・可視化,根拠に基づいた方針案検討,ステークホルダーとの交渉・合意形成といった基本行動を徹底したことで成功したプロジェクト事例を紹介する.
北畑 紀和
RCA(Root Cause Analysis)は日本では"5Why"や"なぜなぜ分析"と呼ばれ,問題分析手法として広く知られている.問題の真因を特定し対策を立てる上で有効な手段であるが,発生した問題の種類や運用する人間によっては,必要以上に担当者に負担を強いる場面もあると考える.RCAの課題と思われる事案と対策について考察する.
野元 拓也
ITシステムの社会的重要性の高まりとプロジェクトマネジメント手法の進展によりIT業界では形式知の集積は進んできた.しかし一方でコロナ禍の影響からコミュニケーション不足を起因とするプロジェクトマネジメント不良によるコスト超過プロジェクトが増加傾向にある.このプロジェクト成功率の減少は特にコスト超過と直結するため,コスト超過が顕在化するよりも前に,早期にコスト超過プロジェクトを検出し対策を講じる必要がある.本対策として当社では,AI機能を使用して,コスト超過プロジェクトを早期に検出する施策を実施した.その目的はプロジェクトメンバに対して気づきを与え,コスト超過に対して早期の対策実施を可能とすることである.本稿ではこれらの施策の内容とその結果評価,及び今後の課題を述べる.
小形 絵里子,吉積 一斉,河内 福賢,飯田 貴史,大倉 聖一,中島 雄作
我々の会社は,システムプラットフォームを主な事業領域とするSIerであるが,一部,建設工事部門も存在する.当部門は,データセンタ(ファシリティ)の設計・建設工事・保守運用・コンサルティングを事業領域としている.近年,ヒヤリハットの事例が複数見られ,未然に,作業ミスが発生しないよう作業品質改善活動を展開した.今回は加えてヒューマンエラー防止に着目した.ヒューマンエラー12分類を元にリスクを洗い出し、ヒューマンエラーの対策に有効な11のフレームワークに基づいて,対策立案していった.本稿では,建設工事部門におけるヒューマンエラー防止活動の一事例について述べる.
小林 美苗,村岡 千紗
近年,ニューノーマルな働き方として様々な企業がテレワークを導入している.弊グループも離れた拠点間で,大規模かつテレワークベースのプロジェクトに参画している.顔が見えないプロジェクト推進において,多くのメンバが,チームのコミュニケーションに不安を抱いている事が判明した.円滑なコミュニケーションを阻害する課題である,メンバの顔が見えないという不安や,気軽に会話が行える環境づくり,面識のないメンバ同士の心理的抵抗感に対して,施策を検討した.Zoomのブレイクアウトルームを活用した施策と,心理学ラポール手法を活用した施策を実施し,効果を検証した.検証の結果,同じプロジェクトルームで共に作業をしている様な環境が生まれ,チーム内・チーム間のコミュニケーションの活性化や孤立感の軽減が実現出来た.各個人のミーティング管理やPMOによるチーム間の調整に必要となる作業工数が削減されるという結果も確認出来た.これらの結果は,大規模かつテレワークベースのプロジェクトであっても,チーム間の距離を感じさせない活発なコミュニケーションの実現により,円滑なプロジェクト推進が可能であることを示す.
渡辺 由美子,北條 武,中島 雄作
NTTデータでは約20年前からメンタリング手法に着目し,PM育成の研究及び実践を行ってきた.約10年前からNTTデータユニバーシティとNTTデータグループ品質保証部が事務局として,PMメンタリングの運営を行っている.育成効果を高める運営事例について,2022年度の本大会に発表した.本稿では,昨今のNTTデータのメンタリングではどのようなテーマで議論をし,メンタのどのような言葉で気づきを得ることができているのか,また,知識,コンピテンシのカテゴリ別に分析した成長例についてポイントを紹介し,効果の評価を行い,今後の課題について述べる.
石村 裕里
プロジェクトマネジメントというものは常に進化しており,プロジェクトマネージャーとしてより良い手法を追い求めるのは当然のことであり筆者もまた,多くの他のプロジェクトマネージャーと同様に自然とそのようにしてきた.新たなプロジェクトに参画するたびに,常にこのプロジェクトにおけるマネジメントはどのようにすべきかを自身の経験や学習した知識,そのプロジェクトの環境や特徴,メンバーの構成や性格により試行錯誤しながら確立させてゆくものである.特にコミュニケーションの分野においてはCOVID-19の影響で急速に進んだリモートワークにより、一からコミュニケーションについて考え直さなければならなくなったプロジェクトマネージャーは数多くいると思われる.本論文では,これまで筆者が経験したコミュニケーション手法の中で最も画期的だと感じたあるコミュニケーションツールについて,その有効性を筆者の実際の経験を交えて解説する.
石川 峻
2020年コロナ初期,日本のビジネスシーンにおいても大きな混乱をもたらした.筆者の環境においても在宅勤務の拡大に伴うリモートワーク環境の緊急増強,複数プロジェクトの中止による要員のリリース等が発生し,従来に比べ推進が難しいプロジェクトが多数発生した.今後も災害の発生等により通常のプロジェクトマネジメント手法通りには進められないケースが発生するものと考える.本稿では,イレギュラー発生時のプロジェクト推進をテーマに大手金融機関様向けのリモートワーク環境増強プロジェクトについてご紹介する.2週間という「超短期プロジェクト」を完遂した経験から,体制の組み方,ユーザ折衝の変化等について自身の考察を交え提言する.
