論文要旨(Abstract)一覧

ソリューション検討を取り入れた仮説検証型アジャイル研修

寺前 環,河口 慈,砂場 倫太郎,辻岡 佑介,安西 優佳,金田 晃


2020年のIPA「アジャイル領域へのスキル変革の指針 なぜ、いまアジャイルが必要か?」によると,アジャイル開発はビジネス一般における価値創造の局面でも活用できるとされる.しかし,PMI日本支部のアンケートによると,組織で取り組む主要なプロジェクトマネジメントのアプローチは,ウォーターフォールが主流でアジャイルは少なく,課題は人材,スキルにあるとされる.PMBOK®は,2021年に,ウォーターフォールに加えてアジャイルも範囲が拡張された.アジャイルを学ぶ必要性を感じた筆者は,ITソリューション会社A社で,アジャイル開発現場に配属される人材の実践力の養成とチームとしての即戦力醸成を目的とした6週間の研修を受講した.本研修後に参加者は,顧客視点から自己に問いかける姿勢や,チームに対して主体的に貢献可能な分野を探す姿勢を身に着けたことがわかった.また9か月経過したのちに,心理面や行動面で変容があったことがわかった.


人間の行動プロセスに着目した行動変容意識付けの工夫とPM教育への適用

角 正樹,梶浦 正規


システム開発やシステム運用は製造業ほどに自動化が進んでおらず,未だ多くのプロセスに人間が介在せざるを得ない.ゆえにこれら開発や運用で発生するインシデントの多くが人間の行動に起因する.そこで,筆者らは人間の行動に着目し,インシデント発生に至るまでの過程を「認識」,「判断」,「処理」,「確認」の4つのプロセスに分けて真因究明する手法を考案した.この手法を「行動プロセスに基づくインシデント再発防止検討ガイドライン」として体系化し,実際に発生したインシデントの真因分析支援や,研修を通じて普及浸透を図ってきた.これら4つの行動プロセス分類は,元々は真因の所在を明確にする目的で定義したものであるが,研修の受講を受け身にとどめず,受講者自身の行動変容を促す手法にも応用可能であることがわかった.作法を教える研修では,主に「処理」と「確認」を教えるが,受講後に受講者が主体的に行動するためには,「処理」に至るまでの「認識」と「判断」を理解させる必要がある.本稿では,暗黙知領域にとどまりがちな「認識」と「判断」を形式知化することで行動変容を促す教育方法について紹介する.


Digital Labor による IT 運用の自動化
- Value Stream に基づくプロセス改善と運用設計時の考慮点、最適なIT 運用体制 -

藤井 亮太,鈴木 隆之


近年、IT 運用が注目されつつある。IT 運用のコストは、IT 投資全体の 56.2%を占め、経営に及ぼす影響が日々高まっている。また、IT ライフサイクルにおいて、企業が事業利益を生み出しているのはIT 運用フェーズであり、その存在感、重要性が増している。一方で、現在のIT 業界は慢性的な人手不足に直面している。クラウドの浸透による爆発的なIT インフラ規模の拡大は、IT 運用要員の負荷を日々増大させている。生産性の向上やDigital Labor の活用が急務な状況にある。本論文では、Digital Labor 導入のためのValue Stream を用いた効果的なプロセス改善手法、Digital Labor導入時(運用設計時)の考慮点、そしてVUCA の時代において変化に柔軟に対応していくためのIT 運用体制について論じている。IT 運用で疲弊しているプロジェクト、また自動化によるコスト削減効果が出せていないプロジェクトは、是非参考にしていただきたい。


大規模モダナイゼーションを成功へ導く テスト効率化手法とシステムヘルスチェック基盤の確立

松田 力仁


経済産業省のDXレポートにより提唱された「2025年の崖」。これを乗り越えるため、システムは社会全体の変化に追従するための俊敏性や強靱性を持つ必要がある。そこで必要となるのがモダナイゼーションである。しかし モダナイゼーションプロジェクトはいくつか課題を抱えている。テスト工数の極大化とレガシーシステムで実現していた機能保証である。金融機関A社様のモダナイゼーションプロジェクトも同様の課題を抱えていた。これらの課題に対し、様々な施策の適用を行った。機能ごとに重要度付けを行い、重要度に応じたテストを実施し工数削減を実現。テスト運用の継続的な改善を行うことで無駄を省く。複雑化したレガシーシステムのアプリケーションを正しくモダン化できているかを確認するための仕組みづくり。結果、我々のプロジェクトでは、ITテスト工数の16.9[%]の削減や、本番障害11[件]の事前検知による安定稼働を実現した。本論文では当プロジェクトでの課題発見~施策適用に至るまでのアプローチ手法等、種々の開発案件での応用に向けて得られた知見・ノウハウを紹介する。


モダナイゼーション推進におけるユーザ協働への取組み

嶋田 康平


近年,多くの企業でDX推進が求められている.DX推進の課題として「人材・スキルの不足」や「レガシーシステムの存在」が挙げられる.長年の保守運用に伴い,仕様がブラックボックス化したレガシーシステムでは,業務知識が断片化した状態となっている.このような状況でシステム再構築を進めると,トラブルにつながることが多い.これらの課題を解決するためには,ユーザとベンダによる協働が必要不可欠であり,モダナイゼーションプロセスおいて,3つの追加施策を実施することで解決できると考える.実際に,業務知識が断片化した状態にあった事例プロジェクトにおいて実践した.「現場担当者によるプロトタイプ打鍵」により,下流工程での大きな手戻りの軽減につながった.「業務に沿った品質目標を設定」により,本稼働後は業務継続性を担保した品質レベルを達成することができた.「ユーザ主導での運用テスト計画立案および実施」により,ユーザ自身で業務知識の補完に取組むことができ,DX推進に踏み出すことができた.今後,ベンダとして取組んでいくシステム再構築プロジェクトは,業務知識の断片化がより深刻になっているシステムが多くなると予想できる.したがって,これらのユーザ協働への取組みを確実に実施し,ユーザとベンダが共に成長していくことが重要である.


アジャイル開発におけるお客様満足と生産性向上への施策

高本 雄太


当プロジェクトではアジャイル開発を導入し、継続的に開発を進めている。その中で、アジャイル開発ではNGとされているスプリント中の開発項目の見直しが発生し、開発にかけられる時間の減少や品質低下が発生した。この問題に対し、プロダクトバックログの見直し、プロセスにテスト駆動を取り込むという施策を行った。その結果、スプリント中の開発項目の見直しや仕様変更は減少し、システムテストでの故障発生件数は約60%削減している。また、開発メンバーがアジャイルプロセスに慣れてくる中で、さらなる生産性向上に向けた施策の必要があり、継続的インテグレーションの導入や会議プロセスの改善、スキルマップ作成など、アジャイルプロセスを改善するための施策を行った。その結果、開発メンバーの意識改革が行われ、自己組織化されたことで、プロジェクトの生産性とお客様満足向上につながった。近年アジャイル開発を採用するプロジェクトは増加しているが、アジャイル開発におけるより良い環境構築へのアプローチの1つとして、本論は参考になると期待する。


データサイエンティストから見たPM認定・PM任命制度の効果

針生 咲,木戸 美智子,森田 真理


これまで我々はプロジェクト成功をめざし,PMOによる組織的なプロジェクトマネジメント施策を整えてきた.特に,プロジェクトマネージャの実力を可視化し,プロジェクト規模に合った実力のプロジェクトマネージャを割り当てる制度がPM認定・PM任命である.組織上の理由でプロジェクトマネージャの配置が適切でない場合もあったが,成功プロジェクトが大半を占めていたために目立たなかった.しかし最近は大規模プロジェクトの増加とそれに伴う業績インパクトが大きくなり,プロジェクトマネージャの配置不備を見逃すことができなくなってきた.そこでデータサイエンティストとして,プロジェクト規模に合致しないプロジェクトマネージャを割り当てたプロジェクトに焦点を当て,施策効果を検証した.本稿では,その分析結果について報告する.


テレワークにおけるコミュニケーションマネジメント施策

吉田 祐人


コロナ禍によって,私たちの生活環境は大きく変わった.そして,ニューノーマルな働き方として,テレワークが当たり前の時代になった.テレワークは移動時間や交通費の削減や柔軟な作業場所の選択や,集中して作業ができるなどメリットもあるが,一方で,実際に直接あって対面で会話する機会が減ったことで,「コミュニケーションロス」が起きたり,「状況の把握」「信頼関係の構築」が難しくなったり,また,「言葉」以外の「表情」や「ボディランゲージ」から入手できる情報が得られなくなった.プロジェクト立ち上げ時に,お互いを早く信頼し合い,効果的な作業を行うために,テレワークにおける遠隔コミュニケーションについて,対策を検討する.


プッシュ型ナレッジ展開による技術リスク回避方法の試行評価

吉田 和晃,松園 淳,遠藤 浩


システム開発プロジェクトでは,上流工程の段階で機能要件や非機能要件を満たせるよう設計を進めることが重要である.上流工程での設計を円滑に進めるために,共通技術部門を設置して,ナレッジを蓄積し展開する取り組みを行っている.しかし,展開したナレッジに関連したトラブルが繰返し発生しており,従来よりも効果的なナレッジ展開が必要であると考えた.そこで,PMO組織と連携して共通技術部門が技術ナレッジを必要とするプロジェクトを特定し,関連した技術ナレッジを適したタイミングで展開するプッシュ型のナレッジ展開活動を検討した.試行評価の結果,技術リスクに関連するトラブル発生の抑止に一定の効果が認められた.本稿では,試行評価や,試行結果からの課題を報告する.


多様な働き方社会における仲間意識醸成への取り組み事例
- 信頼関係構築プロセスモデルを用いた互いを「知る」活動の成果 -

西山 美恵子,金 祉潤,大関 一輝,森本 千佳子


ITエンジニアの現場力を高めるために「仲間意識」は重要なキーワードである.しかし,IT業界では客先常駐で働き,自社の社員と関わる機会が少ない社員が一定数存在する.そのような組織において,社員の仲間意識が希薄であることから発生する課題が度々ある.本稿では, システムインテグレータ企業の1部門の社員に対して,仲間意識を醸成することを狙い,信頼構築プロセスモデルをベースに1年を通じてワークショップや他己紹介などの取り組みを実施してきた.それらの取り組みの成果を紹介する.


基幹システムにおける業務継続性最優先の再構築マネジメント手法

矢野 雅也


私達の生活や企業活動とシステムはより密接になってきており、システムトラブルが起きると顧客満足度の低下や企業への不信感、機会損失など企業にとっては大規模な損害が生じる。私が担当しているお客様の基幹システムはお客様ビジネスを支える「止められないシステム」として安定稼働を最優先に長く運用されている。しかし、前回のHW更改による再構築対応において、リリース時にシステム全停止を伴う大規模トラブルが発生し、今回の再構築対応では安定稼働最優先のプロジェクト推進、リリース対応をお客様より求められた。私は前回トラブルの振り返りを行った中で、システムの全体像を把握するための体制面見直し、リリース方式の検討・評価が不十分という2点の課題を抽出した。システム全体把握のための体制組成を行い、組成した体制と連携しながら業務継続性確保を最優先とした段階リリース計画策定、検証を進めた事で、大規模トラブル0件での安定リリースを実現する事が出来た。再構築プロジェクトに潜むリスクを未然に防止し、お客様ビジネスの業務継続性を担保する取り組みとして、本論文は大規模で長く運用されているシステムの再構築プロジェクトに従事する方を対象に有益なマネジメント手法であると考える。


ラピッドチームビルディングのための自己表現
- 演劇的アプローチのリーダシップへの応用 -

森本 千佳子,南 圭介


アジャイル開発が主流となりつつある現代のプロジェクトにおいて,様々なバックグラウンドを持つメンバーでの素早いチームビルディングはマネージャにとって重要任務の一つである.本研究は,演劇的アプローチとしてロールプレイに着目し,自己理解と適切な自己表現をチームビルディングに適用したものである.職場において昇格研修などでロールプレイを行うケースは見られるものの,チームとして適用した事例は少ない.これまでの演劇的アプローチにおいて,戦隊ヒーローワークショップで「仮面をかぶる」ことの自己表現がチームビルディングに効果があることが分かっている.本稿ではその「仮面」効果について分析を行い,役割を演じる(ロールプレイ)がチームビルディングに果たす効果を検討するものである.