平井 直樹
不確実性が前提となりつつある時代において、これまでのリーダーや管理者を中心とした中央集権的な権限を個人やチームそのものに権限移譲し、分散させ、さらに自律的に変化に対応して行動することができる自律分散型組織が着目されている。こうした自律分散型の組織の一つとして挙げられるのがアジャイルであるが、その特徴の一つである「自己組織化」についてはあまり研究が進んでいない。アジャイルソフトウェアの12の原則では、最良のアーキテクチャ・要求・設計は、「自己組織的なチーム」から生み出されると述べられているが、スクラムガイド2020では、これまで「自己組織」と表現していた文言が「自己管理」という表現に代わられている。そもそもアジャイルにおける「自己組織化」とはどのようなものであろうか。本研究では、この自己組織化について先行研究より考察する。
谷口 幸生
近年, 業界ではスクラッチ開発による最適化よりも, 標準化準拠・開発迅速化・開発費用低減を重視する傾向が増しており, ミッションクリティカルなシステムでも同様の要望が見られる.本稿では, その具体例として, 従来のスクラッチ開発からパッケージ製品活用による標準化・高速・低コスト化の実現に成功したプロジェクトを紹介する.パッケージ製品を活用するためには業務仕様に加えてパッケージの知見も必要であり, 海外製品ベンダーとの体制構築にあたっては海外要員との開発プロセスや考え方の違いを考慮する必要があった.そのため, 海外要員を活用するための体制, 品質向上の取り組み, 密なコミュニケーション手法を考慮・導入し, PJを完遂した.本論文では, これらの取り組みをもとに, 「パッケージ製品を活用したスクラッチ開発からの脱却」に向けた課題と, パッケージ・海外要員活用の勘所について論じる.
畠 俊一,山内 貴弘,羽田野 孝,原田 裕治
既存の業務システムをクラウド環境へ移行するプロジェクトが年々増加している.業務システムを移行するプロジェクトでは,オンプレミスからオンプレミスへ移行する時とは違った視点が必要になる.この移行プロジェクトを安全に立ち上げ,遂行していくための全社横断組織としてCloud Center of Excellence(CCoE) 組織を立ち上げる事例が増えてきた.本稿では,お客様の組織内でCCoE組織を立ち上げるあたり参考としたフレームワークの紹介と,そのフレームワークを活用した結果について考察する.次に,CCoE組織を立ち上げるプロジェクトでお客様とどのような役割分担としたかを整理する.最後にそのプロジェクトの中で直面した課題と,その課題に対する解決策について考察する.
水村 健一
品質保証を目的とした部署におけるプロマネの支援活動について、ウォーターフォール型PJの各工程での支援と、開発プロセスや成果物に対する品質評価でプロジェクトの品質改善に貢献してきた活動を紹介する。これまでに品質向上に貢献できた支援活動について、進めてきた品質改善活動の詳細を共有し、その評価と今後の方向性をまとめる。
青木 政之
失敗プロジェクトは,企業経営に大きなインパクトをもたらす.失敗プロジェクトを減らすためには,専門家や有識者の監視が必要である.しかし,その数は限られているため,全プロジェクトの監視は困難である.そこで,プロジェクトデータから,AIとロジックの2手法を利用し,失敗プロジェクトの予兆検知に挑んだ.結果,AIによる検知率42%,ロジックによる検知率80%を得た.今後の課題は,検知精度の向上である.
新谷 幸弘
本研究の目的はパーパス経営の視点からアジャイルメソロジーを再考察し、その交差点を探求することである。パーパス経営とは、企業が自らの存在意義を明確にし、それを経営の中心に据えることで、戦略の方向性を強化する経営手法である。他方、アジャイルは組織が市場の変化に迅速かつ柔軟に対応するためのマネジメント手法である。表面的な違いこそあれ、アジャイル手法とパーパス・マネジメントは、戦略的アジリティと組織の目的意識の向上という共通の目標を追求する上で交差している。本研究では、この2つの概念がどのように交差し、相互作用しているかについて理論的に分析する。
小嶋 祐貴
近年、社会や企業を取り巻く環境が急激に変化する中で、リリースまでの早さや仕様変更に対する柔軟性を持つアジャイル開発が注目を浴びている.本稿で説明する社内WEBシステムの開発事例についても、同様のニーズからアジャイル開発(スクラム)を採用している.採用の際、金融機関としてお客様が求める「品質(本番環境と同等の環境でのテストをパスする必要がある)」や「セキュリティ(テストデータをお客様のイントラネット外に持ち出せない)」といった特性から「ビルド・テストの自動化(CI)やリリースの自動化(CD)を全体に適用ができない」や「一部のプロセスを在宅環境で行えず、コロナ禍においても出社の必要があった」といった課題があった.それらの課題をどのように整理して開発プロセスに落とし込んだかを紹介する.
別府 薫,佐伯 明音,遠藤 圭太,仁尾 圭祐
昨今ではビジネス変化の激しい時代であり,従来のウォーターフォール型の開発では,市場・顧客のニーズに答えることが難しくなっている.そのため,新しい機能を短期間で継続的にリリースするアジャイル開発を採用するプロジェクトが増加している.しかし,開発実績が多くノウハウのあるウォーターフォール開発と比較して,アジャイル開発は実績が少なく品質管理手法も明確に定まっていない.本論文では,アジャイル開発のアプローチを品質管理視点で分類し,実案件に適用した品質管理事例を紹介する.さらに,ウォーターフォール開発における品質管理のアプローチと比較した際に,どのような差異があるのかをまとめる.
中島 大寿
日本国内においてIT人材が不足している中で,企業ではIT人材の確保や社内人材のリスキリングの実施など,あらゆる取り組みを実施している.人材育成のため社内教育制度の充実を図り,情報習得型のスキル習得は進む一方で,実務レベルでのスキル習得には場の提供だけでは十分に習得できない状況があると考える.筆者は自身が担当したプロジェクトに参画したOn-the-Job Training (以下,OJT)メンバーや自社部門において,技術的スキル習得がうまく進まないメンバーに対し,どのような課題や背景があるのかを考察した.IT技術だけでなく,コミュニケーション面や心理的安全性もスキル習得向上に関連していると考える.OJTでのスキル習得のためのサポートやプロジェクトチームでOJTメンバーを受け入れる際の体制,OJTメンバーとのコミュニケーションに関して考察する.
橋爪 大
お客様を取り巻くビジネス環境の変化は著しく,発展を続けるデジタルテクノロジーに順応することで競争力を高め,ビジネスを展開し続けていくことが必要である.そのため,今日のシステム開発では開発の短納期化が進んでおり,PJを成功に進めるためにはPJ開始前に立てる計画が重要である.だが,計画通りにPJが遂行することは難しい.なぜなら,遂行していく過程の中で様々な課題が生じるためだ.その課題の1つに成果物の仕様変更が挙げられる.仕様変更対応によるスケジュールインパクトを抑えるために,仕様変更をどのように管理していくか,その変更管理手法について紹介する.
杉山 昌彦
IT業界は独立・転職などによる優良人材の減少・人手不足が深刻な問題となっている.そういった状況の中,若手メンバーを積極的にプロジェクトマネージャーに登用することによる組織力の底上げを図っているが,経験の浅いプロジェクトマネージャーは,プロジェクト関係者との信頼関係の欠如や不満拡大の予兆に気づくことができず,プロジェクトメンバーからの報告の遅延や報告事項が後になって覆される事を経験している.本稿では,プロジェクトの事例を通じて,プロジェクトマネージャーの上司という立場で,プロジェクトマネージャーとステークホルダー間のコミュニケーションを中心に実践計画を立て,検証した結果および考察・改善点についてまとめる.
池田 浩
近年,システム開発は従来のシステムインテグレーションだけでなく,アジャイル開発やDX,IoTといった新しいテクノロジーやビジネスアーキテクチャーをふまえたプロジェクトの推進が求められる場面が増加している.これらのプロジェクトの品質,予算,納期に責任を持つプロジェクトマネージャーについて,新たに育成するだけでなく,既存の人財を適合させていく取り組みも重要となる.人財の育成について,外形的な診断が可能な知識や経験,スキルに偏りがちだが,普遍的な能力としての「コンピテンシー」を伸ばすことがロバストなプロジェクトマネージャーの育成に重要である.
塩谷 春生
プロジェクトを成功裏に遂行するためには,ユーザーから要件を適切に聞き出し,合意形成を経てプロジェクトを遂行する事が重要であることは言うまでもない.ただ,どのように詳細に要件定義フェーズで要件確認を実施しても,後続フェーズで変更要求は発生する.これは後続フェーズでシステムが具体化することにより気付けることがあるからだ.近年ではアジャイル開発の手法を用いることで,変更要求を最小化する工夫をするプロジェクトが多くなっているが,一方で,大規模プロジェクトでは,全体開発規模の立てやすさなどから,未だウォーターフォール開発を利用することが多くを占める.本稿では,変更要求が多くでる機能群と,変更要求があまり出ない機能群が明確に分かれる場合,開発手法を分けて進める「ハイブリッド型開発」を用いることで,その優位性について言及するとともに,注意するポイントを考察する.また,本稿執筆時点では解決できていない課題事項にも触れ,より効果的なハイブリッド型開発についても展望する.
福田 淳一
本論文は筆者が2021年PM学会秋期研究発表大会で発表した「スコアモデル開発のメソドロジー」の実践編である.筆者はスコアモデル開発の技術をより実用的なものとするべく,オープンデータ及びフリーソフトであるRを使ったスコアモデル開発を試行している.本論文は現在試行中である,ソフトウェア開発分析データ集2022のデータを使ったプロジェクト満足度評価スコアモデル開発の中間報告である.中間報告ではあるが,開発したモデルではプロジェクト満足度スコアを向上させるためには,コストと品質の評価が重要であることを示唆している.また,コストのみの評価は却ってプロジェクト満足度を低下させることも示唆している.開発途上のモデルであるので変数選択及びその離散化等モデルのチューニングが十分できておらず課題は残っている.今後取り組む予定である.
久保田 次郎,松尾 拓郎
近年システムにおけるUI/UXは重要なテーマとなっているがシステムの機能要件/非機能要件と異なり定量的な定義が難しくプロジェクトを推進するうえで後戻りのリスクとなりうる。本論文ではUI/UXの要求レベルが高い新規プロジェクトにおいてQCDを確保するうえでの課題と、その解決に向けて取り組んだ内容および成果について論じる
安田 憲司
オフショア開発は,主に以下のような目的で利用される.コスト削減: オフショア開発を利用することで,開発にかかるコストを削減することが出来る.一方,オフショア開発には注意すべき点も存在する.Face to Faceでの会話が難しい環境のために,コミュニケーションの困難さがある.また,遠隔地でのメンバーアサインとなり,作業状況を直接見ることができないために,チームミーティングやレビュー体制等を考慮し,求められるアウトプットが出せる環境を準備し,適切なプロジェクト管理手法の導入が重要となる.本稿では実際にオフショア開発での経験を踏まえ,具体的に取り組んだ事例や対応策を紹介する.
児島 伴幸
昨今のインフラ技術の多様化により,日々,技術が進化している.技術が複雑になり,要件定義から運用までプロジェクトの全体を依頼する顧客も増えている.同時に,顧客主導のプロジェクトも多く,プロジェクトの一部のみを担当する中小規模の案件も増えている.このような背景から,顧客が当社へ期待する内容に変化が生じており,当社は,大/中/小規模案件を柔軟に対応する必要があった.本書では,チーム編成とプロジェクトマネージャ育成を,タックマンモデルを用いて実績から評価する.収益,品質,育成,モチベーションの4つの観点で考察する.
吉澤 憲治
ローコード開発基盤は、近年働き方改革やDXを加速する日本企業で導入が急拡大している。ローコード開発は、ビジネス部門が自ら開発する市民開発も期待されており、IT人材不足と高齢化が進む中でビジネス変革を進めなければならない日本のIT業界において非常に注目度が高い。当社においても例外ではなく、社内DXを早急に進めるため2021年にローコード開発のCoEを組成し、社内展開を開始した。2023年7月現在において30プロジェクトがローコード開発を取り入れている。本紙では、ローコード開発導入にあたり当社で実践した施策を「戦略」「ガバナンス」「プロセス」「リソース」の4つの観点で報告する。また、市民開発を中心とした今後の取り組むべき課題についても報告する。
安田 清人
本論文では,大規模ミッションクリティカルシステムのHWマイグレーションプロジェクトにおけるレビューア負担軽減策を検討する.IT人材確保競争とクラウド技術シフトにより,オンプレミスシステムプロジェクトで新規参画者のスキル低下に伴うレビューア負担が問題化している.主要課題として「過去資料の再利用誤り」や指示不足やごく単純な誤りを示す「非エラー扱い」が多いことが明らかになり,原因として新規参画者のセルフチェックスキル低下や暗黙知への依存が挙げられる.対策として新規参画者向け教育,設計工程改善,セルフチェックシート導入を提案し実施.対策後のデータから負担軽減と品質向上が確認されたが,今後の調査や対策が必要であることが示唆された.