超上流工程に求められるPM像の一考察

佐々木 真弥,岡田 太,佐藤 裕介,齋藤 洋


基幹業務システムの更改プロジェクトを中心に,旧システムを踏襲したアーキテクチャを前提とする予算及び要求仕様を重視する傾向があり,要求事項通りにシステム開発を遂行するプロジェクトマネジメントが必要とされてきた.このようなプロジェクトでは,スケジュールやコストをIT計画や予算の範囲内に収め着実な遂行を行うプロジェクトマネジメントが求められることが多い.近年では,モダン化を含めた様々なアーキテクチャを実現し得るクラウドサービスを必要な時に必要な数量だけ使えるようになり,技術的な検討範囲が大きく広がった.それに合わせてシステム化の検討プロセスにも変化が生じている.検討プロセスの一例として,超上流工程において新技術を用いた実現可能性の検証のPoCを実施し,その結果を踏まえて要求仕様を策定する取組みが挙げられる.PoCでは,画面や機能のプロトタイプを作成しフィードバックを基に改善するなど顧客から要望を引き出すことが主な目的となるため,従来とは異なるプロジェクトマネジメントが求められる.このような新しい時流に対応するプロジェクトマネージャが獲得すべきスキルは,超上流工程の段階からあるべきシステムの姿を議論し,より良いものを作っていくことに変化していると思われる.本論文では,プロジェクトマネージャ人財がこのような時流に適応するためのスキルや素養について,「サービスデザイン」「システムデザイン」の視点を踏まえて考察する.


顧客向け自社運用基盤のサイバーセキュリティ対策強化に向けたInternal SOC立ち上げと適用推進

河田 知里


当社では、2020年度に顧客向け自社運用基盤において不正アクセスが確認され、多くのお客さま に多大なるご迷惑をお掛けした。お客さまへの安心、安全なサービスの提供、および当社の経営リスク回避に向け、サイバーセキュリティ対策の強化が急務となった。この状況を踏まえ、2021年4月、顧客向け自社運用基盤のセキュリティ運用監視を目的としたSecurity Operation Center(SOC)を新規に社内に立ち上げた。社内IT部門、社内セキュリティ統括部門、品質保証部門が一体となって推進し、有事と平時の両面から、高度化するサイバー攻撃へのセキュリティ対策を強化してきた。本プロジェクトにおいて短期間かつ高品質な成果を出すために工夫したポイントは大きく3つある。1つ目は、SOCを立ち上げる際に、キーパーソン確保、既存サービス活用を実施した点である。2つ目は、専任組織による第三者視点でのチェックとフォロー体制を整備した点である。3つ目は、業務自動化・効率化施策として、インシデント対応管理基盤の導入や業務プロセスの継続的改善まであらかじめ考慮した計画を策定した点である。その結果、お客さまへの安心、安全なサービスの提供に向けた、顧客向け自社運用基盤のサイバーセキュリティ対策強化に貢献することができた。


顧客側体制が弱い大規模プロジェクトにおける各種施策

和田 良


ITプロジェクトが混乱する要因の一つとして,顧客側体制が弱いことに起因することが挙げられる.特に大規模プロジェクトでは,顧客システム部門にステークホルダーを取り纏める高いマネジメント能力が求められるが,その経験が不十分であることが多い.また,顧客システム部門では多数のシステムの維持保守をしていることから,十分な体制が確保できずにその状況が改善されないまま,プロジェクトが開始することもある.さらに,顧客内のシステム・ユーザー部門間の縦割り関係に起因する問題は根が深く,一枚岩となってプロジェクトを推進することが困難な場合がある.このような状況でベンダーとしてプロジェクト参画する場合は,プロジェクト開始前から十分状況を把握して各種施策が必要となる.例えば,顧客側の立場で推進・支援を行うコンサルティング要員の提案,中長期的には顧客側要員育成に対する支援やシステム部門の業務効率化に関する提案が考えられ,本論文ではこれらの内容について整理する.


ストーリーポイントを用いた品質評価手法の適用事例

綾野 未来,滝澤 健人,杉原 直樹,宮本 充,高槁 僚史,内山 航輔,渕上 恭平


昨今,変化の激しいビジネス環境に対応するため,アジャイル開発への注目が高まっている.アジャイル開発は,柔軟性とスピードを重視した開発モデルであり,コードの自動生成を行うローコード開発手法と親和性が高い.ローコード開発手法を用いたアジャイル開発における品質評価の課題として,アジャイル開発は開発方式やプロセスが多様なため従来の品質指標値を適用できない点,またローコード開発は自動生成率が高いため従来の品質評価規模(ステップ数)を用いた開発規模の算出が困難な点が挙げられる.当社内でも品質評価ナレッジの整理を進めているものの,過去実績が少なく定量的な品質評価手法は確立されていない.そこで今回は,一般的なアジャイル開発の管理指標であるストーリーポイントを活用し,スプリント毎の不良推移に着目することで品質予兆検知の試行検討を行った.具体的には,ストーリーポイントを用いて不良密度を算出し,スプリント毎の不良密度推移の評価結果と不良内訳結果を照らし合わせることで,推移パターン毎の品質リスクの仮説を検証した.本論文では,これらの手法としての妥当性を評価し,使用する上での利点や懸念点について言及する.


ノンプログラミングによるデータ移行プロジェクト事例

今岡 収,影山 剛


製造業A社では,同様の業務を実施するシステムを2つ保有しており,維持保守費用がかさむ,業務改善に2重の工数を必要とする等の問題があった.解決のために,システム統合プロジェクトが立ち上がったが,通常のシステム開発による統合では,期間的,要員的な問題があることがわかった.そのため,ノンプログラミングでデータを代行入力する手法を選択し,段階的な実施検証,PDCAやOODAループによる改善を通して移行をやり切った.本稿では,システム統合を短納期,ノンプログラミングで実施するために行った施策,および実際に起こった問題とその対策について記述する.


PMメンタリングの育成効果に対する一考察
- PM実践に表れた効果 -

渡辺 由美子,北條 武,中島 雄作


NTTデータグループでは,20年前からPM育成のためにメンタリングを実施しており,筆者らが運営している.メンタリングの効果的な運営方法やメンタの育成方法については本学会で報告した.経験豊富な上級PMがメンタとなり,成長過程にある若手PM(メンティ)に対する実践的な助言,指導を通じて,ヒューマン・スキル,ビジネス・スキル,効果的なPM技法の活用などPMスキルの継承を行っている.1年間のグループメンタリングの実施前後にメンタ,メンティの双方からアンケートを取得している.さらに,メンタ及び事務局の所感も記録として残している.本稿では,それらのアンケート結果を定量的かつ定性的に分析した.PMメンタリングについての目的の達成状況を論じるとともに,メンティの参加1年後の追跡調査から彼らの行動変容に影響した事例も紹介する.


メインフレームOS開発における品質向上施策

堀田 明秀


オペレーティングシステム(OS)の機能は多岐に渡り,OS機能の開発には,下位で動作するハードウェア(HW)や上位で動作するミドルウェア(MW)など様々な知見が必要である.また,メインフレームは企業の基幹業務に使われておりミッションクリティカル性の高いシステムを実現するために高い品質が求められる.更に近年のDX化によりコンピュータに求められる機能要求が高くなってきている.こういった広範囲,高難易度の開発を高品質に行うために実践している施策を紹介する.


新規事業創成時におけるサービス定義の勘所

市川 慶


近年の急速なデジタル化を背景として,企業の事業環境はより複雑化している.そして,複雑な事業環境に対応するため,新規事業やサービス開発にIoTやAIといったデジタルソリューションの適用を試みる企業が増加している.こういった背景の中で,新規事業創生におけるサービス定義もまた複雑化・難化しており,PMBOKに代表される従来のスコープマネジメントの手法では対応できなくなってきている.特に,前例の少ないサービスにおいては,サービス定義において検討すべき事項が充分に体系化されていないほか,不確定要素の多さから検討の精度も低くなりがちであり,従来の手法のみで進めるとサービスの失敗を招きかねない.そこで本稿では,実際のプロジェクトで実施したサービス定義を踏まえて,新たな検討の体系につながりうる,再現性のあるサービス定義の工夫について考察する.


Webアプリケーション開発に向けたローコード/ノーコード開発の適用における考察

慶寺 千佳,宮本 由美,小村 卓巳,清水 理恵子


近年,ローコード/ノーコード開発を採用したWebアプリケーション開発が増加している.しかし,ローコード/ノーコード開発は,採用するツールが提供する機能によって制約を伴う開発手法であるため,どのような要件のシステムにも適合するわけではない.そのため,適合・不適合を判断するための指針が必要であり,かつ不適合とする場合は検討工数の削減や別手段の早期検討のため,早々にそれを判断する必要がある.また,ローコード/ノーコード開発のメリットを最大限に活かし,Webアプリケーション開発を成功に導くためには,コーディングによる機能実装を前提とした従来のスクラッチ開発とは異なるノウハウが必要である.そこで,本稿では複数のプロジェクトで調査・検討されてきたローコード/ノーコード開発の適用における検討内容を整理し,指針を示す.


DX推進におけるマネージャの役割とソリューション検討フレームワークの有効性

広瀬 哲


コロナ禍によって疑似体験したオンラインやバーチャルが当たり前となるアフターデジタルの社会においては,企業や組織のDXの推進が加速していく.既存事業の継続的優位性は低下し,ディスラプターによる業界破壊が起きている中,デジタル化により社会全体の構造変革が起こりつつある.こうした中,企業には社会に対して新たな価値を生み出すDXソリューションを創出することが求められており,これまでのプロジェクトマネジメントとは別の視点でプロジェクトを推進する必要があると考える.本稿では,プロジェクトマネージャがDXソリューションの検討を推進する上で必要とされる4つの役割を重要視し,ソリューションを創出する上で効果的なフレームワークとしてソリューションの階層定義を活用して推進したプロジェクト事例を報告し,適用結果の分析を通じてこれらの有効性について検証する.