井野 駿也,關 咲良,小笠原 秀人
今、世の中では様々な問題を解決する1つの手段として、ChatGPTが活用されており、その注目度は飛躍的に上がっている。そこで筆者らは,大学の講義にて,プロジェクトマネジメントに関する知識を活用し実践する,プロジェクトマネジメント演習(以下,PM 演習)と呼ばれる PBL(Project Based Learning)に取り組み,WEBアプリケーションの開発プロジェクトを行った際、プログラムを作成する上で行き詰まった場合や発生した問題をChatGPTを活用し解決した。このChatGPTを活用し解決した問題、またChatGPTによって逆に起きてしまった問題をまとめ、Webアプリケーションを開発する上でのChatGPTの活用方法について提案する。
岩重 博行,中谷 悟,米倉 伸輔
昨今,情報システムの老朽化・HW保守停止などにより,現行システムの更新が必要となるケースが増加している.私の担当顧客(A社)でも同様にHW保守期限が迫っているシステムがあり,新システムへの更新が急務となっている.今回更新対象となるシステムについては関連する周辺システムが多く,更新の影響は複数システム・複数ベンダに及び,プロジェクト自体はマルチベンダ体制となる.そのため難易度が高いプロジェクトであるが,顧客体制の問題(人材不足)からシステム企画が進んでない状況であった.さらにA社はコロナ禍による減収により十分なプロジェクト予算の確保が難しい状況であった.この状況を克服するためには,「マルチベンダ体制のコントロール」「顧客体制」「納期・コスト」などの課題への対策と高度なリスクマネジメントが必要となった.本論文では,マルチベンダ体制におけるプロジェクト管理の課題に対する対策とその効果について考察する.
石井 優輝,下村 道夫
コミュニケーション能力は,組織でのプロジェクトマネジメントで中核となる能力の一つであり,採用の選考においても重要視されている.しかし,コミュニケーション能力が指し示す具体的対象の種類は極めて多く,組織や職種によってどの能力を指してコミュニケーション能力と呼んでいるかが異なる場合が見受けられる.例えば,プレゼンテーションを流暢に行えるといった表面的な能力を指していたり,相手の気持ちや立場を察して先手を打って行動を起こせるといった内面的な能力を指したりする場合がある.本稿ではこの問題に対して,コミュニケーション能力が指し示す具体的対象を整理し,包括的に体系化した形式知を作成し実社会で広く活用してもらうという解決アプローチを提案する.これにより,コミュニケーション能力という用語の使用時に生じる誤解を回避することを狙う.
浦川 恵一朗,下村 道夫
近年,大学の講義における学生の受講態度の悪化が問題になっている.例えば,遅刻や早退,居眠り,過度な私語,教材以外のコンテンツ利用(ゲーム・漫画・Youtube)などが挙げられる.これらの原因としては,学生の修学意欲の低迷(講義への関心がない),合格判定基準の低下(問題容易化,再試の実施など),教員の魅力の低さ(容姿,声質や話し方など)が考えられる.特に,大学教員の年齢層は40~50代がほとんどを占めており,学生世代との年齢差による教員の魅力低下が原因となる場合が多いと考えられる.本稿では,この問題の一解決手段として,最近の魅力的コンテンツである「タートル・トーク」やVTuberで用いられている映像・音声のリアルタイム変換技術を教員が行う講義に適用することを提案する.これにより,教員に対する興味や親しみを持ち,学生の講義への聴講意欲を高めることを狙う.
島田 直享
製造業A社が、出荷計画の立案を従来のやり方であるカンコツから疑似量子アニーリングを活用した最適化手法へ変更することを試みた。技術検証(PoC)により、疑似量子アニーリングの結果のランダム性やインプットデータの変化による影響、求解性能、業務ルールの抜け漏れなどの課題を発見した。プロジェクトの進め方としては、ユーザの参画を通じた品質確認、手戻り工数を減らす工夫、検証のプロセス変更などを提案した。現在は追加検証1の段階であり、疑似量子アニーリングの実用化に向けたノウハウを積みながら取り組んでいる
青山 直樹
新型コロナウイルスの拡大により、システム開発プロジェクトの現場もテレワークなどの在宅勤務、リモート会議、クラウド利用の様々なコミュニケーションツールを利用した「非対面コミュニケーション」を中心としたプロジェクト管理となった.私達はSalesforceの導入・開発プロジェクトが中心である.私達はそれらプロジェクトを通して、在宅勤務での分散開発、二アショア、オフショアを行いながら、開発を行ってきた.その中でチャットシステムなどを使用した課題管理、情報共有のコミュニケーション方法事例を挙げながら、The New Normalとなったシステム開発における「非対面コミュニケーション」を考察していく.
小椋 大輔
複数チームからなる大規模プロジェクトかつリモート開発において,メンバーのモチベーションがシステム品質と開発生産性に与える影響に着目している.そのような状況下では,共通認識の難しさやその手間がモチベーションの低下に影響する.簡潔な対処方法としてコミュニケーション機会の増加が考えられるが,大規模・リモートの制約下では,メンバーの数の多さや物理的距離という制約から,小規模・対面のプロジェクトと同様の気軽なコミュニケーションを実現することは難しいため,コミュニケーション機会の増加を見込みにくい.すでにビデオ会議やチャットツールが導入されている前提で,「簡潔な日報の活用」や「フィードバック文化の構築」など,情報共有とメンバー間の交流を重視したアプローチで,モチベーション向上を目指した.今回考察した手法とその実践結果を元に,有用性について考察する.
藤田 航平,宮本 翔一郎,周 蕾,田村 慶信,山田 茂
現在,データをクラウドによる一極集中で処理・記録するのではなく,分散化したエッジサーバで処理するエッジコンピューティングが普及しつつある.エッジコンピューティングにはオープンソースソフトウェア(Open Source Software,以下OSSと略す.)が用いられているが,そのような運用環境の場合,OSSだけではなくデータベース上で発生する故障などを考慮することが必要となる.先行研究では,ウィーナー過程を用いることで,定常的な開発工数の変化のみを考慮していた.本研究では,ソフトウェア特有の突発的なノイズに対応できるジャンプ拡散過程を導入した複合確率過程モデルを提案し,エッジ環境におけるソフトウェアの最適メンテナンス問題を扱い,その感度分析と適用結果について考察する.
早川 芳昭
ITサービス提供事業者では,システムの老朽化や他の理由により,やむを得ず利用者を旧システムから新システムへ移行させる必要が生じることがある.今回取組んだプロジェクトは,IaaSサービス提供事業における利用者移行プロジェクトで「利用者に移行作業を進めてもらう必要がある」という特性があり,「利用者が実施する移行作業が複雑で失敗リスクが高い」といった課題があった.この課題に対して対策を行うことで,利用者が移行作業で失敗することを未然に防ぐことができ,プロジェクトとしても致命的な事故無く,利用者移行を成功させた.本稿ではこの利用者移行プロジェクトのマネージメント事例で実施した対策や工夫点について述べる.
梅木 美裕
システム構築プロジェクトにおいて上流工程は、プロジェクトの成功に不可欠なフェーズであると同時に、見積り誤差を引き起こすリスクも持ち合わせている。本論文は、実際のプロジェクトデータから上流工程の重要性と見積もり誤差との相関関係を調査・分析し、プロジェクトマネジメントにおける上流工程の意義と重要性を述べるとともに、見積もり誤差軽減のための具体的な施策案を提案するものとなる。
湯浅 英人
デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる企業の割合は年々増加しており,企業戦略としての重要性が高まっている.一方,DXに取り組んでいない,または,成果途上の企業も数多く存在しており,これらの企業はDXのプロセスであるデジタイゼーション,デジタライゼーションにおいても途上の状態である.DXの推進において人材が課題と言われている中で,お客様と多くのコミュニケーションを図っているプロジェクトマネージャーの役割がますます重要となり,従来の品質,コスト,納期,リスク管理に加えて,お客様と共に創造(共創),共に発想(共想)できるプロジェクトマネージャーが必要と考える.DXが重要視されている状況においてプロジェクトマネージャーに求められる3つのコンピテンシーを提言し解説する.1.お客様とお客様の業界を知る2.実践に向けたお客様にとって臨場感がある提案と共創を推進する3.お客様と共に先見的な発想をする(共想)
七田 和典
近年,IT技術の急速な発展により次々に新たな製品やサービス,ビジネスモデルが生まれており,デジタルトランスフォーメーション(以下DX)の時代だと言われている.DXの時代で企業が生き残っていくためには不確実性が高い創造や変革を迅速に実現していく必要があり,新規性・難易度の高い要件の実現や新技術・新製品への対応を短期間で求められるDXプロジェクトが多く発生している.本稿では大手金融機関のDXプロジェクトにおける不確実性に対応し短期間でのシステム開発を実現するため,アジャイルプラクティスの導入,CI/CD・テスト自動化の導入,APMソリューションの導入といった開発・運用プロセスの効率化(DevOps導入)と,マイクロサービスやコンテナといったクラウドネイティブ技術の活用によるアプリケーションのモダナイゼーションにより高生産性と高品質を実現したプロジェクトマネジメント事例を考察する.
石川 雅人
近年, 日本の多くの企業において, 「ビジネススピードの加速による新規アプリケーション開発のニーズの増加」「IT人材の不足」などの理由から, ローコードプラットフォームの導入が急速に進んでいる.また, ローコードプラットフォームの導入により, アプリケーション開発の内製化が促進されている.当社の社内システムにおいても「Mendix」「ServiceNow」といったローコードプラットフォームを導入し, アプリケーション開発の内製化を進めている.本稿では, 当社が開発してきたローコードアプリケーションの事例を紹介し, アプリケーション開発に関する課題とその解決手段について考察する.
石栗 智裕,永井 進之介
我々が提供しているシステムは公法人の業務効率化を目的とし、RFPという顧客からの要求仕様に沿った提案を行う入札が前提となる。要求仕様には顧客特有のカスタマイズが開発スコープに含まれているため、カスタマイズ内容が当初想定から増大しスケジュールの遅延が発生するリスクがある。今回受託したプロジェクトでは特殊なカスタマイズが多いことに加え顧客の要求仕様で定められたクリティカルパスの遵守が求められたため、提案時のスケジュールから詳細設計、製造・単体テスト工程の短縮が必要となった。上記に対して顧客上層部の関与、フィージビリティを意識したプロジェクト遂行、開発実施体制の早期構築、ファスト・トラッキングを用いた並列化を行い、クリティカルパスを遵守した。この成果は、スケジュール短縮が必要となるプロジェクトの遅延防止に有効であると考える。同時に今後のプロジェクトマネジメントの効率化についても考察した。
房山 渉
ITシステムの多くは,VUCA時代に相応しいシステムを開発することを目的として,アジャイル開発手法を採用している.一方,ITシステムであってもミッションクリティカルなシステムは,要件変動が少なく,開発ボリュームも大きいため,ウォーターフォール開発手法を採用している.我々の開発しているテレコムネットワークシステムについても,ミッションクリティカルなシステムであることから,ウォーターフォール開発手法を採用していた.しかしながら,近年のテレコムネットワークシステムは,多種多様なプロダクトがネットワークに接続され,競合他社に先駆けて新しいサービスを提供する必要が生じ,要件変動が多く発生するようになった.そのため,1年間かけて開発していた機能を細分化し,現状のウォーターフォール開発手法は変更せずに,短期間かつ数回に分けて提供する手法を用いたが,様々な課題に直面した.本稿では,ウォーターフォール開発手法を短期間で実行する手法に加え,直面した課題に対してどのように解決したかを新たな開発手法という切り口で提言する.