海外現法との関係性をスクラムを活用することで完成委託から協働パートナーに変革した事例

齊藤 誠


弊社で活用を進めている海外現法との主たる取引の方法はこれまでウォーターフォールがほとんどだった.だが近年特に需要が拡大しているDX分野においては,顧客の需要の変化に迅速に対応するために,短期間での変化に柔軟に対応できる技術やマインドセットがデリバリチームに求められてきており,従来の仕様を挟んだ受発注の関係とは違う「協働パートナー」の関係に変革することが必要になってきた.協働パートナーには変化に強いプロセスだけでなく,発注元の指示に従うだけのマインドセットから,提供価値を発注元と議論しながら創っていこうとするマインドセットへの変化が求められる.この特徴はスクラムにおける自己管理型チームの特徴に近い.そのため,我々はスクラムを真に理解して実践できるチームになることで関係性が変革できると考え,単にスクラムのルールを適用するだけでなく本質を腹落ちしながら実践できるチームになるような施策に取り組み,関係性変革を実現した.


課題解決型学習の実践報告と実践アプローチに関する考察
- ― 産学連携演習授業実践事例を通して ― -

貝増 匡俊


課題解決型学習では、地域や企業など学外との連携が一般的になっている。神戸女子大学家政学科ではMORESCO社と協働した連携授業を実施した。事前に学生は、教室内でデザイン思考やロジカルシンキングの手法などを学ぶことで、ユーザー目線からのアイデア創出方法について理解が進む。課題解決型学習の授業デザインとして、提供されるサービスをユーザー目線と提供される価値を合わせて考えられることができる学習設計を行えるように設計した。通年で実施されるこの授業での実践した内容は、前期では課題解決に向けた学習として現状把握、問題分析やフィールドワークなどを行なったのち、学生による提案が行なわれた。後期には、同じ手法を繰り返し使いつつ、提案内容をより運用を考慮した詳細化したものにした。本稿では、連携先の学外とのコミュニケーション、授業設計や授業実践について報告する。


マルチベンダによるマイクロサービスアーキテクチャでのコンシューマ向けスマホアプリ開発プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメントの実践事例

小栗 達也


近年ではマイクロサービスアーキテクチャを利用しマルチベンダで開発したサービスをつなぎ合わせてアプリケーションを構築するのが主流となってきている.一方,コンシューマ向けのスマートフォンアプリケーションは各社独自性を訴求するために新規開発するものも少なくない.そのため,新規マイクロサービスをマルチベンダで構築しながら,そのサービスをつなぎ合わせてフロントアプリケーションを構築することになるため様々なプロジェクトリスクが発生する.本稿は,このようなマルチベンダによる新規マイクロサービスアーキテクチャでのコンシューマ向けスマホアプリ開発プロジェクトのプロジェクトマネジメントの実践を事例研究としてとりまとめる.


チームで働く人のモチベーション要因の把握状況とキャリア自律、職場満足感の関連

三好 きよみ,片岡 典子,斎藤 識樹,田中 敦也,鳥海 阿理紗


日本においては,少子高齢化による労働力の減少や従業員の高齢化が問題となっており,その対応策の1つとして生産性向上が挙げられる.本研究では,生産性を規定する要因として,ワークモチベーションを取り上げ,チームで働く人のモチベーション要因の把握状況とキャリア自律,職場環境等の関連について明らかにする.その結果から,チーム業務においてチーム全体のパフォーマンスを向上させるための知見を得ることが目的である.チームで働いたことのある者を対象としてアンケート調査を行い,自分自身や一緒に働く人のモチベーション要因の把握状況とキャリア自律,職場環境等の関連について,統計的に分析した.その結果,自分自身のモチベーション向上要因の把握状況は,キャリア自律,主観的幸福感,職場満足感との正の相関関係が確認された.一緒に働く人のモチベーション向上要因の把握状況は,キャリア自律との正の相関関係,組織風土との負の相関関係が確認された.


仮想空間(メタバース)プロジェクトの企画・開発・運営に関する一考察
- 港北ニュータウンVirtual N-Town 実証実験から25年 -

吉田 憲正


25年前横浜市都筑区港北ニュータウンにおいて,CATVで仮想空間を活用し,コミュニケーションやショッピング,バンキングを行う,1000世帯規模・2年間(1995年~97年)の極めて画期的な公開実証実験である「港北ニュータウンVirtual N-Town 実証実験」が行われた.筆者は,この実証実験プロジェクト責任者として企画・開発・運用に携わっていた.そして昨年2023年は,改めて仮想空間の活用が注目された年でもあった.本論文では,25年前のプロジェクトで得られていた多くの知見や教訓を再整理し,現在の仮想空間(メタバース)プロジェクトの企画・開発・運用について考察する.


ITプロジェクトにおけるシェアド・リーダーシップの一考察

三宅 由美子


変化が激しく,将来の予測が困難なデジタル時代において,アジャイル型の情報システム開発を行う機会が増加している.アジャイル開発では,小規模なチームがチーム間の情報を共有しながらプロジェクトを進める.そのため,プロジェクトには垂直方向のリーダーシップだけではなく,水平方向のリーダーシップの必要性が高まっている.水平方向のリーダーシップでは,リーダーの役割をもつ人だけでなく,リーダーの役割をもたないメンバーがリーダーシップの意識をもち行動するシェアド・リーダーシップ(以下,SL)の研究が増加している.しかしながら,ITプロジェクトのSLに関する研究はまだ少ない.そのため,本稿ではSLに関する先行研究を調査し,ITプロジェクトにおけるSLのあり方について考察する.


顧客要求事項の効率的な纏め方

森 智明


顧客の要求に対し,システムの提供をもって応えるベンダーにとって,顧客の要求事項を正確かつ網羅的に把握・理解することは重要である.システム開発を行うプロジェクトにおいて,後続工程で認識の相違が発覚し以前の工程に戻った場合,プロジェクトの収益や納期が悪化し,プロジェクト運営が混乱する要因になる.顧客の要求事項は,明示される項目と明示されない項目がある前提をおくことで,網羅性を確保するためには,要求事項を引き出すことが必要になる.過去の事例やチェックリストは,網羅性を確保するために有効な手段として機能するが,顧客の要求事項を引き出す気付きを与えるものであり,各項目を確認する作業に活用するものではない.これらを活用して,現時点で判明している要求事項に従いシステム提供した場合に,どのようなシステムが出来上がるかを顧客に示しながら相違点を解消する議論を反復して行うことで,正確かつ網羅的な要求事項を纏めることができる.


PMコンピテンシー評価の組織への適用

石井 祐雄


現状のシステム開発プロジェクトでは,プロジェクトやシステムの取り巻く環境が,高度化・多様化している.また,発注側企業からの納期や価格の圧縮要求も強くなってきており,プロジェクトを成功裏に完了させることが,従来よりも難しくなってきている.このような環境下で,PMはより高度なスキルとコンピテンシーを求められている.本稿では,PMコンピテンシーに着目し,実際の組織に適用した事例の分析を通して,今後のPM育成方針へのヒントを探求する.


ITプロジェクトリーダー育成プログラムの計画と実践

櫻澤 智志


ITプロジェクトに関わるメンバーを,リーダーやマネジャーへ育成することは,自身のCapability向上と,キャリア形成,チーム力強化と活性化,組織におけるローテーション促進といった多くのメリットがある.ここで注意したいのは,育成したいメンバーの経歴やスキルセット,マインドセットには個人差があるため,あらかじめ準備されている研修やOJT(On the Job Training)に加え,メンバーの特性を生かしたプログラムを組み立てる必要がある,という点である.本稿では,メンバーに応じたITプロジェクトリーダー育成プログラムの計画と実践に関する実例を挙げ,ポイントや注意すべき点,見えた課題に対するアクションプランを考察する.


SAP ECC 6.0 からSAP S/4HANA へのアップグレードプロジェクト成功の鍵

市原 信博


「SAP 2027年問題」とは,SAP ECC 6.0の標準保守(メインストリームサポート)が2027年末に期限を迎えるという問題である.以前は2025年末が期限であったため「SAP 2025年問題」と呼ばれていたが,期限が2年延長されたことを受け「SAP 2027年問題」となった.当社ではSAP S/4HANAへの移行を決定し,移行方式としてブラウンフィールド(コンバージョン)を選択した.SAP ECC 6.0からSAP S/4HANA へのアップグレードは単なるバージョンアッププロジェクトではない.プロジェクトマネージャーにとって多くの課題をもたらす,非常に困難で複雑なプロジェクトとなる.本稿では,特にプロジェクトマネージャーが直面する会計領域における課題とそれらの解決策について考察する.また,今後新しいバージョンへのアップグレードを確実に成功させるための戦略についても報告する.


事業計画と連動した高度IT(プロジェクトマネージャ)人材育成の実践

赤塚 宏之,水谷 文香,荻野 貴之,宮崎 正博


デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて,基幹システム刷新やデータ活用の需要が高まっており,複雑化した既存システムの刷新のような高難易度のプロジェクト(PJ) を遂行できる高度IT人材(プロジェクトマネージャ)が求められている.弊社では,プロジェクトマネージャ(PM) の人材像を定義し,育成や認定を実施するPM 育成制度を策定している.昨今の事業変化の速度に追随していくためには,事業目標の達成に必要なプロジェクトマネージャ(PM)の育成が必要であるが,適切なスキルレベルを保有したPMを適時育成することが課題であった.この課題に対し需要と供給の両面からアプローチを図った.需要の側面からは,これまで培ってきた標準化したSI方法論とPMの人材像を組み合わせて事業計画が求めるPMの必要所要をスキルレベル別に明確化した.また,供給の側面からは従来は内部育成を前提としていたが,社内リスキルやパートナ連携といった外部調達も含めた育成のフレームワークを改定した.本稿では,事業計画と連動した育成活動の実践結果,今後の展望について述べる.


プロジェクト成功のためのコミュニケーション改善策
- 大規模更改プロジェクトにおける事例からの示唆 -

北 昌浩


 プロジェクトの成功には,ユーザ含めたプロジェクト関連部署との共通理解に基づく遂行が不可欠である. プロジェクト規模の増大に伴い,各担当部署間のコミュニケーションロスや各々の思い込みによる想定外事象が発生する可能性は増大する. 加えて,システム老朽化等に対する更改を目的としたプロジェクトでは,現行からの変更が好まれず踏襲することが多いが,結果的に失敗するケースも多く存在する. 本論文では,過去2度の更改においてトラブルが多発していたプロジェクトに筆者が新規参画し,ユーザ含む関連部署間との連携強化や既存プロセスへの改善について提案と実践を推進したことでトラブル発生無くプロジェクトを完遂させた事例について紹介する.


テレワークを前提としたプロジェクト運営におけるコミュニケーションマネジメント

大森 伸吾


昨今のコロナ禍において,感染予防対策の観点から在宅勤務への対応要求が高まり,その後,生産性向上施策という観点も加わり,在宅勤務ニーズは高いレベルで継続している.また,システム構築プロジェクトにおける顧客要望の高度化や複雑化に伴い,プロジェクトチーム組成時の有識者確保が困難になってきており,この観点から,複数の遠隔地拠点からのリモート参画を前提としたプロジェクト体制を構築するケースが見受けられる.一方で,電話やメールといった従前のコミュニケーション手段に加えて,在宅勤務や遠隔地からのプロジェクト参加を可能とするさまざまなコミュニケーションツールが急速に世の中に浸透し,利用できる環境が整ってきている.こうした背景を踏まえ,在宅勤務および遠隔地からのリモート勤務を含めたテレワークを前提としたプロジェクト運営にあたっての,効果的なコミュニケーション手法,テレワークを行う上でのコミュニケーションにおける課題と対応策,およびその効果について考察する.