中村 匡伸
大規模システム構築プロジェクトにおいては従来から様々なバックグラウンドを持つチームが協業してプロジェクト運営するケースが多いが,近年,さらにその傾向は加速しており,その状況に起因する品質課題の発生リスクが高まっている.そこで本稿では,著者がプロジェクトマネージャー(PM)として参画した大規模プロジェクトにて,本番移行直前(移行リハーサル)で発生した複数回の品質課題を解決して成功裡のサービスインを達成した事例を通して,チーム横断の対応が必要なプロジェクト全体の品質課題に対して,一ベンダーのPMが短期での立て直しのためにいかにリーダーシップを発揮するかを考察する.
中元 信吾,水澤 浩司,金子 康浩,黒岩 正樹,坂元 隆宏,余吾 貴志
ソフトウェア開発を中心とする事業体において,ソフトウェア開発の品質保証基盤に加え,SIの構成要素の一つであるハードウェアの品質保証基盤を整えることは,体制面等で非常に多くの維持費が掛かり,コスト競争力が低下しかねない.一方,ハードウェアの品質保証の対応を怠ると,法規法令違反といったインシデントの発生や,出荷後の障害多発という事態を招くことになる.これまで,開発委託や購入するハードウェア製品の品質担保のために,最低限実施すべき事項を,品質管理プロセスとして構築し改善を図ってきたが,プロセスの構築だけでは十分ではなく,ハードウェア開発経験の少ない営業やSEにおいても,知識,スキルやマインドが十分でないと,プロセスが適正に運用されないことが分かった.今回,知識面においては技術法規制対応の認識不足,スキル面においては品質管理プロセスを運用する勘所の不足,マインド面においては品質管理プロセスの大切さについて,それぞれ,情報基盤整備に依る知識の拡充,ハードウェア開発リーダー支援によるスキルの向上,定期教育によるマインドの刺激を通して,ハードウェア品質風土の醸成を図った.本論文では,知識拡充,スキル向上,マインド刺激を通して,ハードウェア品質推進風土の醸成に向けて,工夫した点とその成果について述べる.
中西 苑美
国内市場の縮小と海外市場の規模拡大、および海外企業が様々な分野の市場に進出している状況を踏まえ、大企業の海外展開・グローバル化は避けられない課題である。海外ビジネスの推進に当たっては、現地の法規制や商習慣に合わせた対応に知見のある現地スタッフや、実際に現地で業務を行う担当者の協力が欠かせない。海外で利用する業務システムの開発プロジェクトにおいても、そういった日本語を母語としないステークホルダーとの合意形成は不可欠であり、それは意思決定や開発の主体が日本側に存在するケースにおいても例外ではない。一方で、システム開発と日本語・英語双方のコミュニケーションに一定程度の技能を持つ日本人技術者は限定的であることが実情であり、英語翻訳がボトルネックとならない開発体制の検討が重要となる。本論文では、実際に英語ドキュメントの作成を必要とした日本国内での開発プロジェクトを例に挙げ、システム開発の特性に応じた英語ドキュメントの作成方針について考察した。
平方 泰光
システム開発プロジェクトの不採算化は開発ベンダーに多大な影響を及ぼす.QCD確保のため各社さまざまな対策を講じており,弊社でも長年取り組んできた重要テーマである.一方で,システム開発発注側のクライアントでも,失敗プロジェクトとなった場合の影響は多大であり,いかにQCD確保していくかは大きな課題となっている.弊社で培ってきた不採算案件抑止の仕組みをベースにアセット化し,クライアントのクオリティアシュアランス(QA)や組織ガバナンス向上支援に取り組んでおり,進行中のプロジェクトを通じて得た私なりの考察を述べたい.
中野 和哉,中島 由恵,神野 学,渡辺 秀樹,後藤 協子
「プロジェクト」の特徴として有期性・独自性の2つが知られているが,展示会や発表会などのイベントは明確に期日が決まっており,ユニークな価値を生み出すためプロジェクトの1形態と考えることができ,本稿ではイベント型プロジェクトと称する.これまで,イベントに対するプロジェクトマネジメントの考え方の適用に関する先行研究は存在するが,現在日本で活用が広がりつつあるIPMA ICBを活用した研究は存在しない.本稿では,一般的なイベントに対してIPMA ICBの考え方がどのように適用できるか論じた上で,具体的なイベントに適用した事例を紹介し,IPMA ICBの中で活用できるコンピテンスについて考察する.
野尻 一紀
ウェルビーイングはSDGsの目標3に掲げられ,非常な注目を集めている.本稿では,社会のウェルビーイング向上を目的として進行中のプロジェクトにボランティアで参加した経験と,自身のプロジェクトの改善策としてのウェルビーイング取り組み事例を示す。さらに今の時代に必要なプロジェクト遂行上の考慮点について言及する.プロジェクトのリーダーとメンバー全員が主観的ウェルビーイングとレジリエンスを高め,人間関係のつながりを強めていくことが,プロジェクトの創造性・業績を高め,自己肯定感・自己思いやり感を向上していくために重要である.
山口 由貴,上村 興輝,島田 佑磨,小坂 由依,田中 基己,中島 雄作
筆者は当時新卒1年目の新入社員であった.次年度の新卒採用の候補となる学生向けにインターンシップを行うこととなったが,自事業部のカリキュラムの企画・運営のリーダに任命された.筆者は全くのPM初心者だったので,ChatGPTを活用してプロジェクトマネジメントとして為すべきことのヒントを得た.その先は,当社のウェルビーイング経営の方針に基づき、インターンシップをマネジメントしていった.本稿では,ChatGPTを活用したインターンシップの企画と運営のプロジェクトマネジメントの一事例について述べる.