「作らない開発」の品質評価指標

福本 剛,三角 英治,佐藤 慎一


NTTデータでは,システムの開発品質を評価する指標として,システムの開発規模(コード行数等)に基づいた「サービス開始後6ヶ月バグ密度(以降,「S後バグ密度」という)」を測定,モニタリングしている.しかし,昨今,ローコード/ノーコードやSaaSを利用した「作らない開発」が増えており,規模をベースとした指標では妥当な評価ができなくなっている.規模に基づかない品質管理手法としては,開発工程間のすり抜けバグに着目した手法が提案されており,その考え方を応用して開発全体の品質を評価する指標として「サービス開始後6ヶ月すり抜けバグ摘出率(以降「S後すり抜け率」という)」を提案した.当社で試行的に測定・分析した結果,従来の指標であった「S後バグ密度」と同様の傾向を示し,「作らない開発」も含めたシステム開発全体の品質傾向を分析する指標として妥当であることを確認できた.


製造工程でのソースコード静的解析ツール導入の効果

竹本 敦子,海老原 聰,戸成 真紀恵


IT人材不足が深刻化している昨今では、質・量ともに充分なエンジニア調達が難しくスキルに応じたエンジニアの配置が必ずしも最適に行えないことがある。「高スキル者が少なく潤沢に配置できない」、「要員数は充足したがスキルが浅いメンバも多く混在する」というケースは少なからずあり、このような体制は、高スキル者が本来スキルを発揮すべきタスクに時間がさけず、結果的に品質低下や納期遅延をまねく要因となりやすい。一例として製造工程においてはソースコードレビューがこのような状態に陥りやすく、特に大規模プロジェクトでは要員数もレビューすべきソースコードの量も多くリスクが高まる。本論文では、当社が製造工程を担当した大規模システムにてソースコードレビューの効率化を狙いとして導入した静的解析ツールの事例紹介およびその効果を考察する。


新価値創造フロント力醸成への取り組み
- 新規事業構想の創出と伝道師の育成 -

伊藤 晋


2020年,コロナ禍の到来によってビジネス環境が大きな変化を遂げるなか,あらゆる企業において新規事業創出への機運が高まっていた.同時に,このミッションを担う人財育成のニーズが高まっていた.当社では2020年度から「体制」「事業創出プロセス」「人財育成」の強化を,部門ごとの推進から全社推進へと発展させ,サービス・新事業創出に向けた取り組みを行ってきた.この中で「人財育成」においては,プロジェクト全体を見通して顧客をリードする「顧客対応フロント力」と事業ポートフォリオ変革による新たな成長事業を創造するための「新価値創造フロント力」という「2つのフロント力」の強化を掲げ,全社展開・実践を行い,社内浸透を推進してきた.これを受け,現場各部門では,サービス化・新事業創出の動きはあるもののアイディア出しレベルで停滞している現状があった.そこで当部門では,「2つのフロント力」に関するアンケートを実施し,浸透度の現状を把握することにした.結果,必要性は高いものの,理解は低く,業務に直結しないという意識から現場へ浸透していないことがわかった.アンケート結果から,当部門では,「新事業アイディア創出WG」を立ち上げ,「2つのフロント力」の浸透,強化を図り,既存事業に対して,顧客視点で付加価値を創出できる組織への変革をめざすことにした.「新事業アイディア創出WG」では,伝道師の育成,実践力の向上,新たな事業構想の立案を目的として,各プロジェクトのリーダー層を選抜し,事業アイディアの整理までのプロセスを実践形式で学んだ.これにより,1つの事業アイディアがフェーズゲートを通過し(事業構想検討中),参加メンバーの「2つのフロント力」に対する意識が向上した.また,事業アイディアの整理に向けて,調査,議論を重ねることで,現場目線での新事業創出に向けたノウハウを蓄積することができた.


DevOpsを実現するための効果的な組織文化の形成について

川原 拓馬


近年,スマートシティ実現の重要性が高まっている.当社は日立とともにスマートシティの実現に向けたソリューションに取り組んでおり,概念実証への参画やサービス開発を進めている.まだ実績が少ない分野のため明確な要件が決まっていない場合が多い.例えば,UI/UXの変更や機能の追加など,頻繁な要件変更やアーキテクチャの見直しが発生する.このような状況では頻繁な変更に対する適応力が要求される.このようなプロジェクトを進めるため,DevOpsを採用し,Westrum博士の組織文化の研究を参考にPoCを進めた.しかし,本番システムの開発になると新たな課題が浮上した.特に,各チーム間のサイロ化やプロジェクトメンバーの適性やスキルのミスマッチなどが課題となった.これらの課題に対処するため,DevOpsのCALMSフレームワークに着目し,対策を行った.この結果,各チームが同じ目標を共有できる体制を確立し,プロジェクトメンバーが互いに学び,助け合う文化を形成することができた.また,失敗に直面しても協力して解決する自律的なチームを築くことができた.このチームをさらに成長させるため継続的に受注し,一段上の目標であるSREにチャレンジすることをめざしていく.


多文化共生社会に向けての自治体の取組みに関する比較考察
- 神戸市、京都市、大阪市の3都市比較 -

古川 茉幸,貝増 匡俊


我が国では少子高齢化の影響を受け労働人口が減る中で、多くの外国人が長期滞在するようになった。プロジェクトにおいて多国籍のチームが珍しくなくなる中で、外国人の受け入れに関する政府の方針や施策は重要である。政府は、多文化共生社会の実現を掲げ、関連する法律を制定した。かかる法の下、各自治体では条例を制定し、日本語学習教室や文化交流など具体的なプログラムを実施している。本研究では、神戸市、大阪市、京都市における多文化共生社会の事例を比較するともに質的調査を実施した。それぞれの都市のもつ社会経済的な背景の違いにより、実施された具体的なプログラムは異なる。神戸市では、日本語教室の開講や行政の相談窓口を設け、多文化共生社会推進に取り組んでいる。一方で実現した状況が具体的に数値化するなどの課題があることがわかった。


大規模プロジェクトにおける周辺システムを対象としたスコープマネジメント

白浜 真一


数十Mstepを超えるシステムの更改案件において,見積時に全ての影響範囲を抑えたスコープの明確化は非常に困難であり,特に関係するシステムが多数ある場合,その複雑性は更に増す.リスクバッファを加味した算出では回答する側,受け取る側の双方にとって納得感のない数値になってしまい,リスクを取らなければ案件自体が成立しなくなるため,責任範囲,具体化する時期を区切り,後続工程において都度,追加見積とすることをステークホルダー間で事前合意してプロジェクト着手する手段が効果的と考える.本論文では金融システムにおける勘定系システムの大規模更改案件を題材に,関連システムに起因するスコープマネジメントで取り組んだ内容について論ずる.


データ分析基盤におけるデータセット開発に関する考察

高井 雄司,猪股 隆之


近年のデジタル化やイノベーションの進展/推進によるデータ量の増大,AI能力の向上などを背景に,企業のデータドリブン経営を支えるためのDMP(Data Management Platform)の導入や活用が必要不可欠になってきている.DMP上におけるデータセット開発においても,企業全体として標準化され利用しやすい高品質なデータだけでなく,マーケティング施策において有効かつ効率的な様々なデータの蓄積と迅速な提供が求められている.加えて,データ提供後においても,ソースとなるデータ自体が変化する頻度が高い特性を持つため,その変化を継続的に取り込む事を目的とした開発と運用の一体化の仕組み作りも必要とされる.これらのデータセット開発を通じて得た従来の開発手法との違いに関する知見と,そこから見えてきた課題及び対応策について言及する.


リモートワーク環境におけるコミュニケーション計画とITツール活用についての考察

苑本 進


コロナ渦でのプロジェクトマネジメントにおいて,国内の緊急事態宣言や海外の外出禁止令が発令されたため,プロジェクトのいくつかのタスクが円滑に進めることができない問題が発生し,プロジェクトに影響があった.また,メンバーとのコミュニケーションでは,リモートワークに慣れていない等の理由により,作業が効率的に進まないことや生産性が低下する課題があった.このような状況下で,プロジェクトを円滑に進めるため,リモートワーク環境でのビジネスチャットツールやWeb会議アプリケーションといったITツールの有効活用やコミュニケーション計画を詳細に策定し,プロジェクトを進めることで期待できる効果について考察する.


プロジェクトにおけるゼネラリストの重要性とSECIモデルの適用

岸下 孝志


プロジェクトマネジメントの方法論として,業界内でもProject Management Body of Knowledge(以下、PMBOK) やフェーズゲートによるリスク対策などが浸透し,8割以上のプロジェクトが成功プロジェクトとなっている.成功する大規模プロジェクトにおいては,顧客業務,アプリケーション開発,非機能要件,プロジェクトマネジメントなど幅広い知識を有しているゼネラリストが存在する.プロジェクト期間中に徐々に担当範囲を越えて活躍し,プロジェクトのバランスを調整する能力を有している.彼らは,自身の経験やプロジェクトの背景,目的,ステークホルダーの意思などの暗黙知を正しく理解し,プロジェクトチーム全体で共有して形式知化を図っている.プロジェクトにおけるナレッジマネジメントに着目し,SECIモデルを適用する有効性を検証する.


PM業務の効率化

竹嶋 就一,寺田 由樹


本稿では筆者の製造業でのITプロジェクト経験を踏まえ,PM業務の効率化について述べる.デジタルトランスフォーメーションの推進が進む中で,製造業においても従来のウォーターフォール開発に加えて,アジャイル開発を適用するケースも増えてきている.ITプロジェクトの要件も多様化し,お客様の期待値も更に高くなっている.特に製造業においては,海外との競争力強化のために,ITプロジェクトの要件が複雑になり,難易度が高い開発を求められる状況もある.このような環境下で,プロジェクトマネジメントスキルはPMだけではなく,あらゆるIT人材に求められている.IT人材の不足は引き続き,大きな課題ではあるものの,限られた要員にて,プロジェクトを実施するために,PM業務の効率化が極めて重要である.本稿ではPM業務の効率化に関し,検討すべき課題を考察し、具体的な取り組み事例を紹介する.


DXビジネスのための効果的な人材育成

東芦谷 祥子,井上 裕太,宮脇 佑弥,前田 健太朗,菅沼 秀敏


ITビジネスでは,クラウドやAIを活用したDX商談が主流となっているが,即座に提案できる人材が少ないため,体系的な育成が求められている.しかし,現行の教育は基礎知識が多すぎて時間がかかり,また,社内には実践的な知識が点在している.そこで富士通は,学習時間の短縮と効果的な教育提供を目指し,オンデマンド形式の学習提供システムを配備した.これにより,社内の実践知を動画で提供し,受講者は効率よく学習できる.また,システムは自動化されており,運営コストも削減できる.このシステムの導入により,学習コストを8500万円,教育運営コストを1800万円削減した.この学習提供システムが必要とするものは,自動化に用いるMicrosoft社のM365のSaaSサービスと実践知の蓄積のみである.本稿では,このシステムによる人材育成の仕組みと効果,発展性について紹介する.


多拠点広域ネットワーク構築に係るQCDコントロールに対する考察

伊藤 礼人


プロジェクトの難易度が年々上がる中,プロジェクトを求められる水準に到達させるためには,リスクをコントロールすることが必要となる.リスクの中でもとりわけ,QCD(Quality, Cost, Delivery)をコントロールすることが重要である.本論文では,実際の事例である,多拠点間を繋ぐ広域ネットワークの構築・展開をもとに,QCDコントロールの効果的な取り組みについて考察する.


世代交代のための引継ぎを意識したプロジェクト実施の考慮点
- ドキュメント化できないスキルを組織が保ちつづけるための工夫 -

中野 真那,有竹 康浩


少子高齢化により,将来,人材不足が懸念されることは以前より指摘されていたが,プロジェクトの状況によっては,世代交代のためのスキル移転に十分な時間を割けていないことがある.長期保守活動などで顧客と深い関係をもつビジネス組織では,それを成してきたシニア世代の要員が離職することで,顧客との人間関係以外にも文書化されていないスキルや知見が失われてしまい,以後の業務に影響が出る可能性がある.このリスクをできるだけ減らし,残された要員でビジネスを継続するために,普段のプロジェクトにおいても世代交代の準備をしておく必要がある.本稿では,筆者の属する組織でのこれまでの経験をもとに,引継ぎの方法や結果を考察し,プロジェクトが日々行うべき項目を提言する.


人に焦点を当てたプロジェクト計画の勘所の考察
- -体験したプロジェクトから学ぶ- -

平岡 卓哉


筆者はプロジェクトマネジャーのスキルをプロジェクトの体験から習得できると考えている.また,過去を振り返ることで当時は見えなかった出来事の本質を捉えようとしている.そこで,筆者が体験したプロジェクトのプロジェクト計画と実績をプロジェクト資源(人,物,資金,情報,時間)にて振り返り,どの資源に対して課題が発生しているのかを分析した.結果,人に関係した課題が多かったため当時のチームにてバーチャルプロジェクトを立ち上げ,スチュワードシップを意識しながらコミュニケーション計画,チーム育成計画を見直して考察することで課題の本質を見つけ今後に役立つ気づきをまとめる.


大規模言語モデルを活用した障害分析の提案

久田 大地,岩島 菊生,石田 敏寛,熊谷 健,中島 秀一,岡本 圭介,野口 裕介,稲葉 新


近年,ChatGPT(GPT-3.5,GPT-4)をはじめとする大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)活用が活発化しており,単純な文書生成だけでなく,ソースコード生成や,テストコード作成などSW開発の分野においても活用検討が進んでいる.そこで本稿では,品質管理における活用例の1つとして大規模言語モデルを活用した障害分析を提案する.本手法は障害情報と命令文(プロンプト)をLLMに入力することにより,なぜなぜ分析を含んだ障害分析結果を出力することが可能である.さらに本稿では,過去発生した障害事例に対する本手法の定性評価を実施し,今後の現場適用に向けた課題についても考察する.


契約事務におけるプロセス改善活動の一事例

加藤 迪子,中島 雄作


当社はSIerの中でも,NTTデータのグループ会社における基盤プラットフォーム分野を主に担当する位置づけにある会社である.筆者マネジメントする部署は,ある事業部の物販,保守契約や請負,準委任契約などの契約事務を一手に引き受けている.組織長から,契約事務の効率化,言い換えると,業務見直しと属人性の排除をするよう指示があった.そこで,ボトムアップによる課題形成,仮説構築,系統マトリクス図による対策立案,契約事務改革のリスク洗出しフレームワーク,非定型業務の細分化,無駄をなくすフレームワーク,タスクフローの見える化等,様々な施策により,プロセス改善活動を推進した.結果として,5年前に比べ,28%の工数削減を達成した.本稿では,契約事務におけるプロセス改善活動の一事例について述べる.


自治体向けシステム開発プロジェクトにおける未抽出リスクの分析

川村 昌司


当事業体では,リスク管理帳票「PJリスク管理シート」の活用と組織的な確認でプロジェクト開始前に抽出したリスクへは正しいアプローチができているが,開始後に発生したリスク(未抽出リスク)がプロジェクトに多大な影響を与えてるため,未抽出リスクの傾向と原因を分析した.分析は,対象プロジェクトの決定とPJリスク管理シートを収集するフェーズ,プロジェクト開始と終了のPJリスク管理シートを突合し未抽出リスクを特定するフェーズ,未抽出リスクの傾向と原因を分析するフェーズの3フェーズで実施した.分析した結果,件数は少ないが3割に近いプロジェクトで未抽出リスクが発生,プロジェクト管理のプロセスに問題はないがプロジェクトリーダが経験に頼ったリスク判断をしているの原因であることが判明した.そのため,未抽出リスクの内容,原因,改善策およびを経験でなく事実に誠実にリスクを抽出すること展開する活動が必要であると考える.


AWSクラウドモダナイゼーションに関する事例研究

鹿島 史貴


AWSクラウドへのモダナイゼーション事例を通して,モダナイズの主な検討項目について論じる.検討すべきポイントは以下の3つである.まず第1に,クラウド移行戦略についてである.クラウドへの移行手法とそれぞれの特徴,導入後の影響について言及し,本事例で発生した課題とその解決策について述べる.また,移行戦略を策定する際に移行手法の特徴と導入後の影響を理解することの重要性を強調する.次に,クラウドサービスの活用方針についてである.サービスの利用可否を判断するためには,コスト評価が必要であることを指摘し,アーキテクト体制確保と評価期間確保の重要性について論じる.最後に,現行ソフトウェア,主にソースプログラムの移行方針についてである.現行の仕様書や仕様管理キーマンが不足している状況下でのソースプログラムの移行プロセスについて述べ,その進行方法について本事例を通じて示す.


複数案件が輻輳するプロジェクトの問題点と対応方法の考察

黒田 克徳


レガシーシステムからのマイグレーションや法律改正などの対応で大型の開発案件が完了し,エンドユーザーがシステムを利用し始めると細かい機能変更や,新しい機能の追加など,新たなニーズが発生し,追加の開発を依頼される.しかし依頼はある機能に限定したものではなく,さまざまな機能かつ大小細かな部分への改修となるため,自ずと細かく性質の異なる案件を並行して対応することとなる.結果的に作業が輻輳し,機能間の仕様に関する連携の検討だけでなく,その作業管理手法においても個々の案件の難易度以上の複雑さとなる.本論文では,このような輻輳開発において過去の実体験や事例からプロジェクトマネジメントにおける問題点を探り,今後のプロジェクトマネジメント対応において見積りおよびプロジェクト計画など上流工程段階でどのようなことを考えておく必要があるか考察する.


品質保証ストーリーを適用したシステム開発の一事例

八巻 義正,福田 秀紀,木村 和宏,中島 雄作


プロジェクトを成功に導くためには,プロジェクト特性を考慮して全フェーズを見通した品質保証方法を策定し,それを実現する開発・管理プロセスを定義し実行管理することが重要である.NTTデータでは,プロジェクトを円滑に遂行する規範となる開発・管理プロセスを適切に定義,実行するために,品質保証ストーリーの考え方を導入している.しかし,当社は先進的な基盤技術に強みを持つ集団であるが,品質保証ストーリーの考え方はまだ十分に普及していない.そこで,筆者らは,あるセキュリティソリューションの開発において,品質保証ストーリーを採用して品質管理を行った.それにあたって,想定リスクが存在したり,実際にいくつかの問題が生じたが,これらに適宜適切に対応することにより,QCDを遵守して開発プロジェクトを成功に導くことができた.本稿では,品質保証ストーリーを適用したシステム開発の一事例について述べる.


要件定義におけるスコープギャップ解消のためのコミュニケーション手法の実践と考察

岡野 孝典


公共分野の大規模システムの中には,長年に亘って顧客独自の仕様で開発・運用されているシステムが数多く存在する.デジタル庁の発足もあり,これらの大規模システムについて,システム更新時に独自の仕様を一部見直し,業界で標準的となっている仕様を採り入れることで,業務効率を向上させるといったケースが増えてきている.しかし,一方では既存システムで実現している独自機能の中には,顧客の特性上,無くしてはならないものも多く存在している.そのため,要件定義においては,標準的な仕様をベースとしながらも,既存システムで長年培ってきた顧客独自の業務要件や,業務運用上のノウハウを吟味し,必要な要件を漏らすことなく要件定義書に組み入れる必要がある.本稿では,要件定義において発生する,スコープギャップを極小化するためのコミュニケーション手法を検討,実践し,その結果について考察する.


2段階でのプロジェクト振り返りの実践

谷元 久実子


プロジェクトは有機的な活動のため,開始したのち、必ず終結を迎える.プロジェクト終結時,将来のプロジェクトにむけて教訓を残すことは,社会の変化や不確実性への対応などプロジェクト管理手法が変更を求められるなか,プロジェクト終結フェーズでの重要タスクでることは変わりない.本稿は,一定間隔でシステム更改を繰り返す大規模更改プロジェクトでのプロジェクト終結時における2段階での「プロジェクト振り返り」の実践を事例研究としてとりまとめる.


大型プロジェクトの保守フェーズ運営に関する考察

高山 快


大型のソフトウェア開発プロジェクトはサービス・インを迎えた後,往々にして高品質のシステム保守と体制の削減を同時に顧客から要請される.本稿は,実際の大型プロジェクトの事例をもとに,通常両立が困難なこの要請に対する一つの対応例を示すものである.サービス・イン直後から,プロジェクトの保守は3段階のフェーズ(品質向上フェーズ,収益構造最適化フェーズ,運営永続化フェーズ)を意識的に,かつ順番に経ることで,品質面・財政面において成熟した状態に移行可能であることを説明する.また,それぞれの局面で生じる課題に対し有用な施策についても併せて紹介する.


スクラムイベントを取り入れた改善活動事例紹介

田島 千冬


運用改善を実施する場合,そのテーマを検討し対応計画を作成する段階までは,参加者の協力と共に高いエネルギーでスタートできる.一方で,計画が進む中で日常業務に忙殺されることにより,改善活動の優先順位が下がり,それと並行して改善へのエネルギーも低下し,次第に計画に対する進捗管理のみが定型化され,終了時には当初想定していた価値が見出せない結果になる経験があった.今回,スクラムの考え方やイベントを取り入れた運用改善サイクルを実施することで,メリハリのある活動サイクルによる活動の活性化と価値に焦点を当てる意識への変化に繋った.そして,運用改善のテーマとして掲げた3つの価値を具体的な形にすることができた.この活動は,今後に向けて改善する余地はあるものの,忙しい中でも全員が参加し,持続的にエネルギーを持って取り組むことができる活動となった.当投稿では,その経験を事例としてまとめる.


AI活用した新規事業のシステム開発プロジェクトにおいて成果を上げる工夫について

義経 真一


少子高齢化による労働力人口の減少の影響によりIT人材の不足が深刻化している.特に先端技術やプロジェクトマネジメントなどの高度なスキルを持つ人材不足が深刻化している状況である.また,顧客が当社へ期待する内容についても従前の期待から変化が生じており,様々な技術のプロジェクトを立ち上げねばならない状況が発生する.本論文では著者の経験と直面した課題を元に,プロジェクトマネジメント上の施策についての事例を示す.


DB移行作業における属人化の解消活動

川村 圭祐,高森 康之,伊藤 桂,小畑 啓悟,猪瀬 朋克,中島 雄作


従前から世の中の多くのプロジェクト運営上の課題として属人化が存在する.筆者らのプロジェクトにおいても,DB移行作業において属人化を解消しなければならない状況にあった.筆頭筆者は2年目新卒社員であるが,QCストーリーに従って,属人化を解消するPDCA改善活動のリーダとして推進した.ナレッジ,PM,品質の領域から合計7つの真因を抽出し,最終的には,メンバへの共有体制見直しという対策を実施することで,属人化の解消に成功した.本稿では,DB移行作業における属人化の解消活動について述べる.