千田 貴浩
二拠点生活とは,首都圏と地方など二つの拠点に住み,行き来しながら生活をすることで,デュアルライフとも呼ばれる.新型コロナウイルスの影響下,リモートワークが普及し,二拠点生活や移住を始めた人が増加している.二拠点生活では,首都圏では文化・教育などの利便性を楽しみ,地方では自然やゆったりとした時間を楽しむといった二拠点の特徴を活かした生活を送るメリットの他,居住費が二重に発生したり,二拠点間の移動時間の考慮が必要といった留意すべき点も存在する.本発表では,二拠点生活のメリットや留意すべき事項にフォーカスをあて,プロジェクトマネジメント技法を活用した有意義な二拠点生活の具体的事例について発表する.
大島 祐子,前田 真輝,大塚 有希子
競争力の強化が目的であるDXへの取組みは増加しているが、各国と比較すると効果は限定的である。情報処理推進機構が公開しているDX実践手引書では、”DX の起点は「目指すべきビジョン」の共有”と示されている。そこで「目指すべきビジョン」を「DXビジョン」と名付け、DXビジョンの策定と共有にアジャイル手法を用いたプログラムを提案する。DXビジョンを策定・共有することでDX推進に組織の力を発揮させ、DXによる変革を実現することが目的である。プログラムでは3回のイテレーションでDXビジョン・戦略を策定する。イテレーションごとのレトロスペクティブでDX推進に必要なステークホルダー分析を行い、次のイテレーションの参加者に加える。段階的に参加者を増やしDXビジョンを評価することで、組織内の意見をDXビジョンに反映するとともに浸透させることができる。また、プログラムで策定した成果物を用いて経済産業省が整備しているDX認定を取得することで本プログラムの有効性を示す。現在、プログラムの構築過程であり、広く意見を求めるため発表する。
井上 文博
これまでの日本の開発現場においてはウォーターフォール型開発手法が主流であったが,ここ最近ではアジャイル型開発手法を用いる開発現場も聞かれるようになってきた.ある金融会社の開発現場においては,スクラッチで新規に基幹システム開発をすることは完了しており,その後の維持保守開発(エンハンス開発)の段階でのアジャイル型開発手法適用を約2年に亘って試行してきた.アジャイル型開発手法を試行することの目的は,「開発スピードの向上」と「速やかな仕様変更の取り込み」の2点にあった.その試行の中で得た経験と知識をもとに,ウォーターフォール型開発手法とアジャイル型開発手法それぞれのメリットを生かせる融合型の開発手法を模索した.
森本 千佳子
近年,産業界ではデザイン思考が注目されている.スタンフォード大学で有名なデザイン思考プロセスや英国デザインカウンシルのダブルダイヤモンドが有名である.いずれも,ゴール志向型のプランナブルなプロジェクトとは異なり,試行錯誤を繰り返しながらゴールそのものを創発・探索する取り組みとなる.いいかえれば,探索型プロジェクトであり,従来のプロジェクトマネジメントとは異なるアプローチが必要となる.いっぽう,ヨーロッパに端を発したコ・デザインアプローチは地域課題や社会課題に対し,地元住民と専門家が「共(コ)」に課題に取り組むアプローチである.そこでは多彩なステークホルダーと関係を結び解決策を探索的に取り組む必要がある.またその活動はゴール達成で終わりではなく,長期的な関わり合いが必要となる.従って,チームとして「共に」活動する基盤が重要となる.本稿では北海道長万部町で実施したコ・デザインの事例をもとに,探索的なプロジェクトにおけるチームビルディングの課題と解決案を述べる.
櫻井 啓明
2010 年代から、ビジネス価値を継続的に創出する為に、環境の急激な変化に対して、素早く柔軟に対応する必要があるとされている。システム開発においてもアジリティが重要視され、多くのシステム基盤でクラウドが採用されるようになった。クラウドを用いたシステム開発における主要課題の一つに、妥当性のある投資計画の立案がある。クラウド利用料は従量課金制による変動費である為、正確に支出状況を把握するのが困難で、容易に予算が超過する。この課題に対して、FinOps という方法論が生み出されたが、Return on Invest の最大化に向けた具体的な作業や道筋は、導入するプロジェクトで試行錯誤する必要がある。最近、筆者が参画するプロジェクトもクラウド財務管理に関する課題に直面した。そこで、筆者は FinOps を特定のプロダクトチームに対して導入し、FinOps の有効性に関して検証した。本稿では、FinOps 実践の検証内容、結果について述べた後、FinOps を実践する上で鍵となる要素について紹介する。
山口 智司,須藤 陽介,齊藤 智宏,西谷 智志,平塚 大樹
弊社では長年にわたり、放送局の基幹システムである送出システムを担当している。送出システムとは、番組表に沿って放送局内外の番組素材をフレーム単位に正確に切替制御を行うと共に、緊急時の速報を瞬時に伝達するミッションクリティカルなシステムである。これまでは専用機器を中心としたシステム構成であったが、ICT技術の進展に伴い、映像素材の様な大容量のコンテンツをIP網で構築することが可能になった。新たなアーキテクチャによる送出システムを標準システムとして商用開発を行い、複数のプロジェクトへの適用を行ってきた。標準の適用に向けた客先調整、さらには半導体需給逼迫のリカバリー対応を行い、複数並行したプロジェクトをどの様に進めてきたかを紹介する。
吉澤 由比,町田 欣史,久保 翔達,小嶋 洋二,飯塚 裕一,貞本 修一
アジャイル型のソフトウェア開発では, ビジネス価値を早期にかつ効果的・継続的に顧客へ提供するため, 短いサイクルで高い品質でのプロダクトリリースと, 継続的な改善を両立させる品質管理手法が求められる.あるアジャイル型開発プロジェクトでは, 定量的な品質管理手法として, 開発プログラムコード行数を用いたテスト充足性・バグ摘出妥当性を指標値と比較し評価していたが, 特性が都度異なる小規模開発を短いサイクルで繰り返すアジャイル開発では, マネージャ層および開発者が納得した品質管理活動に至っていないことが課題であった.本稿では, プログラムコード行数によらない品質管理手法である, テスト観点カバレッジとDDPモニタリングを活かし, 開発メンバが日々の開発の品質管理に効率的に納得感を持って取り組むことができた事例と今後の課題を紹介する.