パッケージビジネス拡大のための複数プロジェクトマネジメント

内田 裕子


既存事業を活かして事業拡大を図ろうとしたとき,限られたリソースで同じサービスを繰り返していても飛躍的な成長は望めない.日立製作所のERPパッケージ事業は,製造・流通分野の顧客に対し,SAP社のERPパッケージなどを活用して基幹業務を刷新するソリューションを25年以上に渡り提供してきた.ERPパッケージ市場は再び活性化しているが,近年どのERPパッケージ製品も成熟して機能差は減少し,実績のあるERPベンダーの数も増加しているため,当社独自の強みを活かした新しいソリューションを開拓していかないとパッケージビジネスは拡大しづらい環境にある.また,SaaS型ERPの需要が高まり,従来のビジネスモデルそのものが通用しなくなってきている.長らくERP導入という歴史あるビジネスを繰り返してきた社内のエンジニアをどのように配置し,従来と異なるプロジェクトを並行推進していくか,最適解をめざし検証する.


設計局面におけるアジャイル・ウォーターフォールハイブリッドアプローチ

石原 寛紀


プロジェクトの上流局面である要件定義は,外的リスクや不確実,未確定な事項が多く,計画通りに進まないことが常に発生する.要件や仕様が確定せずに進むプロジェクトにおいては,WF(ウォーターフォール)とアジャイル手法を組み合わせたハイブリッドアプローチが効果的であり,その適用により,変化に対する柔軟性や迅速性の期待に応えながらプロジェクトを推進することができる.ただし,一般的に,WFとアジャイル手法を用いたハイブリッドアプローチは,開発局面に適用されることが多く,その効果が現れてくるのが下流の工程からとなってしまう.本稿で提案するWFとアジャイル手法を用いたハイブリッドアプローチは,開発局面よりも早い設計局面での適用を実践し,迅速かつ柔軟に変化への取り込みを行い,品質や進捗に与える影響を最小限に抑えながら成果を上げることができた.その適用方法と効果を紹介し,考察を述べる.


熟練PMOの意図を学習したAIによるリスクプロジェクト判定の自動化

高田 淳司,常木 翔太,松井 千代子,平山 景介


生成AIの登場により,人工知能(AI)はより身近になり,さまざまな業務でAIの活用が進んでいる.PMO活動においてもAIは活用されており,機械学習を用いてリスク予兆を検知し,失敗プロジェクトを予測する取り組みが報告されている.しかし,属人的な要素が高いプロジェクトの成否は,最適化指標の設定が難しく,その判定の自動化が困難であり,判定ができたとしても,AIが予測した結果について根拠を読み取ることができないという問題がある.本稿では,熟練者の行動から行動基準となる意図を学習し,意思決定を模倣するAI技術を用いることで,複雑で属人的なリスクプロジェクトの判定を自動化する取り組みについて紹介する.また,AIモデルの作成時に大規模言語モデルを活用した工夫と実際の業務に適用した結果の有効性を過去の機械学習モデルとの比較により考察する.


保守運用作業におけるヒヤリハットの防止活動

清水 友恵,百々 久司,山本 篤,塚原 康司,中島 雄作


筆者らは基盤プラットフォーム領域の保守をしている.頻繁にトラブルが発生しているわけではないが,第一筆者はヒヤリハットを体験することが頻繁にあった.新人・初心者だからというわけでもなさそうだった.クラウドサーバのメンテナンス対応作業内で起きた作業ミスに関してメンバ内に聞き取りを行ったところ,ヒヤリハットが月に1回程度起きていることがわかった.そこで,4Eをキーワードに挙げ,ヒヤリハットの要因を洗い出した.さらに,SEARCHフレームワークを活用して要因を洗い出した.対策立案においても,4M5E分析とSEARCHフレームワークの両方を使って,数多くのヒヤリハットの対策案を挙げた.結果として,3カ月間,ヒヤリハットが発生しなくなるまで改善した.本稿では,保守運用作業におけるヒヤリハットの防止活動について述べる.


ネットワーク製品保守における問い合わせ対応の顧客満足度向上活動

田中 梨夏歩,望月 怜衣,柳瀬 勝也,山本 祐也,中島 雄作


筆者らは,ネットワーク製品等の基盤プラットフォーム領域のお客様サポートに従事している.筆者はお客様からのクレームにつながる問い合わせ対応の悪い点をいくつか見つけた.そこで,4C分析を活用して既存のクレームを整理した.取り組みやすさ等から,Convenience(顧客利便性)に着目して掘り下げることにした.なぜなぜ分析を行い,7つの要因にたどりついた.そして,クレームの見える化,お客様ボイスの適切なフィードバック,個人スキルギャップの把握と平準化の3つの対策を実施した.その結果,課題を解消することができた.本稿では,ネットワーク製品保守における問い合わせ対応の顧客満足度向上活動ついて述べる.


事例から考察したSOCを成功させるための管理方法

天羽 宏嘉


セキュリティオペレーションセンター(SOC)は情報システムのセキュリティ警告を監視し、セキュリティインシデントへの対応を行うための人員、プロセス、技術等によって構成される。一般にSOCプロジェクトは単にセキュリティ製品を導入しただけでは不十分である。様々な要因を考慮して慎重に計画することが重要であり、非常に複雑なものである。しかし、SOCを効果的に計画するための方法は広く知られておらず、また、公開されいる具体的な事例も少ない。そこで本稿では、公開されているガイドラインを活用して仮想の簡単なシステムモデルにおいてSOCを構築する例を考え、過去の経験を踏まえて、SOCプロジェクトを成功させるための管理方法を考察する。


技術研究開発部門における継続的かつ効率的な研究テーマの選定,検証,展開のサイクルを実現するためのアプローチ

大沢 和弘


我々は技術研究開発部門として,新たな技術獲得に向けた技術研究開発のテーマ選定,検証,展開活動を行っている.この活動では,組織において有益となる技術所産を効率的に蓄積し,その研究成果を組織内に広めることを目標に,短周期のプロジェクトとして研究を行っている.本稿では,活動における工夫点と何故その工夫に至ったかの理由,現時点での気付きや課題を共有する.


データドリブンによるリアルタイムなプロセス品質リスク予兆検知

羽根木 宏拓


ソフトウェアの品質「プロダクト品質」を決定づける品質要素の1つである「プロセス品質」は、成果物を作り込んでいく過程、つまりプロセスにおいて誤りが入り込む余地をなくすような環境や仕組みを整えるといった組織的な品質であるため、プロダクト品質に与える影響が大きい。本論文では、レビュー記録票や障害票などの品質記録の集計・分析に依存せず、設計書やソースプログラム等の成果物から取得できる情報から見えてくる「プロセス品質」に着目し、その綻びから発生するリスクをリアルタイムに検知可能にする新たな手法を確立した。この手法を適用することにより、SIプロジェクトのソフトウェア品質の向上および、対策遅延による手戻りコストの最小化に貢献できると考える。


ベンダー企業の立場で実施したシステム仕様のブラックボックス化対策

松崎 祥子


長年運用されているシステムにおいては,システムの老朽化・肥大化・複雑化により,システムがブラックボックス化することが懸念される.当社がスクラッチ開発したシステムは,顧客の特殊業務を支えるシステムであり,数十年顧客の運用に合わせてシステム改修を重ねてきた.本稿で取り上げるプロジェクトでは,本システムの老朽化に伴いアーキテクチャを刷新した.開発期間中にはシステムのブラックボックス化を危惧する場面があり,施策を打ってきた.本稿では,開発・保守を請負うベンダー企業の立場で実施した,システムのブラックボックス化に対する施策について紹介する.


パテント・トロール訴訟におけるコスト・リスク評価と損益分岐点予測による紛争リスクと総訴訟費用の最小化プロセスの確立

三宅 啓太,亀井 清正


本稿は、米国における特許ライセンス企業(パテント・トロール)による高額な訴訟に直面する企業のために、訴訟総コストを最小化する方法論を開発することを目的とする。この方法論は、弁護士費用がパテント・トロールの要求額を超える可能性がある損益分岐点を事前に予測し、その点に到達する前に和解準備を迅速に進める必要があるという課題を解決する。リスク・コスト評価式に基づく優先順位付けに従って最小限の調査アプローチを実施し、損益分岐点予測を用いて訴訟取り下げや和解準備を期限内に完了させる戦略を提案する。つまり、弁護士費用と技術者の調査コストを低減し、訴訟総コストと知財紛争リスクを最小化する。当社の過去の訴訟事例を中心にした分析を通じて、この方法論の有効性を検証し、必要なノウハウと戦略的なアプローチを提供する。


ERPパッケージ導入におけるスコープコントロール
- ERPパッケージのアドオン基準の考え方と実践事例 -

山本 雄一郎,佐藤 勝


基幹システムの老朽化対策として,ERPパッケージが採用されている.ERPパッケージの採用は,業務プロセスを標準化し,情報統制を図るという,デジタルトランスフォーメーションの基盤作りの戦略である.ERPパッケージによる基盤作りのためには,自社の業務プロセスを,ERPパッケージの標準業務プロセスに合わせる必要があるが,ERPパッケージの適用検討を進めていくと,ERPパッケージの標準業務プロセスでは,自社の業務プロセスの優位性を損なってしまうというケースがある.その際,ERPパッケージを改修して,ERPパッケージの標準業務プロセスを,自社の業務プロセスに合わせるという選択肢がある.※今後,このERPパッケージを改修するという選択肢をアドオン要求とよぶ.注意しなければならないのが,このアドオン要求をプロジェクトのスコープに含めすぎると,高品質なシステムを,短納期,かつ,低価格で導入するという,ERPパッケージ採用のメリットが損なわれる.また,逆にアドオン要求を全て排除すると,お客様業務プロセスの優位性を損なってしまうという二律背反が生じる.プロジェクトマネージャとして,お客様の価値を創出し,ERPパッケージの導入を完遂するために,一番難しいのが,このアドオン要求のスコープコントロールとなる.実戦経験を踏まえ,アドオン要求をどのようにコントロールするのが最適か考察する.


組織アジリティ向上の取り組みと成熟度測定手法の開発

山崎 真湖人,本美 勝史,林 貴彦,武田 修一,大関 かおり,室井 哲也,白坂 成功


組織のアジリティとはビジネス環境における内外の課題や不確実性に積極的に対応する組織の能力であり、変化するビジネス環境において組織の競争力を維持するうえで重要である。製品・サービス開発におけるアジャイル開発のアプローチは知られているが、それを開発以外の組織にも展開し企業全体のアジリティ向上を期す方法は確立されていない。本研究では、製造業企業の組織アジリティ向上を目指す組織的な取り組みの事例を報告する。特に、各チームが自らのアジリティを評価し向上のポイントを設定する活動を支援する評価手法の開発を紹介する。


PPPMによるアスリート養成プロジェクトの理解

中原 あい,関 哲朗


アスリートの養成は,多様なステークホルダが関与する長期的かつ複雑なプロジェクトである.実際には,それぞれに目的と目標を持った複数のプロジェクトとオペレーションからなるプログラムとしての性格を持つ.アスリートを養成するプログラムにおいて最大化すべきベネフィットは競技会で優秀な成績を上げることであり,その最高峰と言われるものが世界大会やオリンピックである.一方で,時系列的に変化するステークホルダの期待,すなわち,時系列に従った変化をともなうポートフォリオをマネジメントしながら,同じ個人に対するプログラムの目的と目標を達成するといったマネジメントを求められる特異性を持ち合わせている.本研究では,競泳を題材に,著者の経験を踏まえながら,アスリートの養成プロセスを整理し,そのProject, Program and Portfolio Management(PPPM)の視点からの整理を行い, PPPMにもとづくアスリートの養成に関するモデルを提示することで,合理的なアスリートの養成への組織的関与の在り方を提示した.


システム開発プロジェクトおける上流工程での品質マネジメントプロセスの事例紹介

坪田 祐二


システム開発プロジェクトの推進において,品質マネジメントがプロジェクト成功の重要な要素であることは言うまでもない.プロジェクトを成功に導くためには,成果物の品質を測定しながら適切な分析を行い,品質を定量的に評価し,適宜対策を図っていく必要がある.ただし,品質を正しく分析し評価するためには,元となる品質データの精度が高いことが前提となる.つまり,品質分析を行う上で重要なのは,システム開発工程において品質マネジメントのプロセスが正しく機能し,高い精度で品質データを取得できているかを検証する事である.特にプロジェクトの上流工程において,品質マネジメントのプロセスの検証方法を確立し,プロセスに不備があった場合は是正することが,品質を高める上で有効と考える.本稿では,上流工程における「品質マネジメントプロセスの検証」方法を紹介し,プロセス検証結果が下流工程へ及ぼす影響を検証する.


金融機関の中長期アジャイル実案件に基づく最適な進捗管理方法の検証

山中 淳市,古屋 優希,遠藤 圭太,仁尾 圭祐


近年,開発スピードの高速化を意図するアジャイル開発を採用する企業が増加している.アジャイル開発でのメジャーな開発プロセスは「スクラム」と呼ばれているが,スクラムに対するルール,理論,イベント,ロールを定義した「スクラムガイド」の中では具体的な開発進捗管理方法について言及されていない.そこで,本論文では金融機関の中長期アジャイル実案件における事例2 件をスクラムガイドに基づき進捗管理の観点で比較・検証しながら,成功/失敗要因を分析する.また,分析結果に基づき,プロダクトゴールを達成するための最適な進捗管理にはスクラムガイドの解釈内のどの観点が重要なのか,各ロールはどう関与すべきか,そしてマクロな視点での在るべきPBI 管理方法について考察を加える.


プロジェクトの類似情報の活用に関する研究

大野 晃太郎,劉 功義,石井 信明,横山 真一郎


プロジェクトの類似情報はリスクの特定,プロセスの最適化,コストと時間の見積もりの改善などに利用されている.そのため,過去のプロジェクトから得られた類似情報の活用方法やデータ分析に関する研究がなされている.近年の研究では,AI技術の活用により,経験不足を補い,プロジェクトの成功率を高めることを目的としており,それらの成果は,新しいプロジェクトの参考となる.しかし,取得された類似プロジェクトの情報を正しく活用するためには,その背景や関連性などを理解しておく必要がある.そのため,本研究はプロジェクトの類似情報がどのように活用されているのかを分析の目的として分類整理することを試みた.さらに分類に基づいて,類似情報の活用の実行可能性について言及した.


要件定義における要件確定度表を用いた確度評価

坂本 調


要件定義作業においては,その精度が低いと後工程で仕様変更要求の多発につながり結果顧客不満足となる可能性が高い.作成した要件定義書を要件確定度表で評価することにより見える化する.また顧客とも共有することで認識相違を無くし,後工程でのトラブル発生を抑止する.ソフトウェア開発プロジェクトにおけるRFP(提案依頼書)は発注側で全て作成するケースは少なく,ベンダの支援を受けるケースが多い.RFPの基となる要件定義工程はシステム開発の最上位の工程であり,ここでの誤りは後工程に影響し,仕様変更や手戻りによる作業量増加,納期遅延につながる.そこで顧客,ベンダ双方が要件定義の成熟度が見える化できるよう要件確定度表を用いて要件定義を評価する手法を適用する.


アナロジー思考を活用したプロジェクトマネジメント

山下 統


本稿では,ハードウェア技術職として携帯電話の装置開発に従事してきた筆者が,システム開発のプロジェクトマネジメント業務にジョブチェンジし,成果物や品質管理の違いに苦戦しながらも,アナロジー思考を用いて対処した実践例を報告する.アナロジー思考とは,違う事柄の中から双方の類似点を見つけて,解決策を見いだす思考法である.当該思考を適用することで,装置開発で実践してきた不具合解決のアプローチが,システム開発でも効果的なアプローチとなることが確認できた.本稿では,ジョブチェンジだけでなく自分にとって未知の領域・案件・技術にチャレンジする際に,アナロジー思考で仕事の共通点に目を向けることで,培ったノウハウを応用することが可能であることを示す.


アプリケーション刷新プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメントの事例紹介

篠宮 佑太


本論文の筆者が担当したプロジェクトにおける成功事例・失敗事例を紹介する.担当プロジェクトは,現行システムから次期システムへ移行する大型プロジェクトであり,筆者はプロジェクトリーダーの役割を担当した.当該プロジェクトにおいては,要件定義フェーズでのステークホルダーとの整合不足あり,基本設計フェーズ工程の遅れから製造以降の後続開発工程への影響が生じた失敗事例等を紹介する.合わせて,現行システムでは開発言語の影響からテスト自動化を実現できていなかったが,次期システムでは開発言語の最新化に依りテスト自動化を実現し,安定したノンデグレードテストを実現した成功事例等を紹介する.


パッケージSIにおける開発プロセス自動化による工数低減と品質改善の取り組み

藤原 育実


一般的にパッケージソフトウェアでは,導入した企業の業務内容に合わせてパラメータの変更やアドオン開発などのカスタマイズが行われることが多い.特に,改修を繰り返しながら長期間運用される場合には,カスタマイズの範囲が広がり,ビルドやリリース,テストなどの作業が頻繁に行われるようになり,その結果,工数が増加する傾向がある.ビルド,リリースにおいては,パッケージソフトウェア独自の作法や環境の違いなどPJ固有要件によって,作業が俗人化して熟練者しか実施できなくなっているという問題があった.また,パッケージソフトウェアのカスタマイズに関する知識やスキルについて,経験豊富な熟練者と初心者では,テストの品質や工数に大きな差が生じることがしばしばある.そのため,開発者の熟練度に関係なくビルドやリリース,テストを容易に実行できる環境が整っていれば,開発工数の削減と品質向上が実現できると考えられる.このような背景から,ビルド,リリース,テストの自動化に取り組んだ.本稿では,パッケージソフトウェア導入時のビルド,リリース,テスト工程の自動化を実践することで得られた知見について述べる.


バグ報告チェックの機械学習モデルによる代替
- LLMを用いた機械学習データの補完 -

田崎 宏大,大木 聖太,矢田 捷真,吉野 貴大,湯浅 晃,菅原 康友


近年,様々な業界においてDXが進められており,その中でもデータやAIを活用した業務高度化・効率化が益々期待されている.NTTデータでは,プロジェクト管理の高度化に向けた取り組みの一環として,「品質管理におけるバグの定性分析の一部自動化」をテーマに,AI導入に向けた研究を行っている.その中でも,起票されるバグ報告の質を高めることにフォーカスを当て,記載内容の有識者チェックをAIで代替可能かについて検討してきた.これまでの研究から,開発したバグ報告チェックAIが,有識者によるバグ報告チェックの内,最も重要なチェック観点において,最大約 80% が代替可能であることが明らかとなっている.ビジネス効果を高めるためには,更なる精度向上が必要であり,バグ報告チェックAIを導入するプロジェクトの特性に沿った学習データを増大させることで学習モデル性能を向上させるという一般的なアプローチをとりたいが,実際の現場のバグデータは少なく,学習には不十分である点が問題である.そこで本研究では,近年広く研究されている大規模言語モデル(Large Language Models : LLM)を活用し,プロンプトエンジニアリングによってバグデータを拡張生成することで,学習データの不足を解消し,精度向上を図った.その結果,バグデータの品質に関わる重要な記載項目において,チェックAIの精度が最大13.5%向上した.


DXサービス品質の管理・評価に関する一考察

町田 欣史,坪井 豊,榊原 直之,上原 光徳


これまで、ソフトウェアやシステムの開発における品質管理の技術や手法が体系化され、高品質なプロダクトの開発を実現してきた。しかし、昨今ではシステムだけを提供するのではなく、それを活用したサービスを高い品質で提供することが求められるようになっている。したがって、サービスの品質を管理、保証することが重要であり、DXが推進される中ではビジネス視点での価値が向上していることも保証しなければならない。サービス品質については過去にも様々な検討、研究、規格化などが行われているが、それらが実際の開発現場で活用されているとは言い難いのが現状である。本稿では、サービス品質管理に関する過去の取り組みを振り返った上で、それらを現場で活用するための課題や改善案を整理するとともに、サービス品質やビジネス価値の定量化や評価のための考察を行う。


プロジェクト運用保守における改善活動

長久 幸雄


プロジェクトでは、運用・保守フェーズで問題が発生しないようにするために、設計フェーズにおいて、運用設計等から運用・保守フェーズを見越したドキュメントの作成が必要になる。また、運用・保守フェーズでは、Service Level Agreement(SLA)順守が求められると共に、大規模システム等においては、システムが複雑になり、トラブル発生時に適切な対応が取れる施策が必要になる。本稿では、プロジェクト運用・保守フェーズの改善活動として、全プロジェクト横断型のサービスマネージャを配置することでお客様が実施しているITシステム運用をInformation Technology Infrastructure Library(ITIL)に準拠した形で整理し、運用・保守チームとの橋渡しをすることで、運用・保守フェーズでトラブルが発生した際に適切な対応を実施することが可能になるような施策について考察する。


業務効率化によるアプリケーション保守コストの戦略投資案件への効果測定事例紹介

秋田 朋寛,安田 裕二,掛地 隆博


近年,生成AIの業務応用が進み,業務の効率向上が期待されている.各組織・チームが持つ業務を効率化することにより残業時間の低減や,モチベーション向上,生産性向上は比較的分かりやすく効果が得られる.一方,業務効率化により体制を適正化し,戦略的な領域へ人員を配置する事には十分に結びつかない課題が浮かび上がっている.本稿では,数多くのシステムを保守・開発する大規模プロジェクトにおいて,業務効率化を実施し,その成果により体制を適正化,戦略領域へ投資するプロセスを具体的な事例とともに紹介する.さらに,体制を適正化し,戦略的な領域へ人員を配置した結果,サービス量やサービス品質といったサービスレベルが低下していないかを確認,評価する具体的なプロセスについても紹介する.


つながりで築くレジリエンスとウェルビーイング
- プロジェクト現場から考える働く幸せ -

野尻 一紀


ウェルビーイングは SDGs の目標 3 に掲げられ,非常な注目を集めている.本稿では,社会のウェルビーイング向上を目的として進行中のプロジェクトにボランティアで参加した経験と,自身のプロジェクトの改善策としてのウェルビーイング取り組み事例を示す.さらに今の時代に必要なプロジェクト遂行上の考慮点について言及する.プロジェクトのリーダーとメンバー全員が主観的ウェルビーイングとレジリエンスを高め,人間関係のつながりを強めていくことが,プロジェクトの創造性,業績と自己肯定感・自己思いやり感を追求していくために重要である.