三好 きよみ
日本のデジタル競争力は低下しており,その要因は人材不足といわれている.特に,先端IT 人材は,2030年に約30〜50万人不足する見込みである.それには,従来の技術・領域に携わるIT人材の転換やリスキリングなどにより,人材の流動性を高めることが必要である.そこで,本研究は,IT人材の流動性を高めるための知見を得ることを目的として,先端IT人材の働き方に関する意識・行動の特徴について検討した.働き方に関する意識・行動についてアンケート調査を行い,先端IT従事者と従来型IT従事者,非IT人材の3群に分けて比較検討した.その結果,先端IT従事者の特徴として次のことが示された.仕事で通じて人と積極的に関わり,自分の能力や適性に合った働き方を目指している.自己のスキルを認識し,成長のために積極的に行動するとともに,資源を活用しており,自分の興味があることについてはより深く学ぶといった傾向がある.
三角 英治,佐藤 慎一
IPMA ICBは,プロジェクト,プログラムおよびポートフォリオの各マネジメントを実施する個人が必要とするコンピテンスを定義したものである.プロジェクトマネージャー等の役割としての観点からではなく,プロジェクト等のマネジメントに携わる個人の観点からまとめられている点が大きな特徴となっている.一方,社会やビジネス環境がますます多様化し,プロダクトやサービスを通した価値提供が求められてきている昨今,我々も,これまで培ってきた「Q・C・D」の確保と安定的なサービス提供を実現するだけでは十分ではないと感じていた.価値提供に向けて,従来から取り組んでいたマネジメントの「実践」だけでなく,「視座」や「人材」のコンピテンスを含むIPMA ICBに着目し,活用を検討している.
下村 英嗣
富士通ではテレワークが主流になりつつある.当プロジェクトでも大半のメンバがテレワークに移行している.しかし,テレワークを初めて2年程度の中で生産性の悪化,メンバへの教育不十分,定例会の不備が発生している.ヒアリングを行うと「何を参照したらよいのか分からない」や「プロジェクトの雰囲気が分からない為報告のレベル感が分からない」,「上司やリーダーと会話する機会がテレワーク以外のプロジェクトに比べ極端に少なく話しづらい」などの声が上がっている事が分かった.課題を解消するにはメンバが参画時から使用するツール,参加する会議,テレワークでメンバがよく使うものに対して改善を行う事で,生産性の向上や若手の教育,報告漏れに対する施策を導入した.3つの視点として,Zoomでの質問や相談時にZoomでの履歴検索に特化したフォーマットを導入した.若手の教育については勉強会や簡易1on1の実施,作業計画ツールの導入,定例会については報告フォーマットと意識づけを行った.結果として生産性は1割削減,若手教育についてはアンケート結果から開始前よりも1.7倍理解度が向上した.定例会については報告漏れ0件,打ち合わせ時間超過0件と改善が見られた.本プロジェクトではテレワークで発生するコミュニケーション課題に対して,3つの視点(生産性に対する視点,若手教育・成長に対する視点,定例会に対する視点)で導入した施策を実施することで,今回のテレワークで課題としている事象が解消された.今後は更なる向上の為に3つの視点から更なる改善施策を実施し,他プロジェクトでも実施可能にする.
宮田 剛
これまで,プロジェクトを成功に導くために,複数プロジェクト間での成功事例及び失敗事例からノウハウを継承する「第三者による振り返り」や進捗や予算に対する課題の残存量など,プロジェクト遂行上のリスクに関連した「データ(エビデンス)に基づくプロジェクトマネジメント」をPMOとして検討,推進してきた.本稿では,これら2つの試みを踏まえ,プロジェクトの課題解決のための打ち手を検討するに当たって,過去に実施した改善施策が及ぼしたプロジェクトへの寄与度を分析し,そのデータに基づいた,より効率的に又より高い効果を生み出すためのアプローチを考察する.
西條 幸治
不確実性の増す時代背景や,働き方改革,SDGsの流れを受けて,自律型の取組みが推奨されるようになっている.この,ともすれば息苦しい時代の中,プロジェクトマネジメント学会の研究会の一つであるPMメンタルヘルス研究会では2009年11月のワークショップ以降,毎年ワークショップを実施してきており,2022年度も2月にワークショップを開催した.今回は、当該研究会の創立者であり,現在もメンバーとして参加している前田さんを講師とし,孤独リスクやIKIGAIをテーマにした講演と,それらをテーマとしたワールドカフェとしてのグループディスカッションを行った.本稿では,当ワークショップの様子を紹介しつつ,その中での話題に上がった対話型AIによる孤独リスク回避と,サードプレイス・IKIGAIの一例としてのボランティアについて,定例会での話題提供や現状の考察について論じる.本稿は経過報告の段階であり,研究会の方向性の模索をしつつ継続して取組んで行きたい.
波多野 英樹,安達 定昌,中島 雄作
2009年以降年々,全国新聞に載る障害発生件数が増加し続けている.2019年はクラウド,決済システムなど大規模で国民生活に直接大きな影響を与えた障害が発生した.筆者らの運用プロジェクトにおいても,稀に商用環境でトラブルが発生することがある.ひとたび発生すると十分な再発防止策を立案し,顧客説明をしなければならない.従来,なぜなぜ分析をしていたが,有効な対策が考えられていなかった.そこで,筆者らが考案したSAFETYフレームワークと,巷でよく採用されるブレーンストーミングの双方で再発防止策を検討した.本稿では,それらの比較と考察をした.その結果,SAFETYフレームワークが優れていることが確認できた.
吉岡 直紀
プログラムマネージャーとして、プロジェクトマネージャーやチームリーダーのアサインを適切に実施する為、必要なポイントを体系的に纏めましたので展開いたします。