ミッションクリティカル案件における品質改善活動

山口 由貴,上村 興輝,島田 佑磨,小坂 由依,田中 基己,中島 雄作


NTTデータグループは多くのミッションクリティカルシステムを手掛けている.当社は,NTTデータの傘下でこれらミッションクリティカルシステムにおける基盤プラトフォーム領域を担当することが多い.筆者らも,とある勘定系のミッションクリティカルシステムの開発・運用のプロジェクトメンバの一員である.結合試験の定量評価では,全て管理限界内であり,品質は高いレベルを維持しているようにみえた.ところが第一著者は疑問を感じ,過去3年間の品質データを入手し,T型マトリクスですり抜けバグの分析をしてみたら,バグ24件のうち,設計工程での混入バグが18件,そのうち設計工程をすり抜けたバグが14件あることが判明した.さらに層別してみると,案件参画年数が1年,2年の設計者が,一番多くバグを混入させていることがわかった.品質管理の4MにおけるMachineをEnvironmentに置き替えて,特性要因図を用いて分析したところ,4つの真因が導かれ,まとめると「新規参画者に必要な情報が提供されていない状況が生まれているため」であると判明した.さらに深堀したところ,「設計書のレビュー観点が抽象的」と「作業前ミーティングがない」の2点の対策をすればいいことにたどりついた.そして,まだ新規参画者(2年目)の1名ではあるが,すり抜けバグを0件に削減することに成功した.本稿では,ミッションクリティカル案件における品質改善活動について述べる.


セキュリティ製品の開発環境を対象とした運用工数375時間の削減

松本 萌里,平尾 悠輔,大熊 三徳,関 良博,中島 雄作


筆者らは,セキュリティソリューションを対象として,コンサルティングや提案等の超上流工程から,設計,製造,開発,保守運用までの工程を幅広くカバーしている組織である.第一著者が担当するセキュリティ製品開発環境を対象に,運用全体の工数の3%(375時間)を削減するというテーマを掲げた.セキュリティ製品開発環境のタスクの全量と工数を洗い出し,90%を占める上位6タスク(セキュリティ対策状況確認,管理サーバメンテナンス,問い合わせ対応,アカウント申請対応,アカウント棚卸,ドキュメント管理)を対象とすることにした.各タスクについて,「業務フロー把握」「要因解析」「対策立案」の3段階の手順で,改善活動を推進した.「対策立案」では,定量的な削減工数の効果だけでなく,副次的効果も含めて評価をした.対策案の1つとして,RPAアプリでシステム化することを実行し,情報取得元が複数サービス(SNS,Form,List,RPAアプリに跨るため,それらの独自仕様を調査し,システム実装することに苦労した.様々な改善活動の結果,当初目標375時間削減のところ,626時間削減と目標を大きく上回る成果を上げることができた.本稿では,セキュリティ製品の開発環境を対象とした運用工数375時間の削減について述べる.


国際ITサービス企業アジア拠点間の知識創造・共有に関する考察
- 国際企業グループ内・プロジェクト管理知識移転・創造事例研究 -

遠藤 洋之


本稿では, 知識移転を知識共有の一部として位置づけ, 先ず国際IT サービス企業内組織間の知識創造及び共有に関する研究の経緯について説明する.続いて知識創造・共有プロセスを表すモデルを提案する.知識の送り手・受け手組織間で共有される知識には,プロジェクト要件知識とプロジェクト管理(PM)知識があるが,本稿では後者のPM 知識移転プロジェクト,及びその集合体としての知識共有プログラムに関する研究について述べる.筆者は, 国際IT サービス企業の知識移転プロジェクトに関し本社および海外拠点所属のプロジェクトマネージャ(PMgr)やプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)要員へのインタビューを行った.調査データを定性分析しプログラム視点で整理した結果,受け手組織における知識創造活動や創造された知識を組織間で共有するプロセスを明らかにした.これらは知識移転研究(Szulanski 1996)やリバースイノベーション研究(Govindarajan 2010, 2015)では把握困難だったプロセスである.また知識移転段階モデルでは表現し難かった,知識創造・共有プロセスを表す知識共有ループモデルを提案する.


ウォーターフォール開発での短期間リリース実現に向けたアジャイル開発の部分適用と導入施策

小島 洋一


近年,緊急性のあるシステム対応が増加しており,短期間での本番リリースが求められている.例として,サイバー攻撃の標的となった場合,被害を最小化するために早急なシステム対応が必要となる.一方,現在日本で主流のウォーターフォール開発はシステムの早急対応には不向きである.私が担当しているウォーターフォール開発のシステムにおいて,フィッシング詐欺に対する対策として短期間でのシステム開発を余儀なくされた.私の担当システムではウォーターフォール開発に対し,アジャイル開発の考え方を取り入れた開発手法を導入することで開発期間 の短縮を達成した.導入した開発手法は,「設計工程の進め方の見直し」,「工程の並走化」,「対応要件の段階リリース」の3点である.開発手法を円滑に導入するための施策として,「鳥瞰図の作成」,「テスト仕様書,テストデータの雛形作成」などを実施した.これらの開発手法,施策の導入により,短期間での本番リリースを障害なく完遂する事ができた.この事例より,ウォーターフォール開発においても開発手法の見直しやツールを有効活用より品質を確保しつつ短期間での開発が可能であるということが証明できた.他システムで同様の事象が発生した 際は,今回の開発手法や導入施策を是非参考にしてもらいたい.


プログラムマネジメントとITIL4 におけるサービスマネジメントの類似性と相違性,および補完的進化への提言

武山 祐


単一のプロジェクトを管理するのではなく,複数のプロジェクトを統括するプログラムマネジメント.その理念は,近年,日本のIT 業界で注目を浴び,PM 学会でも扱われる機会が増えてきた.一方,サービスマネジメントのガイダンスとして世界的に最も広く採用されているITIL(Information Technology Infrastructure Library)の最新版,ITIL4 では,”IT を活用してビジネスをいかに創造するか”という高度な視点が採られている.本稿では,開発フェーズに焦点を当てた実務で評価されているプログラムマネジメントと,運用フェーズに焦点を当てた実務で評価されているサービスマネジメントを比較分析する.その結果,両者の類似点と相違点を明らかにし,両者が補完し合い,進化してゆく可能性について提言する.


相互評価と活動レベルを組み合わせたグループディスカッション改善方法の提案

齋藤 翔馬,下田 篤


ディスカッションを成功させるためには様々なスキルが求められるため活動を正しく評価して改善することが求められる.従来 プロジェクト活動の評価方法として 自己評価と他者評価を比較して 評価に客観性を持たせる取り組みが報告されている.しかし 活動のレベルの高低については考慮されておらず 改善の余地があった.そこで 本研究は ディスカッションを対象として 従来の自己評価と他者評価に加え 新たに 活動レベルの高さを加味する評価方法を提案する.評価結果を 自己評価と他者評価の高低と 活動レベルの高低によって分類することにより 改善の優先順位づけに利用する.提案方式を 大学生 4名が実施するグループディスカッションを 27項目で評価する活 動に適用した.その結果 従来は区別困難であった 「レベルが低いにもかかわらず自己評価が高い 項目 」と「レベルが高いにもかかわらず自己評価が低い 項目 」 を区別して 優先付けできるようになった.


自動車業界におけるサイバーセキュリティを考慮したプロジェクトマネジメント
- 車載システムのセキュアな開発 -

岡 デニス 健五,三宅 浩司


自動車業界では、より複雑なユースケースをサポートするために、より多くのソフトウェアとコネクティビティが使用されるようになり、サイバーセキュリティは 車載 システムの開発に不可欠なものとなっている。 ISO/SAE 21434のような 規格 に従って、自動車業界はプロジェクト・マネジメントにプロジェクト・ライフサイクル中のサイバーセキュリティ活動の管理を含めることを要求している。最も重要な活動の 1つは、サイバーセキュリティ計画の作成であり、この計画は他のサイバーセキュリティ活動の管理と追跡に使用される。これらの活動には、 TARA(脅威分析とリスクアセスメントの実施、サイバーセキュリティの目標と要件の定義、 セキュア な開発の実施、検証と妥当性確認の実施、さらにはサイバーセキュリティの監視、脆弱性管理、インシデント対応、 セキュア なソフトウェア ・アッ プデート といった継続的な活動の管理が含まれる。このように、自動車業界はサイバーセキュリティを管理するための適切なプロセスを早急に確立している。そのため、プロジェクト ・マネジメント は、サイバーセキュリティ活動の計画、活動の責任管理、プロジェクトの成功的な納品に向けた活動の追跡と予定通りの実行の確保において不可欠である。


端末刷新プロジェクトにおけるマネジメントの実践と成功のための取り組み

齋藤 憲一


プロジェクトの推進にあたっては多様なリスクが潜み,数々の課題が存在するため,プロジェクトを成功に導くのは容易なことではない.実際,これまでに行われた調査結果でもそれが示されており,筆者の周りでも,プロジェクトの頓挫,スケジュールの延伸,予算のオーバー,障害の多発など,問題プロジェクトの話を度々耳にする.筆者が担当する基盤系のプロジェクトでも同様であり,特に基盤系プロジェクトはその基盤が関連している多くのシステム,アプリケーションに影響を及ぼすことが多く,多数のステークホルダーを巻き込みながらの推進が必要とな り,難易度の高いプロジェクトとなることが多い.このようなプロジェクトを成功に導くためには様々な領域,様々な局面において,戦略的に対策を仕込み,講じていく必要がある.筆者がプロジェクトマネージャーとして推進した 端末刷新プロジェクトで実践した取り組みの内容 やその 効果等について紹介する .


プロジェクトチームの行動と状態に関する実証分析
- 自律性に着目して -

八木 翔太郎,吉田 悠夏


あらかじめ十全に計画 すること が できず 、かつソフトウェア開発のようなかっちりとしたアジャイル手法も適用できないような現場において、どのようにプロジェクトの 状態の 良し悪しを評価するべきだろうか。本稿では、プロジェクトチームの自律性が変化の激しいプロジェクトの成功に不可欠 であることを踏まえて 、どのような 実践 がチームの自律性に関わるのかを確認するため、 23プロジェクト( n=96)に対して、3種類の実践指標(①プログレス:ゴールやマイルストーンの言語化 と 見直し、②チーミング:互いの期待や違和感の言語化と見直し、 ③ プロセス: ミーティングを中心とした環境整備と 見直し)と自律性に関わるチーム指標( シェアド・リーダーシップ 、 心理的安全性、 エンゲージメント)を計測して、重回帰分析を行った。その結果、プロセスとチーミングがそれぞれ異なるチーム指標と 有意 に 正の影響 を持つことを確認した 。 これはチームメンバーの実践 が各々の経路で プロジェクトチームの状態を変化させ ること を示している。タスク進捗が 即 成否につなが ると限らないような VUCAな プロジェクト 環境 において、こうした実践指 標は 簡便かつ リアルタイムに プロジェクト を評価・改善するために有効である 可能性が確認された 。


TEST資質を活用したチームビルディング事例
- TESTふく -

佐藤 靖嗣


社ではコンピテンシー基準などに基づいてPM人材を認定し,PM人材に対して育成プログラムとチームビルディングプログラムを提供している.両プログラムとも無意識に繰り返し現れる思考,感情および行動パターンである「資質」を活用し行動変容につなげることを目的としている.本稿ではチームビルディングセッションの事例を紹介する.